「次はコロス・・・・・・」

そう、捨て台詞を吐いて、
ガーゴイルが崩れ去る。
これで一安心。
けど、思っていたほどの強敵では無かったみたい。
少し拍子抜けね。
「いや、参ったね。」
一息ついている私の横で、
奏さんが首を振ってやれやれと肩を落としているのに気づいた。
一体どうしたというのだろう?
闘いに勝利したし、
特に問題のあるような事は無かったはず。
なのに何故…気落ちしているのだろう?
気になった私は率直に聞いて見る事にした。
「…強敵とであって無事生還。
 ほかのメンバーも無事勝利…
 之以上いう事はないと思うけどどうしたのかしら?」
「ん?ああ。いやね。
 勝ったのはいいけど、
 ろくな物拾えなかったからさ。
 なんかガックリきちゃってね。
 …魅月はいいもの拾えた?」
…この島の探索において、
敵を倒す事が出来た場合、
その辺りに色んな素材が落ちているので拾う事が出来る。
その素材次第で色々この島を有利に渡り歩ける。
即ち良い素材を拾う事は今後に繋がるという事になる…
だから、拾えないのは確かに気落ちするかもしれないわね。
――私が気にしてないのはいつもの事だけど。
ちなみに私が拾ったのは…
「…貴女と同じく拾ったのは、
 腐った枝だけよ。」
「そっちも駄目か。
 まぁ、しょうがないね。
 気を取り直していこうか。」
「―そうね。まぁ、そのうち良い物が手に入るわよ。」
「そう願いたいね。
 それじゃ、行こうか。」
「――ええ、行きましょう。」
過ぎ去った事は仕方が無い。
前に向かって進むだけ。
――この程度の不運なんて、
不運のうちに入らないのだから。
そう。
ここを切り抜けた…
それに勝る幸運は無いと思うわ。

――移動はスムーズにすんで、
野営の場所へたどり着く。
野営の準備もスムーズに終わった所で、
今日寝るテントに入り横になりながら考え事をする。
考え事の内容は、明日の事。
明日は遺跡の外に出る。
…食糧の買い込みに、
経路の相談、
その他必需品の買い入れと、
慌しくなりそう。
ふぅ。
一息ついたところで外から声が聞こえる。
「…魅月はん、起きてはる?」
声の主は晃さん。
…一体どうしたというのだろう?
体を起こしてテントの外へ行く。
「…起きてるけど、どうかしたのかしら?」
「ああ、起きてはりましたか。
 実はちょっと相談したい事が…」
…相談…?
何の事だろう。
「…別に構わないわよ。
 それで、何か。」
「次の行き先…
 変更しまへんか?
 正直ちょいきつぅ思て…」
確かに、次の行き先は決まっていた。
だが――
「…その事なら心配いらないわ。
 私もその気持ちは分からなくも無いし、
 …皆もうすうす感じてるはず。
 …大丈夫よ。」
「…せやね。けど…」
「…まだ決まったわけじゃないもの。
 まだまだ話す時間はある。
 もとより手探りなんだから、
 気にする事はないわよ。」
「……それもそうやねぇ。
 気にし過ぎやったみたいやなぁ。
 …ほなら…
 また明日皆にも聞いてみる事にしましょ。
 ――聞いてくれておおきになぁ。」
「…之くらいたいした事無いわ。
 それじゃ、また明日。
 ――また何かあったらいってね。」
「フフ。そうするとしましょか。
 …また、明日な。」
お互い一礼、
顔をあげてにっこりお互い笑いかけて、
寝床へと戻る。
――明日が良い日であるよう願いながら私は、
眠りに落ちていく。
ゆっくりと…
ゆっくりと…
いつものように…

* * * * * * * *
――誰にも止められない。
止められはしない。
一度動き、
動き終わった歯車は。
それは、過去となってしまうのだから。
――既に終わった事なのだから。
そして、それ故に救いは無い。


「――ッ…!」
水野凛は恐怖していた。
目の前に広がる光景に。
…2人の人物がそこにいた。
1人は…
鈍く輝く銀の剣を携えたとてもよく知っている神父。
そしてもう1人は…
その神父に首から剣をはやしながら、
素手で対抗している月見里春菜。
どうして…
どうしてこんな事に…
そう、アレは――

水野凛は春菜の問いに答えた。
「誤解が何を指すのか分からないけど、
 時間を作るくらいは構わない。」
「そ。
 それじゃ、後で…
 うん。夕方に空き教室があったよね。三階の隅に。
 そこまで来てくれる?」
「分かった。
 …それじゃ、まだ用事が残ってるから後で。」
「うん、後でね。
 ――絶対だよ?」
とりあえず、
危険な香りはしない。
声もいたって明るく元気で…軽い。
呼び出してどうこうという可能性は低そうだった。
それに、
もし何かあっても春菜くらいであれば勝てる。
それだけの勝算はあったし、
自分とて身を護る為に何も用意してないわけではない。
だから…
問題ない。
いや、違う。
これは後になって考え付いた事。
私はまるで突き動かされるかのように肯定していた。
…何故だろう?
…考えても答えは出ないのだろうけど。

そして、私は約束の場に来た。
そう。
ここまでは良い。
ここまでは…
いつもの私が知ってる日常だったはずだ。
そして、ここで待ってほどなく春菜がやってきた。
「お待たせ、凛ちゃん。」
「…さほど待ってないけど?」
「んー。本当につれないんだから。
 で、話なんだけどさ…」
一体彼女は何をいいだすのだろう。
その答えは…すぐに出た。
「私に従ってくれないかな?
 それで魅月ちゃんに思い知らせる手伝いをして欲しいんだ。」
無邪気な笑顔で紡がれる言葉。
…もちろん答えはいいえ…
だけど、
その目を見ているとなんだか吸い込まれて――
思わず頷こうとした矢先――

――ザシュッ――

ピッと生ぬるいものが私の顔にかかる。
そして、春菜の首から突き出た剣が見える。
頬を拭って手をみると、
赤い液体がついていた。
血…?
「…誰?邪魔をするのは」
どうして、
喋っていられるの?
普通ならば死んでいて当然なのに。
「…ようやく…
 ようやく見つけたぞ…
 妖気を垂れ流したのが仇となったなぁ…」
そして男の声。
この声はアルバート神父?
声の方を向く春菜。
そして、アルバート神父目掛けて走り出す。
――異常なスピードで。
間違いなく人にこんな速度は…出せない。
しかし…
その突進を何事もなかったかのように、
手に持った剣で春菜を弾くアルバート神父。
「神父様、邪魔しないでくれるかなぁ?」
「ほう。
 面白い事をいう。
 神父として、人に仇なす魔物は滅するが当然だろう?」
「あー、仇なす魔物なんかじゃないよ。
 私は特別なだけ!
 一番なのよ!」
対峙する2人。
周囲の空気が張り詰めていく。
…これは…
一体…
…私は一体…
何処にいるのだろう。
まるで現実味が無い。
嗚呼――
誰か私をここから救い出して…?

――日常は儚く崩れ去る。
もし、そこに異常が現れたなら。
誰が彼女を責めれるだろう。
誰も責められはしない。
そう。
これから起こる事も含めて…

――全て――

* * * * * * * *


――それは、魅月が寝てからのお話。
誰も知らず行われた真夜中の闘い――

「さぁてぃ。
 そろそろ始めようかな。」
大きく伸びをし、真っ直ぐに魅月のテントへと足を運ぶ。
そこにあるのは無数の死霊。
今にも魅月に襲い掛からんとする死霊達。
我が誓いと祈り在り、
 空渡る白銀より二つの名を喚びて招かん!
 即ち、
 ゲルは勝利を呼ぶ声叫べ、
 アルヴィトは神威に満ちた輝きを為せと!

それに向けて手を広げ、
両の掌に溜められた力を解き放つ。
力は光となり、死霊達を霧散させる。
だが、敵の数は無数。
無数であるがゆえに、
その強烈な光を食らっても数が減ったようには見えない。
だが――
その突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)の持つ敵意、
そして敵対行動から即座に魅月から離れ、
闖入者…玲那=R=トライヴェントへ襲い掛かる。
怒涛の如く押し寄せる群に対し、
彼女は即座に距離を取る。
「やっぱりハードだねぃ…!
 まぁ、一度やりあってはいるし…
 それは覚悟で挑んだんだけどさ…!
 輝よ光!」
距離をとりながら激しい光で狙い撃つ。
全く効いた様子はなさそうだが、
――幸い、光を撃つたびに、
相手の行動が鈍る為、なんとか追いつかれずに済んでいる。
「ああ、もう!
 もうちょっと効いてくれてもいいのにねぃ!
 ――やっぱりもっと強力なのじゃないと駄目か…
 ならッ…!」
――更なる言霊の力を展開する。
己のもてる更なる力を解き放つ為に。
助けたい。
その純粋な気持ちが為に。
――今此処に我が誓いと祈り在り、
 白銀の世界馳せる戦乙女より二つの槍を呼びて神威と為さん!
 即ちグナーを空より招き、
 ヒルドはその戦陣を編めと!

光がはじける。
瘴気の塊たる霊達の全てが光に飲み込まれ、
純黒の夜が純白に染まり――


――目を覚ます。
…?
不思議とその日は私のセーラー服が血に濡れ、
破けているなどという事は無かった。
――一体何が――
上体を起こす。
そこで私は見た。
1人の友の姿を。
疲れ切ってぐっすり眠っている友の姿を。
――そういう…事。
きっと、彼女は自らの力を使って、私を助けてくれたのだろう。
毎日そんな真似をする事など出来はしないだろうが、
私は大丈夫だと証明する為に。
いえ――
きっと彼女は打算など何も無い。
純粋な気持ち。
とても、単純な理由で、
私を助けてくれた。
「…ゆっくりおやすみなさい、
 ありがとうね…レイナさん。」
そんな彼女を起こさぬよう寝床から出て、
毛布を彼女にかける。
とても――
良い1日になりそう。

「…私も負けてはいられない。
 借りは必ず返さないと…ね…」




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