「・・・・・・」

――巨大な髑髏が崩れ去る。
色々な事があったけれど…
まぁ、それを語るのは私ではない。
そんな気がする。
それにしても、
中々冷や汗をかく戦闘になるかと思ったが、
そんな事はなくて少し拍子抜け。
ふぅ。
まぁ…
相性もいい相手だったから多少予測は出来てはいたのだけど。
メンバーを見回してみると、
皆も余裕が残ってるし、
この分だと順調に外に出れそうね。
問題なく先に進む。
道程は順調で何事もなく、
そのまま野営。
食事を済ませ寝床について瞳を閉じ、
安らかに眠…
…れなかった
ふぅ――
それにしても、これだけ特に何もないと、
逆に気がぬけるわね。
そのせいか、体が疲れをあまり感じていない。
そっと寝床を抜けて外に出ることにした。
吹き付ける風が気持ち良い。
嗚呼。
全く、本当にここが遺跡の中だなんて想像もつかない。
まるで外にいるかのよう。
良いわね…
この空気…
昔を思い出す――
平和だった日々の事を。
静かな夜、
夜のしじまに響く、
獣や虫たちの声…

――…したい



…?
今、私は何を――

――壊したい…何もかも全て――



違う、
誰、そんな事私は考えたり――

――しない?



そう。しない。
絶対に。

――でも、それじゃあ困るの。



…?

――そう。それでは駄目。
全てに絶望し、
全てを諦めるまで――
貴女は捧げられない。
貴女が捧げられない限り、
神は貴女を許しはしないし、
神が完全に蘇る事はない。
神に捧げられる事こそ、
貴女の約定なのに?



…そんな事は知らない。
例えしたとしても、
私の守りたかったものはもう無い。
故に、それに従う理由も無い。
それはもう既にした決断。
これは…何の茶番かしら?
向井さん?

…チェ、
ばれてたか。
まぁ、良いんだけどね。
別に。
いえ、ところがこれは茶番でもなんでもないの。
それに…ここからが本題よ。
――島に来た事で、
神もまた力をつけているみたいね。
だから…
貴女に対してなんらかのアプローチがあると思うの。
精々気をつける事ね?
心を強くもたないと…
私の冗談が現実になるわよ?



ご忠告ありがとう。
――それにしても、やけに出張って来ているけど、
どうしてかしら?

…別に。
ただ――まぁ、力になれるのは私しかいないから。
…それに、嫌な予感がするのよ。



嫌な予感?

そう。
とても嫌な予感。
まぁ、外れるに越した事はないのだけど――
気をつけた方がいいわよ。
ああ、それと――
…貴女自身ももっと強くなった方が良いんじゃない?
どんな鍛え方をしようと無駄だけど…
経験と知識、
そして技量だけは鍛える事はできるんだし。
さすがに今のままじゃ…ね。



…いわれなくても分かってるわ。
…疲れたから寝るわ。
それじゃ、またいつか。

はいはい。
おやすみ。
まぁ、次が無い方が良いのだけどね…



そう。
ゆっくり眠って明日へ備えよう。
それにしても鍛えるか…
そうね…私自身がしっかりしないと…ね…
闇へと、意識がおちていく…

* * * * * * *
――始まった時点で既に勝負は決している。
運命は覆らない。
ゆえに――
成す術などありはしない…
何も…出来る事などありはしない――



爪を振るう向井さん。
その動きは素早く、
私には見えない。
だが、その爪が私を貫くよりも早く、
その攻撃は弾かれる。
私は悠々と体を捻り回し蹴りを繰り出す。
それなりに早い一撃だけれど、
向井さんならば、
本来余裕で避けれる…
そんなレベル。
「な、何故弾かれるの!
 あのタイミングで…!
 ホント…
 なんなのよ、そのおぞましい存在は…!
 魔術の類?
 それとも奇跡?
 いえ、そんな感じはさらさらないし…!
 どうやって打ち砕けば…ッ!
 ええいっ…!
 でも、そんな攻撃ッ…!」
そう。
彼女は避けようとしたけれど…
私の蹴りは容赦なく彼女に炸裂する。
全く身動き出来ない彼女へと。
吹き飛ばされる向井さん。
「がッ…!
 ば、馬鹿な…!」
「ごらんの通り。
 防ぐ事もかわすことも出来ないわ。
 だって、気づいてないのかしら?
 貴女はもうとらわれの身なのよ。
 それと…
 アルバート神父。
 私ごと封じ込めようだなんて考えは甘いわよ?
 だって、貴方も既にとらわれているのだから。」
渦が巻き起こる。
私と向井さんと戦っているうちに小細工をしていた、
アルバート神父。
そして…私と対峙する向井さんを巻き込む渦が。
そう…
これこそが、向井さんが私の蹴りを防げなかった原因。
おぞましき――無数の霊達の怨嗟(えんさ)。
「ぐっ――!?
 何故気づけた…!」
「ち…神父のこと忘れてた…
 でも…これは…!
「そう…抜け出す事は叶わないわ。
 そして、
 貴方達を少しずつ蝕んでいく…
 それで終わり…
 まぁ…抗うのは自由だけど…
 私に攻撃は届かない。
 ましてや…
 そんな不完全な体勢からの一撃じゃあね。」
静かに2人を見る。
そう。
最早2人に出来る事はない。
このまま一気に飲まれて消えるだけ…
その前に、疑念だけは払っておくべきだろう。
静かに向井さんへと語りかける。
「――残念ね。
 こんな事になるなんて本当に――
 余計な事さえしなければ上手くいってたのに。
 …どうして私を攻撃したりしたのかしら。
 もっとゆっくり構えても良かったはずなのに。
 焦りすぎよ?
 何もかも…」
静かに語りかける私に、
不意に抗う事をやめて微笑む向井さん。
…?
一体どうしたというのだろう。
「…そうね。
 そうすれば上手くいっていたかもしれない。
 少なくとも、
 こんな事態にはね…
 …
 はいはい、私の負け。
 …止めようと思っても貴方でもどうにもならないんでしょ?
 なら…まぁ、受け止めるわ。
 長く生きたし…
 あの神父と相打ちになったとでも考えれば多少の溜飲は下がる。
 でもさ…
 なんでだろうなぁ。
 なんで私は――
 ああ。もう。
 …きっと憧れちゃったからかな。
 そして、それがどうしても手に入らないと分かった。
 だから…
 全て壊したくなったのかな。
 …全くね。
 どうしてだろうなぁ…
 あ。でも誰の事かは教えてあげない。
 ――せいぜい考えてみたら?
 それが私のせめてもの復讐かな?
 それじゃ…バイ。魅月さん?
 もう会うことはないだろうし、
 あまり関われなかったけど、
 楽しかったわ。」
「そうね。
 私は二度目は御免だけど…
 …貴女とあえたのは良かったと思ってる。
 サヨナラ、向井さん」
「…良くいう…わ…」
そう、呟いて、
黒い霊に埋もれて消え行く向井さん
…これで残るはアルバート神父のみ。
「ク…クク…
 神よ…これが結末というのですか…」
「…余計な真似しなければ、
 何もしなかったのにね。
 この子達。」
「……それは分かっていた。
 しかし…
 全ては神の信仰故…
 どうしても不浄なる者は許せなかった。
 それだけの事…
 …しかし、気に病むことはない。
 私は満足しているんだ…
 …
 そう、私は神に殉ずる事が出来た…
 それを確信したのだから…
 …汝に祝福あらん事を…」 
「ホント不器用ね…
 それじゃ、さようなら、アルバート神父…」
そして、アルバート神父もまた食い尽くされる。
…部屋が静寂に満ちる。
ああ。本当に――
虚しい。
何もかもが…

掌にあったと思ったものは全て零れ落ちる。
それは一睡の夢が如く儚く、
一瞬に。
長くとどめおかんと欲しても、
それが叶う事は…無い――

* * * * * * *



目を覚まし、
いつもの日課を済ませようと、
洗濯をしていると…
「…また洗濯してるんだ?
 精がでるねぃ?」
「あら、レイナさん。どうも。」
レイナさんが話かけてきた。
何か興味津々そうに見ているが…

何か私特別なものでも洗ってたかしら…
制服しかもってないんだけど…
「…どうかしたの?」
「え?ああ、いや、
 大した事じゃないんだけどさ――?」
何か言い難そうにしている。
…?
本当にどうしたというのだろう?
「んーと…
 実はその服に興味があってさ、
 一度着てみたいなって思ってるんだけど…
 なんか魅月さん同じような服しか着てないし、
 数ないんなら迷惑かなとか思ってさ…」
ああ、なるほど。
「――心配しなくても一杯あるから大丈夫よ。
 似たようなのしかないだけ。
 …サイズの調整くらいできるし、
 一度着てみる?」
「あ、そうなんだ、
 やった!
 ありがとう。じゃあ、また後でゆっくり着てみようかな。
 ブレザーくらいしか来た事なかったから新鮮なんだよねぃ。」
「ああ。そういえば…
 まぁ、それに私のは古いタイプが多いし、
 珍しいのかもしれないわね。」
「うんうん。
 あ、ごめん、洗濯の邪魔になっちゃったかな?」
「いえ、気にしないで。大丈夫よ」
そのままゆっくりレイナさんと談笑し、
朝の日課を終える。
会議に朝食と全てを終えた私達は、
さらなる先へと進む。
そこには新たな魔法陣があった。
そして、魔法陣から現れる敵。
あの敵の姿に見覚えがある…
そう。あれは私が1人になった時に現れた魔物。
ただし今回は一匹じゃない。
私が倒した小さな悪魔……ミニデビルが3体。
やれやれ厄介な相手だけど、
こちら側にも仲間達がいるし、
戦ってきた相手に比べれば容易いもの…

「さ…遊んであげるから、来ると良いわ。
 ただ…後悔だけはしないようにね…」






                                         戻る