『北風と太陽・α』
拍手お礼ストーリー
世界迷作劇場その４改 北風と太陽・α
キャスト
北風：小狼
太陽：知世
旅人：さくら
―――――――――――――――――――――――――――――――――
昔々、あるところにと〜〜っても仲の悪い北風と太陽がおりました。
二人はいつも、些細なことで大喧嘩をして周りの人たちを大層困らせていました。
今日も朝から意味もなくいきり立って喧嘩を始めようとする二人。
と、そこへ粗末なコートをまとった一人の旅人が通りかかりました。
「あら。可愛い旅人さん。でも、あのコートはちょっといただけませんわね。わたくしの作ったお洋服でしたらもっと可愛くなりますのに……。そうですわ、李くん！」
「なんだ。急に大声出して」
「今日の勝負はあの旅人さんですわ！」
「旅人……って女の子じゃないか。あんな子でどう勝負するんだ」
「簡単ですわ。あの子のコートを剥ぎ取った方が勝ちですわ」
「大道寺……。往来で女の子のコートを剥ぎ取ったら犯罪だぞ……」
「あら、自信がありませんの？ でしたら今日の勝負はわたしの不戦勝ですわね」
「なにを！ 言わせておけば！ そこでオレの力がどれほどのものか見ているがいい！」
太陽さんの口車にのせられて『一人旅の少女を襲う』という、よく考えるとかなりヤバイ内容の勝負に挑む北風さん。
いつもながらチョロイ男です。
「あ〜〜疲れたな〜〜。でも、あと少しだ。お父さんとお兄ちゃん、元気にしてるかな〜〜」
一方の旅人さん。
己の周りに立ち込め始めた邪悪なオーラに全く気づいていません。
この辺がぽややんと言われる所以でしょうか。
と、そこへ
びゅおぉぉぉ〜〜〜っっ！
強烈な風が吹き付けてきました。
風速は30m強。カトリーヌハリケーン並です。
「ほ、ほえぇぇぇ〜〜！？ なに？ なんなの〜〜？ なんで急にこんな風が吹くの〜〜？」
旅人さんはコートを飛ばされまいと必死になって裾を押さえます。
「この子、よく見るとすごい可愛いな。あのコートの下はどうなってるんだろ……ごくっ。いや、いかんいかん！ 今は勝負に集中するんだ！ 風華招来！」
びゅおぉぉぉ〜〜〜っっ！！
ちょっぴり不純な考えと共にさらに強い風を送る北風さん。
「はぅぅぅ〜〜。飛ばされちゃうよ〜〜」
すさまじい風に旅人さんのコートは激流に落ちた木の葉も同然。
もはや吹き千切られるのも時間の問題かと思われました。
ですが。
「はい、李くん。そこまでです」
なぜか、太陽さんが北風さんを止めます。
「なんだ大道寺。なんで止める。あと少しでオレの勝ちだろ（もう少しであのコートの下が見れるのに！）。邪魔するのは反則だぞ」
「よくご覧になってくださいな。これでは、コートと一緒に旅人さんまで飛んでいってしまいますわ。罪の無い旅人さんを傷つけるのはよくありませんですわよ」
言われて見れば、エッチ気分で気合が入ったせいか風を強くしすぎてしまったようです。
コートどころか旅人さんも一緒に飛んで行きそうになっています。
いくら勝負でも女の子にケガをさせるのは北風さんも望むところではありません。
渋々と引っ込むことにしました。
（罪の無い旅人を勝負に巻き込んだのはお前だろうが！）
と、心の中で愚痴りながら。
「今度はわたくしの番ですわね」
さて選手交代。
今度は太陽さんの出番です。
「さぁ、旅人さん。わたくしの愛を受け取ってくださいな〜〜」
ぽかぽかぽか〜〜
太陽さんの発する生暖かい光が旅人さんを照らします。
先ほどまでの寒さはどこへやら、旅人さんの周りは一気に常春のピッフルワールドのような陽気へと変わりました。
「あれ？ 風やんじゃった？ それに急にお日様が射してきたけど。変な天気だな〜〜。あ〜なんか暑くなっちゃった。これ、脱いじゃおっと」
太陽さんの生暖かい光に照らされて暑苦しくなった旅人さん、あっさりとコートを脱いでしまいます。
この瞬間、太陽さんの勝ちが決まりました。
「おほほほ。どうです、李くん。今日の勝負はわたくしの勝ちですわね」
「くっ……。残念だがそのようだな」
「お〜ほっほほほほ。では勝利の証をいただきますわ〜〜」
「勝利の証？ 何のことだ？ ……って、大道寺！ どこへ行く？ おい！」
北風さんの叫びを無視して旅人さんの元へ走る太陽さん。
「さあ、可愛い旅人さん。今日から貴方はわたしのものですわ〜〜」
「ほえ？ あなたはだあれ？」
「わたしは太陽……生きとし生けるもの全てを愛する慈愛の化身……。そして貴方は今日からわたくしのものですわ〜〜」
「え？ え？ えぇぇ？」
話が全く見えずに混乱する旅人さん。
そこへ太陽さんを追いかけてきた北風さんが乱入。
「おい、大道寺！ お前、何をやってるんだ！」
「なにをと言われましても。獲物を手にするのは勝者の当然の権利ですわ〜〜」
「そういう勝負じゃなかったろ！」
「あら。負け犬のさえずりは見苦しいですわよ」
「なんだと！」
「さあ、旅人さん。負け犬は抛っておいてわたくしと愛の世界へ参りましょうか」
「ほぇ？」
「ずるいぞ、大道寺！ その子が貰えるとわかっていたらオレだってもっと本気でやった！」
「さっきのあれは本気ではなかったと？」
「当然だ！」
「ならば貴方の本気とやらを見せていただきましょうか」
「望むところだ！ こいっ！」
「ではっ！」
「ほぇぇぇ〜〜〜。なに？ なんなの？ なにがどうなってるの〜〜？ はぅぅ〜〜」
旅人さんを巡って勝負は第二ラウンドへ。
北風さんと太陽さんの闘いは延々と続きます……
拍手お礼ストーリーの再掲です。