光が少しずつ弱まっていき…
青き光の球体は消え去った。
暫く待ってみたりもしたが、
特に反応が無い所をみると、
どうやら――脅威は消えたらしい。

――ふぅ。

手ごわい相手だった。
さすがに地下を1歩踏み越えると、
いつもよりはるかに強敵が現れる。
…恐ろしい所。
しかも、今だ底は見えていない。
はたして、
ここの最深部には何がいるのだろうか?
1つ踏み入れるだけで、
恐ろしく強くなる敵。
――想像も、したくないわね。
けれど、
いつかは対峙せねばならないのだろう。
その時、私は何が出来るだろうか。
その時までには…
私自身も何か出来るようになっていないと。
今の調子では、
ただでさえ足手まといなのに…
どうしょうもないことになってしまう。
それだけは避けたい。
皆の為にも――

皆の為に?



…?
不意に、声が聞こえた。
聞き覚えのある声、
だが、この声は――

皆の為にっていって何人の人を犠牲にしてきたの?
それで生き延びるなんて本当に都合の良い人。
苦しんでよ?
もっともっと苦しんでよ?
皆許すわけないんだからさぁ…
ほら――
見えるでしょう?
怨嗟(えんさ)に顔をゆがめた貴女の消したい過去が。



………
確かに見える。
そして声が――

ほら、聞こえるでしょう。
私だけじゃなくて、
皆の声が。
ほら、ほら…
貴女を恨み、妬み、蔑む(さげすむ)声が。



無数の声が聞こえる。
思わず耳を押さえしゃがみこむ。
そして目を閉じようとした時、先を進む2人の姿が見えた。
心配そうにこちらをみる2人に、
大丈夫だからと手で先にいけとうながす。
これは私以外では、どうにもならない。
これは…他人の手をかりたくても借りてはいけないこと。
私の心の問題なのだから

見まい聞くまいとしても、
無駄。
貴女の心に直接干渉しているのだもの。



そんな事は分かっている。
でも…だけど…

苦しいよねぇ。
辛いよねぇ。
本当に救いたかった人達だったのに…
こうして苦しむ様を見せ付けられたら…
かくいう私も自業自得とはいえ、
本当に苦しめられたよね…
いつもならこうして語りかけたり見せ付けたりできないけど、
この島に来て力を蓄えたのよ。
ああ――本当に良い気味。
フフ、だからさぁ…

――私にその体頂戴?



ああ。そうね。
それも良いかもしれない。
全て諦め、
身を委ねて…
「…なんていうとでも思ったのかしら。」
…そんな訳にはいくわけが無い。
「…私は絶対に屈しない…」
きっぱり告げる。
すると近くで、
ふぅ…というため息のような声が漏れ…
それと同時に声も姿も消えうせる。

全く、相変わらず強情ね。
――良いの?
貴女は…先に進んで。
それだけ苦しんで、
その先には何も無いかもしれないのに。
こうして私達に力がついて、
貴女はより呪いに蝕まれるというのに。
それは、苦痛よ。
受け入れれば少しは楽になるのに――



「…分かっているけど、
 私は私であるがゆえ…断るわ。。
 …それは貴女も知っているでしょう。
 ――向井雪さん?」

……ほんと……
昔からそうよね。全く。
お陰でいまや私はこのザマ。
まぁ、自業自得だけれどね。
…貴女とは色々あったけど、
友達だもの。頼る時は頼りなさいよ。
些細な力しかもってないし、
私の意志があるのは短時間だけ。
――それでも助けてあげるから。
貴女のことだからそれすら必要としないんだろうけど。
まぁ、良いわ。
……それじゃ、またね。
魅月さん。



体が軽くなる。
「…ええ。またね。
 …全く――」
彼女とは色々あった。
どちらかというと最後は後味が悪かったが…
それでも、彼女とは友達だった。

全く。
死んでから分かり合えるなんて…
ほんと皮肉ね。
それに、やり方が最悪。
本当に素直じゃない。
彼女らしいといえばらしいのだけど。

皆の後を追う。
大分皆先にいったみたい。
「あれ、魅月ちゃん?」
先を急ぐ私に不意に誰かが声をかけてきた。
声がした方を向くと。
「あ。やっぱり!
 わたしわたし。まゆちゃんですv」
「…奇遇ね。どうも。
 元気してる?」
「うん、元気してるよ?」
彼女の名前は水上真由。
私が立てたコミュニティに参加してくれた人。
元気で天真爛漫(てんしんらんまん)な様子がとても眩しい子だ。
「元気元気だよ。
 魅月ちゃんのほうは?」
「ええ、もちろん元気よ。」
「ほんとにぃ?
 じゃあ、もっと大きな声で、
 ほら!」
「はいはい…
 元気元気!
 これでいいかしら。」
「うん。いいよ。
 なんか疲れてるようにみえたけど、
 きのせいだったみたいでよかった。」
…中々鋭い。
流石はといった処だろうか。
「ふふ。心配かけちゃったみたいね?
 ごめんなさいね?」
「別にいいよ。
 えへへ、元気でたみたいで良かった。
 あ。急いでたんだよね。
 ごめんね、ひきとめちゃってさ」
「気にする事はないわ。
 けど、確かに急がないと…
 それじゃ、またいずれゆっくり…ね?」
「うん。またね。」
笑顔で分かれる。
…そうね。気を取り直さないと。
疲れてる表情なんてみせたら…
また心配かけてしまうものね…
足取り軽く、皆と合流する。
そして、野営。
…さぁ、明日に備えて寝るとしましょうか…

* * * * * * * 
――私に無いから憧れた。
私に無いから欲しかった。
だから妬ましかった。
私はそれが欲しかった。
でも、私は知っている。
手に入れようとしても決して手が届かない事を。
だったら、せめて――



「く…お…馬鹿な…!?」
力を入れるが立ち上がれない。
アルバート神父のダメージは大きかった。
彼にとって今だ致命傷には至らぬとはいえ。
「馬鹿なって何が?」
「…殺してすりかわった中で、
 お前だけはありえない…ありえないはずだ…
 どうして、
 どうして…
 家族にすら違和感を持たせなかったというのだ…!」
殺してすりかわったのならば、
どうしても違和感が存在する。
家族がいれば尚更。
家族が見誤る事など滅多にない。
そして、アルバート神父は調べた結果、
水野凛は親と仲が元々よくなく、
月見里春菜が家族との連絡をしていなかったのを知った。
だが、向井雪に関しては…
家族との連絡や面会、
その全てをしっかりとこなしていた。完璧に。
家族が操られていたという事も無い。
だからこそ――
真っ先に問題が無いと思っていた。
――どちらかだと思っていた。
そんな折、月見里春菜がぼろを出した。
これは好機と動いたのだが…
それが罠だった時のことなど想定していない。
「ああ、そうそう。
 アルバート神父様。
 実は特別ゲストをよんでいるのよ?」
「特別ゲスト…だと。」
「そう。特別ゲスト。」
なんとかダメージと困惑から立ち直ろうとするアルバート神父に、
面白い事を思いついたかのように指を鳴らす向井さん。
――教室へ、
また1人女生徒がやってくる。
ナイフを右手に握り締めて。
「……!」
「さぁ、トドメをさしてあげたら?
 ねぇ。生徒会長?」
ゆっくりと女生徒――倉波響はアルバート神父へ近づいていく。
いわれるがままに。
神父にトドメをさす為に。
微動だにしない神父。
振り上げられたナイフが神父の胸に吸い込まれるその瞬間。
倉波響は塵となって消えた。
アルバート神父の突き出した剣に心臓を貫かれて。
「あらら、残念…
 生徒会長可愛そう。
 死んであげればよかったのに。
 神父様って容赦ないのね。」
「覚悟などとうにすませている。
 貴様のような神の敵を倒すためなら情など不要…
 …外道が…
 この身朽ちようとも…
 貴様だけは、貴様だけは葬ってみせる。
 敬虔(けいけん)な信徒を眷属(けんぞく)にし、
 あまつさえ…それでこの私の心を砕かんとするとはな。」
「あはは。
 いうわねぇ。
 でも、ムリよ。
 だってもうすぐ完全に日が沈む。
 …そうすれば…神父様に勝ち目はないのに?」
「元より…承知!」
きしむ体を意志の力で組み伏せて立ち上がる神父。
月見里春菜の後に、
「怖い、春菜ちゃん、助けてよ。」
冗談めかせてかくれる向井雪。
神父に立ちはだかる月見里春菜。
どうしていいか分からず隠れている水野凛
緊迫した空気の中…時は無情に流れ去り…

――日が沈む。
魔力が満ちていく。
夜は人ならざるもの達の時間。
そう、そしてそれは――

向井雪と月見里春菜の力が膨れ上がると同時に、
教室の外から異常な瘴気が吹き込んでくる。
「…ぐ…!」
「…え、嘘…誰…?
 何これ…
 何なの…!?近づいてくる…!?」
瘴気の源はじょじょに近づき――
「――!?」
悲鳴もなく突如月見里春菜の体は崩れ去った。
「…あ…う…」
いまや、教室の中で恐怖を抱かずにいるものは存在しない。
そして…
今、教室に
――恐怖の元凶が姿を現した――

――恐れは未知なる物に対して、
特に抱きやすい。
何故なら、それを理解する事が出来ないから。
そして、その存在が…
もしも己よりもはるかに陵駕(りょうが)していれば、
どれほどの恐怖が生まれるのだろう――

* * * * * * * 



目を覚まし、
日頃の日課を済ませる。
今日も1日が始まる。
――さ、頑張っていかないとね。
いつまでも…引きずってはいられないもの。
そして、今日も先を急ぐ。
歩みを進めた私達の前に、敵が立ちふさがる。
巨大な赤い獣が三匹。
その圧迫感は恐ろしく、
勝ち目すらないように見える…
けれど…

「どんなに大きくとも、
 どんなに強くとも…
 向かう意志を砕けはしない。
 さぁ…通してもらいましょうか!」




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