思ったように力を引き出せないとはいえ、
全く出せない訳ではない以上…
問題はない。
もし、相手がであった事のないような、
強力な敵であればどうなっていたか分からないが、
問題ない。
相手の力は把握しているし、
多少ならば私自身の経験の為にも色々試すいい機会だろう。
そして、それは功を奏した。
“攻撃が見える”
確かに早い。
だが、見えないほどではない。
ワイヤーの細さが見えにくいというものの、
どれが致命打になりうるかはしっかり見てれば把握出来る。
ならば、
避けるのはそう難しくない。
紙一重でかわし、
避けきれないものを最小限の霊で弾く。
成程。
折角なので少し試してみようと思ったのだが、
成果は思った以上のもの。
“見る”
それによって知覚する優位。
今までもそれを理解していたつもりだったが、
表面的なものだった事に気づく。
最も…
今でも完全にその意味を知っているかと思えば疑問だけれど、
少なくとも今までよりは前進したのは確かだろう。
少し嬉しいかもしれない。
さておき…

「お前は、強いな・・・」

そうこうしているうちに、
最後の敵も倒れ、戦闘が終わる。

毎度の事ながら味気も素っ気もないわよね…
まぁ、仕方ないといえば仕方ないのだけど…
目標地も目の前だし、
今回の探索はこれで終わり、ね…
それにしても、地下、か。
地下へいくほど敵は強くなる。

まぁ、どんな敵がきてもやる事は同じなのだけど、
これからは今以上に移動し待機する場所を考える必要があるだろう。
全く面倒な事…
だけど…
やらなけばならない以上、
しっかり考えていかないとね。
それにしても…
掌を見る。
傷一つ無い手。
そこには何もない。
今まであった出来事なんて無かったとでもいうように。
――だから、不安になる。
私が何者なのか。
私は本当に自分の記憶通りの道を歩んできたのか。
私は本当に存在しているのか。
これは私の見ている夢なのではないか――
けど、これは夢じゃないといってくれる仲間がいるから、
私は生きていく事が出来る。
私である事が出来る。
けれど、仲間達がいなくなって尚、私は――
…私であれるよう、
私が存在する事は決して虚像ではないよう信じよう。
…出来る。
きっと出来るはずだ。
そう信じよう。

いつか、そう信じずとも、
私が私であれるような強さを得れるよう、
努力していきたいと思う。
時間はたっぷりある。
ひょっとしたら…
そんな無限に等しいかもしれない時間ですらも、
短いと感じれるほどに…
それは厳しい道のりだとしても。

* * * * * * *
―神の裁きがあるとしたら、
それは人知を超えたもの。
なればこそ、
これはまさしく天の罰。
神の威を利用せし者に裁きを。



 

ドアを開けた瞬間、飛び込んできたのは女性の死体。
少なくともそう見えても可笑しくないもの。
何かいるのか、
武器を構えて侵入する。
…もし間違いがあったとしたら、
全員突入してしまった事だろう。
誰しも…一人にはなりたくない。
何が敵か分からないのだ。
だが…
それが…最後の救いすらも絶つ事となる。

――バタン

全ての人が入った瞬間、
扉はしまり、
閉じ込められる。
「な、なんだ!?」
「開けろ!」
「開きません!」
「こうなったら…!」
閉じた扉は開かない。
力を入れても開きはしない。
だが、扉を破壊しようと体当たりをかけても、
まったくびくともしない。
そう。
完全に閉じ込められた。
だから――
銃を取り出し、撃ち抜こうとする。
きわめて合理的。
それで鍵を破壊すれば――

――カチリ

だが、弾は出ない。
なんど引き金を引いても、弾は出ない。
引き金を引けば撃てる状態にあるというのにだ。
「くそっ!?
 弾が出ない!?
 どうして…!」
「こっちもだ…!
 刀を使えば…!」
「だ、ダメだ!
 傷一つつかない!」
「え、ええい、何をやっておるか!
 何か…!
 そ、そうだ!
 私は教祖じゃないか!
 こうなったら神の力を――」
何をしてもどうにもならない。
完全に閉じ込められ絶望に包まれる。
うつ手をなくし、
神に祈るしかなくなった時、
それは打ち砕かれる。
まるでそれは…
神などいない。
否、神に見放されているというように。
「ふ、ふはははははは!
 見ていろ!
 今こそッ…!
 グゲァ…!」
蛙を潰したような声が教祖から発せられた。
恐る恐る幹部達がそれをみると、
そこにいたのは黒い塊にのしかかられて、
首をへし折られた教祖の姿。
そして、みるみるうちに肉塊へとその姿は変貌し――
「う、うわぁぁぁっ!」
「な、なんだこれ…!
 なんなんだよ、これ…!」
「に、逃げないと…!
 逃げないと…!
 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一瞬の混乱、そして理解すると同時に悲鳴をあげる。
圧倒的な恐怖。
恐怖に後ずさりをする。
だが…
逃げ場はとうにない。
逃げ場がない事が更なる恐怖を増長する。
その結果はいうまでもない。
恐慌状態に陥り、
正常な思考など出来ようはずもない。
あるものは発狂し、
あるものは無駄な足掻(あが)きを、
そしてあるものは、全てを諦めた。
立ち向かうものもあったが、
実体無き殺戮者(さつりくしゃ)に抗(こう)ずる術などあろうはずはない。
絶体絶命。
冷静であれば…
いや、あったとしても、
この状況から逃れる事は不可能だっただろう。
そう。
運命は完全に決していた。
…一人、
また一人…
殺され、砕かれ、凌辱(りょうじょく)されてゆく。
部屋は阿鼻叫喚(あびきょうかん)に包まれて――
最後の一人が絶命し、朝の日が差すと同時に、
部屋の中は静寂を取り戻す。
無様な肉塊、
辺り一面血に染まった部屋を残して。



――翌朝、その部屋からの異臭で、
直に何があったのか発覚する。
幹部の全て、
そして教祖がいなくなっていた事、
そしてその数が合致する事から、
被害者はわりとすぐ特定された。
そして、それが意味するものは教団の崩壊。
上層部が全て消えた教団は、
自然消滅していった。
最早、その存在を語るものはもういない。

…私は一人、その様子をじっと眺めていた。
誰も私を怪しむものなどいない。
それもそう。
誰が私と不可解な犯人とを繋げれよう。
……
この一連の殺人事件は、
今では未解決事件として封印されている。
そう。
絶対に表に出せない事件として。
事件の異様さはもちろん、
証拠も何もない。
そもそも人に成し得る事ではない。
表に出すわけにはいかないとしかいえない事件なのだから。
嗚呼、そう…
私は完璧に成し遂げた。
だからこそ、今の私は普通に紛れて生きていく事が出来る。
今から振り返ってみて…
その事に
罪悪感は無い訳ではない。
紛れもなく、私が殺したのだから。
そう…
今はもう私だけしかしらない。
私が自ら手を下したのだという事を。
だが…
これも私が抱えて歩むべき業なのだろう。
私が、生きる為に…

――業(カルマ)
全ての生きるものが背負うもの。
それは罪。
だが、その罪は…
生きる為にある

* * * * * * *



遺跡の外にでた。
これで暫くはのんびりできるけれど…
何をしようか、
町をふらふら歩く私の目に、
見知った姿が目に飛び込んだ。
「あら、ガンさん。
 おはよう。」
「お、おはよう。」
挨拶をすると、向こうも挨拶を返してくる。
だが…
「…」
何故か、そのまま笑顔で固まった。
「あら、どうかしたのかしら?」
「…あー、いや。
 ちょっとした疑問があってな…」
「…疑問?」
一体なんだろう?
別段隠している事はないと思うのだが…
だからこそ、
疑問を抱かれるのはわりと不思議である。
「…お前は好かれたいのか?
 それとも嫌われたいのか?」
「…はい?」
「いや、
 今更なのは分かってる。
 だが確認したい。」
「嫌われたいなんて思う人滅多にいないと思うわ。」
「…」
渋い表情をする。
一体…
ああ…
なんとなくわかった気がする。
「それとからかうのは別問題。」
「…いや、別問題にされても困るんだが。」
「…不満?」
「何度もいうように、
 あまりいい気はしてない。」
「…そうねぇ。」
「…」
「じゃあ、どうしろと?」
「普通にしろ。」
「…」
「…」
暫し流れる無言。
「そうね。考えてもいいわよ。」
「…考えるだけというのは無しな。」
「あら、分かっちゃった?」
「…やっぱりか…
 全く…」
「ふふ。そうね…
 でもよくいうじゃない?」
「ん?」
「愛情の裏返し、とか。」
「…
 とりあえず、その言葉考えた奴ぶん殴る。」
「クス。頑張って。
 まぁ、家族愛?」
「……全く。」
ため息をつくガンさん。
真っ直ぐで、真っ正直で…
だからこそ、
魅かれる人。
「…ところで、
 好きの反対は嫌いだと思う?」
「そりゃ、そうだろ。」
「……好きの反対は無関心よ。
 好きと嫌いは表裏一体。
 どちらも本質は同じもの。」
「…無関心、ね。」
「ふふ。まぁ、貴方に無関心でいられるくらいなら…
 嫌われた方がいいというのはあるかもね。」
「…」
「…クス。それじゃ、またね。」
軽く頬にキスをして別れる。
…彼がそれについてどう思おうと関係ない。
そう。
…深い意味もないのだから。
クス。
この事が後で問題にならなければいいんだけど。
問題になったらなったで…
それは面白い事かもしれないけどね。
どちらに転んでも美味しいとはこの事ね。
さて。今日は何をしようかしら。
…きっといい日になるに違いない。
朝からこんなにも楽しい出来事があったのだもの…
そう思うと、楽しくなってきた。





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