『雪女・桃矢編』
日本迷作劇場その4 雪女
キャスト
村の若者:桃矢
もう一人の若者:小狼
雪女:ユエ
お雪:雪兎
―――――――――――――――――――――――――――――――――
むかしむかしのその昔。
武蔵の国のある村に二人の若い猟師がいました。
二人は日頃からとても仲が悪かったのですが、どういうわけか一緒に狩りに出かけることが多いのでした。
「ったく。なんでオレがこんなガキと一緒にいなきゃならないんだ」
「それはこっちの台詞だ。なんでオレがお前なんかと」
ぶつくさ言いながらも狩りに精を出す二人。
実はけっこう仲がいいのかも。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そんなある冬の日のこと。
吹雪に巻き込まれ村に帰れなくなった二人は、近くの山小屋で一晩、寒さをしのいで寝ることとしました。
これがラ○ス文庫とかだったら、暖をとるため身体を寄せ合う二人はいつしか・・・という展開になるところですが、
「気色悪いから近寄るんじゃねえ!」
「お前こそ寄ってくるな!」
このサイトではそんなことにはなりそうもありません。
さてさて。
そんなこんなで夜も更けたころ。
ふと若者が目を覚ますと、なんともう一人の若者の上に恐ろしい目をした白づくめの美女(?)がのしかかっているではありませんか。
しかも、その美女が
「なかなかの美形ではあるがショタ趣味はないんでな」
と恐ろしい(??)台詞と共にふーっと息を吹きかけるともう一人の若者はみるみるうちに凍り付いてしまったのです。
そして、もう一人の若者が完全な氷像と化したことを確認すると、雪女は今度は若者の方ににじり寄ってくるのでした。
恐怖のあまり若者は身動きすることもできません。
そんな若者を雪女は冷たい笑みを浮かべながら見つめます。
ですが、若者がもはやこれまでかと諦めかけたその時、
「お前も凍らせてやろうかと思ったが・・・好みのタイプだ。助けてやることにしよう」
と意外なことを言い出しました。そして、
「だが、いいか。今夜のことは誰にも言ってはいけない。もしも誰かに今夜のことをしゃべったら・・・その時はお前の命はないものと思え」
そういい残してすーっと消えてしまいました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
翌朝。
「た、助かった・・・」
朝日に向かって九死に一生を得たことへの感謝の祈りを捧げる若者。
哀れにも雪女の生贄となったもう一人の若者をおいて山を降り・・・
「オレをおいてく気か〜〜」
「うわっ。お前、生きてたのか」
「そう簡単に死んでたまるか〜〜」
訂正。
もう一人の若者、氷付けになっても生きてたみたいですね。
きっと、氷耐性【大】のスキルが発動する装備を身につけていたのでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そんな恐ろしい出来事から何日かたったある日の夜。
トントントン、と若者の家の戸を叩く音が。
こんな夜遅くにいったい誰が? と思いながら戸を開けるとそこにいたのは
「旅の者なんだけどこの雪で困っちゃって。悪いけど泊めてくれないかな〜〜。あ、僕、じゃなくてわたし、雪っていうんだ」
眼鏡をかけた妙齢の女性。
(こいつ・・・あの時の雪女だな。何しに来やがった?)
雪女さん、初見で正体モロバレ。
まあ、声が同じ(CV:緒方恵美)ですし。
ですが、それを口に出すわけにはいきません。
この手のお話では「誰にも言ってはいけない」の“誰にも”には雪女本人も含まれることを若者はよく知っています。
何しにきたか知らないが、飽きたら帰ってくれるだろうと諦めてお雪を家の中へと招き入れる若者なのでした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
しか〜〜し。
若者の見込みは少し甘かったみたいです。
お雪さん、なんだかんだと理由をつけていつまでたっても出て行こうとしません。
おまけにお雪さん、見かけによらず大変な大食いです。
ただでさえ貧乏な若者の蓄えは、お雪さんのためにみるみるうちに減っていきます。
しかもです。
このお雪さん、どう見ても自分の正体を隠そうとしていません。
お雪さんが入ってくると、それだけで部屋の温度が5度は下がります。
お雪さんがいると、部屋の中なのにどこからともなく雪が吹き込んできます。
もう春だというのに、若者の家の周りだけはいつまでも霜が消えません。
ある時など、風呂桶の湯が丸ごと凍りついていました。
ここまでくるとわざとやってるとしか思えません。
たまりかねた若者が
「なあ、ユキ。オレはお前が・・・」
と言いかけたその瞬間。
「言ったね」
「は?」
「あれほど誰にもしゃべるなって言っておいたのに。約束したのに。ひどいよ、桃矢」
「いや、そんなこと言われても。だいたいお前・・・う、うわぁぁぁ〜〜〜っ!!」
ぶわぁぁぁ〜〜〜っっ!!
真の姿を現した雪女から強烈な凍気を受け、瞬く間に氷像と化す若者。
雪女はしばしの間、凍りついた若者を眺めていましたが、
「ふふっ、一度は見逃してやろうかとも思ったのだが・・・お前ほどの上玉を手放すのはやはり惜しい。これでわたしのコレクションも充実するというものだ」
と一言つぶやくと風にのって山へと帰っていくのでありました。
それ以来、村では若者とお雪さんの姿を見たものはなかったそうな。
めでたしめでたし?
拍手お礼ストーリーの再掲です。