「吹き…荒べッ…!」
風が吹き荒れる。
死の風…
そう。
風の如く襲いかかる死霊の群れが。
そして、
その風は――
“死”を喰らう。
敵は死者の群れ。
私は死者を纏う存在。
なれば――
その相手が死者の群れだというのであれば、
足掻(あが)く事すら許しはしない。
ただ、耐え忍ぶしか手立ては在らず、
勝機の欠片も敵には与えない。
骨の兵士達は砕け、
小さな欠片となりながら、
動く素となる“死”を刈り取られ、
骨の兵士を率いる炎は、
風に飲まれ小さくなっていく。
その存在を形成する死霊が、
私の率いる死霊と同化するが故に。
それでも、骨の兵士達よりも力が強いのだろう。
骨の兵士達が消滅していく中、
その炎は消えずに残る。
だが…
それも無駄な抵抗、
時間の問題…
最後に残った怨念の灯火も次第に小さくなり…
消え去った。
否。
消え去ったというのは間違い。
そう、消えたのではなく…
全て、取り込んだ。
「…ふぅ…」
死者の群れの“死”を喰らい、
“死”を纏う。
その行為…
危険は当然大きく、
それが後にどんな結果を及ぼすのか、
分からないが…
少なくともいい影響ではない可能性が大きい。
けれど…
それ以上に…
この島で戦う力となる。
だからこそ――
私にとっては都合はいい。
それに…
御(ぎょ)す限界が来るまでは…
その悪影響ですら制する事も不可能ではない。
それは、仲間が教えてくれた。
「…先に進みましょうか。」
さぁ、先に進もう。
ここには何も無い。
だからこそ、前に。
仲間と共に。

――先を進んでいると、
つい最近見かけなかった人物を見かける。
色々あったみたいだけれど、
私ではどうにもならないので関わってはいなかったのだが…

なんだか私が蚊帳の外だったのが、
少し悔しい。
…なのでちょっと腹いせ代りにからかう事にする。
音もなく忍び寄る。
彼の視界は360度もあり、
それを逃れるのは中々難しいが…
別に手がないわけではない。
隙を縫って背後へとまわり…
思いっきり抱きついた。
「がーんさん♪」
「ッ…!
 な、なんだ!?」
思いっきり陽気な声で。
流石に不意打ちにこの声…
そう…
まるで…
街角の遊女のような声で私が襲撃してくるとは思わなかったのか、
慌てる土蜘蛛さん…もとい…ガンさん。
ふふ。
こうでなくては、
態々こうしたかいがない。
「あら、忘れたの?
 あんなに楽しい一時を過ごしたというのに。
 暫く顔を見ないうちに私の事を忘れるなんてひどいわ?」
「な…あ…
 あー…
 あんたか…
 何事かと思ったし、
 ちょっと焦った…
 いや、そんな事はどうでもいい。
 とりあえず…
 そんな人が聞いたら誤解するような事いわんくれないか?」
「…ふふ。
 暫く顔を見せなかった報いと思いなさい?」
「まぁ、それに関しちゃ不可抗力だ。
 連絡出来なかったのも含めてな。
 しかし…
 報いとかいわれるほどの事か?」
「…別に?
 ただ、少し退屈だったのは確かだもの。
 ガンさんほどからかいがいのある人中々いないのよ?」
「…へーへー、そーですか。
 あんまりからかわれたくないんだけどな…
 いっても聞くような人じゃないか…」
「…分かってるじゃない?」
「なんだかんだいっても、
 あんたとの付き合いは長いからな…
 それで何の用だ?
 用事もなく…って訳じゃないんだろう?」
久しぶりの彼とのやりとりは、
楽しくほっとする。
…やっぱり私はからかわないと調子が出ないのかしら?
……
まぁ、いいわ。
「…大した用じゃないのよ。
 無事帰還できたようで何よりね。
 良かったわ。
 それだけが言いたくて…」
「…全くかなわないな。
 全て知っててからかいにくるとは…
 ほんと、ほどほどにしてくれたら助かるんだが…
 ま、いい。
 態々どうも。」
照れ臭そうな態度をとるガンさん。
…さてと、
用件も、したい事も全て終わったし…
ゆっくりしたい気持ちもあるけれど、
今は先を急ぐのが一番。
「それじゃ、またゆっくり会いましょう?
 今度はこれくらいじゃすませないから。」
「勘弁してくれ。
 全く。
 …ああ、また会おう。
 お互い上手く進めるといいな。」
「本当に…」
手を振って別れる。
それじゃ、先を進むとしましょう。

* * * * * * *
――ただ一緒に生活する――
それはとても心地よく、
幸せならば…
いつしか情が移りゆく。
どんなに心を偽りどんな目的があろうとも…



真澄さんに言われてきた場所は、
何の変哲(へんてつ)もない小さな組合。
それでも参加人数は他の支部も合わせるとかなりの数らしい。
来るもの拒まずのその団体は、
参加して1ヶ月もすれば、
何故…
真澄さんがこの団体に私を寄越したのか、
そう…
何を危惧(きぐ)していたのかは直に分かった。
反政府思想…
そう。
気づかないうちにそれを植え付ける宗教。
それがこの団体だ。
そして、今…
この集団のトップが演説をしている。
「…であるからして…
 私達は立ち上がらなければならない!
 神の名の下に悪魔にそそのかされた人達を救済するには…!」
それにしても、
これはカリスマというべきなのだろうか?
どうして…こんなにも信じれるのだろう。
…熱狂…
そして、私はそれに合わせる。
最も…
私自信の心の中では、
その教えはそこまで信じきれるようなものではなかったが。
演説が終われば集会は解散となる。
そして、
何時ものように同じ信者の皆と親交を深める。

私はこの時間が一番好き。
その親交では、
教えに関する事の話も多いが、
まるで友達のようにいろんな人と接し合える。
そして、
辛い事があって落ち込んでいる人がいれば、
励まして支えあう。
ああ、なんて素敵な事なんだろう。
だから…
私は…ここがだんだんと好きになっていた。
だが、それはいけない事だと心で分かりながらも…

「…月さん?」
「…」
「魅月さん!」
「あ、な、何かしら?」
「ぼーっとして何か悩み事?
 よかったら話してみない?」
「…そう、ねえ…」
そんな事を考えていたせいか、
憂鬱(ゆううつ)になっていたのだろう。
しゃべっていた信者の女の人に心配されてしまった。
別に大したことじゃないって返してもいいのだけど…
「…子供が欲しいなーなんて思って…」
「ああ、成程…
 って…
 えええええええええ!」
「…冗談よ」
クスリと笑う。
ちょっとした冗談なのにここまで驚いてくれるなんて、
ふふ。
「…少し…
 退屈で誰かからかいたいなと思っちゃって、ね。」
「…良い性格してるね…
 本当に…
 全く肝が冷えるからそういう冗談控えてくれると嬉しいのだけど?」
「ごめんなさい。
 ふふ。これでも控えてるのだけど…」
「全く…魅月さんは…」
ああ、本当に…
ずっとこの平穏が続けばいい…
出来る事なら皆が救われれば…
けれど…
私は逃げ出すことは出来ないから…

逃げ出してはいけない。
立ち向かわねばならない。
けれど…
逃げ出さなければ救えない。
もし…そんな事があるならば――

* * * * * * *



…体の調子は上々。
これならば問題なく今日も過ごせそう。

――ねぇ?



軽く体を動かしほぐしていると、
声が聞こえた。
この声は……
やれやれ。
本当に久しぶりね。

――なんか忙しそうだったからね…
色んな人と触れ合えて…
そして、それが許されるだけの力を身につけて…
それをみていたらついつい忘れてしまったのよ。
貴女に話しかける事を。



…成程、ね。
それで、向井さん。
今日はどんなご用件かしら?

唯の暇つぶしよ?
別にかまわないでしょう?
たまには…ね?



…別にかまわないわ。
で、どんな話を聞かせてくれるのかしら?

――それで、本命の男の子は誰なのかしら?



は?

一番好きな人は誰?
告白すればいいのにと思って。



…一体何をいいだすのかと思えば、
私は…

…もう分かってるんじゃないの?
誰が好きなのかって。



……そうね。
向井さんかしら?

――は?



は?
じゃないわ。
…貴女の事よ?

えっ、と…
ちょまっ…!



冗談よ。
…やっぱりからかいがいがあるわね。
向井さんは。

―ッ!!
…全く…!
本当にいい性格してるんだから…!
…まぁ、いいわ。
…後悔だけはしないようにね。



ふふ。よく言われるわ。
かといって治すつもりはないけどね。
私の性格は。

ありがとうね。

フン…当然の事をしたまでよ…



そして、向井さんの声が聞こえなくなる。
全く。
本当にお節介なんだから。

…日課を果たし、
仲間と共に山を登る。
険しい山…
全く、
なんで遺跡内にこんな険しい山があるのやら。
まぁ、嘆いていても仕方ない。
それに…また厄介な敵が道を塞いでいる。
倒さず避けては通れない道。
全く、
次から次へと訳の分からない敵がよく現れるわね。
そして吸血鬼か…

今朝向井さんと会話した所でこの敵。

類は友を呼ぶって奴かしら?
本人にそれをいったら怒られると思うけど…
言いたくなるのはしょうがないわよね。
まぁ、いいわ。
力は少なくとも向井さんより上。
やれやれ。
少しは骨が折れそうね。
けど…
それ以上でもない。
油断さえしなければ大した事はないはず。

「さてと…
 見せてもらうわね。
 ああ、そのままで構わないわ。
 そのまま…耐えきってくれる?」







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