『シャオデレラ』
世界迷作劇場その5怪 シャオデレラ後編
キャスト
シャオデレラ:小狼
意地悪な継母:夜蘭
意地悪な継姉:芙蝶、雪花、黄蓮、緋梅
親切な魔法使い:さくら
王子様:?
―――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、そんなある日のこと。
「ちょっとぉぉ〜〜。わたしのスカーフどこにいったか知らない〜〜?」
「うっ、このスカートちょっとキツイわね。まさか、太った?」
「あ〜〜ん、いい靴がきめられないよ〜〜」
お姉さまたちは朝から大忙し。
それもそのはず。
今日はお城で舞踏会が開かれる日なのです。
招待状を受け取ったお姉さまたちは、気合満々でお出かけの準備を進めています。
ですが、招待状をもらえたのはお姉さまたちだけ。
シャオデレラには招待状は来ていません。一人寂しくお留守番です。
きらびやかな衣装をまとうお姉さまたちを、うらやましそうに見つめるしかない可哀想なシャオデレラ・・・
(やれやれ。今日は姉上たちはみんな揃ってお出かけか。1日、ゆっくりできるな)
訂正。
シャオデレラ、全然うらやましがっていません。
それどころか、お姉さまたちがいないので今日は1日のんびりできるな〜〜と喜んでいるようです。
鬼の居ぬ間に洗濯、というやつでしょうか。
しかし!!
世の中はそう甘くはありません。
可哀想な星の下に生まれたシャオデレラには、可哀想な運命が待ち受けています。
もちろん、今日もシャオデレラにはとっても可哀想な出来事がふりかかってくるのです。
「シャオデレラ! そんなところで何をやってるの! お前も早く支度をなさい!」
「オレもお城に行かなくちゃいけないんですか? オレには招待状は来てなかったはずですけど」
「何を言ってるの! 今日はお前が主役でしょう! 早くしなさい!」
「オレが主役? 一体、何の話ですか。そんな話、聞いていませんよ」
「もう、ニブイ子ね! 雪花、黄蓮! シャオデレラの着替えを手伝ってあげて!」
「は〜〜い。お姉さま」
「ちょ、ちょっと姉上! 何をするんですか! あ、姉上! わわわ、なんで服を脱がすんですか〜〜! 姉上〜〜!!」
ばさばさ
がさがさ
ばさばさ
がさがさ・・・
「できた!」
「うん、よく似合ってるわよ。シャオデレラ」
姉上たちの手でキレイに着付けられたシャオデレラ。
銀のカチューシャにシルクのドレス、真珠のネックレスにガラスの靴。
とってもステキなお姫さまスタイルです。
「姉上・・・。この服、どう見ても女物なんですけど」
「あら。シンデレラが女の子の服を着るのは当たり前でしょ」
「それはそうですけど・・・」
「ほらほら。王子様が待ってるんだからもっとシャンとしなさい。あとは“アレ”をつければ完成ね」
「“アレ”? アレってなんですか姉上」
芙蝶姉さまの言う“アレ”に不吉な予感を感じ取るシャオデレラ。
実に不幸なことですが、こういう時の予感は非常によく的中します。
案の定、
「はい、お姉さま。持ってきたわ」
そう言いながら緋梅姉さまが持ってきものはぶっとい荒縄に猿轡。
どう見てもシンデレラの世界観にはそぐわないシロモノです。
「なんですか、それは! それを一体、どう使うおつもりですか!」
「ホントにニブイ子ね。これの使い方なんて決まってるじゃないの」
「姉上、な、何をなさるのですか! あね・・・うわわわわ〜〜〜!!」
あっという間に縛り上げられて猿轡をかまされるシャオデレラ。
お姉さま方、ずいぶん手馴れていらっしゃいます。
ひょっとすると、日頃からこういうイケないお遊びに興じていらっしゃるのでしょうか。
「んぐぐぐぐ〜〜! ふぐぐ〜〜!!」
「これで準備OKね」
「芙蝶、そろそろ時間よ。準備は終わったの」
「あ、お母様。今終わったところですわ」
「そう。じゃあ後はまかせたわよ」
「はい、お母様」
「シャオデレラ。李家の再興はお前の双肩にかかっています。王子様に粗相のないようにするのよ」
「ふぐ〜〜、うぐ〜〜(それは一体、どういう意味なんですか! 母上〜〜!!)」
☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆
さてさて。
そんなこんなで連れてこられたお城では今まさに舞踏会の真っ最中。
とても上品で優雅な世界が展開されています。
・・・と、言いたいところですが。
なにやら雰囲気が変です。
たしかに参列者の皆様は着ているものも素晴らしく、落ち着いた雰囲気を漂わせたとても身分の高い方々のように見えます。
ですが、なぜか皆様、とてもアヤシイマスクをしていらっしゃいます。
いわゆるSMの女王様がつけておられるアイマスクです。
もちろん、シャオデレラのお姉さまたちもです。
お姉さま方、アヤシイマスクがとても似合っていらっしゃいます。
やはり、こういうお遊びに慣れておられるのでしょうか。
(なんなんだ、これは! こんな舞踏会があるのか〜〜??)
一人だけアヤシイ雰囲気に馴染めず、困惑するシャオデレラ。
と、そこへ
「これはこれは。李家のお嬢様方ですか。お待ち申し上げていました」
エリオル王子様、登場。
王子様もやっぱりアヤシイマスクをつけていらっしゃいます。
王子様、アヤシイマスクがジャストフィットしてますね。違和感無しです。この王子様にはこういうアヤシイ服装がよく似合います。
「エリオル王子。私達のようなものにまでお声をかけていただけるとは光栄でございます」
「いえいえ。李家と言えば由緒ある名家。おろそかには扱えませんよ」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
「ところで、そちらの方が噂のシャオデレラさんですか」
「はい。まだ至らぬ弟妹でございますが、エリオル王子のお口にあえば幸いでございます」
(王子のお口にって・・・どういう意味ですか〜〜 姉上〜〜!)
王子とお姉さまのアヤシイ会話に疑念を抱くシャオデレラ。
あわてて周りを見回してみると、舞踏会のはずなのに誰も踊っていません。
やけに薄暗いホールのあちこちでアヤシイ紳士淑女がヒソヒソ話をしているだけです。
とても舞踏会には見えません。
そんなシャオデレラの疑惑をよそに王子とお姉さまの会話は続きます。
「なるほど。ふふっ、噂通り美しい。気に入りましたよ。では本日はこちらをいただくことにしましょう」
「ありがとうございます。つきましてはお値段の方ですが」
「おぉ、これはお高い」
「いえいえ、エリオル王子。このシャオデレラ、私どもでたっぷりと躾けてあります。このお値段でも決して王子を落胆させるようなことはございません」
「そこまで自信がおありですか。よろしい。そのお値段で引き取らせていただきましょう」
「ありがとうございます」
(値段? 引き取る? どういうことですか、姉上! ま、まさか・・・この舞踏会は・・・!!)
そうです。
“お城の舞踏会”とは高貴な身分の方々にだけ通じる隠語の一つ。
その正体は、恐ろしい闇取引市場だったのです!
「では、頂いていきます」
「シャオデレラ。王子様に誠心誠意お仕えするのよ。李家の再興はお前の働きにかかってるのですからね」
「シャオデレラ、粗相のないようにね」
「シャオデレラ、またね」
「ふぐぐ〜〜! むぐぐぐ〜〜!!(あ、あねうえ〜〜! そんなぁぁぁ〜〜あんまりだぁぁぁ〜〜!!)」
「さあ、李くん行きましょうか。めくるめく愛と官能の世界へ。ふふっ、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。最初は優しくしてあげますから。フフフ・・・」
(どわわわわ〜〜! や、やめろぉぉ〜〜! 変なとこ触るなぁぁ〜〜!! そんなとこ・・・あ・・・やめ・・・あ、あぁぁっ!! 魔法使いさ〜〜ん! さくらぁぁ〜〜! 早く助けにきてくれ〜〜!!)
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆
「ただいま、お母様」
「おかえり。どう、シャオデレラは王子様に気に入ってもらえた?」
「バッチリよ。シャオデレラ、王子様の趣味にあってたみたいだったわ」
「李家への援助も約束してくれたわ」
「そう。よかった。これでこの先は李家も安泰ね」
シャオデレラが高値で売れたことをの幸せを喜び合う母子。
「あの〜〜」
と、そこへ現れたのは星の杖を携えた可愛らしい魔法使いさん。
「あらあら、これは可愛らしい魔法使いさんね。どうかしたの?」
「この近くに、シャオデレラっていう女の子がいるらしいんですけど。知らないですか?」
「シャオデレラになにかご用なのかしら」
「はい。シャオデレラさん、いつもみんなにいじめられて可哀想な目にあってるって聞いたから助けてあげようかな〜〜って思って」
「それはご苦労様ね。でも、もう大丈夫だから。シャオデレラは今日から王子様のところで暮らすことになったの」
「そうなんですか。じゃあ、もうわたしが助ける必要はないんですね」
「そうそう。わざわざ来てくれてありがとうね」
「いいえ。じゃあ、わたし他の子のところに行きます。『翔(フライ)』!」
「さよ〜なら〜〜」
・・・。
シャオデレラ最後の頼みの綱、あっさり消滅。
まあ、しょうがないですね。
この魔法使いさんは人を疑うということを知らないピュアすぎる子ですから。
目の前で優しく微笑む外道女性がシャオデレラを虐待している本人だとは夢にも思わないのでしょう。
☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆
こうしてシャオデレラは王子様のもとでねっちりとした愛を受けて、幸せに暮らしたそうです。
めでたしめでたし。
HAPPY END!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
(どこがハッピーエンドだぁぁ〜〜!)
(何を言ってるんですか。みんな幸せになったじゃないですか)
(オレ以外はな! 主役が幸せになってないのにハッピーエンドになるか!)
(なんと。まだ幸せが足りませんでしたか。これは失礼しました。僕の愛し方が足りなかったみたいですね)
(ば、バカ、そういう意味じゃない! やめろ! やめ・・・う・・・んん・・・や、め・・・あぁぁっ!)
HAPPY END?