『悪戯(小学生編)』

※別名義で発表した作品の再掲になります。



「・・・・・・ん・・・・・・ここは・・・・・・?」

・・・・・・あれ? ここ、どこだろう? ベッドの・・・・・・上?
でも自分の部屋じゃないし。知世ちゃんの家・・・・・・でもないよね? 見たことない部屋だけど。
どっかのマンションなのかな? ずいぶん高いところだよね。

え〜っと、なんでこんなところにいるんだっけ。

たしか、今日は李くんといっしょにお買い物に出かけて
途中でクロウさんの気配が襲ってきて
『雨(レイン)』と『矢(アロー)』のカードさんをさくらカードに変えて・・・・・・

そっか。そこでわたし眠くなって倒れちゃったんだ。

ということはここ、李くんの部屋? そういえば、男の子用のランドセルが置いてあるね。
李くんの部屋ってこんな感じなんだ。
ふ〜ん。
きれいに片付いてるな〜〜〜。
お兄ちゃんの部屋なんか、いつもゴミだらけなのに。
李くんはしっかりしてるもんね。それとも偉さんが片付けてくれてるのかな?
でも、李くんのことだからやっぱり自分でキレイにしてるんだろうな。

それに本がいっぱい置いてあるね。
あれ魔法の本なのかな?
なんか難しそうな模様が描いてあって、ケロちゃんが封印されてた本にちょっと感じが似てるみたい。
他にもいっぱい。英語、中国語・・・・・・かな? 見たことのない文字で書かれた本もあるよ。
こんなの読めるんだ。李くんは本当に勉強屋さんだよね。

あ!
あの机の上にあるのは!
テディベアだ!

そういえば李くんもあの時、ツインベルで一緒に買ったんだっけ。
もう出来上がってたんだ。

うわ〜〜上手にできてるな〜〜。
わたしが作ったのなんかよりずっと上手だよ。
李くんは本当になんでも上手だよね。ちょっとうらやましいな。
わたしが作ったのはなんかケロちゃんみたいになっちゃったし。
これならきっと、雪兎さんも喜んで受け取ってくれるね。

―――ズキッ―――

あれ?
今、どうしたんだろう。
なんか胸の奥で何か・・・・・・ズキッってしたけど。
なんだろう?
なんか、こう・・・・・・

あ、そうか。
あのクマさんを雪兎さんが受け取るってことは、李くんに雪兎さんを取られちゃうってことだよね。
そんなのダメ!
雪兎さんは渡さないんだから!

・・・・・・?

おかしいな。
なにか違うような気がする。
雪兎さんにはあのクマさんを受け取って欲しくないんだけど・・・・・・
でも、それは雪兎さんだからじゃなくて・・・・・・
雪兎さんに関係なくて・・・・・・
あ、あれ・・・・・・?
なんでだろう。
あのクマさん、誰にも渡して欲しくない気がする。
なんで?

トントントントン・・・・・・

!?
誰か来る!
って誰かってことはないか。李くんに決まってるよ。李くんの家だもんね。
あ、そうだ!
いいこと思いついちゃった。
ちょっと悪戯しちゃお。
うふふ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「木之本。まだ、寝てるのか」

ブーッ。ハズレ〜〜〜。
本当はもう、起きてるよ。
でも寝たふり。
えへへへ〜〜〜。

この間、奈緒子ちゃんと千春ちゃんに聞いたの。男の子はホントにエッチなんだから! って話。
奈緒子ちゃんが言うには男の子っていつも女の子の裸のことばかり考えてるって。
千春ちゃんなんか、この前山崎くんの家で寝ちゃったら、山崎くんにオシリを触られそうになったんだって!

「山崎くん! 何してんのよ!」

って怒鳴ったら、山崎くんものすごく慌ててシドロモドロで言い訳したんだって。
あの山崎くんがそんなに慌てたところってちょっと見てみたい気もしたな。
それにしても千春ちゃん、男の子ってホントにエッチなんだから! って怒ってたけど・・・・・・
でも、ちょっとだけ嬉しそうな顔してたかな?

うふふふ。
さあ、李くん。女の子が寝てるよ?
李くんも山崎くんみたいにエッチなことする?
もしもエッチなことしようとしたら思いっきり怒っちゃうんだから。
そしたら李くん、どんな顔するかな〜〜〜?
いつも真面目そうな顔で「お前の力じゃ無理だ」な〜んてカッコいいこと言ってるけど、山崎くんみたいに慌てて言い訳しちゃうのかな?
ちょっと楽しみ。
あ、近づいてきた。
ベッドに腰掛けて・・・・・・やっぱり触る気?

バシャバシャバシャ・・・・・・

ん? 水の音?
なんで?

ぴとっ

ん!
つ、冷たい!
李くん、なにやってるの?

すーっ・・・・・・

あ・・・・・・李くん、わたしの体をタオルで拭いてくれてるんだ。
そういえば、今日は走ったり転んだりして汚れちゃったもんね。うぅ、ちょっと冷たい。
でも、少し気持ちいいかな。

ううん、ここで油断しちゃダメ!
手とか足とか拭き終わったら、胸とかお尻とか触ろうとするかもしれないんだから!
胸も拭くつもりだった、とか言い訳するつもりかもしれないし。とにかく油断しちゃダメ!

でも・・・・・・なんかいい気持ちだな。
李くんに触られてるとなんか心地いいな。
魔法でも使ってるの?

・・・・・・手も足も拭き終わったみたい。もうお洋服から出てるところは残ってないよ?
この次は・・・・・・やっぱり胸とかお尻の番?

・・・・・・?

ゴシゴシゴシ

!? ほ、ほぇっ? ぶっ!?
か、顔!?
たしかに今日は派手にすっ転んで顔まで汚れちゃったけど、そんなにゴシゴシ拭かないでよ〜〜〜!
女の子の顔だよ? もっと丁寧に拭いてよ〜〜〜!
李くんらしいといえばそこまでだけど。でも、もうちょっと優しくしてよ〜〜〜

「これでも起きないか。よっぽど疲れたんだな」

もう起きてるよ〜〜〜!
うぅっ、なんか寝たふり続けるのが苦しくなってきちゃった。
これで李くんがエッチなことしようとしなかったら、わたしバカみたいだよ〜〜〜。

ふぅ。
ようやく顔も拭き終わったよ。
今度こそ、拭くところは残ってないよ。さあ、李くん。次はどうするの?

ぴちゃ

〜〜〜〜〜〜っっっ!!! し、しみる〜〜〜っ!!!
うぅ、今度は赤チン?
転んでいっぱいケガしちゃったからしょうがないけど。
しみるよ〜〜〜!!!

ぺたっ

お次は絆創膏? ケガの手当てまでしてくれて・・・・・・李くんは本当によく気がつくよね。

李くん・・・・・・

やだ、わたしなんてバカなこと考えてたんだろう。
今日のクロウさんの事件の時だって、李くんが助けてくれなきゃ解決できなかった。
ううん、今日だけじゃない。
これまでカードさんたちを捕まえてこれたのも。カードさんたちを生まれ変わらせることができたのも。
いつも、いつも李くんが助けてくれたからだ。
それに今も眠っちゃったわたしをここまで運んでくれて、ケガの手当てまでしてくれて・・・・・・
こんなにわたしのこと助けてくれてるのに。
なのに、わたし李くんをからかうつもりだったなんて。

ゴメンね、李くん。
もう、寝たふりは終わり。起きなきゃ・・・・・・

「さくら・・・・・・」

え?
李くん?
今なんて言ったの?
『さくら』ってわたしのこと名前で呼んでくれたの?
いつもは「お前」とか「木之本」としか呼んでくれないのに。
李くん、どんな顔でわたしの名前を呼んでくれたの?
ちょっとだけ・・・・・・

・・・・・・!?

だ、誰?
この男の子、誰?
今わたしの前にいる男の子、いったい誰なの?
李くん?
これ、李くんなの?
李くん、こんなに優しい目をしてたの?
こんなに優しい笑い方をしてた?
こんなに・・・・・・こんなに優しい顔をしてたの?
これが・・・・・・これが本当の李くんなの?
ケロちゃんも月さんも『真の姿』があったけど、これが李くんの『真の姿』なの・・・・・・?

「李くん・・・・・・」
「木之本、目が覚めたのか。体は大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫だよ」

やっぱり『さくら』って呼んでくれない。
顔もいつもの厳しい李くんの顔に戻ってる。
さっきのあれは・・・・・・なんだったの? 李くん・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「さ〜〜く〜〜ら〜〜。な〜〜に呆けた顔しとんのや」
「え!? やだ、ケロちゃん、わたしそんな顔してた?」
「なんや、気ぃついとらんかったんか? 今日は家に帰ってからずっとボケ〜〜っとした顔しとったで。なに考えこんどるんや」
「なにって・・・・・・別に」
「はは〜〜ん、さてはまたゆきうさぎのこと考えとったんやな」
「雪兎さん・・・・・・? 違うよ、雪兎さんのこと考えてたんじゃないよ」
「ほんまか? いつもゆきうさぎに『はにゃ〜〜ん』ってなってる時みたいな顔やったけどな」
「雪兎さんに『はにゃ〜〜ん』てしてる時の顔?」
「あぁ。でも、なんかちょっと違うような気もしたけどな」

雪兎さんに『はにゃ〜〜ん』ってなってる時の顔してた? わたしが?
違う。今考えてたのは雪兎さんのことじゃない。考えてたのは李くんのこと。

家に帰ってからずっと考えてた。さっきの李くんはなんだったんだろうって。
あの時「さくら」って呼んでくれた李くん。いつもとは全然違う李くんだった。

優しくて
暖かくて

すごく素敵だった。
それにあの時。

「さくら」

って呼ばれた時。
なんでかな。とっても嬉しかった。胸の奥がこう、きゅ〜〜ってする感じだった。
雪兎さんを想う時ともなにか違う、不思議な感じがした。
なんでだろう?
どうしてあんなに嬉しかったんだろう?
わたしも李くんのことを

「小狼くん」

って呼んでみればわかるようになるのかな。
小狼くん・・・・・・か。
いつかわたしも呼んでみたいな。
李くんのこと「小狼くん」って。


テレビ版57話『さくらと小狼とエレベータ』に続く・・・・・・

END


このお話は以前、別名義で発表したものです。
「ドキドキの理由」は、これと「アカギ ざわ・・ざわ・・ アンソロジー」の中にあった吊り橋効果の話をとりまぜて作りました。
続きの中学生編もある(別名義で発表済)ので、また後ほど掲載しようかと思います。

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