『浮(フロート)』 〜 小狼
間に合わなかった。
つかめなかった。
アイツの手を。
アイツはポッカリと空いた穴の中へ落ちていった。
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なんだ?
なんだこの感情は?
アイツは俺のライバルで。
クロウカードのこともあの人のことも。
ただそれだけのヤツだ。
そのはずだ。
なのになんだ?この感情は。
「己の真に想う者がわかる」ってなんだ?
なんでこんなに悲しいんだ?
なんで?
なんでこんなに?
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「さくらぁーーーッ!!」
俺の中で何かが爆発した。
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「えへへ、『浮』のカード使っちゃった」
『浮』に乗って浮かんできたアイツを見た時、俺はきっととても情けない顔をしてたろう。
でも、そんなことはどうでもよかった。
「よかった・・・」
体が勝手に動いてアイツを抱きしめた。
よかった。
本当に。
なんでこんなにホッとしているのか。
なんでこんなに安心してるのか。
どうでもいい。
よかった・・・こいつが無事で。
『浮(フロート)』 〜 さくら
「さくらぁーーーッ!!」
李くん?
李くんがわたしのことを呼んでる?
「さくら」って。
いつもは「オマエ」とか「木之本」とかぶっきらぼうにしか呼んでくれないのに。
なんでだろ?
ちょっとドキドキする。
「えへへ、『浮』のカード使っちゃった」
少し恥ずかしくて、それにちょっとだけ嬉しくて照れながらこう言ったらいきなり抱きしめられた。
「よかった・・・」
ほえ?
李くん?
なんだろ?
李くん、とってもあたたかい。
なんかとっても安心するよ。
なんでだろ。
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さっき、あんなに嬉しかったのはなんでだろ?
李くんが「さくら」って呼んでくれたから?
それだけ?
それだけなのに?
なんで?
なんでこんなに嬉しいんだろう・・・?
そうだ!
李くんのことも名前で呼んだらわかるかな?
「しゃおらんくん」って。
さっそく「しゃおらんくん」に電話してみよ!
・・・二人が自分たちの「ほんとうの気持ち」に気付くのはもう少し先のお話。
END