『シンデレラ・ホラー編』



世界迷作劇場その5改さらに改さらに改 シンデレラ・ホラー編

キャスト
シンデレラ:さくら
王子様:小狼
宮廷魔術師:エリオル

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「今宵の機嫌はどんなものかな、シンデレラ」
「・・・・・・・・・・・・」

優しそうに微笑みながら問いかける小狼王子を、シンデレラは無言でにらみ返した。
機嫌がいいはずがない。
あの恐怖の夜から3ヶ月。
城に幽閉されたシンデレラは、連日のように小狼王子に嬲られ続けた。
想像を絶するおぞましくも淫靡な責めの数々・・・・・・
シンデレラに許されたのは小狼王子の下で泣き狂い、ミジメな悲鳴を上げ続けることだけだった。
今夜もどうせ同じだ。
また淫らな責めでよがり狂わせられる。
女性の、いや、人としての尊厳を踏みにじられ穢され堕とされる。
精神は淫靡な責めに反発しても、肉体がそれを裏切ってしまう。
いやらしく開発されてしまった身体の反応が恨めしい。
小狼王子に貫かれれば、また自分の口がはしたない声を上げてしまうのはわかってる。
せめてその瞬間まではこの男に屈したくはなかった。

だが、そんなシンデレラの覚悟はこの男にはトンと通じていないらしい。

「どうやらご機嫌ナナメのようだね。一体、何が気に入らないんだい?」
「何もかも全てです! こんなところには一秒もいたくありません! お家に帰してください!」
「やれやれ。嫌われたものだなあ。今日はせっかくいい知らせを持ってきてあげたのに」
「いい知らせ?」
「あの二人のことだよ」
「あの二人? お母様とお姉様のことですか! お母様たちをどうしたのですか!」
「あの二人は家に帰してやったよ。フフッ、あいつらお前のことなんかどうでもいいみたいだったな。一言もお前のことを聞かなかったよ」
「お母様たちが・・・・・・よかった・・・・・・」

二人の無事を知ってシンデレラはホッと安堵の息をつく。
あの二人が解放されたということはその分、自分への責めが激しくなることを意味している。
だが、それは承知の上だ。
お母様とお姉様が無事ならばわたしはどうなっても・・・・・・と、悲壮な覚悟を決めるシンデレラ。

そんなシンデレラに対する小狼王子の提案はあまりにも意外なものだった。

「どうだい、シンデレラ。シンデレラもここから出たいかい?」

一瞬、シンデレラは何を聞かれたのか理解できなかった。
この男は今、なんと言った?
ここから出たいと聞かれたのか?

「どうなんだい。シンデレラもここから出て行きたいのかい」
「も、もちろんです!」

叫ぶようにして答える。
当たり前だ。
こんな城には一分だっていたくない。
小狼王子が急にこんなことを言い出した理由はわからない。
ひょっとすると、他にもっと気に入る娘でも見つかったので自分は用済みになったのだろうか。
何でもいいが、出られるならば今すぐにでも出て行きたい。

「お願いです! ここから出してください!」
「そうかい。わかったよ、シンデレラ。シンデレラとの遊びは今日で終わりにしてあげるよ。その代わり・・・・・・」
「その代わりになんですか」
「1つだけお願いがある」
「お願い?」
「最後にシンデレラと一つになりたいんだ」
「わたしと・・・・・・一つに?」

本当にこの男はさっきから何を言っているのか。
シンデレラは呆れた顔で小狼王子を見返した。
一つになりたい?
男性が女性に望む願いとしては至極まっとうな願いだが、それはまっとうな男女の間での話だ。
一つになりたいも何も、これまでこの男は自分の身体をさんざんに弄び、獣欲を注ぎまくってきたではないか。
今さら一つになりたいなどと、どの口が言うのか。

「いいだろう、シンデレラ」
「えぇ、かまいません」

小狼王子の言葉に若干の不審は感じたものの、シンデレラはその願いを承諾した。
ここから出られるのなら、もうなんでもいい。

「じゃあ、いくよ。シンデレラ・・・・・・」

小狼王子がにじり寄ってくる。
シンデレラは黙って目を閉じた。
またおぞましい方法で嬲られるのだろうが、それもこれで最後だ。
あとほんの少しだけ我慢すれば自由になる。
あとほんの少しの辛抱だ。
これで全てが終わりに・・・・・・

しかし。

「ッッ!?」

小狼王子の顔が肌に触れようとした瞬間、シンデレラはわけのわからぬ衝動に突き動かされて身を引いた。
これまで感じたものとは全く異質の、背筋に氷柱を突き刺されるような恐怖が走り抜けたのだ。

ガシャン。

一瞬前までシンデレラの腕があった場所で鋼を打ち合わせたような硬質な音が響く。
あわてて目を向けたシンデレラがそこに見たものは・・・・・・
それは、もはや人とは別の「なにか」の姿だった。

耳まで大きく裂けた口。
まともな形をした歯など一本も生えていない。
ビッシリと並んだ全てが肉を噛み裂くための牙だ。
チロチロと伸びる舌の色も長さも形も人よりは蛇のそれに近い。
全身のフォルムも異常だ。
手足や背骨がありえない方向に歪んでいる。
まるで人でないものが無理やり人の真似をしているかのような不気味なフォルムだ。
異様なまでに大きく見開かれた瞼、それに反してやけに小さな瞳。
そこにシンデレラは淫欲とは別の種類の欲望が浮かんでいるのを見た。
口元からダラダラと滴り落ちる涎の糸も。

まさか。
「一つになりたい」の意味は。
まさか、この男。
自分を食べる気じゃ・・・・・・

「ひいぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っっ!」

絶叫を上げてシンデレラは後ずさり・・・・・・すぐに止まった。
その足を床から生えた手が掴んでいるのだ。
ボコリボコリと何本もの手が床から伸びてシンデレラを拘束する。
手だけではない。
ぬぅっ、と丸い形をした何かが床から生えてくる。
小狼王子の首だった。
いくつもの生首が床から生えてくる。
その全てに耳まで裂けた口と鋭い牙があった。

床に磔られたシンデレラを「小狼王子だったもの」たちの首が見下ろす。
それらが一斉に囁く。

「さあ、さくら。一つになろう」
「もう絶対に離さないよ・・・・・・」
「これからはずっと一緒だ・・・・・・」

「や・・・いや・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁーーーっっ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「いやぁぁぁぁぁぁぁーーー!?」

絶叫と共にシンデレラは跳ね起きた。
怯えた目で周りを見回す。
誰もいない。
次いで自分の手足へと視線を移す。
手にも足にも傷一つない。
身体のどこにも何の異常もない。
そこまで確認したところで、ようやくシンデレラは自分がベッドの上で横になっていることに気がついた。
どうやら夢を見ていたようだ。

「今のは・・・・・・夢? だったの?」

それにしても恐ろしい夢だった。
牙が肌に食い込む感触がまだ残っている。
恐怖を拭うためか、シンデレラは何度も何度も自分の身体を確認した。

「なんともなってない。よかった・・・・・・」

コンコンコン

とドアをノックする音がしたのは、確認を終えて安堵の息をついた時のことだった。
シンデレラはドアに視線を向けはしたものの、何の返事も返さない
このドアをノックするのは一人しかいないことがわかっているからだ。
そして、その一人にはシンデレラの返事など何の意味もないこともわかっているからだ。
案の定、シンデレラの返事を待たずにドアは開かれた。
そこにいたのは言うまでもない。

「今宵の機嫌はどんなものかな、シンデレラ」

小狼王子だ。
冷たい瞳でシンデレラの体をねぶるように見つめてくる。
いやらしいその視線に耐えられず、シンデレラは目を逸らした。

「どうやらご機嫌ナナメのようだね。一体、何が気に入らないんだい?」

何をバカなことを・・・・・・こんなところに閉じ込められて気分がいいはずはない。
あまりに白々しい小狼王子の台詞に思わず、

「何もかも全てです!」

と言いかけたところでシンデレラは気がついた。
このやりとりは・・・・・・さっきの夢と同じ・・・・・・?
そういえば小狼王子の服がいつもと違うような。
この服はたしか・・・・・・夢の中で小狼王子が着ていた服?
先ほどの夢の恐怖が蘇り、シンデレラは硬直する。
そんなシンデレラにはお構い無しに小狼王子は楽しそうに話を続ける。

「やれやれ。嫌われたものだなあ。今日はせっかくいい知らせを持ってきてあげたのに」

これも夢と同じだ。
これは一体、どういうことなのか。
まさか、さっきの夢は・・・・・・
恐怖に心臓を鷲づかみにされ、震えながらもシンデレラは問い返す。

「いい知らせ・・・・・・?」

ち、違うよね。
お母様たちのことじゃないよね。
そうだよね。
そ、そうだ。
この人のことだもん、また何かいやらしい遊びを思いついたのよ。
それでわたしを苛めるつもりなんだわ。
そうよね。
そうに決まってるわ。
お願い、そう言って。
お前を苛める新しい方法を考えついたんだと言って。
やめて。
お母様たちのことは言わないで。
やめてやめてやめて・・・・・・・・・

必死になって夢の内容を否定するシンデレラ。

だが。

「あの二人のことだよ」

シンデレラの希望はあっさりと打ち砕かれた。
小狼王子の台詞は夢と全く同じものだった。

「あの二人は家に帰してやったよ。フフッ、あいつらお前のことなんかどうでもいいみたいだったな。一言もお前のことを聞かなかったよ」

続く台詞も一言一句違わない。
恐怖でカチカチと歯が鳴る。
もはや、言葉を発することもできない。
もう間違いない。
さっきの夢、あれは予知夢だ。
自分は今日、ここでこの男に喰われてしまうのだ。
人外の魔物に引き裂かれてバラバラにされてしまう。
生きたまま、泣き叫びながら・・・・・・・・・
鮮血の恐怖がフラッシュバックとなってシンデレラの頭を駆け巡る。
シンデレラの理性はこの瞬間、崩壊した。

「あぁっ、小狼様!」

小狼王子の足元にすがりついて嘆願する。

「さくらは悪い子でした! 小狼様の言うことを聞かない悪い子でした! これからはいい子になります! 小狼様の言うことはなんでも聞きます! だから、だから・・・・・・」

すがりつきながらミジメな哀願の言葉を垂れ流す。
今のさくらには人としての尊厳も女性としてのプライドも残っていない。
あるのは、死にたくない、食べられたくない、ただそれだけだ。

「さくらのことを嫌いにならないでください・・・・・・さくらを捨てないで下さい・・・・・・お願いです・・・・・・お願いします・・・・・・さくらを・・・・・・」
「オレがさくらを嫌いになる? 何を言ってるんださくら。そんなことあるわけないじゃないか」
「本当ですか・・・・・・?」
「いったい何があったんだ、さくら。 可哀想に。こんなに震えて」
「小狼様・・・・・・さくらを・・・・・・さくらを・・・・・・」
「よしよし。いい子だ、さくら。さぁ、もう泣くのをおやめ」
「あぁ、小狼様・・・・・・」

さくらをなだめるつもりなのか、小狼王子が唇を合わせてくる。
そっと触れたその唇が人と同じ暖かさだと知った時、安堵のあまり失禁しそうになった。

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その夜、さくらは乱れに乱れた。
自ら小狼王子のものにしゃぶりつき、身体を開いて迎え入れて、はしたない嬌声を上げて乱れた。
死の恐怖から逃れるために痴態の限りをつくして狂いまくった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

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「いかかでしたか。小狼王子」

部屋を出た小狼王子を待っていたのは宮廷魔術師のエリオルだった。
知的で温厚そうな相貌をした少年だが、目の奥に光るものの冷たさは小狼王子と同じだ。

「あぁ、なかなかに楽しめたよ」

エリオルの問いかけに小狼王子も冷たい瞳を光らせながら答える。
さくらの痴態でも思い出しているのか、その頬に淫靡な笑みが浮かぶ。

「それはよかった」
「それにしても、さくらがあれほど乱れるとは思わなかったな。一体どうやったんだ?」
「大したことはありません。ちょっと夢を見てもらっただけですよ」
「夢?」
「えぇ。夢ですよ。少しばかりコワイ夢をね」
「おいおい、あんまりあいつを怖がらせるなよ。あいつは人一倍、怖がりなんだからな」
「フフッ、承知いたしました。では、次はもう少し大人しめのヤツにしましょう」
「頼んだぞ」

邪悪な企みを楽しそうに語りながら二人の少年は立ち去る。
少年達を見送るのは通路に掲げられた燭台の灯りのみ。
その灯りが床に映し出した二つの影は・・・・・・どちらも人とは思えぬ異形のものであった。

BAD END...

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「異形のものであった・・・・・・と。よし、完成だ」
「エリオル〜〜なに書いてるの〜〜? って、あれ? これってたしか前にあの子の頼みで書いたシンデレラ?」
「その続きだ。リクエストがあったんでね」
「リクエスト〜〜? でも、あの小狼って子、こんなの気に入るか! って怒ってなかったっけ?」
「彼じゃないよ。誰だと思う?」
「う〜〜ん、あ、わかった! 知世ちゃんだ!」
「違いますね。ちょっと意外な方です」
「意外な人? 誰なの?」
「さくらさんだよ」
「え、さくらちゃんが? あの話ってたしか、さくらちゃんが酷い目にあう話でしょ。なんで、そんなのの続きを読みたがってるの?」
「愛する者に辱められたい・・・・・・それも一つの愛の形だ」
「そうかな〜〜。さくらちゃんはそんなタイプじゃないと思うけど」
「まぁ、そこは李くんが悪いのかもしれないな。彼は優しすぎるんだよ。優しいのはいいことだけど、それだけでは物足りなくなってしまう時もある。フフッ、さくらさんもなかなか欲張りだな」
「そんなものなの?」
「そういうものさ」
「でも、さくらちゃんって怖いの苦手でしょう? このお話はダメなんじゃないの」
「リクエスト通りでは面白くないんでアレンジしたんだ。結果は読んでのお楽しみというところだね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

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しばらく後に届いたさくらの感想は

「怖いのはダメ〜〜!! でも、小狼くんとはもっとその・・・・・・ゴニョゴニョ」

というものだったそうです。

END


ハロウィンでいいネタを思いつかなかったので、去年のやつを再利用。
ハロウィン = ホラー
完璧!
ハロウィンはあまり身近に体験していないイベントなのでいいネタが思いつきませんね〜〜。

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