『替(チェンジ)』 〜 小狼

今日はさんざんな目にあった。
よりによってあの、「ぬいぐるみ」と入れ替わったあげく、窓から落ちるわ、猫に絡まれそうになるわ、頭をぶつけるわ・・・

『替(チェンジ)』の魔力でケルベロスと入れ替わってしまった小狼。
背中の羽がうまく動かせず、本物のケルベロスのように飛ぶことが出来ないらしい。
そのため、1日えらい目に会いっぱなしだ。
窓から落っこちて気絶し、ようやく目を覚ましたと思ったら狭い引き出しの中で頭をぶつけるというオマケつきだ。

これも明日1日の辛抱だ。
さっさと寝てしまおう、っと机の引き出しベッドに横になる。

・・・ん?
なんかいい匂いがするな。
体から石鹸とシャンプーの香りがする。
そういえば、今日はいろいろあってずいぶん汚れたはずなのにキレイになってるな。

「なあ、体がきれいになってるけどお前が洗ってくれたのか?」
「そうだよ。さっきお風呂に入った時いっしょに洗ったよ」
「そうか。お風呂で・・・って、えぇぇ〜〜〜!?お、お風呂でいっしょに〜〜〜!?ってお前、いつもこいつと一緒にお風呂に入ってるのか???」
「?そうだよ。いつもケロちゃんと一緒に入ってるよ」
「ってことはさっきも一緒に入ってたのか?(こ、こいつと二人でお風呂に入ってたのか!?)」
「そうだよ。それがどうかした?」
「い、いや!なんでもない!」

こいつといっしょにお風呂・・・!!!
さくらと二人きりでお風呂に入っている光景がもわもわ〜っと浮かぶ。

(バ、バカッ!なにを考えてるんだ俺は!!!)

「?変な李くん。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ!」

そう答えたものの、一度頭にうかんでしまった妄想はなかなか消えない。
その夜、すやすやと気持ちよさそうに眠るさくらと対照的にもんもんとして寝つけぬぬいぐるみの姿があった・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日の夕方。
さらに悲惨な目にあった後、ようやく元の自分の体と抱き合う。

「闇の力を秘めし鍵よ真の姿を我の前に示せ・・・かの者たちの心を入れ替えよ『替』(チェンジ)!」

さくらの唱える魔法の呪文を聞きながら小狼が考えていたのは・・・

(このままだったら毎日あいつといっしょにお風呂に・・・それもいいかも・・・ってなに考えてんだ〜〜〜!!!)

えんど。


『替(チェンジ)』 〜 さくら

「♪♪〜〜〜♪」

お風呂でさくらが鼻歌を歌いながら気持ちよさそうに体を洗っている。
その横では黄色いぬいぐるみ・・・と入れ替わった小狼が気絶している。
「同級生の男の子といっしょにお風呂に入っている」というかなりとんでもない状況なのだが、さくらはまったく気がついていない。
この辺が「ぽややん」と言われる所以だろう。

「今日はケロちゃん・・・じゃなくて李くん汚れちゃった。きちんと洗わなきゃ」

と言いながらケルベロス・・・じゃなくて小狼をゴシゴシ洗いはじめる。
かなり強くこすっているのだが小狼は目を覚まさない。

密かに想う女の子と二人っきりでお風呂・・・!

大変に素晴らしい(?)状況にいるのだが、小狼は一向に目を覚ます気配が無い。

・・・どこまでも運の無い少年だった。

えんど。

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