『雪女・小狼編』


日本迷作劇場その4改 雪女

キャスト
村の若者:小狼
もう一人の若者:桃矢
雪女:さくら
お雪:さくら

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むかしむかしのその昔。
武蔵の国のある村に二人の若い猟師がいました。

〜〜中略〜〜

そんなある冬の日のこと。
吹雪に巻き込まれ村に帰れなくなった二人は、近くの山小屋で一晩、寒さをしのいで寝ることとしました。
そして夜も更けたころ。
ふと若者が目を覚ますと、なんともう一人の若者の上に何者かがのしかかっているではありませんか。

(あれはまさか・・・噂に聞く雪女! ・・・かな?)

う〜〜ん。なんとなく噂で聞いていた雪女とはイメージが違う気がします。
噂ではこの世の者とは思えないほどの美女とのことでしたが、どちらかというと可愛い女の子と表現した方が似合いそうです。
ちょっと、ちびっちゃいですし。
ですが、その女の子が

「う〜〜ん、なんか憎たらしい顔だな〜〜。こうしてやる! ふぅーっ!」

と恐ろしい(?)台詞と共に息を吹きかけると、なんともう一人の若者はみるみるうちに凍り付いていくではありませんか。
やはり、この女の子が噂の雪女なのです!
さらに雪女は

「凍っちゃっても憎たらしい顔してるな〜〜。なら、こうだ! えいっ! えいっ!」

と、凍りついたもう一人の若者に強烈なストンピングをかますのでした。
雪女さん、もう一人の若者がよほどに気に入らなかったようです。
ドスン、ドスンと小屋に響くストンピングの轟音。
これが終わったら次はオレの番か・・・そう思うと若者も気が気ではありません。
そのうち、雪女さんも気がすんだのか、

「ふう。スッキリした〜〜。さてと・・・」

一声もらすと若者の方ににじり寄ってきました。
恐怖のあまり若者は身動きすることもできません。
雪女さんはそんな若者をしばらく見下ろしていましたが、

「あなたも一緒に凍らせちゃうつもりだったけど・・・可愛そうだから見逃してあげる」

と意外なことを言い出しました。そして、

「でもね。今夜のことは誰にもしゃべっちゃダメだからね。もしも誰かに今夜のことをしゃべったら・・・」

そういい残してすーっと消えてしまいました。

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翌朝。

「た、助かった・・・」

朝日に向かって九死に一生を得たことへの感謝の祈りを捧げる若者。
哀れにも雪女に踏み潰されたもう一人の若者を弔って・・・

「ううぅ・・・」
「うわっ。お前、生きてたのか」
「うぅ、さ、寒い。おまけに身体中が痛い。一体、何があったんだ。いててて・・・」

訂正。
もう一人の若者、あれだけストンピングを喰らったのに生きてたみたいです。
きっと、雪女さんの体重が軽すぎたのでしょう。

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そんな恐ろしい出来事から何日かたったある日の夜。
トントントン、と若者の家の戸を叩く音がします。
こんな夜遅くにいったい誰が? と思いながら戸を開けるとそこにいたのは

「こんな夜遅くにゴメンね。わたし、旅をしてるんだけどこの雪で道に迷っちゃって」

まだ少女の域を脱していない可憐な、と言ってもいい微妙な年頃の女性。
もちろん、心優しい若者はイヤな顔一つせず女性を迎え入れます。

「それはお困りでしょう。こんなあばら家でよければどうぞお泊りください」
「うわ〜〜、ありがとう」

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さて。
こうして若者の家にいついた女性でしたが、春が来てもなかなか若者の家を出て行こうとはしません。
若者も女性を追い出そうとはしません。
そして夏が来て秋が過ぎ次の冬が近寄ってきた頃には、二人はもう離れられない仲となっていました。

「オレはお前が好きだ!」
「わたしも・・・わたしの一番は小狼くんだよ!」

こうして固く結ばれた二人の間にはツバサくんという男の子も生まれ、幸せな毎日を過ごすのでした。

ですが。
そんな幸せな時間の中にいながら何故か女性はふと、その顔を曇らせる時があります。

(あぁぁ。もしも・・・もしも小狼くんがあの夜のことを誰かに話してしまったら・・・わたしは小狼くんを・・・いやだよ、そんなの!)

そうです。
女性の正体はあの夜の雪女だったのです。
一目見た若者が忘れられず、こうして村まで降りてきてしまったのですが、掟は掟。
もしも、若者があの夜のことをしゃべってしまったらその時は若者の命を奪わねばならないのです。

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そんな苦悩を抱えたまま迎えたある夜。
その夜はとても激しい吹雪でした。
まるで・・・あの夜のように。

「すごい吹雪だな」
「そうだね」
「こんな夜はあの時のことを思い出すよ。あの夜も・・・こんな吹雪だった」
「(ドキッ!)あ、あの夜? あの夜っていつのこと」
「あれは、そう・・・もう何年前のことだったかな。桃矢のやつと二人で山に入ったら吹雪で降りられなくなってなぁ。しかたなく山小屋に泊まったんだ」
「そ、そうなんだ」
「それでその晩、ふと目を覚ましたらな・・・」
「(あぁぁ・・・ダメ、小狼くんそれ以上言っては・・・わたし、小狼くんを・・・)」
「桃矢のヤツが何を思ったのか抱きついてきやがってな。ユキ〜〜ユキ〜〜って誰と間違えてやがったんだが。全く、大変だったよ」

がくっ。

「ん? どうした、さくら」
「な、なんでもない! なんでもないよ!(あ〜〜びっくりした〜〜。もう、小狼くん! 焦らせないでよ!)」
「そうか。ならいいんだけど。あぁ、そうそう。そういえばアレもこんな吹雪の夜だったな」
「(ドキドキッ!)な、なに? 吹雪の夜にまた何かあったの?」
「あの時も桃矢と二人で山に入ってな。そしたら・・・」
「そ、そしたら・・・?」
「桃矢のヤツ、帰り道で池に落っこちやがってな。ひっぱりあげるのが大変だったよ」

こけっ。

「さくら。一体、どうしたんだ。さっきから変だぞ」
「なんでもないよ! 本当になんでもないの! ホントだよ!(汗汗)」
「そうか。ならいいんだけど(ククク・・・焦ってる焦ってる)」

自分の一言一言に激しく反応する雪女さんを見て内心ほくそ笑む若者。
そ〜なのです。
この若者、初めて会った時からこの女性が雪女であることに気がついていたのです。
まあ、普通わかりますよね。
顔も声も同じですから。
こういう時、ロボットアニメだったら覆面かサングラスをつけると気づかれないみたいですが、おとぎ話ではそうもいきませんしね。
こうして若者と女性は末永く幸せにくらしたのでありました。

めでたしめでたし


拍手お礼ストーリーの再掲です。

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