…少し前の事…

「それじゃあ、皆でチョコレートをつくろっか。」
「皆で集まって作る…
 なんて事になるとは、
 想像だにしてしておらへんかったけど…
 えろう楽しくなりそうで、
 皆がどんなもん作るんか楽しみやね。」
チョコレートを作るという事で、
仲間達で集まる。
残念ながら
藤九郎さんは女の子ではないので蚊帳(かや)の外だが、
「ふぉっふぉっふぉっ☆
 わしの事は気にせず、
 女の子同士楽しく交流を深めるといい!
 こういうイベントではわしは力になれぬからの。
 隅の方で大人しく茶でもすすりながら、
 煎餅(せんべい)でもかじっておくとしよう。
 …
 孫は誰かにチョコレートをあげたのかのぅ…」
そこは年長者。
気にしていないし、
出来上がったチョコがどんなチョコなのか楽しみにしているらしい。
「で、その前に聞いておきたいんだけど…
 皆の料理の経験は?」
「ここの遺跡内で腹持ちさせるようなものは作れないわ。
 けれど
 …材料があれば人並にはできると思う。
 特別上手にできるという事はないわ。」
「…すまん、インスタントくらいだ。」
「りょうりできるよ!
 ちょうみりょうつかったりするんだよね!」
三者三様。
最初に答えたのは私、
二番目が奏さん、
三番目がエモさん。
エモさんは料理は出来るらしいのだが、
カリムの肉用意してきたあたり、
何か色々致命的な気がするが…
まさか、使いはしないだろう。
だが…
「りょーかいりょーかい。
 まぁ、言われた通りにすれば、
 問題なく作れると思うよ。」
「そうどすな。
 間違っても自分流のアレンジとかしないよう…
 言いたい所やけど…
 ……エモはん、その肉は…」
「かりむにく!
 せっかくだから
 チョコレートにつかってわたそうとおもって!
 がんばるよ!」
『…』
その考えはあっさりと砕かれた。
本気だ。
「まさか使うとは思わなかったわ…」
「…明らかに使うと不味いのは私でも分かるんだが、
 その辺りどうなんだろう?」
「…間違いなく…
 使うもんやあらへんね…」
「確実に失敗の可能性があるけど、
 あんなけやる気だから、
 水は差したくないなぁ…
 まぁ、いいや…
 それじゃ、今からみんな言うとおりに作ってね。
 まずは…」
それから、
各自教わった通りにチョコレートを作っていく。
足並みはそろわないけど、
こうやってみんなで教わり、
教え、
作っていく共同作業は楽しい。
「上手上手。
 そういえば魅月、
 量多くない?」
「ああ…
 そうね。
 まぁ、友チョコも作ろうと思ってるから…」
「友チョコっていうと、
 友達にも送るチョコだっけ?」
「ええ、そうよ。
 ここでお世話になった皆に、ね。」
「ああ、それで大量に作ってるのか。
 うーん、
 私も作ろうかな…」
「…余裕があるならそうしたら?
 色々感謝の気持ちを込めて」
「そだねぃ…
 うん、私もそうするよ!」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
…心安らかなるこの時を大切に。
心の隅にしまって行かないと。
別れの時は近づいている。
永劫の別れではないといっても、
その時に後ろを振り返った時、
楽しい想い出が一杯あった方がいいから――

* * * * * * *
理解の必要はない。
同士にも、同志にもなる必要はない。
利害が一致すればいい。
そうすれば少なくとも――
お互い不幸は少なくて済む。



連れて行かれた先は、
ちょっとして邸宅だった。
様子を見るに、
地位も名誉も力もある軍部の高官といった所だろうか?
「…さて、君は今日から小生とここで過ごしてもらう。
 とりあえず、
 名前を教えてくれないだろうか。
 名前がいえないのであれば、
 君と呼ばせてもらう。
 小生の名前は加藤真澄という。
 好きなように呼べばいいが、
 できれば、
 『真澄さん』とでも呼んでくれればいい。
 それと、先に一ついっておくが、
 君と深く関わるつもりはないし、
 最小限の関わりに止めておくつもりだが…
 まぁ、
 これは円滑(えんかつ)に物事を進める為の
 手続きだと思ってくれたまえ。」
表情を変えず、
ゆっくりとしっかりした口調で私に告げる加藤真澄。
否、真澄さん。
「…伊賦夜魅月…」
そんな彼に、名前だけを告げる。
最低限の礼儀だ、
と反射的に思っただけだけれど。
それに、
一つだけ私には確信があった。
どうしてそんな確信を得たのかは分からない。
が…
えてしてこういう時の直感は良く当たる。
だから、
素直にそれに基本的には従って行動している。
「ん?
 その名前は…
 …だとすると…
 …そうだ。
 もう一つ聞いておこう。
 君がやったのか?
 心配するな。
 例えどんな答えが返ってきても、
 問題は何もない。」
さて、どうしようか。
私が知っている事は少ないし、
あの事を思い出したくもない。
けど…
「…私は、何も。
 でも…私と深く関わったから…」
「成程。
 分かった。
 答えてくれるとは思わなかったが…
 ふむ。
 答えてもらえるとは良かった。
 …
 とりあえず君が通う学校については任せてもらいたい。
 学生なんだろう?
 それから…
 何か不便な事があれば世話役の誰かにいうがいい。
 それでは、少し小生は仕事が出来たのでな。
 また夜にでも会おう。
 何。
 今の言葉で分かったさ。
 もし、小生が危険だと思ったらできればその時はいえ。
 最大限の援助はしよう。
 …そのかわり…
 君にも仕事を頼むかもしれないが…
 良いだろうか?」
「…構わない…
 それより、そんなに良くしてもらっていいの…?」
だが、
そんな不十分な答えでも相手にとっては十二分だったらしい。
その上、
私に対してすさまじい援助をしてくれる。
…仕事の内容は分からないが…
受けてみよう、と思った。
もとより行くあてなどない身。
そして、朽ち果ててもかまわない身なれど、
どこかで…
そう心のどこかで生きたいという想いがあった。
否、
生きなければならない、死んだ者達の分まで。
そういった方が正確だろうか。
「無論。
 まぁ…
 少なくとも話が通じる相手だと分かっただけでもよし。
 小生の考えが正しければ…
 否、今はまだいう事でもないだろう。
 では…
 ようこそ、魅月ちゃん。
 小生の邸宅へ――」

それからの生活はかなり快適なものだった。
文字通り不自由のない生活。
学校にも通え、
今までが嘘のよう。
ただ一つ問題があるとすれば、
朝起きれば大惨事になっている私の部屋くらいだろうか。
何故、どうしてなのかは分からない。
だが、見ただけで分かる。
その大惨事を引き起こした何かは人知を超えた存在で、
興味本位であろうがなかろうが、
もし遭遇すれば死しかないであろうことを。
最も――
真澄さんからすればそれは想定内の事だったようで、
問題ではないらしい。
それから一月したある日の事…
「さてと…二つ魅月ちゃんに報告があるんだけど、
 どちらが聞きたい?
 片方は君について。
 片方は…ちょっとした面倒事についてだ。」
「…どちらでも。」
私は真澄さんに呼ばれていた。
話がある…
そう彼から切り出してきたのは初めての事だ。
「なら…君の事から話そう。
 一つは実感で知っているから割愛するとして…
 おめでとう。
 君は不老らしい。
 全く年を取らない体になっている。
 そして、
 その特性は小生達が分析しようと
 利用できないものである事も判明している。
 それでも悪意ある人間は狙うかもしれないが…
 少なくとも私達がこの件についてどうこうしようとは思わない。
 …それより、君が不老である事で不便だろうと思う。
 そこで君には…
 いつの時代も生きていけるように、
 特別な戸籍を与える事にした。
 …存分に利用するがいい。」
…そして、この時の戸籍が、
今も私が学生でいられる秘密でもある。
…本当に助かっている。
捨てる神あれば拾う神ありとはこの事ね。
「…分かったわ。
 そのことについては今は分からないけど、
 今後実感していくことになるのでしょうね…」
「…だろうね。
 さて…
 次は君への仕事だ。
 君の仕事はとある集団に参加し仲良くなる事、だ。
 …小生達にとって都合が悪い集団といえば…
 分かるだろうか?」
「…
 成程。
 金も権力の融通も効かせる。
 だから渡り歩いてその分の対価を払えという訳ね。
 今の学校へ通いながらでいいのかしら?」
「ああ、構わないよ。
 それで…お願いできるだろうか?」
「…もちろん。
 それくらいは果たさせてもらうわ。
 …となるとお別れね。
 …今まで、そしてこれからも…
 色々してくれてありがとう。
 …そして、さようならかしら?」
「…ああ。」
「…せめて別れの握手くらいはどう?」
「…そうだな。
 君のこれから進む道に幸あらん事を。
 …頑張れ。
 これが小生に出来る精一杯だ。
 楽しかったよ。」
「私も、楽しかったわ。」
…これが私が神に呪われてから、
今までどうしてやっていけたのか、
その最後のピース。
後から聞いた話では、
彼がどうして私に良くしてくれたのか、
その理由は職務だけではなく――

重ね合わせよう。
本来ならば重なり合わないものを。
どうして重ね合わせるのか。
それは両者に共通点があるから。
その共通点が何かは、その人次第――
* * * * * * *



遺跡を進む。
遺跡の外では、
とても楽しい日々を過ごせた。
だから、
この険しい道をしっかり進もうと思う。
だから…
たとえどんな強敵が…
そう…
目の前にあらわれた死霊の火に導かれた、
骨の兵士達がどんな力をもとうと――

「私は打ち破るわ。
 立ちはばかるものには容赦はしない。
 さぁ…貴方達も私が取り込んであげる…!」







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