練習試合を無事おえて、
魔法陣より、再び遺跡の外へと移動する。
問題なく遺跡を出て、
スムーズに移動を行い、
今日はここでキャンプという時に――

一匹の猫を見かけた。

「にゃぁ?こんな所でどうしたんだにゃ?」
一匹の綺麗な猫を。
彼女の名前はノーラ・ニンクス。
由緒正しい家に生まれた、
綺麗で可愛い猫さんだ。
「…ノーラちゃんも、こっちの方に来てたのね。
 いえ、
 今からベルクレア兵のいる方に向かおうとちょっと…ね。」
「そうだったのかにゃ。
 こっちは今撃破して先に進んでるにゃぁ。」
…もう既に突破してるなんて、
やっぱり凄いわね…
「…凄いわね。私も頑張って突破しに行かないとね。
 …怪我はない?」
「怪我なんてないにゃ。
 全然大丈夫だにゃ。」
そうやって、話をしている中に、
可愛らしい声が飛び込んでくる。
「ねぇにゃん、早く行かないと目的地に間に合わないにゃ〜。
 あれ?」
声の方をみると、可愛らしい、黒の子猫がそこにいた。
「…あの猫さんは?」
「あ、紹介するにゃ。
 スティだにゃ。
 スティ、こっちが魅月さんだにゃ。」
お互い暫く見つめあい――
「初めまして、伊賦夜 魅月よ。
 いつもノーラちゃんにはお世話になってるわ。」
「どうもだにゃ。
 スティっていうにゃ。よろしくにゃ〜。」
一礼する私に、可愛らしく頭を下げる、スティちゃん。
「ま、ともかく、そろそろ行くにゃん。」
「ねぇにゃんせっかちだにゃん。」
「早くしないと間に合わないっていったのは、スティだにゃん。
 それじゃ、またにゃん。」
颯爽と踵を返し先に進もうとする、
ノーラちゃんとスティちゃん。
そんな彼女達を私は…
「…ちょっと待って?」
引きとめ傍に行き、二匹の頭を撫でた。
…可愛すぎて我慢できなかったんだもの。
「どうかしたかにゃ…って、なるほどにゃ。
 それじゃ、改めてもういくにゃ。
 健闘お祈りしてるにゃ。」
ひとしきり、なでさせてもらった後、
彼女達を解放し、
手を振って見送る。
――頑張って、追いついていかないと――

――ともあれ、無事行程を進み、
キャンプを張ることになった。
相変わらず、私の寝床は皆と離れてだ。
最近は仲間の皆に私の事を少しずつ教え、
ある程度理解の上こうしている。
――そのお陰でこうして1人で寝ることに対して、
楽になった。
騙す必要がないのだから…
首を振って考え事を振り払い、
腕の包帯を解く。
腕は完全に治っている。傷一つ無い。
痛みももう完全に無い。
絶好調といっても良い。
…また、私は苛まれるのかしら…
傷は治った以上、
安寧などはないだろう。
だが――眠らなければ明日に差し支える。
一つため息をついて、私は眠りについた――

* * * * * * * *
たどり着いた場所で、
全てを始めよう。
そこには新しいものが一杯ある。
――新しい生活、
新しいクラスメート、
新しい先生、
新しい楽しみ、
そして――
新しい災厄も――



寮に到着した私は、
入り口で出迎えてくれた寮母さんに一礼をした。
どんな人なのかは事前に聞いている。
50代くらいの優しげなシスターであり、
その寮にその年齢のシスターは寮母さん1人しかいないので、
間違いなどはないだろう。
「初めまして、
 この度お世話になる、
 伊賦夜 魅月と申します。
 どうぞよよしなにお願いします。」
まずは挨拶から。
最初に礼儀正しく振舞うだけで、
大分印象が違う。
これから何かとお世話になるのだから、
しっかりと、良好な関係を保つようにしなければならない。
すると、寮母さんも笑顔になって、答えてくれる。
「あらあら、まぁまぁ。
 ようこそ、魅月さん。
 神の家へようこそ。
 礼儀正しいのね。
 それにしても、
 本当に離れの物置小屋でいいのかしら?
 一応、普通の部屋も用意したのだけれど…
 ほら、前にもいったと思うのですが、
 あそこの離れの物置小屋は良い噂が…」
優しげに、そして心配そうにいってくれる寮母さん。
そんな寮母さんの言葉を手で遮り…
「ええ。それでも大丈夫です。
 ありがとうございます。
 …たとえ何かあっても、
 神様がきちんとお守りしてくださいますわ。」
クスリと笑顔で答える。
その言葉に、満面の笑みを浮かべて、
「そうね。神様が守ってくれる。
 その通りだわ。
 信心深くもあるのね。
 それじゃあ、これが小屋の鍵で、
 朝は5時から礼拝、
 その後、6時から清掃で、7時に朝食、
 その後授業となっています。
 遅れないように、
 それと、
 晩御飯の方は今回だけ、
 小屋の方にパンとスープを用意しておきました。
 しっかり食べてしっかり眠って疲れを取るといいでしょう。」
ここでの生活についての教えと共に、
鍵を手渡される。
静かに一礼をして、その場を去り、
小屋へと迎う。
色々厳しい事もありそうだけど、良い所ね。
悪くない…
本当に。

そして、次の日。
朝の礼拝が終わった後、
私を含む4名が前に立たされる。
そして、厳かに校長先生――
といっても、見た目はどうみてもシスターなのだけれど。
この学校は、皆教師がシスターらしい。
神父様が1人いるらしいが、
姿は見ていない。
一体どんな人なのだろう。
ともあれ、私を含めた4人は編入生らしく、
自己紹介を求められる。
私以外の3人の名前はそれぞれ、
向井 雪
月見里 春菜
水野 凛
…その時は、全く気にしていなかったのだが、
後に彼女達とは深く関わりを持つ事になる。
彼女達の事は、またその時に話すとしよう。
ともあれ、こうして、私のここでの生活が幕を開けた――

――その頃――
「邪気が溢れている――
 なぁるほど、あの4人の誰かからか、
 それにしても…
 恐ろしいまでの邪気、
 これは、天に滅さねばなるまいなぁ…」
――1人の神父、アルバートが静かに佇み、
周囲を取り囲む死者達と対峙していた。
アルバートの武器は神の言葉が刻まれた銀の二振りの剣。
多勢に無勢、いかに武装しているとはいえ、
アルバートに勝ち目はないかと思われ、
死者達が押し寄せるように襲い掛かるその時――
銀色の煌きが空間を凪ぐ、

「Our father which art in heaven…」

その度に、塵芥の如く、死者達は、二つに断たれ、
灰になる。

「hallowed be thy name.
 The kingdom come,
 Thy will be done in earth,as is in heaven…」

二閃、三閃、
その一撃は鋭く、速く、まるで雷光の如く――

「Give us this day our daily bread.
 And forgive us our trespasses as we forgive
 those who trespass against us…」

まるで背後にも目がついているかのごとく、
全ての死者の攻撃を嘲笑うかのようにかわし――

「And lead us not into temptation,
 but deliver us from evil 
 for thine is the kingdom,and the power,and the glory,
 forever…」

一切の慈悲もなく、
哀れな死者達を滅してゆく――

「Amen!」

――そして、全てを灰に帰し、
神父は嗤う。
これから全ての邪を打ち払うという神聖な行いと、
それを実行する己に酔って――

――全ては始まってしまった。
回り始めた歯車は、
他の歯車を巻き込んで動き続ける。
止まる事を知らず、
終わりへ向けて、
ゆっくりと…着実に…

* * * * * * * *



――目が覚める。
目覚めは悪くはない。
と言いたいが…
「グ…ガ…!」
焼け付くような痛みが右目を襲う。
そして、右目が全く見えていないことに気づく。
辺りを見回すと、視界に右目が落ちているのに気づく、
拾って右目のあった場所へと放り込む。
「ぐ…」
そして右目をしっかりと抑える。
「はぁ…はぁ…」
暫く安定してたゆえに、
油断していた。
そう――油断してはいけないのに。
更に間が悪い事に――
「…魅…月?」
声が、飛びこんで来る。
この声は…
「…っく…レイナさん?」
「大丈夫!?
 血だらけじゃない!
 って、それは前にも見たから分かってるけど、
 それよりも、その目――!」
心配して私の肩を掴んで真っ直ぐ私の左眼を射抜く。
真剣で優しくて…ステキな目。
「大丈夫、よ。」
私も目を逸らさず、嘘を答える。
恐らく、目が元に戻るまで、後1時間はかかる。
「なら――見せて、魅月。」
しかし、嘘は通じる事はない。
一つため息を吐く。
「…強情ね。分かってはいたけど、
 ――どうせ治るのだから、
 余り見せたくはなかったのだけど…」
そっと、右目を抑えた手をのける。
現れるのは、無残に抉られた目の痕と、
押し込まれた眼球が一つ。
「――ッ!」
口元を押さえ少し離れるレイナさん。
それを見て、再び目を押さえ、
包帯を取り出して目の辺りに巻く。
「…心配しないで、
 一時間で治るから。
 それじゃ、また後で、ね。
 洗濯があるの。
 ――ごめんなさい。」
そして、静かに歩み去る
「…ううん、私こそごめん…
 待ってるよ――魅月」
背後からレイナさんの声が聞こえる。
誰が悪いわけではない。
――けれど謝らずにはいられない。
とても優しく暖かい…だから…
この事で後に悔やむ事だけはしてほしくない、
そう願わずには居られなかった――

…その後、
目も治ったので、包帯を取って、
いつもの日課を全て済ませる。
そして、立ちはだかる一匹の大鳩と2匹の巨大な蜂。
しかし、私達を止める事など出来はしない…!

「ここで立ち止まりは出来ない、
 だから退きなさい――
 そして消えてなさい…!」

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