長い時を無駄…
とはいわないが、
消耗してしまった。
急がないと、集合時間に間に合わなくなる。
集合時間に間に合うように、
遺跡へ入る準備に奔走する。
残された時間は少ない。
迅速に。
そして、なおかつ、正確に。
用意すべきものは分かっている。
ならば…
後は簡単。
速やかに用意を整え、すぐに行く準備は整った。
それじゃあ、仲間の元に…
と思った所で、見知った顔を見かける。
「…あら?レイナさん?」
…本来ならば、
集合場所にいるはず。
なのに何故ここにいるのだろう。
…集合時間までもう時間がないというのに…
「こんな所にいて、
もうすぐ集合時間だと思うけどいいの?」
「あ。魅月。
良かった、探してたんだよ。
えーとね。出発明日になったから。」
…え?
「…今、なんて?」
「うん。だから出発明日になったのさ。
ほら、魅月大変だったし、
余裕はあるからさ。
いいかなって思って。
今回は遠出するってわけでもないしね?」
「成る程ね…
ふう。
なら慌てて用意をすませる必要は無かったわね…」
「え?
魅月もう用意すませたの!?
早いね…
まだ終わってないとばかり思ってたよ。
それじゃ、時間あるんだ?
…んー。それじゃ、今日は一緒にあそぼっか?
ほら、こないだいってた約束はたしてくれない?
セーラー服着せてくれるんだよねぃ?」
…特に予定もなければ、
確かに約束もしてたわね…
…時間も出来た事だし…
その時間を無為に過ごすことはない。
…考えるまでも無いわね。
喜んで申し出を受けたほうがいいわ。
「ええ、もちろん。
喜んで。
…それじゃあ、どうしましょうか…
私の遺跡の外で泊まってる場所まで案内するわ。
そっちに置いてきてるしね。
その後一緒に散策…というのはどうかしら?」
「うん。じゃあ、それで。
それにしても…
こうして一緒に遊べるなんて思ってもみなかったよ。
今日はいい日になりそうだねぃ。
まぁ、いつも良い日なんだけどさ?」
「…」
にっこり微笑み道を共に歩む。
目指す先は私の住処。
他愛のないお喋りをしながら歩き続ける…
さほど、時間がかからないうちに住処にたどり着く。
たいしたものは置いていないが、
わりと服は多数用意してある。
ただし…全てセーラー服だけど。
…学生続けていると無駄に増えるし、
着るのが普通になってきた影響ね…
まぁ、他の服着ても良いのだけど…
何かしっくり来ないのは病気なのかしら…
「へぇ〜ここが魅月の部屋か。
いやなんどか来たけど、
あんまりゆっくりみてなかったから、
なんだか新鮮だねぃ。
で、服は?」
ぼぅっとしていた私だが、
レイナさんの言葉で我にかえる。
そうそう。
こうしてはいられなかったわね。
「今出すわね…いくつかあるのだけど…」
適当に何着か出して並べる。
「へぇ、セーラー服ってひとくくりにするけど、
わりと色々あるんだねぃ。」
「ええ、
どれか気に入ったのはあるかしら?
まぁ、サイズの修正は私がやるわ。」
「それじゃあ、これかな?
ちょっと明るい感じだし、
シンプルな感じだしねぃ。」
そういって差し出されたのは、
白が映える夏用のセーラー服。
…涼しげな感じも出て、
確かにレイナさんに似合うかもしれないわね。
「分かったわ。
それじゃ着てみて?」
「ん、分かった…」
…詳しくは割愛するけど、
それほどサイズ合わせは難しくなかった。
この程度ですんでよかったわ。
「ん。これでぴったりかな。
えーと、でも本当にこれもらっちゃっていいの?」
「別に構わないわよ?
沢山あるから。
それによく似合ってるしね?」
「そっか、じゃあ貰っちゃうね。
色々ありがと、魅月。
じゃあ、着替え――」
「…じゃ、そのまま散策と行きましょうか。」
「…え?」
「…え?じゃなくて言葉の通りだけど、
何か問題あったかしら?」
「いやいや、だって…」
「折角着たのだもの。
そのまま歩いてみると良いわよ…
さ、早く早く。」
まぁ、着替えさせてからでもよかったのだけど、
やっぱり…ね。
…こんな楽しい機会…ほっておくわけにはいかないわ。
「…うー。
魅月にはめられた…」
――その通り。
「うう、やっぱり気恥ずかしい…」
「…似合ってるから大丈夫よ。」
「うー…。
全く…魅月は意地悪なんだから。」
「まぁ、元々そういう性質だしね。
ああ…
あのジュース美味しそうだし飲んでみない?」
「お、良いね!
飲もう飲もう!」
最初こそ、大分気恥ずかしそうにしてたものの、
暫くたってなれたせいか、
あまり気にしなくなったみたい。
…
フフ。なんだかこうしていると、
学校生活を思い出すわね。
…とても…楽しいわ。
「なんか嬉しそうだねぃ?
良かった。
楽しいのが一番からねぃ。
で、どうして楽しそうなのか聞いても?」
「え?
あー…
そうね…
ほら、こうしていると学校生活を思い出してね。
…クラスメートと一緒に帰り道に遊んだ事をちょっとね。」
「ああ、
そっか。
魅月学生だもんね。
で、私もこうやってセーラー服を着てるって事は…
なるほど。
私達ってまるでクラスメートみたいだ。
そう考えると気恥ずかしいっていうより、
何か楽しいね。」
「…分かってもらえたみたいで良かったわ。」
クスリと2人微笑み合って、
今日一日を2人で精一杯遊んだ。
…楽しい時が流れていく。
ほんの僅かな一時だけど、
…とても大切な思い出の1つ。
そっとそれを記憶の箱にしまって…
…
今日という日のこの思い出を胸に、
明日を新たな気持ちで歩んでいこう…
そう…誓った。
拒絶の悲鳴が教室に満ちる。
………やはり…私は…
誰にも受け入れられはしないのだろう。
仮初であるうちはいい。
でも、
真実を知って受けいられる人間はいない。
…いや、
もし居たとしても…
私は不幸を呼んでしまう。
…帰ろう。
そして、時と共に静かにこの地を去ろう――
ここに居続けることなど出来はしない。
…もっとゆっくりこの時を楽しんでいたかったけれど…
仕方のない事。
それに、いつもの事――
…名残惜しいけれど…
いや、止しましょう…
静かに魅月は去っていく。
ただ1人、
恐怖に壊れた最後の生き残りを残して――
…あれから、三ヶ月が過ぎ去った。
アルバート神父と生徒達が行方不明に。
そして、髪を真っ白にして恐怖で壊れた水野さんの保護。
何が起きたのか知る人間はなく、
唯一の生き残りからも話を聞ける状況ではなかった。
人の噂も75日。
季節が変わり行く頃には、
既にその話も風化し、
人の記憶から忘れ去られたその時期に、
魅月は…
学園を去り、地を去った。
次の土地で、新たに始める為に。
思い返せば色々な事があったけれど…
辛い事も楽しかった事も、
…全てを刻み次の土地へと歩みゆく。
「…さようなら…
そして…ごめんなさい…」
失った時、失ったものは取り戻せない。
そして何も出来る事などない。
だから…
せめて歩み続ける決意を秘めて。
朝を迎え、
朝の用意をすませ、
仲間と集合して遺跡へと入る。
次の目標の相手は強い。
けれど…まぁ、皆の力をあわせればきっと突破できるはず。
さぁ…
行きましょうか。
真っ直ぐ道を進んでいく。
そんな私達の行く手を阻んだのは巨大な蠍(さそり)が2体。
巨大にして、
見るらに強敵。
でも…
倒せない相手では決して無い。
「…さぁ、どれくらい耐えれるかしら?
私達は負けるつもりは無いわ。
…そこを大人しく通しなさい…」