『守護者けろべろす』



大きな男であった。
その背丈は180cmを大きく超えているであろう。
あるいは190cmに届いているのかもしれない。
対峙する男も世間一般では長身に分類されるだけの身長を有しているが、この男の前では小さく見える。
肩幅も広い。
胸が厚く腕が太い。
しかしそれは肥満(デブ)ではない。
よく絞り込まれたとてつもなく強靭な肉の束である。
一部だけを取り上げれば太いと感じられるが、全身を見渡せばむしろスリムとすら感じられる。
ボディビルのように見せるための身体ではない。
動くための筋肉である。
野生の肉食獣ならばこのような肉を有しているのではないか―――
見る者にそう思わせるだけの力を秘めた肉体である。

でかい。
それは単に身体が大きいというだけのことではない。
身長や肩幅だけならば男よりも大きい者はいくらでもいよう。
しかし、それらの者たちをこの男の前に並べても、やはりこの男の方が大きく見えるであろう。
男の身体から滲み出る形容し難いなにか―――力場とでもいうべき何かが男を大きく見せているのだ。
それほどに男の内封するエネルギーが巨大なのだ。
圧倒的な力である。
プロレスやボクシングに代表される格闘技の世界チャンプであろうとともこの力に抗うことはできそうもない。
嵐の前の枯葉のようにたやすく引きちぎられるのが想像できる。
人知を超えた巨大な力の結晶―――
もしも、この力が解放されてしまったらどれほどの被害が生じるのか―――
そう思わざるを得ないほどの力である。

・・・・・・ではあるのだが。

なぜか今、男から感じるのはびみょ〜〜なゆらぎである。
たしかにエネルギーの総量自体はでかい。
のではあるが、どこか頼りない。
どうやら男の心理状態になにか問題が起きているようだ。
それは男の目を見ればよくわかる。
目が完全に泳いでしまっている。
対峙する男からなんとかして視線を逸らそうとしている、それがまるわかりである。
それほどに目の前の男が恐ろしいのか。

でかい男の前にいるのは20代前半と思しき青年である。
ちょっと目つきはキツイが、整った顔立ちと均整のとれた身体を持った男だ。
なかなかの美形である。
アイドルといっても通じるかもしれない。
しかし、青年の顔に浮かんでいるのはアイドルが決して見せることのない表情であった。
いや、普通の男でも滅多に見せることはあるまい。
それは怒り―――それも激しい怒りの情である。
憤怒の形相としかいいようがない。
もうどれくらい凄いかというと、「阿修羅面、怒り!」とか言っちゃいそうなくらい凄い顔をしている。
いったい、何がそこまでこの青年を怒らせているのだろう。

「それがお前の真の姿というわけか」
「そ、そうや」
「ほぉ〜〜。てっきりあの虎みたいなのが真の姿と思ってたんだがなあ」

青年の声はあくまでも静かである。
だが、それだけに声にこもった怒りの大きさが際立つ。
青年が問題にしているのはでかい男―――ここでは仮に虎毛の男と呼ぶことにする―――の外見であるらしい。
青年の言葉によれば、虎毛の男はいくつかの姿をもっているらしい。
人外の存在にはいくつかの姿を持つ者が多い。
虎毛の男もその類なのであろう。

まあ、それはともかくとして。
この青年、いったい何をそんなに怒っているんですかね〜〜。
別に虎毛の男がいくつの姿を持っていようと特に問題はないような気がするんですけど。

「おれはお前の存在には早いうちから気がついていた」
「そ、そうみたいやな」
「お前にあのぬいぐるみとは別の姿があるもの知ってた。ユエから聞いてたからな」
「そ、そうか」
「それでも、そこまではまだ我慢ができたんだよ。しょせん、動物だと思ってたからな」
「動物って、わいを犬か猫みたいに言わんといてや」
「動物と一緒ってのはそんなにおかしいことじゃないからな。そう思って我慢してたんだよ。それが、それが・・・・・・」
「な、なんや」
「それが・・・・・・その正体がこんな男だったなんて・・・・・・。さくらが・・・・・・おれのさくらがこんな男と一緒にお風呂に入っていたなんて・・・・・・!!」

あ〜〜。
なるほど。
気にしていたのはそこでしたか。
ちなみにさくらというのはこの青年の妹です。
その可愛らしさで町内でも有名な女の子ですね。

さて皆様。
ここでちょっと想像してみましょうか。

可愛い女の子がぬいぐるみと一緒にお風呂。
→セーフ。

可愛い女の子がトラさん?と一緒にお風呂。
→まあセーフ。

可愛い女の子が筋肉質の大男と一緒にお風呂。
→アウト〜〜!!

って感じになりますよね。
ちなみにPix○vで
「カードキャプターさくら」「ケロちゃん」「擬人化」
で検索するとまさにそのアウトな感じの絵が出てくるのでご確認を。

「おれのさくらがこんな奴に汚されていたなんて・・・・・・! おれでさえ小学生になってからは一緒に入ってなかったのに・・・・・・!」
「汚されるって・・・・・・。わいはいつも体はキレイにしとるで。だいたい、そんなん気にしてどうすんねん。今頃はあの小僧と一緒にお風呂に入っとるかもしれんやないか」
「くぅぅ〜〜、あのガキのことは口にするな! これもお前が悪い! お前さえ現れなければこんなことにはならなかったんだ!」
「なんじゃそりゃぁぁ! 兄ちゃん、それはただの八つ当たりやで!」
「やかましい! あれもこれも全部お前が悪い!」

ありゃりゃ。
虎毛の男、どうやらいらないことを言っちゃうタイプみたいですね。
青年の怒りに油を注いでしまったみたいです。
まあ、この青年の方も正直どうかと思いますけど。
「小学生になってからは一緒に入ってなかった」って、一緒に入りたかったんですか?
それはそれでヤバい絵面になっちゃうと思うんですが。

「この、待ちやがれ! 逃げるな!」
「そう言われて待つアホがおるかい!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「やれやれ。やかましい連中だ」
「本当に。桃屋さんにも困ったものですわね」

虎毛の男と青年が暴れている部屋の下の階の居間。
そこにいたのは銀の長髪を垂らした青年と、黒髪の女の子の組み合わせでした。
二人とも心底、あきれ返ったという感じの顔をしてますね。
ま、このドタバタを聞いていては無理もないでしょう。

「止めなくてよろしいんですか?」
「ほおっておけ。あいつらは騒ぎたいだけだ。心の鬱憤を晴らす相手が欲しいんだろう。気持ちはわからないでもないがな」
「たしかにそうですわね」

そこで少女は一瞬だけ、寂しそうな表情を浮かべるのでした。
少女にも彼らの心情がよくわかっていたからです。
そうです。
今日は特別な日。
青年の妹であり、虎毛と銀髪の男の主であり、そして黒髪の少女がこれまでずっと追いかけていた一人の女の子がとっても重大な決心をする日だったのです。
それは彼らにとっても喜ばしいことだったのですが、でも、やっぱりちょっとだけ寂しい気もしてしまう決心だったのです。

黒髪の少女はしばらくお茶をすすりながら2階のドタバタを聞いていましたが、お茶がなくなったところですっと立ち上がりました。

「どうした。まさか止めに行く気か」
「ええ。やっぱりちょっと近所迷惑ですから」
「行くだけ無駄だと思うがな」
「おほほほほ。一応、止める努力はしてみませんと」
「そうか」

2階への階段に向かう少女を銀髪の男はあえて止めはしませんでした。
どうせ無駄だろうと思っていたからです。
というより、この少女には騒ぎを止める気なんかさらさらなくて自分も騒ぎに混じりたいだけ、そう思っているのがわかっていたからです。
銀髪の男はむしろ自分も騒ぎに加わりたい、そんな目で少女の後姿を見送るのでした。

END


突発思いつき話その2。
なにげなくPix○vを見ていたら思いついた話です。
CLAMPの擬人化けろちゃんはちょっとカッコよすぎるかな〜〜と思ってます。
しかし、あのケロちゃんと一緒にお風呂というのは。
やはりアウトなような・・・・・・。

戻る