裸の王様その2


世界迷作劇場その12 裸の王様2

キャスト
王様:さくら
仕立て屋:知世
大臣:山崎
純真な子供:小狼

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昔々のその昔。
ある国に新しいお洋服が大好きなとてもおしゃれな王様がいました。
王様には専属の仕立て屋さんがついており、王様のためにいつも新しいお洋服を用意してくれるのでした。

「さあ、さくらちゃん。こちらが新しいお洋服ですわ〜〜♪♪」
「と、知世ちゃん、これ……ちょっと露出が多すぎない?」
「今回は少しアバンギャルドに攻めてみましたの。さあ、さくらちゃん。さっそくお着替えしましょうか。ささ、こちらへ」
「う、うん……」

う〜〜ん、なんというか新しいお洋服が好きな王様というより、王様に新しいお洋服を着せるのが好きな仕立て屋さんという気がするのですが気のせいでしょうか。
王様がお洋服にばかり気をとられていては国政も進まず、お大臣様も文句の一つも言いにくるところでしょうが、そこは仕立て屋さん。

「おほほほ。お大臣様。今日もいいお天気ですわね」
「ああ仕立て屋さん。本当にいい天気だね」
「お大臣様。今日はお大臣様に是非とも食べていただきたいお菓子がございましてお持ちいたしましたわ」
「お菓子? どんなお菓子なのかなあ」
「うちの実家で特選販売しております『山吹色のもなか』ですわ」
「うわ〜〜『山吹色のもなか』か〜〜。僕、大好物なんだよね。さっそくいただくよ」
「おほほほほ。存分に召し上がってくださいな」

ぬかりはありません。
銘菓『山吹色のもなか』でお大臣様も篭絡済みです。
それにしてもこの『山吹色のもなか』。
実際に売っているそうですがどんなものでしょうか。
一度食べてみたいものです。
やっぱり一度はあれをやってみたいですよね。

「おぬしも悪よのぅ」

うん、やはり時代劇といえばこれです。
今回は時代劇じゃないですけど。

さて、そんなある日のこと。

「うふふふふ……」
「知世ちゃん、今日はやけにご機嫌だね。なにかいいことでもあったの?」
「はい、王様。実はとっても素晴らしい布地が手に入りましたの。長い間探していた逸品ですわ〜〜」
「素晴らしい布地? でも、知世ちゃんがもってきてくれる布地はいつもとってもキレイだよ。あれよりもすごいの?」
「はい。もう、それはそれは見事な布地ですわ。ですが、それだけではありませんの」
「キレイなだけじゃないって。他になにかあるの?」
「この布地、実は魔法の布地なのです」
「魔法? いったいどんな魔法なの」
「それは……『おバカさんには見えない魔法』なのですわ」
「ほえ? おバカさんには見えない魔法?」
「はい。おバカさんには見えない特別な魔法のかかった布地、それゆえにとても美しい布地なのですわ〜〜」
「な、なんかすごそうな布地だね」
「はい。この布地で最高の一品を仕上げてご覧にいれますわ〜〜。待っていてくださいね、さくらちゃん」
「う、うん……」

特別な布地を手にしてやるき満々の仕立て屋さん。
それに対して王様の方はちょっと不安げに見えるのですが。

(おバカさんには見えない布地って……この間のテストの成績ちょっと悪かったけど……だ、大丈夫! だよね?)

さてさて。
そんなこんなで王様のために特別な布地で特別なお洋服を作り始めた仕立て屋さん。
お城の一室に毎日、こもってトンからりん、トンからりんと忙しそうに働いています。
王様は気が気ではありません。

「ちょ、ちょっとどんな様子か見てきてほしいんだけど」
「はい、かしこまりました」

大臣を仕事場への視察に向かわせます。
しばらくしてから戻ってきた大臣が言うには

「見てまいりました王様」
「どんな様子だった?」
「はい。それはもう実に素晴らしい布地です。まさにこの世のものとは思えません」
「そ、そう。それは楽しみだなあ」

なにやらすごいものが作られているようです。
その報告を聞いた王様は期待半分、不安半分といった感じで少し落ち着きがないようですね。

(山崎くんにも見えてるんだし。大丈夫、だよね? でも、山崎くん頭よさそうだし……)

そうこうしているうちについに迎えたお洋服完成の日。
すでに城下には王様が新しいお洋服を披露するとのお達しが出ているので多くの人が集まっています。
おそるおそる仕立て屋のもとに向かう王様でしたが。さて。

「知世ちゃん、お洋服が完成したんだってね」
「はい、王様。大道寺知世、入魂の一品ですわ!」
「それじゃあ、さっそくお着替えしなきゃ。で、どこなの?」
「はい。こちらですわ」

膝をつき、うやうやしく両手を掲げる仕立て屋さんでしたが。
王様は困惑してしまうのでした。
なぜなら、王様の目には仕立て屋さんの手の上に何も見えなかったからです。

(ほええええ〜〜〜! やっぱり見えないよ〜〜!!)

驚愕の声をなんとか押しとどめた王様でしたが。

「おぉ、ついに完成しましたか。いやぁ、思ったとおりの素晴らしい出来栄えですね、王様」
「そ、そう?」
「はい。この色艶といい、デザインといい、これこそまさしく王のための衣装! さすがは大道寺さんだね」
「そ、そうだね。あはは……」

すり寄って来た大臣にこう言われては話を合わせるしかありません。

「では、早速これをお召しになられてくださいな。城下の者どもも待ちかねております」
「う、うん……」

仕立て屋さんに手伝われてお洋服を着替える王様。
仕立て屋さんがていねいにお洋服を着させてくれます。
たしかに見えはしませんがなんとなく洋服があるような感じもします。
ひょっとして見えないのは自分だけなのかと気にはなってしまいますが、今さら後には引けません。

「じゃあ、行こうか」

大臣にひかれて城下の大通りを進んでいきます。
並み居る民衆を前に行進する王様ですが、なにしろ自分には服が見えずに裸で行進しているようなものですので恥ずかしさで顔は真っ赤です。

「王様! 王様!」
「やはり王様は素晴らしい!」
「王様!」

城下の者たちが王様を讃える声が届いてきますが、王様、もう内心ではそれどころではありません。

(はぅぅ〜〜、やっぱり他のみんなには見えてるの〜〜? 見えないのわたしだけ〜〜? ふぇ〜〜ん)

そのまま進んでいくと沿道のそばに一人の少年の姿が。
さて、この純真そうな少年、王様を見ていったいどんな感想を抱きますやら。

「王様……王様はやっぱりとてもキレイだ。王様……」

んん〜〜?
なんか思ってたのと反応が違いますね。
この初心な少年なら裸の王様を見て鼻血ブーかと思いましたが。
これはいったいどうしたことでしょう。

そう。そうなのです。
この秘密は魔法の布地にあります。
仕立て屋さんが用意したこの布地、実は本当に魔法の布地だったのです。
ただし、布地が見えない条件は王様に言ったのとは少し違います。
布地が見えない条件。
それは

「とても強い魔力を持つ者」

だったのです。
強力な魔力を持つ者の眼をくらませるためとか、まあそんな理由で考えられた技術なのでしょう。
王国の中でこの条件を満たすのは王様だけ。
なので、他の人の目にはしっかりお洋服は見えていて、王様一人だけが羞恥プレイというなんともマニアックな状態だったわけです。

え、仕立て屋さんには洋服は見えていたのかって?
仕立て屋さんは魔力を持っていません。
なので当然、お洋服は見えます。
つまり、仕立て屋さんには王様の裸は見えていません。

「当然ですわ。そんな姑息な手段でさくらちゃんのお肌を盗み見する気などありませんわ」

うん、さすがは仕立て屋さん。
見事な職人意識です。

「そんな姑息な手を使わずとも、さくらちゃんのお身体はいずれこの手に……うふふふふ……」

……。前言撤回。
王様の貞操に少し、いやかなりの危険を感じないでもありませんが、とりあえずはめでたしめでたし?

おわり


しつこく続く。

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