体が崩れ落ちる。
だが、その衝撃を堪え、
なんとか後へと下がる私。
――
之以上は無理か――
悔しいけれど、
仕方が無い。
こんな事ではいけないと分かっていても、
どうしょうもない事だってある。
正直、歯がゆい、だが…
仲間達がいる。
彼女達なら、後は任せておいても大丈夫のはず――
戦いの場から離れた所まで移動して、
そこで私の意識は途絶えた――
…目を覚ました。
頭がくらくらする。
それにしても、何か動いてるような――
「…一体…」
「…ん?
気づいたのか。
良かった。
まぁ、外傷は特に無かったし、
体に問題は無いのは分かっていたが、
大分うなされていたし、
心配したけど…
ああ、降ろした方がいいか?」
…奏さんの声が直前でする。
それで、私が今どんな状態であるのか気づいた。
「…ああ。
成る程。
ごめんなさい。
お手数をかけたわね。
大丈夫。
降ろしてもらえる?」
「ああ。いいよ。」
――気を失っていた間、
ずっと彼女が私を運んでくれていたらしい。
すぐさま背から降りて、
頭を下げる。
「――ありがとう」
「何、適材適所さ。
ま、これからが本番だからね。
休める時にしっかり休んでもらって、
いざという時に元気でいないとね。」
「――私は戦えないわよ?」
お礼をいう私に、笑顔で答える奏さん。
そんな奏さんに向かって突っ込みをいれる私に、
キョトンとした表情を一瞬浮かべ――
「あはははははは!
そういえばそうだったね。
ま、気にしない気にしない。
大切な仲間だし、
力になってくれている事くらい、私にも分かっているさ。」
直に私の意図に気づいたのか、
大笑いして、私の肩を叩く。
――私はクスリと微笑みを浮かべ歩みを進める。
「…大分進んできたのね。
後少し…いきましょうか。」
「ああ。
行こうか。
全く、気がついたばかりなのによくやるよ。
本当に医者泣かせの患者だ。」
「――フフ、ごめんなさいね。」
冗談を交わしながら、
目的地へ進む。
次の為に、次の次の為に。
――目的地へついて野営。
しっかり体を休む為に、
眠りにつく。
静寂が私を包み込み――
「――瞳の事をいうなら、
私も赤色だから別に不思議じゃないと思うけど。」
「はぐらかさないで。
――人と違う事が怖いか、
怖くないかを聞いているの。
…
確かに伊賦夜さんも私と同じように、
人とは違う瞳をしているけど――
その事で苛められた事なんてない。
――違う?」
思い返してみる。
ああ。
そういえば確かに、
私はそういったものを見る事はあっても、
その対象になった事はない。
私がまだ普通に過ごしていた頃は、
そんな事とは無縁だったし、
そもそも瞳は赤く無かった。
私は一つ頷き――
「…まぁ、確かに。
そうね。苛められた事はないわね。
怖いかという事なら、答えるまでも無い。
私は全然怖くないわ。
それよりももっと怖い事は、
私が私でなくなる事だと思ってるもの。」
答える。
たった一つしかない私だけの答えを。
それはいつだってかわりはない。
昔からそう。
「…伊賦夜さんはやっぱり違う。
――参ったなぁ。
敵いそうにない。
……正直にいうよ。
最初はアンタをただの八方美人だと思ってた。
ああ。なんだ、
この人も私と同じで違うけど、
媚びて今まで生きてきたんだって。
で、今日――
月見里さんとの話を聞いて、
違うんじゃないかって思った時、
魔が差したとでもいうんだろうね。
だから…
今日ここに呼んだのは、
人と違うからって苛めるような奴等に…
仕返しを一緒にしようって思ってさ。
――手伝ってもらおうと思ったんだ。
…あはは、でも、
違うね。
うん。私も悪い所があったんだもの。
ごめんね、伊賦夜さん。」
そんな私の言葉に、
今にも泣きそうな顔で謝る水野さん。
――ああ。
そうか。
私には分からない苦労を重ねて、
ずっとずっと内に溜め込んで来たのか。
きっと――
協調しない態度もそれの表れだったのだろう。
どうしようか。
私が関わったら――
…だが、
結局の所、私は私からは逃れる事は出来なかった。
…放っておくのも気が引ける。
手を差し伸べたいと思ってしまった。
それが私。だから――
私は静かに何もいわずそっと抱きしめた。
「い、伊賦夜さん?」
「――謝る必要なんてないわよ?
貴女が辛い思いをして来た事はわかるから。
貴女の痛みは貴女にしか分からないけれど、
貴女が何を必要としているかは分かっているつもり。
…そんなに泣きそうな顔をして、
心の内を打ち明けて――
……泣いてもいいのよ?
誰も笑ったりはしないわ。」
…驚く水野さんの頭をなでながら、
静かに囁く。
その声を聞いて、
水野さんは泣いた。
今まで溜めてきた辛い事の全てをぶつけるように。
…それを見て私は…
やはり、私は私なのだと実感する。
それが悲劇を生み、
してはならない事だと分かっていても、
見過ごしきれない自分。
本当に甘い――
非情に徹した方が、
悪くならないかもしれないというのは分かっていても、
見過ごす事は出来ないなんて。
…嗚呼、
願わくば…
せめて悲劇が訪れる前に全てが終わらん事を――
…目が覚めた。
そして、思い出した。
そういえば、
私は人を避けて、
悲劇が起こらないようにと願っていても、
いつも、人に寄り添ってしまう。
例外なく。
それも理由は、
少しでも助けになるのなら助けてあげたいから。
とってもシンプルな理由。
…難儀な性格だと思う。
普通の人だったなら、それは良い事なのだろうけど――
「ふぅ…」
ため息をつく。
不意に仲間達の顔が浮かんで来たからだ。
…仲間達ならいうだろう。
それは悪い事ではない、と。
分かってはいる。
分かってはいるし…
私も大切にし続けたいとずっと願っている。
「…未練とは恐ろしいものね。」
だが、積み重ねて来た過去を思い返す度に憂鬱になる。
忘れようと思っても忘れられない。
現実として突きつけられた事なのだから。
ならば…やる事は一つ。
「…早く見つけないと…」
私が願ってやまなくて、
今だ影も形も見せないものを。
それを見つければ、きっと――
日課を果たし、
朝食と会議を済ませて練習試合をする。
お互いの力量を知るための練習試合。
全てを終えて出発しようとした私達の前に、
敵が立ちふさがる。
一匹のダックスフントと、
二匹のワラビー。
強敵なのは分かっている。
油断出来ない相手だという事も。
そして、
前の戦いの消耗も抜け切ってはいない。
しかし――
「やらねばならない、
ならば成し遂げましょう。
――私達はその先に用があるのだから。」
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