「くぅッ!これ以上は槍が保たぬか・・・ッ!!」

敵の巨体が崩れ落ちた。
なんとか勝利出来たようね…
多少の被害は覚悟していたのだけど、
問題なく突破できた事は僥倖(ぎょうこう)。
このままつつがなく進めばいいのだけど…。

ぐぅ〜

…ともあれ勝利したのだしと戦利品を回収していると、
不意にお腹がなる音が聞こえる。
ふと、振り返ってみてみると、
エモさんがへたり込んでいた。
「…お腹空いたの?」
「うん、おなかへったー、おやつー。」
…小さい体でよく食べる。
一体、どこに食べ物を詰め込んでいるのか気になるわね。
そういえば…
エモさんは魔法を使う。
私にはそれがある事を認識は出来ても、
理解する事が叶わない力。
ひょっとしたら…
魔法というものは、
もの凄くカロリーを使う行動なのではないだろうか。
それゆえ、
エネルギーを常に人一倍貯蔵せねばならず、
エネルギーの消耗も人一倍早いのかもしれない。

暇があったら、魔法について詳しく調べるのもありかしら。
幸い…人材はいる。
なれば教えをこうことも出来るはず…
思案にくれる私。
そんな私の服の裾がくいくいっと引っ張られる。
視線を移してみると――
「おやつー。ごはんー。」
そこにはエモさんが。
…すっかり考え込んでしまって、
ほったらかした形になってしまっていた。
すぐに考え込む癖はなおした方が良いかもしれない。
とりあえず、
何か手持ちの食料をあげないと…
そうそう。
非常食にドーナツをもってきていたのだった。
荷物の中から目的の物を探す。
たしか、包みに包んで…
あった。
「こんなものしかないけど、
 これでどうかしら?」
包みを差し出すと、
喜んで受け取り包みを剥がすエモさん。
そして、みるみるうちにドーナツが消えていく。
「食べるのはやいわね…」
「ん?これくらい普通だよ?
 とりあえず、おなかふくれたー。
 ありがとー。」
にっこり笑って元気よく走っていく。
「はやくはやくー」
そして、私と奏さんを早く先にいこうとせかしてくる。

本当に可愛い子ね。
とても元気で。
いつの間にか私の横に来てた奏さんの方を向くと、
奏さんも同じ気持ちになっていたのか、
同じようにこちらを見ていた。
目が合う。
クスリと微笑むと、
奏さんもフフッと笑う。
本当に…
いつまでもあのようにいて欲しいものね。

暫く道なりに進む。
順調な道行の中で、
見覚えのある猫耳が見えた。

もしやと思って少し道を離れて追いかけると、
見覚えのある服装。
…どうしようかしら。多分間違いはないと思うのだけど…
「…ヒュペさん?」
思い切って声をかけると…
「ん、何?
 …!?
 あ、いや、どーも。」
彼女はアイドルを目指してがんばっている、
猫耳と猫髭がチャーミングな女性。
名前をヒュペリウス=L=ディスアークウィンドというらしい。
ヒュペリウスの頭をとってヒュペさんとよんでいる。

何やら以前より縮んでいるようだが…
まぁ、気にする事はないだろう。
「…どうしたの?驚いて。」
「いやー…
 何か魅月さんと会うとただならぬ予感がひしひしとして、
 何か背筋が寒くなるからさ。
 で、何か用?」
…そういえば、
勘が鋭く、私の霊に気づけるのよね…
…ううん。
あまり驚かせないように気をつけないといけないかしら。
「ああ、ごめんなさい。
 いえ。
 用というほどの用はないのよ。
 見かけたからヒュペさんかどうか確かめたくてね…
 迷惑だったから?」
クスリと笑う私につられてヒュペさんも笑って。
「ああ、なんだ。
 いや、迷惑じゃないよ。
 なんとなくその気持ちも分かるしさ。
 そうそう、
 遺跡外でよくライブやるんだけど、
 良かったら聞いてってくれよ。
 精一杯やるからさ?」
「…ええ、是非聞きにいかしてもらうわ。
 …がんばってね。
 応援してるから。」
「ありがと。
 じゃ、これから用意があるから、また。」
「ええ、またね。」
手をふって別れる。
また何かあれば時間のある時にゆっくり喋れば良い。
それにしても…そうね。
楽しみにしていましょうか。

その後すぐさま皆と合流して、
野営を始める。
手馴れた行動、行為。
よどみは無い。
さぁ…
明日に備え、ゆっくりと…
………

* * * * * * *
落日。
それは闇が世界を支配する時の始まり。
光と闇が反転する境目に、
大禍時は在る。
日が沈む。
それは…災厄の始まり。



時間を少し過去にさかのぼる。

「くぅ…は…ッ…!」
胸を貫かれたものの、
私――伊賦夜魅月は生きていた。
それでもダメージは大きく、
立ち上がれないほど衰弱しきっている。
胸を貫いた相手を追いかけねばと思うものの、
この状況ではおぼつかない。
無様、本当に無様。
この後に及んで何も手が出ないなんて。
私の周りに今、
霊はいない。
この学校な神聖な空気と、
アルバート神父のお呪いのお陰で、
昼間はほとんどよってこないようになっているからだ。
もっとも、
夜のその反動は酷いもので、
あまり長期間この状況だと私が参ってしまいそうだけど。
しかし…
それが仇となった。
悔しいけど、認めざるを得ないだろう。
いかに私は…
苦しめさいなんで来た霊達が、
それと同時に私を守ってきたのだという事を。
意識が朦朧としてくる。
まだ…眠ってはいけない。
「ぐっ…!」
なんとか立ち上がり立ち上がる痛みで、
己を覚醒させる。
すると――
そんな私の回りに、
目も虚ろでゆらゆらとものもいわぬ生徒達が取り囲み始めた。
…一目見れば分かる。
これは…死体だ。
もはや生きてはいないもの。
なんらかの力によって動かされているに過ぎないね
哀れなマリオネット。
しかし、私に抗う術は無い。
「……これはまた、
 御丁寧な事ね…」
ため息をつく。
早くいかねばならないというのに。
せめて水野さんだけでも夜の帳が落ちる前に逃がさねば――
時間は――
外を見る。
…そこで私は気づいた。
私は、一度気を失っていたのだと。
時が過ぎ去ってしまったのだと。
私の目に飛び込んできたもの…
それは、沈み行く日。
「…タイムアップ…か…
 …残念ね…」
俯く私、
そんな私に周囲の生ける屍が群がり、
私を襲おうとして――
全て、灰となって消えた。
一匹残さず、全てが。
――夜の帳は落ちた。
ならば…
“生半可な死者では伊賦夜魅月に抗う事は出来ない。
 死者を永遠に引き続ける呪いの前で、
 死者の魂はひきつけられ、
 魅月という呪いに束縛されるから”
肉体があるならば、
その肉体から引き剥がして己が身へと強制的に引きずり出す。
さらに――
魅月がそうあれかしと願えば、
その呪いは一時的に強くなる。
その結果は見ての通り。
自らの意志無き生ける屍は自壊する。
「……
 こうなった以上仕方ないわね。
 借りは返さないといけないし…
 どうなるか分からないけれど、
 乗り込むしかない…わよね。」
受けた傷もじょじょに塞がり、
今や傷も浅いもの。
軽やかに目的地へと向かう。
はばむ者もいない以上、
すぐにたどり着いた。
そして扉を開ける。
目に飛び込んできたのは灰と消える春名ちゃんと、
驚愕の表情をしたアルバート神父、
そして――
「…あ…う…」
愕然として私を見つめる向井さんの姿。
「ああ、ここにいたのね。
 ご機嫌よう、
 向井さん。
 …とても痛かったわ。
 借りはキッチリ返させてもらうわね?」
「冗談、
 冗談じゃないわ…!
 なんなの、貴女…!
 どうしてあの傷で動けるの…!?
 間違いなく貴女は生きているただの人間だった!
 ならば…確実に死んでるはず…!
 それに…何よ、そのおぞましい存在は…!
 ありえない…
 ありえないわ…!
 まさか――」
「…生憎、
 私は死んでいないし、
 まだ生きてるわ。
 別に特別でもなんでもない、
 ただの女の子よ。
 …ちょっとした呪いを受けただけのね。
 それより、
 よく考えたわね。向井さん。
 さすがに私も胸を貫かれるまで全く分からなかったわ。
 まさに完璧な作戦といった処かしら?」
「…ッ!
 よく言う…!
 そんな全てを台無しにするような真似をしておいて…!」
歯噛みをする向井さんに、
淡々と事実を告げ――
「…それじゃ、
 舞台の幕を下ろしましょうか。
 茶番は終わり。
 さぁ…終わらせましょう?」
私は地を蹴り、
向井さん目掛けて駆け出した――!

時が味方する。
そんな言葉がある。
けれど忘れてはいけない。
時が味方するならば、
それは別の誰かに対してもだという事を。
諸刃の刃である事を、
決して――

* * * * * * *



目を覚まして、
朝の日課を済ませる。
会議も食事もわりと楽しくすみ、
今日も気力は充実している。
夢見は良いとはいえないが。
夢見のよさまで求める事は…
さすがに出来ない。
ここら辺はわりきっていかないとね…
ふぅ。
…いけないわね。
一度与えられてしまうと、
あれもこれもと思ってしまう。
これもまた人の業なのかしら。
しっかりしないと。
与えられる事、
望む事はいいのかもしれない。
だけれど――
依存してはならない。
そう、決して――

野営場所を引き払い、
次の場所に移動する。
すると、不意に地面が振動を始めた。
これは…!
地より湧き上がる霊の気配。
そして、地を割って現れたのは――
巨大な髑髏と骨の兵士達。
――やれやれ。
簡単には進ませてくれないみたいね。
まぁ、良いでしょう。
それならば…押しとおるまで。

「――さぁ、終わりにしましょうか…
 誰を相手にしたのか、
 そしてそれが何を意味するのか…
 その身に刻んであげるから…!」





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