『眠り姫 その1』


世界迷作劇場その6 眠り姫

キャスト
眠り姫:さくら
王様:桃矢
黒い魔女:知世
王子様:小狼
?:エリオル

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むかしむかしのその昔。
森の中の小さな王国に一人のお姫様が生まれました。
とても可愛らしいお姫様です。
なかなか子供に恵まれなかった王様は大喜び。
さっそく、国中におふれを出してお姫様の誕生パーティを始めました。

「素敵な子になりますように」
「可愛らしい子になりますように」
「綺麗な声を授かるように」

パーティに呼ばれた森の精霊たちが、お姫様に祝福の言葉をかけていきます。
このままお姫様は皆に祝福された幸せな人生を約束されるかに見えました。
しかし。

どっかぁぁぁ〜〜〜〜ん!!

轟音と共にパーティ会場に乱入してきたのはただ一人、パーティに呼ばれなかった黒い魔女。

「知世、参上! ですわ〜〜」
「ううっ、来やがったか・・・・・・」
「王様〜〜? わたしにはお招きの手紙がきてなかったみたいですけど〜〜。どういうことでしょうか〜〜」
「そ、それは・・・・・・」
「わたしに何か含むところがおありなのでしょうか。まあ、それはともかく・・・・・・」

ゆりかごの中でスヤスヤと寝息をたてるお姫様にチラリ、と視線を向ける黒い魔女。

「あぁっ、なんてかわいいお姫様なのかしら! 素敵ですわ〜〜 麗しいですわ〜〜 凛々しいですわ〜〜 こんな素敵なお姫様を汚らわしい男の手なんかに渡したくありませんわ〜〜 いえ、わたし一人だけのものにしてしまいたいですわ!」

黒い魔女、一目でお姫様の可愛らしさの虜になってしまったようです。

「くそっ、こいつを呼んだらこうなることがわかりきってた! だから呼ばなかったのに!」
「決めましたわ! さくらちゃん、あなたは16歳になったら糸車に指を刺されて永遠の眠りについてしまいます!」
「ななななな、何を!?」
「お〜〜ほっほっほほ。お眠りになってしまえば、小汚い男共に惑わされることもない。さくらちゃんの純潔は永遠のもの・・・・・・。おほほほほほほほ。それでは」
「あ、おいっ、待て! おいっ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

さて。
トンでもない呪いをかけられてしまったお姫様。
幸いなことに最後に残った太陽の精霊が

「なんや、めんどくさいな〜〜。赤ちゃんは眠らせとけばええやないか。なに、それじゃあかんのか。それなら、さくらは100年眠り続けるが、どっかの王子様のキスで目覚めるであろう! ほれ、これでええやろ」

と、魔女の呪いを打ち消す祝福をかけてくれたのですが、王様はそれだけでは安心できません。
(特に「どっかの王子様のキス)のところが)
念のためにと国中の糸車を燃やしてしまうのでした。

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さてさて。
それから16年後。
お姫様は精霊たちの祝福通り、とても素敵な女の子へと成長いたしました。
ちょっとポヤヤンなところがあるのが心配なところですが。

「いいか、さくら。世の中にはアヤシイやつがいっぱいいるからな。知らない人についていっちゃダメだぞ」
「わかってるよ、お兄ちゃん。じゃなくてお父様。じゃ、遊びにいってくるね」

たたたたた〜〜〜っ

王様の注意もそこそこに今日も元気に遊びに出かけるさくら姫。
と、そこへ現れたのは件の黒い魔女。

「おほほほほ。さくら姫。ご機嫌うるわしゅう」
「あら、あなたはだあれ?」
「わたしは知世。森の魔女ですわ。ところでさくら姫。こちらにおもしろいオモチャがあるのですが。一緒に遊びませんか」
「う〜〜ん、でも〜〜。お父様に知らない人についていっちゃダメだって言われてるし〜〜」
「あら、さくら姫。わたしの名前は先ほどお教えしましたよね」
「うん。知世ちゃんだよね」
「わたしは知世。あなたはさくらちゃん。お互いの名前を知り合う仲。ということは知らない人ではないということ。何の問題もありませんわ」
「そうだね!」

・・・・・・。
さくら姫、やっぱりちょっとポヤヤンです。

こうして連れ込まれた塔の中でさくら姫は、哀れ黒い魔女の手篭めに・・・・・・じゃなくて糸車を指に刺して深い眠りについてしまうのでした。

「おほほほほ! これでさくらちゃんは永遠にわたしのものですわ! あぁっ、今日のこの良き日をビデオに納めなくては! ビデオ、ビデオ・・・・・・」

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さてさてさて。
それからさらに100年後。

「ここが眠り姫の塔か・・・・・・」

さくら姫の眠る塔に姿を見せたのは、隣の国の小狼王子。
眠り姫の伝説を耳にした小狼王子、その呪いを打ち破るのは王子とはオレのことだ! とばかりに意気込んでクロウ国に乗り込んできたのです。

「えいっ! とぉっ! やぁっ!」

家宝の神剣を奮い、イバラを切り開きながら進む小狼王子。
そして、ついに塔の最上階、さくら姫の眠る部屋にまでやってきました。

「これが眠り姫・・・・・・。噂どおり、いや噂よりもずっと素敵だ・・・・・・」

眠り姫の愛らしさにメロメロの小狼王子。

「キスで目覚めさせればこの子はオレのものに・・・・・・あ〜〜んなことも、こ〜〜んなこともやりたい放題・・・・・・(ドキドキドキ)」

かなり不純な動機を胸に唇をさくら姫に近づける小狼王子。

しかし!

ガシィッ!!

唇が触れ合おうとしたまさにその瞬間、何者かが小狼王子に襲いかかって来ました。

「な、何者だ! ・・・・・・って。ひょっとして、この国の王様?」
「やっぱり来やがったな、小僧!」
「なんで邪魔するんだ! 大体、なんで起きてるんだよ! さくらと一緒に眠ってるはずだぞ!」
「知れたこと。さくらを守るためだ。お前なんかにさくらを渡すか! こいつで遊んでいいのはオレだけだ!」
「このシスコン王が!」

う〜〜む。
どうやら王様、愛する娘の貞操の危機を感じ取って目覚めたようですね。
恐るべきシスコン父性愛です。
度が過ぎているような気もいたしますが。

ガンッ!!
バシィッ!!

激しく剣を交し合う小狼王子と桃矢王。
その結果は・・・・・・

「トドメだっ!!」
「くらえっ!!」

ガシィィィン!!

ばたっ。
ばたっ。

相打ちでした。

「うぅっ、くそっ・・・・・・」
「さ、さくらはオレだけのものだ・・・・・・。オレだけの・・・・・・」

動けなくなってもまだにらみ合う二人。
そんな二人の耳に聞こえてきたのは

「おぉっ、なんと美しい姫君だ」

予想もしなかった第三者の声。

「だ、誰だ?」
「この声は、ま、まさか・・・・・・」

あわてて顔を上げた二人の目に映ったのは・・・・・・
隣のそのまた隣の国のエリオル王子。

「誰だ、あいつは!」
「柊沢! 隣の国の王子だ! なんであいつがここに!」

困惑しながらもピクとも動けない二人をよそに、さくら姫に話しかけるエリオル王子。

「今、ここに誓おう! わたしはこの姫君を生涯愛することを! さあ、さくら姫。誓いのキスを・・・・・・」
「うわ〜〜!!」
「や、やめろぉぉ〜〜!!」

ちゅっ

「う、う〜〜ん。あ、あれ? ここはどこ? あなたはだぁれ?」
「わたしはエリオル。隣の国の王子です。さくら姫、あなたは魔女の呪いで100年もここで眠っていたのです」
「ほ、ほぇぇぇ〜〜〜〜!! ひゃ、百年も〜〜!?」
「ふふっ、何も心配することはありませんよ。わたしがついていますから。さぁ、さくら姫。皆が待っています。わたしと一緒に来てくれますね」
「・・・・・・。はい(ポッ)」

エリオル王子の甘い微笑みにころっとイカれてしまうさくら姫。
まぁ、これはしょうがないでしょう。
なにしろこの王子様、見かけは少年ですが中身は数百年の年を経た老怪。
うぶな女の子をたぶらかすくらいはお手の物です。

「さ、さくら・・・・・・。ガクッ」
「そ、そんな・・・・・・ここまできて・・・・・・ガクッ」

絶望とともに果てる小狼王子と桃矢王。

「さぁ、行きましょう」
「はい」

二人に一瞥もくれずに部屋を出るさくら姫とエリオル王子。

こうして結ばれた二人はその後、精霊達に祝福されて幸せな一生を送ったそうです。
めでたしめでたし?


拍手お礼ストーリーの再掲です。

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