『EXTRA TRACK Other Client2』
キャスト
ゴルゴ13:国籍、年齢、本名、その他一切不明
依頼人(クライアント):凛とした瞳の少年
標的(ターゲット):?
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―都内某所喫茶店
「ふぅ」
少年はもう何杯目かわからぬコーヒーをすすり終えてから息を吐いた。
秀麗な少年だ。
少年アイドルといっても通用する。
かなり緊張しているらしい。
人を待っているようだ。
しきりに時計へと目をやっている。
少年がもう一杯コーヒーを頼もうかと腕を上げかけたその時、背後から声がかかった。
「待たせたようだな」
「いえ、時間通りです。ミスター」
何気ない風を装いながら応えた少年であったが、すぐには次の言葉を出すことができなかった。
男の衣装が異様であったからだ。
似合っていないというのではない。
この男ならばどんな衣装でも似合おう。
衣装の方が男に合わせてしまう。
だが、少年の知る男の雰囲気にそぐわぬものであるのは否めない。
「気になるか」
「いえ」
「時間がなかったのでな。前の仕事の場からそのまま急行してきた」
「そうですか」
少年はそれ以上追及しなかった。
趣味や酔狂でこのような恰好をする男ではない。
男の言う、「仕事」に必要な衣装なのだと理解したのだ。
このような衣装を必要とする場での「仕事」であったのに違いない。
そして、その「仕事」を男が完全にこなしたであろうことも疑いはない。
この時、少年は男よりもむしろ衣装の方に興味を引かれていた。
その衣装は、マンガかアニメのキャラクターを模したものかと思われた。
既製品であるまい。
見事なまでに男にフィットしているその様からオーダーメイドと思われる。
その方面に興味の薄い少年の目から見ても見事な出来栄えである。
さすがに男が作ったのではなかろう。
用意したのは「仕事」の依頼者か。
つまり、この衣装の作成者は「仕事」の依頼者ということか。
衣装を見る少年の脳裏にある人物の像が浮かぶ。
一人の少女をめぐって時にはライバル、時には仲間として共に過ごしてきた人物。
その人物にも衣装を作成する趣味があった。
彼女の作成した衣装を少年は何度となく目にしている。
今では彼女の作成する衣装にある特徴、癖とでもというようなものまで理解できるようになった。
そして、その癖と同じものが今、目の前にいる男の衣装からも感じ取れるのだ。
この衣装の作成者は彼女なのか……?
それはつまり。
「仕事」の依頼者は彼女……ということか?
バカな、と思う。
その一方で彼女ならばあるいは、という思いもまたある。
ある少女を通して自分と合わせ鏡のような存在だった彼女。
自分との共通点も多い。
彼女ならば男へ「仕事」を依頼する金に困ることもあるまい。
彼女であればあるいは。
しかし。
「要件を聞こうか」
「はい、今回のターゲットは……」
男からの問いかけに少年はせんのない妄想を切り捨てた。
今はそのような些事を気にしている時ではないと悟ったのだ。
自分の依頼する「仕事」がなによりも重要だ。
それに、自分がこのように男に「仕事」を依頼しているのだ。
彼女が同じことをして何が悪いというのか。
少なくとも自分には非難する資格はない。
脳裏の人物へこれまでとは異なる親近感を感じる少年であった。
END
2019年作品
自分にとってマンガ、アニメで一番の男性キャラはゴル……いえ、デューク東郷です。
彼は永遠のヒーローです。
一度でいいから
「おぉ、ありがとう! ミスターゴル……いや、ミスターデューク・東郷!」
と言ってみたいものです。