『だ〜く・ぷりずん・3』



『プルルルル〜〜〜〜〜〜』

あと少しのところで邪魔が入るのが少年マンガのお約束です。
小狼がさくらを押し倒したその瞬間、さくらの携帯が鳴り始めました。
天の助けとばかりに小狼を押しのけて携帯に出ます。


「はい、さくらです。・・・・・・え?なに、どういうこと?・・・うんうん、それで・・・えぇっ?」

(ちっ、誰だ?いいところを邪魔しやがって。まあ、お楽しみが少し先に伸びただけだけどな。くくっ)

小狼・・・
それは完全に悪役の台詞だぞ。
そんでもって、そんな台詞を言ったやつの末路もこれまたお約束だったりします。


「・・・うん・・・わかったよ。じゃあね」


―――プツッ―――


「やっと終わったか。いいところで邪魔が入ったな。まあいい。続きだ」

再びさくらの胸に伸びるいやらしい手。

ですが。

ばしぃっ!

今度はあっさりとさくらに跳ね除けられてしまいました。
ん?気のせいでしょうか。
さくらの表情がすっごいキツイものになってるように見えるんですけど。

「おい、オレに逆らったら兄貴たちがどうなるかわかってるのか?」
「今、ケロちゃんに聞いたよ。お兄ちゃんたち助かったって・・・」

!?

な、なにぃ〜〜〜っ!?
バカな、どうしてそれを!
情報封鎖していたから日本には伝わらないはずだぞ!?

「小狼くんの家の人たちがお兄ちゃんとお父さんを助けてくれたって・・・」

やっぱり情報が漏れてる!
いったい、どこから!?

「小狼くん・・・お兄ちゃんたちのために頑張ってくれてたんだね・・・」

そ、そうだ!
オレはお前の兄貴と父さんの命の恩人だ!
な、なんだそのコワイ目は。
それが家族の命の恩人に向ける目か?
!?
呪文も唱えずに鍵を星の杖に?
そんな高等技術、いつのまに使えるようになったんだ。
なんだその『雷(サンダー)』のカードは。
それで何をするつもりだ?
おい・・・

「小狼くん。お兄ちゃんたちを助けてくれて本当にありがとう・・・でも・・・」

ぴか〜ん。

「小狼くんのエッチ!!!」

どっか〜〜〜ん!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――――


ブブブブブ・・・

カチャ。

「はい・・・李です」
『あぁ、小狼様。ようやく出てくださいましたか』
「偉か・・・どうした」
『木之本さまのお父様とお兄様を病院に収容し終わりましたのでご報告にと』
「そうか。ご苦労だったな・・・ところで偉」
『はい、なんでしょうか』
「お前、ひょっとしてさくらの家に電話をかけなかったか?」
『はい。先ほどお父様たちが助かったと報告の電話をさせて頂きました』
「日本への連絡は全てオレを通せと言っておいたはずだが」
『そうですが・・・先ほど何度か小狼様の携帯におかけしたのですが出て頂けませんでしたので』
「・・・」
『こういうことは早く伝えた方がいいと思いまして木之本さまの家に電話をしたのですが。いけなかったでしょうか?』
「・・・いや、いい。ありがとう偉。なにかあったらまた連絡してくれ」
『かしこまりました』


―――プツッ―――

ツーッ、ツーッ、ツーッ・・・


そういえば、さっきデビル小狼とエンジェル小狼がボカスカやってる最中に携帯が震えていたような気がする。
あれが偉からの着信だったのか。
あれに出ていさえすれば・・・
今となっては後の祭りだ。

「終わった・・・オレの人生・・・」

小狼の口から絶望の呻きが洩れる。
取り返しのつかないことをしてしまった。
これまで小狼とさくらの間にはカードをめぐる事件の中で築いてきた特別な信頼があった。
その信頼を自分の手で完膚なきまでぶっ壊してしまった。

明日から自分がさくらの目にどう映るか・・・それを想像しただけで気が狂いそうになる。
だがもう、どうしようもない。
「家族の命を盾にエロいことをしようとした助平男」
という烙印は消せない。

この世の全てを決めるのは「選択」
自分はその選択を誤ってしまったのだから。

「家族の命を救ったヒーロー」と「スケベ心」という誤りようの無い選択を間違えてしまったのだから・・・

あまりにも唐突に訪れた人生の終焉。
少年は何の表情も無くなった呆けた顔でどことも知れぬ空を見つめ続けた・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「ほんとに小狼くんったらエッチなんだから!」
「おほほほ。それは災難でしたわね」

あれから数十分後の大道寺邸。
そこでさくらは知世ちゃんに怒りをぶつけていました。
さすがに話の内容が内容だけにケロちゃんには話せません。
としたらさくらが怒りをぶつける相手は知世ちゃんしかいないでしょう。
小狼が見たら絶望のあまり首でも吊りかねませんが・・・

「もう!小狼くんがあんなエッチな男の子だなんて思ってなかったよ!」
「そんなに李くんを責めてはかわいそうですわ。さくらちゃんは超絶可愛いですから。李くんもさくらちゃんの可愛さについ、魔がさしてしまわれたのですわ」
「そんなこと言ったって!うぅっ、小狼くんのあのいやらしい手!」
(あらあら・・・くすっ)

憤懣やるかたなし!といった表情のさくら。
しかし、知世ちゃんはその表情の中からさくら自身も気づいていないかすかな感情を読み取ったようです。

「知世ちゃん!ちゃんと聞いてるの!」
「はいはい。聞いてますわ。ケロちゃんも気が利かなくて困った方ですわね」
「ケロちゃん?ケロちゃんじゃなくて小狼くんの話だよ!もう知世ちゃん、ほんとにわたしの話聞いてたの?」
「ちゃんと聞いてましたわ。せっかく李くんといい雰囲気になったのにケロちゃんの電話に邪魔された、というお話でしたわよね?」
「!?な、なに言ってるの知世ちゃん!」
「あら。違いましたの?」
「違うよ!なんでそうなっちゃうの!」
「だってさくらちゃん、先ほどから頬が緩みっぱなしでしたので。てっきり李くんにエッチなことをされたのが嬉しかったのかと・・・」
「え?えぇっ?」

あわてて自分の頬を押さえるさくら。
もちろん、さくらがそんな嬉しそうな顔をしていたわけでありません。
傍目には真剣に怒っているとしか見えなかったでしょう。
その中からほんのわずかな「喜び」の感情を読み取れたのは知世ちゃんならではの観察眼です。

「これから李くんの家にお邪魔する時は携帯の電源を切っておいたほうがよろしいですわね」
「と、知世ちゃん!そんな・・・わたし・・・」
「おほほほほ。まあ、とにかく李くんのおかげで藤隆さんと桃矢さんが助かったのは事実ですから。李くんにはちゃんとお礼を言った方がよろしいと思いますわ」
「うん・・・」

(わたしが嬉しそうな顔してた?なんで?あんなエッチなことされそうになったのに。小狼くんに・・・小狼くんだから?なんで?なんでなの・・・?)


―――――――――――――――――――――――――――――――――


そして翌朝の友枝小学校。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

教室には沈黙に固まるさくらと小狼の姿がありました。
なんとも間の悪いことに今朝の日直はさくらと小狼なのです。
エリオルが転校してきたあの日と同じ。
これも必然の成せる業でありましょうか。

(昨日のこと謝らないと・・・でも、なんて言って謝れば・・・ま、満月が近かったから月の魔力の影響で・・・いや、それじゃ言い訳っぽいし・・・)
(かっとなってあんなことしちゃったけど・・・お父さんとお兄ちゃんを助けてくれたんだし・・・ちゃんとお礼を言わないと・・・うぅっ、でも言いにくいよ・・・)

なんとか昨日のことを謝りたいけど、なかなか言い出せない二人。
やっぱり似たもの同士ですね。この二人は。

(勇気を出して謝るんだ!土下座でもなんでもして謝るんだ!もうそれしかない!)
(やっぱりちゃんとお礼を言わないと!今、言わないともう言えなくなっちゃう!)

「「あの!」」

おやおや。
切り出すタイミングまでぴったし一緒。
息が合うのもここまでくると考え物かも。

「え?な、なに?」
「あ・・・?いや、さくらの方こそなんだ?」
「小狼くんこそなに?」
「う、その・・・さ、さくらから話し出したんだからさくらの方から先に・・・」
「あの〜〜〜え〜っと・・・や、やっぱり小狼くんの方から・・・」
「いや、さくらの方から・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

またまた沈黙してしまう二人。
そして

(おほほほほ〜〜〜。いじらしくて実にいい感じですわ〜〜〜)

ドアの陰から二人を盗み撮りする知世。
いつも通りの光景。

どうやら今度の事件では二人の仲はそんなに進展しなかったみたいです。
でもちょっぴり進歩はあったでしょうか。
今後の展開は小狼くんの奮戦(と知世ちゃんのアシスト)に期待しましょう。

END


真・ダークプリズン完結編。
やっぱりアホ話の方が自分にはしっくりくるなあ。
しかし今気づいたら最近、背景がピンク(アホ&エロ)か黒(ダークorR18)の話しか書いてなかったですね。
もう少しちゃんとした話も書きたいところです。

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