裸の王様その3


世界迷作劇場その12 裸の王様3

キャスト
王様:さくらいぬ
仕立て屋:小狼
大臣:山崎
純真(?)な子供:知世

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昔々のその昔。
ここピッルフワールドの王様は一匹のワンコでした。
ワンコが王様?
まあ、おとぎの国のお話ですので。
そういうこともあるでしょう。

王様は新しいお洋服やきれいなお洋服が大好きで、王様専用の仕立て屋さんを雇ってお洋服を作らせているのでした。

「小狼く〜〜ん♪♪」
「これはこれは王様」
「小狼くん、新しいお洋服はまだ?」
「はい、王様。今新しいデザインを考えているところです。次はどんなものがよろしいでしょうか」
「小狼くんが作ってくれるならどんなのでもいいよ! さくら、小狼くんのお洋服が大好きだもん!」
「そう言っていただけるのは光栄です」

う〜〜ん、どうやら王様、お洋服が好きというよりお洋服を作る仕立て屋さんが好きなようですね。
この仕立て屋さんは器量もよく優しい人なので王様がなついてしまうのも無理はないでしょう。

こんな感じで毎日仕立て屋さんのところばかりに出向いているので国政の方はおざなり。
これには大臣も大困りです。

「あ、王様。そろそろお勉強の時間です。ささ、こちらへ。最近は少し成績もよろしくないのでもう少し頑張っていただきませんと」
「いや! さくら、これから小狼くんのところに行くんだもん。小狼く〜〜ん♪」
「あ、王様、王様! あ〜〜あ、行っちゃったよ。まいったなあ。李くん、王様を甘やかしすぎだよ。このままじゃちょっと困るね。なんとかしないと」

万事がこの調子ですので。
大臣も悩みの種が尽きません。
はぁ〜〜っとため息をついて頭を抱えてしまう大臣でしたが。
しばし考え込んだ後、突然くわっ、と細い目を開いて一言。

「このままじゃいけないな。うん。ここはその李くんに協力してもらうことにしようか」

どうやら何かを思いついたようです。
企み事では右に出る者がいないと噂される大臣様。
いったい、なにを考えついたのでしょうか。

さてその翌日。

「小狼く〜〜ん」

いつものように仕立て屋さんのところにやってきた王様。

「あぁ王様、いいところにいらっしゃいました」

これもいつものように仕立て屋さんが優しく出迎えてくれます。

「いいところに、って何かあったの?」
「はい、王様。実はとても素晴らしい布地が手に入りました。長い間探していた逸品です」
「素晴らしい布地? でも、小狼くんが作ってくれるお洋服はいつもカッコいいよ。あれよりもすごいの?」
「はい。もう、それは見事な布地です。ですが、それだけではありません」
「キレイなだけじゃないって。他になにかあるの?」
「この布地、実は魔法の布地なのです」
「魔法? いったいどんな魔法なの」
「それは……『おバカさんには見えない魔法』なのです」
「ほえ? おバカさんには見えない魔法?」
「はい。おバカさんには見えない特別な魔法のかかった布地、それゆえにとても美しい布地なのです」
「な、なんかすごそうな布地だね」
「はい。この布地で最高の一品を仕上げてご覧にいれます。王様、しばらくお待ちください」
「う、うん……」

にこやかに微笑む仕立て屋さんでしたが、それに対して王様の方はちょっと不安げなようです。

(おバカさんには見えない布地って……この間、算数の宿題さぼっちゃったけど。だ、大丈夫! だよね?)

さて、こうして王様のためのお洋服を作ることになった仕立て屋さん。
お城の一室に毎日、こもってトンからりん、トンからりんと忙しそうに働いています。
王様は気が気ではありません。

「わぅ〜〜」
「おや、王様。どうなされました」
「小狼くんが作ってる新しいお洋服、どんなのかな〜〜って。小狼くん、作ってる途中は見せてくれないから」
「ではわたしが見てまいりましょうか」
「わん! じゃあお願いね!」
「はい、かしこまりました」

大臣を仕事場への視察に向かわせます。
しばらくしてから戻ってきた大臣が言うには

「見てまいりました王様」
「ど、どうだった?」
「はい。それはもう実に素晴らしい布地です。まさにこの世のものとは思えません」
「そ、そうか〜〜。それは楽しみだな〜〜。わぅぅ〜〜」

なにやらすごいものが作られているようです。
ですが、その報告を聞いた王様の方はやっぱり不安なご様子。

(大臣には見えてるのかぁ〜〜。だ、だったらさくらにも見えるよね? で、でもこの大臣なんか頭よさそうな気もするし〜〜)

そうこうしているうちについに迎えたお洋服完成の日。
すでに城下には王様が新しいお洋服を披露するとのお達しが出ているので多くの人が集まっています。
おそるおそる仕立て屋のもとに向かう王様でしたが。さて。

「小狼くん、お洋服が完成したんだってね」
「はい、王様。入魂の一品でございます!」
「それじゃあ、さっそく着てみようかな。で、どこ?」
「はい。これでございます」

膝をつき、うやうやしく両手を掲げる仕立て屋さん。
しかし、それを前にして王様は困惑してしまうのでした。
なぜなら、王様の目には仕立て屋さんの手の上に何も見えなかったのです。

(ほええええ〜〜〜! やっぱり見えないよ〜〜!!)

両手で口をおさえてなんとか声を上げるのをおさえた王様でしたが。

「おぉ、ついに完成しましたか。いやぁ、思ったとおりの素晴らしい出来栄えですね、王様」
「そ、そう?」
「はい。この色艶といい、デザインといい、これこそまさしく王のための衣装! さすがでございますね」
「そ、そうかな。あはは……」

すり寄って来た大臣にこう言われては話を合わせるしかありません。

「では、早速これをお召しになられてくださいな。城下の者どもも待ちかねております」
「う、うん……」

仕立て屋さんに手伝われてお洋服を着替える王様。
仕立て屋さんがていねいにお洋服を着させてくれます。
たしかに見えはしませんがなんとなく洋服があるような感じもします。
ひょっとして見えないのは自分だけなのかと気にはなってしまいますが、今さら後には引けません。

「じゃあ、行きましょうか」

大臣にひかれて城下の大通りを進んでいきます。
並み居る民衆を前に行進する王様ですが、自分にはお洋服が見えていないのです。
他の人たちはどうなのかと、ちらっと周りを見てみるのですが。

「王様! 王様!」
「やはり王様は素晴らしい!」
「王様!」

城下の者たちの声は王様を讃えるものばかりです。
これには王様もがっくり。

(うぇ〜〜ん、やっぱり他のみんなには見えてるの〜〜? 見えないのさくらだけなの〜〜? ふぇ〜〜ん)

さて、そのまま進んでいくと沿道のそばに一人の少女の姿が見えてきました。
この純真(?)そうな少女、王様を見ていったいどんな感想を抱くでしょうか。

「あぁ、さくらちゃん! さくらちゃんはいつ見ても素晴らしいですわ〜〜素敵ですわ〜〜! さくらちゃんの勇姿を記録するのがこの大道寺知世の天命! ここではアングルが悪いですわね。あそこ! あそこがいいですわ! あぁ、さくらちゃん! 知世、感激!」

……いつも通りですね。
いや、明らかに挙動不審なのですが、それはいつものことですので。
まあ、国民も少女もいつもと変わらないのは当然のことでしょう。
なにしろ王様はワンコですので。
ワンコが裸なのは当たり前。
これまでお披露目してきた衣装も帽子とかマントとかでした。
だから今日も特に変わったところはないのです。
ようするに王様以外の人たちにとってはいつもと全く同じなのです。
だから何にも変化は起きないわけです。
こうなるのは大臣にもわかっていたはずですが。
いったい、大臣は何を考えていたのでしょうか。

さてさて。
パレードも無事に終わったその夜のこと。

コンコン

夜分遅くに仕立て屋さんの部屋のドアを叩く音が。
いったい、誰かと思ってドアを開けたところ、そこにいたのは王様でした。

「これは王様。こんな時間になんの御用でしょうか」
「あ、あのね」
「はい」
「そ、その〜〜。しゃ、小狼くんにお勉強を教えてもらおうと思って」
「わたしにお勉強をですか?」
「うん! あのね、さくらお勉強がよくわからないの。でもね。小狼くんに教えてもらったらわかるようになるかな、って思って。それでね」
「それはいい考えですね。では、やってみましょうか」
「わぅ!」

なるほどなるほど。
大臣のねらいはこれだったのですね。
ああ仕向ければ王様も少しは勉強してくれるようになると思ったのでしょう。
仕立て屋さんは教え上手ですので王様の教師役にはうってつけですし。
これで王様の成績も少しはよくなる、そう考えたのでしょう。

この後、王様は少しだけお勉強もするようになって成績もちょっとだけよくなったとのことです。

めでたしめでたし。


改元記念作品。
内容がまったく関係ないのはいつものことです。

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