遺跡から外に出ようとしたとき、
ふと、見知った顔を見かける。

後は遺跡から出るだけで時間もあるし、
折角なので追いかけて見る事にした。
段々と距離が近くなるにつれて、
どうやら人違いという事はなさそうなので、
私は声をかけてみた。
「どうも。」
「…?あ、こんにちは。」
背後から声をかけた私に対して、
振り向いて礼儀正しく挨拶を返してくれる。
彼の名前は神宮慈 三木乃助。
私が作った学生連盟というコミュニティに参加してくれた人。

まさか来るとは思ってなかったけど、
来てくれて嬉しかった。
…その時の思いは、語りつくせない。
「どうかしましたか?」
不思議そうな顔で聞いてくる、神宮慈さん。
そういえば、呼び止めたまま、
何も喋っていなかった。
「いえ、見かけたから声をかけてみたのよ。
 奇遇ね。
 …修行の方は順調かしら?」
「ああ、なるほど。分かります。
 僕の方は今の所色々あるけれど、
 なんとかやっていますよ。
 早く一人前として認められるよう頑張らないといけないし…
 そちらの方はどうですか?」
「私も似たようなものね。
 まぁ、お互い息災で何よりね。
 頑張りましょうね。」
「ええ、そうですね。
 頑張りましょう。」
手を差し出す。
神宮慈さんの方からも。
そのまましっかり握手をした後、
お互い別れの挨拶をして自分の道を進む。
――
…1人また1人と知り合いが増えて、
こうして出会う喜び、
…本当にこの島は面白い。
――とても、嬉しい気持ちになれるから――

――遺跡の外へと舞い戻る。
喧騒に包まれたいつもの光景に、
少しほっとする。
どうにか今回も無事に帰ってこれたのかと。
様々な出来事があったとはいえ、
こうして無事に帰れるのであれば、
問題はないというもの。
そして――
私の手元には一枚のチケットがあった。
親しい知り合いから譲り受けた一枚のチケットが。
…折角なので参加しないといけない。
となると、仲間達のうちで一緒に行く人もいるかもしれないし、
仲間達に連絡もしないといけないのだが――
話してみた所、
あいにく仲間のうちで参加するものが居ない為、
私だけ。
――ふぅ。
ま、良いわ。
別に仲間がいたから、
いないからといって楽しみがそう変わるわけではない。
――きっと楽しい舞踏会になるだろうから――

会場に到着して、
すぐさま私は人気が余り無い所へ移動する。
…途中、更衣室前で面白い出会いがあったのだけど――
クス。
秘密にしておきましょうか。
…縁というものは本当に不思議なものね。
――ともあれ、周囲の心地よい騒ぎ声を聞きながら、
ゆっくり皆を見学しようと思っての事。
まぁ、こんな大勢の中なら私なんて霞んでいる。
しかし、なにやら2人の人影が私の方にやってきた。
…私に用件でもあるのだろうか、まさかね…
…しかし、こちらに近づいて来てるのだから、
何か用件があるのかもしれない。
聞いてみるのが筋というもの。
近づいてきた人影、
1人は親切で優しいジャックさん。
もう1人は面識はないが、噂には聞いている。
確か、ヒュペリウスさんのはず。
「――私に何か用かしら…どうかしたの?
 ジャックさんと…
 ええと、ヒュペリウスさん…だったわよね?」
おずおずと尋ねる私に返ってきた答えは――
「魅月さん、
 良かったら俺と一緒に、一つ踊っていただけますか?
 俺は踊りはあまり詳しく無いですが…
 魅月さんと一緒に、簡単な踊りでも踊れたらなと思います。」
「決まった!
 伊賦夜 魅月さん。よろしければ俺と踊っていただけますか?
 一応女だけど男装だから問題ないぜ!
 あと、アイドルと踊れる機会なんてそうそう無いしな!
 えーっと、ダンスの種類は・・・
 社交ダンスが一般的か。『ワルツ』でもどうかな?」

えぇ?
…2人の人物から誘いがくるなんて露とも思わなかったのだけど…
人違い…
なんていうのはなさそうよね。
私の名前を言われてるわけだし。
…困ったわね。踊れないわけじゃないけど――
「――ええと、私で良いのかしら?
 綺麗な人が一杯いるのに酔狂ね。
 というか…ヒュペリウスさんは女性…よね。
 まぁ、良いけれど…
 困ったわね…まさかこうなるとは予想外だったわ。
 …クス。これならドレスでも用意した方が良かったかしら。
 そうね…
 今回はジャックさんにお願いしようかしら。
 いつもお世話になってるし、ね。
 それじゃ…エスコートお願いできる?」
女性に誘われる事はそう珍しくはないし、
それも面白いと思ったのだが、
ここはジャックさんの申し出を受けるのが筋だろう。
でも――後でヒュペリウスさんには挨拶にいかないとね。
残念そうな顔を見るとほっておけないもの。
…ジャックさんと踊る。
楽しい時間が流れる。
それにしても、ジャックさんは本当に踊りが上手で――

「そうそう、上手じゃないか――」



――!
…懐かしい記憶が呼び覚まされる。
もう戻ってこない、過去が。
思わず涙が溢れる。
悲しい、そう悲しい思い出だから…
そんな私に優しい声をかけてくれる
ジャックさんがとても暖かかった…
ほんの一時の楽しい時間。
…たっぷりと私を包んでくれた貴方に…
ありがとうの花束を――

楽しい時間が過ぎる。
返ろうかとする私の耳に再び騒がしい声が聞こえてきた。
どうやらキャンプファイヤーをやるらしい。
音楽も聞こえる事を考えるとフォークダンスだろうか。
…懐かしい。
昔はよく学校でやったものだ。
…折角だから降りてみましょうか。
知り合いが居たら誘ってみるのも一興。
そんな軽い考えでキャンプファイヤーの元へいくと、
親しい人物を見つけた。
踊った後で疲れているかもしれないけれど…そうね。
「…良ければ…
 今度は私と相手してもらえるかしら?
 折角の機会だもの。
 精一杯楽しまないとね。
 さぁ――踊りましょう?
 楽しくね――クロユキヤヨイさん?」
笑顔を浮かべて彼女を誘う。
少し驚き顔を赤らめたヤヨイさんだが、
「…なんて、ね。
 うん!おどろ?魅月さんっ」
直に悪戯を思いついたような子供の笑みで、
元気一杯に応対してくれた。
クス。それにしても何を考えていたのだろうか。
まぁ、考えても仕方の無い事ね。
――元気一杯のヤヨイさんのダンスは、
私に元気を与えてくれた。
踊ったばかりだというのに本当に微笑ましい。
そんなヤヨイさんのダンスを精一杯フォローする私。
「――ふふ。
 本当に――楽しいわね。
 元気を分けてもらった気がするわ。」
「ほんとですか?
 良かった。
 やっぱり楽しく元気にいかないとやらないとですよね!
 折角の機会なんですし。
 うんうん。やっぱりこうじゃないと!」
明るいヤヨイさん。
…この楽しい時もいつかは終わる。
けれど、思い出はなくならない。
ならば、私は――
この思い出を大切にしていこう――

夜が更けていく。
そして、全てが終わり明日へと――

* * * * * * * *
―物語は加速する。
全ては終焉に向けて。
終わりは必ず訪れるが故に。



伊賦夜魅月は探していた。
特に理由は無い。
だが、水野さんを見つけなくてはならない。
そんな妙な胸騒ぎがあったから。
「ここにもいない…
 …となると後残っているのは…」
三階だけ。
寮には戻ってないみたいだし、
三階に用事があるとは思えない。
もし三階にいるのであれば、人気の無い場所だろう。
恐らくは春菜ちゃんに誘われて。
そうであれば、
なおさら急がねばならない。
となれば、彼女がいる場所はひとつ。
「――ふぅ。それじゃ、急ぎましょ…」

――ドッ!

胸を貫く衝撃。
見下ろしてみれば、
胸を貫く手があった。
「……!」
声が出ない。
一体――誰が。
「ごめんねぇ?
 魅月さん。
 貴女面倒なのよ。
 だからここで――消えてくれるかな?
 勿体ないけどね…」
意識が暗転する。
こんな…こんな所で終わるわけには…
いかないのに…
伸ばした手が空をつかむ。
ああ…もう…
だ…め……
………

「…ぐぅ…流石は…」
「全くなんだってのよ…!
 アンタは…!」
神父と春菜の戦いは熾烈(しれつ)を極めていた。
お互いボロボロになっていた。
神父はあちこちを切り裂かれ、
春菜は剣に貫かれ、あちこちを焼かれていた。
「…水野君。
 隠れていたまえ…
 ここより先は守りきれない。」
その様子を見ていた水野凛に、神父は声をかける。
怯え、足がすくんでいた彼女だが、
命の危機感が勝ったのだろう。
慌てて頷き、物陰へと隠れる。
「紳士的なのねぇ?」
「ふん。
 お前が何に狙い定めているかくらい、
 分からない私ではない…
 Kyrie eleison!」

――ドンッ!

主よ、哀れみ給え。
この哀れな魂に。
唐突に横から襲った衝撃によって壁に叩きつけられた、
哀れな子羊……
アルバート神父を哀れみたまえ。
笑顔で神父を殴り飛ばした乱入者は笑顔を浮かべ春菜へ向かう。
「春菜ちゃん、危なかったね。
 でも、よく言うじゃない。
 真の主役は遅れてやってくるって。
 ああ、でも…大丈夫。
 春菜ちゃんが一番なのには変わりないからさ?ね?」
彼女こそ、全てを裏で操っていたもの。
彼女こそ、真の敵。
――向井 雪――
そう。
無邪気な笑顔を浮かべた彼女こそが――

―デウス・エクス・マキナ―
全てを終わらせる機械仕掛けの神は存在する。
どんな結末を用意しているのだろうか?
1つ分かっている事は…
全ては神の掌の上に―

* * * * * * * *



夜が明けて、用意を済ませた私達は、
再び遺跡の中へと移動する。
今度の探索では一体何があるのか、
色んな期待と思いを秘めて…前へ歩き出した。
そんな私達の前に現れたのは、
一匹の小悪魔と蒼い光の球体。

「気を引き締めましょうか。
 明日へつなげる為に――」




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