恐ろしい敵だった。
もの凄いラッシュが襲い掛かってくる…が。
全ての攻撃が逸れてゆく、
どうやら――
霊達も学習したらしく、
力に力でぶつかるのではなく、
大きな力を受け流す事を覚えたらしい。
この危険な島を生き抜いていく上では、
喜ばしい事ではあるが、
それだけ霊が面倒となったと思えば、
喜ばしい事ではない。
そのお陰で敵をおしていく。
そっと他のメンバーも見ると、
エモさんは自らの身を削って魔法を放っているようだった。
そして――最後に残った狼と蜂1匹も…

「また狩り失敗だーッ!」
「針が折れては抵抗できないわね・・・・・・好きになさい。」

ついに打ち砕き、
勝利を手にする。
やれやれ、本当に厄介な相手だったわね…
そんな矢先――
「………体が、動かない…。」
そう呟いてエモさんも倒れる。
「今見てやる!
 あ。魅月も手伝って。」
「…もちろん。手伝うわよ。
 大丈夫?」
そんなエモさんの傍にいって応急手当をし、
介抱する私と奏さん。
「…なんとか…
 でも、動けない…」
苦しそうにしているエモさん。
「仕方ないわね。
 私が負ぶさっていくわ。
 奏さんは他の皆の治療もあるんでしょう?」
ほうっておくわけにはいかないので、
奏さんに他の皆の所にいくようお願いし、
エモさんを背負う。
それほど重くはない。
これくらいならなんとかなるだろう。
「…ありがとう。」
背中越しにエモさんの声が聞こえる。
その言葉に私は、薄く微笑んで、
「気にしないで。
 当然の事をしてるだけよ。」
そう答え、先を急ぐ。

先を急ぐ私達の前に、
1人のスーツ姿の男と、
赤髪の少年、
そして、黒く大きな獣が姿を現す。
男の名前は神崎、
少年の名前はエドというらしい。
2人で、探偵をしていて娘さん達を助けに行くらしいが、
どうやら、あの口ぶりからすると、
よほどの相手が待ち受けているようだ。
あの2人は強い。
恐らく、
この先に進んでも、
簡単に立ち向かえるだけの実力があるのだろう。
それにしても――
そんな人物がこの島にごろごろしている事を再認識させられ、
改めて自分達がどんな危険な位置にいるのかを思い知らされる。
全く――
でも、どんな苦境が待ち受けようと、
怯みはしないし、
挫けもしない。
真っ直ぐ前を見すえ、
進み続けるのみ。
そうでなくては、目的など達成できるものではないのだから…
…それにしても…
私に2人共最後まで視線を合わせなかったのは何故かしら。
…まぁ、分からないでもないのだけど。

その後は危険もなく、
そのまま魔法陣へど移動し、
外へ…でようとしたところで、
見覚えのある姿を目撃する。
姿というか尻尾だけ。
丸い尻尾が揺れてるのを見て、
私は…
――思わず抱きしめてもふもふしていた。
「…どうも。
 見かけたから、もふもふさせてもらいに来たわ――」
相手も多少驚いたようだが、
私が誰なのか把握すると、
「!なんだ、魅月さんだったタヌか。
 ビックリしたタヌ。
 まさか突然捕まるとは思ってなかったタヌ。」
安心したかのように大人しくなる。
…彼の名前はイエヤス・T・モフモフ。
とても毛並みがよく、
もふもふしているタヌキさんだ。
私は可愛いものに目がないので、
こうして、機会があればもふもふさせてもらっている。
――そういえば、
私は可愛いものが好きなのだけど、
知人にいうと、似合わないと言われる。
…どうも、
行き違いがあるらしいが、
その理由は不明。
…何故だろう…
「…」
ともあれ、気にせず無言でもふもふし続ける。
「魅月さん、
 もふもふされるのは嬉しいタヌが、
 そろそろ離してもらわないと、
 皆に迷惑がかかるから離して欲しいタヌよ。」
「…え、ああ。
 そうね。ごめんなさい。
 あまりにも心地がいいから忘れてたわ。
 それにしても、
 中々忙しそうね。」
もふもふしている最中、
いいにくそういうイエヤスさん。
それを聞いてゆっくりとした動作でイエヤスさんを解放する。
「美皮再興の為、頑張らないと駄目ポン。
 でも、
 また時間がある時ならいつでももふもふして欲しいタヌ。」
そういって、イエヤスさんは手を振り去っていく。
手を振って見送る私。
それにしても、イエヤスさんは凄いと思う。
あんな立派な夢があって、
夢に向かって歩み続けている。
中々出来る事じゃないし、
私も何か応援してあげれる事があるなら、
応援してあげたいと思った。
――私の応援なんていらないかもしれないけど。

――イエヤスさんと別れて直に、
遺跡外へと戻る。
今日は1日遺跡外で過ごし、
疲れを取って、
食材を買い込んで次に備えなければならない。
次の探索予定地では、
先にベルクレアの兵隊がいるらしい。
はたして、どうなる事か…
瞼を閉じて、
次のことを考えるうちに私は眠りについていた――

* * * * * * * *
信仰
それは人の心の支えにして尊きもの。
だが、信仰は神に捧げられるもの。
神へ助けを求めるもの。
それ故、
信仰故に、神を憎む者も現れる。
そして、信仰故に神が絶対と思い、
盲目的になる者も現れる。
――だが、その二つには共通している事もある。
前者は神を憎み、後者は――
神に仇なす者を憎む。



教会の礼拝堂に、
1人のセーラー服を着た女性が祈りを捧げている。
年の頃は15,6くらいだろうか。
とても熱心な祈り。
そんな中に1人の男が入り口より入ってくる。
女性は一心不乱に祈っているせいか、全く気づいていない。
男は金の髪を持ち、長身で体格もよく、
蒼い瞳をもった見目麗しい20代の男で、
胸にはロザリオ、服は神父服を着ていた。
「…今日も熱心に何をいのっておいでですか?
 倉波さん。」
男が女性の傍に近づき、声をかける。
声をかけられ倉波と呼ばれた女性は、
その声を聞いて初めて男を認識し、
祈りをやめて立ち上がり頭を下げる。
「ごめんなさい。全く気がつかなくて。
 明日も幸せに過ごせるよう神様にお祈りをしていたのですよ。」
「謝る事はありません。
 それは尊い行為です。
 神はきっと貴女を見ておられますよ。
 さすがは聖エルザス女学院の生徒会長ですね。」
頭を下げる倉波に、神父は微笑んで優しく答える。
「ですが、もう日も沈みます。
 今日の所は帰られるとよろしいでしょう。」
「ありがとうございます、神父様。
 あら…
 もう、そんな時間でしたか。
 気づきませんでした。
 それでは御機嫌よう。神父様」
一礼してさっていく倉波を、
微笑みながら手を振って見送る神父。
そして、さっていくのを見届けた後、教会の扉を閉めると、
神父の笑顔が消えた。
「…」
真っ直ぐと十字架の前に進み、
膝を折って祈りを捧げる神父。
そして、彼は神へと問いかけた。
「神よ…大変な事がおきました。
 邪悪なる、
 邪悪なる者の気配がこの教会へと迫っています。
 私はどうすれば良いのでしょう。」
返事はかえってこない。
かえってくるはずが無い。
しかし、彼には神の声が聞こえていた。
そして、その神の声を聞いた彼は立ち上がり拳を握り締める。
「おお…神よ…神よ…!
 このアルバートに邪悪なる者を討伐し、
 神への敵を撃ち滅ぼし、
 平和をもたらせというのですね…!
 分かりました。
 この私の全てをもって…必ずや成しえてみせましょう!
 私は神の代理人、私は神の敵を打ち砕くもの。
 神の威光を知らしめるもの…
 Ash to Ash.
 Dust to Dust.
 AMEN

――その瞳に狂信の炎を燃やして――

同時刻、同じ頃、
1人の女学生らしき人物が、
街の中を歩いていた。
名前を伊賦夜 魅月という。
そう――私だ。
永き時を生き、様々な学校を転々としながら生活している。
お金についてはそれなりに手はあるし、
成績についてはさすがに永く生きてきたので多少は出来る。
別に学校など通わなくてもいいのだけど、
私は17のままであるが故に、
通っていた方が自然。
それに…
――私の時計は、その時を境に止まってしまっているから――
そして、今私は一つの学校を辞めて、
次の学校へ移る真っ最中だった。
「…次は聖エルザス女学院ね…
 …楽しい処だといいのだけど、
 それにしても、神…か。」
次の受け入れ先の学校の資料を歩きながら見て、
昔を思い出す。
あの光景、あの時起きた事は忘れてしまう事なんて出来ない。
…きっと、私はずっとあの日の事を抱え続けるのだろう。
そして、全ては神が引き起こした。
私の命が助かったとはいえ――私は――
「…いえ。
 あの神とは違う。
 …気にしすぎね。」
首を振って否定しながら足を速め目的地へと向かう。
「――ふぅ。
 それじゃ、寮に早くいかないとね。
 日が暮れてしまう前に。
 折角、
 私の為に離れの小屋を用意してもらっているのだから――」
――その先に待ち受けるものの事なんて全く知らずに――

――初めは平穏だった。
全て上手くいき、
いつも通りだと思っていた。
だが、
運命は常に生者を弄ぶ。
例外なく――
いや、ひょっとしたら…
彼女こそ、弄ばれる例外なのかもしれないが――
* * * * * * * *



――目を覚ます。
それにしても、懐かしい夢を見たものだ。
――いい思い出ではないけれど。
静かに、朝の日課を済ませ、
会議も済ませ…
用意を済ませて、いざ、外へ行く準備を終える。
特筆すべき事はない。
しいていえば…
私の手が動くようになったくらいかしら。
まだまだ本調子というわけではなさそうだけど。
ともあれ、いざ出陣となったのだが…
その前に、
折角の遺跡外なのだから、
いつもとは違う仲間以外の人と練習試合を行う事にした。
相手は中々強そう。
けれども、別に勝ち負けは問題ではない。
精一杯やって今の力を知る事が大切だ。

「さ、始めましょうか。
よろしくお願いするわね。」

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