『EXTRA TRACK shopping』


「今度はあちらですわ」
「今度はどこだ!」
「あぁ、これもいいですわね」
「けっ」
「こちらもいいですわ。あぁ、どれにするか迷いますわ〜〜」
「………」
「あら、これもいい感じですわ。あぁ、今日はいい出物が多くて困ります。どれにいたしましょうか」
「おい……」
「はい?」
「俺を見て何か思うところはないか?」
「特に」
「この両手の荷物を見て思うところはないかと言ってるんだ!」
「特には。黒鋼さんならそれくらい楽勝ですわよね」
「ものには限度ってもんがあるだろ! どれだけ買ったら気が済むんだ!」
「もちろんまだまだこれからですわ〜〜。あ、あちらにも……」
「おい! くそっ、お前を狙ったやつの気持ちがわかる気がするぜ」
「なにか仰いました、黒鋼さん」
「なにも言ってねえよ!」

………………………
………………
………

女性と男性とでは買い物に関する考え方が決定的に違うという調査報告がある。
男性にとって買い物とは単なる物品調達にすぎない。
必要なものを必要なだけ購入する。
その課程に意味はない。
金銭の支払いと物品の取得という契約行為の一環にすぎない。
それに対して女性にとっての買い物とは買い物自体に意味がある。
物品の見定め、より比べ、さらには購入数、購入回数、そういったものに特別な意味があると報告書には記載されている。
女性にとっての買い物とはそれ自体が1つの娯楽なのである。
娯楽に意味を求めるのは無為であろう。
娯楽とは行為そのものが目的なのであって、他に実用的な意味をもたない。
実用を求めて生きる男性には理解の及ばぬ境地である。
この点において男性と女性の間の溝は限りなく広く、そして深い。
男性が女性の買い物を理解することはまず、不可能であろう……


END 2021年作品


黒鋼さんがいたらこうなると思う。

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