「うっはぁ、強いねぇ。」

怨霊の作り出した風がエルビラを吹き散らす。
されど、
私の作り出した風では、
それでも翻弄(ほんろう)されているエドは兎も角、
サニーとサニーの呼び出したサバス。
そして…
リトルウィザードまでは止まらない。
霊達の数も少なくなってきた。
それにエモさんの疲労し戦線離脱。
奏さんが倒れた事も考えると、
継続して戦闘するのは危険すぎる。
霊数は恐らく数百。
非常に、不味い。
私自身の戦闘力では相対するのは無謀。
だが…上手く流れに乗ればまだ勝機はある。
果敢に攻める。
攻める…
だが、届かない。
彼等の壁を打ち砕くには力が足りない。
足りなさすぎる。
されど諦めはしない。
必死でもがく。
相手の攻撃を逸らし、
直撃を避ける。
ダメージを受けて霊が散っても問題ない。
時間さえ、
時間さえ稼げば…!
だが…

「全弾発射あぁぁっ!!」

そんな私の願いさえ打ち砕かれる。
リトルウィザードより無数の弾が発射される。
流石にどうこう出来るものではない。
全ての霊を集中し、
己の身を守る。
だが…そこにサバスの一撃も加われば防ぎようもなく――

「残念でした!」
「脳ミソ入れなおしてきたら?」
「……ふむ。」
「うぅ、ひっ…く、ひっ…うぅ……」


吹き散る霊達。
その衝撃に吹き飛ぶ私。
意識が飛んでゆく。
消える意識の中、
そんな声が聞こえ――

――私の意識は其処で途絶えた――

* * * * * * *
――過ぎてゆく。
ゆっくりと…
一つずつ。
それが待ち受ける結果は分かっていても、
動き始めた歯車は止まらない…



 

――俺達の学校ってさ。
大きいから教室が一杯あるだろう?
全部の教室を把握している奴なんて、
いないんじゃないかな?
実際使う教室なんて限られてるし、
別に新しい部の部室に使うとしても、
案外なんとでもなるし…
部室棟にまだ空きあるしな。
だからさ、
皆知らないのさ。
俺達の学校には…
本当に使われていない教室があるって事を。
別に探そうともしないだろうしな。
まぁ…
俺の話を聞いたら、
探してみようって気になるかもしれんが。
ま、いわゆる開かずの間って奴かな。
昔は頻繁に使われてたらしいんだがな、
ちょっとした事件があったらしい。
生徒二人がナイフでお互いを刺し合ったらしいんだ。
で、
その教室は未だに血痕(けっこん)が残っているらしい。
もちろん、
清掃とかもしたらしいんだが、
どうやっても消えないんだってよ。
だから…
何処がその教室なのかは一目瞭然。
見ればすぐに分かるさ。
ま、それはさておき…
実はあの教室では、
未だに事件がたまに起きてるんだ。
神隠しにあった何人かはあそこで死んだと言われてる。
最も、
そんな事学校側も必死で隠すし、
警察としても、
原因が分からない事件、
それも事件性が無いとなると、
手の打ちようがないしな。
知られる事もないわけだが。
それに、
その教室は使われないようになっている。
だから…
ありえないのさ。
何があり得ないかは想像に任せる。
だが、
気にならないか?
俺が話した最初の話。
生徒が二人を刺し合ったって話。
何か喧嘩でもで片づけてもいいんだが、
2人は仲が良くてな。
それに…
相手を殺したいと思うほどの理由も見つからなかったのさ。
だったら…
その前にも何かあった。
そう考えるべきだろう?
だが、
そういった事もない。
ふふ。
だが、そんな事はないのさ。
…昔、あの教室の生徒で、
嘘つきの女の子がいたのさ。
その女の子はいつも嘘をいっていた。
だが、
不思議と魅力がある子でな。
皆、
彼女の嘘を笑いながら仲良くやっていたのさ。
けど、ある日の事。
彼女がいつものように嘘をいったのさ。
彼女にしたらいつもの事だし、
別にそんな凄い嘘じゃないぜ?
けれど、
そんな時に限って事件ってのは起こるもんだな。
その嘘が本当になってしまったのさ。
それでな、
その嘘が元で一人の男子が攻められる事になってな…
ま、誤解は解けたし、
死にはしなかったが、
自殺寸前までいったらしい。
女の子の方もな。
どうしてそんな嘘をいってしまったのか、
悔やんで悔やんでな。
周りも優しく声をかけたんだが、
それがつらかったんだろうな。
ある日、
彼女が消えてしまったのさ。
事件が起こったのはその数ヶ月後…
だったかな…
丁度、進級とかもあったからなぁ。
ま、でも、
その事件と二人が刺し合った事件が絡みつくなんて、
誰も考えやしなかったのさ。
本当の事をしっているのは、
一部の教師と、
俺…
それからこの話を聞いた人間くらいだろうな。
彼女は悔いた。
けどな。
彼女は嘘しかいえなくなってしまっていたんだ。
だから…
彼女が傷つけないようにしようとすればするほど、
それに相反するように、
傷つけてしまう。
そして、
彼女は寂しがり屋でな。
人当たりのいい奴の前に現れるらしい。
ふふ。
気をつけな。
人気者なら現れる事があるかもしれないぜ。
そして、
嘘に惑わされる事のないようにな。
惑わされた先にあるのは、
確実な破滅だぜ?



「これで六話目。
 …
 長いようで短いような感じだな。」
蝋燭(ろうそく)がまた一つ消える。
これで残った蝋燭は一つ。
弱弱しい光が照らし、
終りを感じさせると同時に、
不気味な空気や、
不穏な気配が漂ってくるよう。
私に分かるのは…
それが、錯覚などではない事。
だからこそ、
今ここで切り上げようとすると、
思いがけない人物から静止の声がかかった。
「さて、七話目は僕が話すわけだけど、
 …
 ここでやめにしないか?」
「え?
 今更?」
「なんでだよ。」
それは、七話目を知る人物。
不満の声をあげたのは半数、
残りの半数は私も含め、
少しほっとしている。
「…危険、だからだよ。」
「…迷信だろ?
 いいから話せよ。」
「…仕方ないね。」
だが、
不満の声を上げた一人、
そう六番目の話をした子が突っかかる。
その剣幕に呆れたように首を振り、
七話目は語られる。
まるで予定調和のように。
きっと…
逃れられはしない。
何故なら、
私は見たのだから。
七話目を語る彼が一瞬笑みを浮かべたのを――

仕組まれた運命。
それは必然。
故に…
それは避けようがない。
始めから、定められていたのだから――

* * * * * * *



気がつけば寝かされていた。
体を起こし周囲をみると、
他にもやられた人達が大勢いる。
奏さんもエモさんも晃さんもレイナさんも藤九郎さんも。
まだダメージは抜けきっていないようだが、
命には別状ないようだった。

どうやら、やられても…
その戦う意志と、
戦う力が枯渇しない限りは…
何度でも立ち上がり戦う事が出来るらしい。
まだ動ける。
まだ戦える。

「がんばるのねぇ…
 …でも大丈夫かしら?
 こんなにマナを浴びせて。」
「ヒヒッ…ご明察。
 いやいや、
 この島に対抗し得る力を模索したのですがね…
 …やはり強大な力にリスクはツキモノのようですッ!
 …まぁそれは、お互い様でしょう?
 …ククッ!!」
「……その前に、力尽きるのはそっちよ。」
「貴女の領域下に長居はしたくありませんからねぇ…
 …一気に行きますよッ!!」


一つ頷き、
ふとカエダと榊の方をみやると、
2人は高見の見物を決め込んでいる。
だが、
こちら側の状況を見かねたのだろう。
榊が手を広げ、
更にマナを更に放出する。
どうやら短期決戦に持ち込むらしい。
確かに強い力。
これだけの力があれば、
相手を打ち破るのは難しくはなくなるだろう。
されど、
それ故の消耗も倍増する。
…長期決戦には向かない。
だが…
勝てなければ短期決戦も長期決戦だろうが意味はない。
確率が高いのならばそちらに賭ける方がいい。
判断としては最善。
後問題があるとすれば――
相手の組み合わせ…
だろう。
強い相手。
だが、それだけでは今まで戦ってきた相手もそう。
問題になる事でもない。
逆に純粋な力が弱い存在は弱体化する事を考えれば、
苦労は減るだろう。
問題があるとすれば…
純粋な力こそ弱けれど、
厄介な存在。
純粋な力を得た厄介な存在ほど面倒な相手はない。

まさに私達が今回戦ったサニーなどもそれにあたる気がする。
最も、
それは相手にとっても同じだろうが…
はたして次の相手は私達にとって、
どんな結果をもたらすのだろうか。
奏さんとエモさんと合流し、
準備を整え、
戦場へと再び向かう。
現れるのはやはり葉で模られた強敵。

純白の髪を持つ女性。
水色の髪を持つ女性。
そして…
銀色の髪の男性。

男は鍛え抜かれており、
純白の髪の女性は冷たく神聖な空気を。
水色の髪の女性は冷たい水のような印象を受ける。
前衛に後衛。
そして冷たい水…
凍れる力を操るのだろうか。
強敵には違いない。
組み合わせとしても悪くはないのだろう。
そして…
その力は私達が負けた相手と変わらないように思える。
だが、
今の私達は前とは違う。
無論…
力を得たが故に長期戦は出来ないとはいえ、
これを倒して終わりではない。
後々を考えて戦うとなると厳しい戦いになるのも事実。
だから…
一切の油断はしないし、
出来ない。
無様な戦いもしたくはない。
私自身の気は充実している。
そして…
散っていった霊達も再び集まり始める。
そう。
まだ…
まだ戦える。
なればこそ――

「何度でも立ち上がり、
 風の力を味あわせてあげるわ。
 私に戦う意志と…
 戦う力が尽きぬ限り…ッ!」





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