緑色の怪生物と、兎が襲い掛かってくる。
その時、私がとった行動、それは――

何も、しない。

じっと立ち尽くすのみ。
仲間達の声が飛ぶ。
「ムッ、ぼーっとしておると危ないぞ!」
「あぶない!」
襲い掛かるモンスター、
そして繰り出される攻撃、
しかし、全ては届く事はない。
不意にモンスター達が後退する。
唯一遅れた野兎だけが不意に霊に絡めとられる。
…私が動く必要など何処にも無い。
私には戦闘能力はない、
しかし、私がここにいるそれだけで、
自動的に霊達が襲い掛かり、敵を殲滅する。
なぜなら、
既にここは霊達のテリトリー…
敵意をもって侵すものを、
霊達が逃す事はない。
「これはこの世の事ならず…
 私に近づけば、
 この世とあの世の境に1歩近づくと同じ事。
 制御不能のこの力、
 従える事は出来ないけれど…
 霊達は私の身を傷つけまいと、
 守護だけは自動的にしてくれる。
 故に、敵意ある貴方達は、
 私を倒す為に全ての霊を倒すしかないのよ。」
そして、敵意ある怪生物と兎達に襲い掛かる霊達。
中々抵抗も激しく、
徐々に削られ、消えていくも量が量。
それに、藤九郎さんとエモさんの力は凄まじい。
圧倒的量と2人の力で押しつぶし、勝利をもぎ取る。
幸い、霊達は私という者を他に渡さない為に、
敵を“機嫌がよければ”
打ち砕いてくれる。
今回は機嫌がとてもよかった。
恐らくこれもこの島の空気のお陰だろう。
「やれやれね…」
そして、静かに戦闘が終わった事を確認する。
「あの」
そんな中、不意に声をかけられる。
「…?どうかしたの?」
振り返ってみると、
そこにはエモさんがいた。
フルネームをエモーション・イモータル。
…確か、不滅の情動…
という意味だったかしら。
偽名か本名かは分からないけれど、
何か意味があるのかしら?
「“あれ”なんですか?」
恐らく、あれというのは霊の事だろう。
そう、見当をつけると即座に答える。
「あれね…あれは霊魂。
 彷徨える御魂、
 生を渇望せし死者よ。
 別に使役しているわけでもなんでもないけれど…
 私に集まってくる…
 呼び出す必要も、
 作り出す必要もなく、
 永遠に集まり続ける者達。」
静かに、告げる。
暫く首をかしげて考え込んだかと思うと、
ぽむ、
と手をうち…
不意に笑顔になって、
「あーえっと・・・
 なるほどー。
 でも、たよりになるね。
 この調子でがんばっていこ?」
そう、一言告げて先にいってしまう。
笑顔で後をついていきながら、
ふとため息を漏らす私。
「…私が扱ってるわけでもなければ、
 制御不能の常に暴走状態。
 …頼りになるだけではないのだけどね。
 残念ながら…」
…頭を振って雑念を払う。
…今は不思議なほど順調。
ならばこの順調が続くと信じないとね。

暫く歩くと森を通過する。
そして、森に到達すると、
何故か一面の韮畑。
「…韮?」
意味が分からない。
何故韮。
しかも、何故こんなに大量に。
しかし、食料も少なく、
何が役に立つか分からない。
折角なので一人一つずつ摘むことにした。
「……」
「……」
黙々と韮を摘む。
誰も声をあげない。
だって…
声をあげたら、なんとなく、
こういう作業をやっている事が情けなく感じられるから。
…難儀な物ね。

そして更に移動し、翌日に備える事となった。
食事とキャンプの用意、
そして明日の向かう先、
練習試合について、
もし敵が現れたらどうするか。
色んな事を取り決めてそれぞれ眠りにつく。
私は一人、広い平原の真ん中で夜空を見上げ、
横になる。
一人、夜空を見上げて、今日のことを思い返していると、
ふと、昔の事を思い出す

* * * * * * * *

あれは、何度目の高校だったろう。
古い古い記憶。
しかし私にとって最も大切な記憶の一つ。
私には一人の親友が出来た。
これはその始まりと…終わりの記憶…
そう…あれは…




「ねぇ、魅月さん。」
不意に、私が本を読んでいると、
ショートカットの女の子が声をかけてきた。
彼女の名前は如月 九音(きさらぎ くおん)。
私の隣の席に座っていて、
友達が多く、クラスの中でも人気者。
ちなみに私は一人でいる事が多く、
空気のように影の薄い存在だった。
「…何かしら?」
本を閉じ、九音をみる。
隣である事以外彼女とは何の接点も無い。
無視することも容易いが…
どうして話かけてきたのか気になったので、
少し話を聞いて見る事にしたのだが…
「魅月さん、
 あのさ、私と友達になってくれないかな?」
…本当にあの時は驚いた。
まさか友達になろうとしてくれるとは、
思ってもみなかったから…
だって…彼女は…
「…私と?
 私と友達とならずとも、
 貴女には友達が一杯いるでしょう?
 どうして、また私なんかと?」
…そう。私なんかと関わらずとも、
問題ないくらい友達が多く、
楽しい生活を送っているはず。
「うーん。
 そう言われると困るんだけど。
 なんかさ、いつも魅月さん寂しそうで、
 それに…
 私、魅月さんと友達になりたかったから。
 でも、こう恥ずかしくて今まで言えなかったんだけど、
 今日思い切ってお願いしようと思ったの。
 だって、私…
 魅月さんとはただの友達以上の関係になれる気がするんだ。
 親友…とでもいうのかな?
 ねぇ。ダメ?」
少し悩んだ後、
笑顔で真っ直ぐな瞳で私に語りかける九音。
その笑顔も、
その瞳も、
その心も、
とても眩しかった。
…もし、ここで断っていれば…
いや、
何度やりなおしても、
結末を知っていたとしても、
私は彼女の申し出を断る事は出来なかっただろう。
事実…私は寂しくて…
そして、
彼女の輝きは私にとってとっても魅力的だったのだから…
「…」
「…ダメかな?」
私が答えあぐねていると、
少し涙目になる九音。
「…いえ。
 ダメじゃないわ。
 ごめんなさいね…
 一人でいる事に慣れているから、
 こういう場合どうしたら良いのか分からないのよ。」
首をふって承諾の意を伝える。
すると、彼女はすぐさま笑顔になって、
右手を差し出しこういった。
「よかった…
 それじゃ、これからよろしくね。魅月さん!」
私はその手をしっかりと握り返し…
「ええ、よろしく、九音さん。」
微笑みを浮かべ返す。
そして私と彼女はこの時より友となった。

…始まりは、何よりも得難く、
綺麗で、幸せな記憶。
私が私でなくなってしまったあの日から、
諦めて失ったものが戻ってきたようで、
嬉しかったのをよく覚えている…
そして、この時が永遠に続くものだと信じていた。



 

* * * * * * * *



うっすらと瞼に光が差し込んでくる。
うっすらと瞳を明けると、
日が昇って来ていた。
いつの間にか眠っていたらしい。
そして、目が覚めればいつもの如く、
服と地面に鮮血が飛び散っていた。
(…今日も…か…
…分かってはいるのだけど、億劫ね…)
しっかりと近くの川へいって洗濯する。
しっかり洗濯した服を畳み、
新しい服に着替えると、
既に朝食タイムになっていた。
しっかり朝を食べて、
準備は万端。
調理はヒカルさんとレイナさんの役目。
とはいえ、
私も手伝える事があれば、
手伝った方がいいかしら…
調理器具とかないから、
オニギリとか簡単なものを作るくらいしか、
私には出来ないけど…

そういえば、調理器具無しで2人は、
こんな料理を作っているのね。
どうやっているのかしら?
謎が多いわ…
でも、まぁ、深く聞くとドツボに嵌りそうね…
………
気にしないでおきましょうか。

そして、恒例の練習試合を開始する。
前回はエモさんと藤九郎さんの活躍で、
なんとか勝利できた練習試合だけど、
今回は…
………
結果については省いておくわ。
予想通り…という奴よ。

そして、そのまま2組に分かれ、
次の場所を目指す私達が見たものは…

「モッサァァァァァァァッ!!」

…再び緑色の怪生物…
歩行雑草というらしいけど…
不気味ね。
しかも、今度は三匹。そして兎が一匹。
やれやれ、これは中々手こずりそう。だけど…

「何度来ても無駄。
 貴方達に勝機は無いという事を、
 骨の髄まで教えてあげるわ…!」



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