風に霊を乗せて解き放つ。
狂気の渦は強敵に見えた相手すらも凌駕(りょうが)し、
混乱と悲鳴をもたらし、
強烈な破壊力の前に魅入らせる。
まさしく圧倒。
その暴虐の前に
「しおどきにゃー。」
敵は何も抗いすらも許されぬまま全てが消し飛び…
私達の勝利が確定した。
「…ふぅ。」
一息つく。
それにしても酷く疲れた。
さしもの私も一杯一杯…
そんな感じがする。
…
まぁ…あれだけの力を使ったのだから、
何事も無し…というわけにはいかないだろう。
「…少し休んだらいくわ。
大丈夫。ちょっと疲れただけよ。
すぐに追いつくわ。」
少し木陰で休む事にする。
連れて行ってもらうのも悪いので、
奏さんとエモさんには先に行ってもらう事にした。
『ふぅ…』
ため息が重なる。
おや、と思って辺りを見回すと、
相手も同じ事を考えたらしい。
そう遠くない場所に晃さんの姿が見えた。
「あら、晃さんも休憩かしら?」
「その様子だと魅月はんも休憩?
奇遇やねぇ。」
今現在リハビリ中の晃さん。
完全には回復してみたいだけど…
多分少しずつ回復してると思う。
触れないようにした方がいいのかとも思ったのだが…
…
やっぱり気になるので、
率直に聞いてみる事にした。
「…具合はどうかしら?」
「…
…そぉですなぁ…
良いといえば良い気もしますし、
悪いといえば悪い気もするから、
正直な所、
まだまだ分かりまへんなぁ…
奏はんにもしっかり見てもろぅてるけど、
いつまた以前の様に戦えるかは…
…
……
………皆に置いてかれて、
ずっと仲間の身を案じ続けるのみ。
…ここにいても…」
「…いてくれないと困るわよ?」
落ち込む晃さんに率直にいう。
「…最後は笑って皆で遺跡を出るまでが…
探索よ?」
「…それをいうなら遠足やと思うけど…
…一人も欠けず皆で…
それが一番ええ事やねぇ…」
「ま、なんとかなるんじゃないかしら。」
「…?
それはまた…どうしてやろか?」
「…
皆強いもの。」
「ああ、確かに。」
「…心がね。
それに、晃さんは私達の中で一番強いと思っているわ。」
「…?
どうしてかは聞いても?」
「…今、貴女はここにいる。
それが答えよ。」
…
彼女は立ち向かっている。
逃げても良かったのに。
大きなものを抱えながら。
だから…
強い。
…羨ましいと思う。
もちろん、晃さんの中で逃げだと思う事も沢山あるのかもしれないが、
私からすると遥かに強い。
私はずっと逃げていた。
全てから。
「…よぅ分からんけど…
魅月はんがそういうなら、
そういう事にしときます。
……そろそろ一緒に皆の所にいかな心配させてしまいます。」
「…ふふ。
そうね。
それじゃ、一緒に戻るとしましょうか。」
そう、長居してはいられない。
話を切り上げ皆を追いかける。
…まだ別れるには早い。
だから…
一時一時を大切に、前に進んでいこうと思う。
…さて、と…
夜、気づかれないように別の部屋へと移動する。
教祖に幹部達、
総出で夜の見回りをするらしい。
私はただ眠るだけ。
悪夢の夜を迎えるだけ。
それで全ては終わる。
彼等が気づかない訳がない。
その為にこの部屋の扉は少し開けてある。
他の人が気づいてここにきたなら…
不幸といわざるを得ないが、
望んで覗こうとするものなどいないだろう。
準備は全て整った。
目を閉じ眠る。
後は――
コツリ…コツリ…
薄らと灯りがともっている。
そこを歩く数名の男女。
「…まったく、こんな真似を…」
「仕方ないですよ。
まぁ、こちらには刀も銃もありますし、
これだけの数です。
化け物化け物だなんていっているけど、
化け物なんている訳がありません。」
「ふん。
確かに。
それに逆に相手を仕留める事が出来れば、
更なる信者の獲得、
ひいては政府に対抗する事が出来るか。」
「…それに何もなければ、
退治したの一言でもいい。
素晴らしい話ですね。」
最初は不満そうにしていた教祖だが、
幹部の言葉を聞いて次第に満足した表情へなっていく。
確かに、
放置すれば面倒だが、
しかるべき対処をすれば、問題なく解決するのだから。
だから、
案ずる事なんてない。
それどころか…
十二分に喜ばしい事態であるともいえる。
不安はないといえば嘘になる。
相手の正体など分からないのだから。
だが…
恐らくは単独、
そして銃はもっていないとなれば、
問題にはならない。
だから…
今は少し面倒なだけ。
面倒を我慢すれば薔薇(バラ)色の未来がある。
だからこそ――
少し開いている扉も…
躊躇(ちゅうちょ)なく、
それが当然であるように開けた。
そう。
そこからだ。
彼等の認識が一転したのは。
今だ何が起きているのか、
倒すべき相手は誰なのかわからない。
扉からもれ出るのは冷たい空気。
見なくても感じる怖気。
だが、心は訴(うった)え続ける。
覗いてはならないと。
だが、体はそれに反するように動き続ける。
そんなはずはないと。
嗚呼、もしも…
世界にIF(イフ)があるならば…
彼等は――
「うーん…」
朝を迎え、
私は悩んでいた。
…悩んでいた理由なんて大した事じゃない。
ただ…
「……刺激が足りないわね。」
…少しからかう相手が欲しくなっていた。
…なんというか、
こう頻繁に誰かをからかいたくなる衝動。
抑えようとしても、
抑えきれないのが難点。
…まぁ、純粋に…
暇、なのだろう。
長い時間を費やすには、
暇と戦わなくてはならない。
…
元々からかうのが好きな為、
そのストレスの発散が、
衝動として現れてしまう。
…
難儀なのやら…
まぁ、良いわ。
そんなおり、
誰かが近づいてくる気配がした。
…
こういう時はまず――
「キャァァァァァァァァァァァ!」
悲鳴をあげてみる事にした。
「み、魅月!?
どうしたの!?」
その悲鳴を聞いてあわてて駆け出して近づいて来るのは…
レイナさんね。
別段何かあったわけではないので、
平然として出迎える。
「…あら、レイナさん、
どうかしたのかしら?」
「いや、今悲鳴が聞こえて…!」
「気のせいじゃない?」
「気のせいなんかじゃ…
…
…ひょっとして…」
くすくす笑う私にからかわれた事に気づいたらしい。
「もー!
せっかく心配して慌てたのに…!」
「…クス…
ごめんなさいね。
どうにもからかいたくなって…」
「むー…
でも、魅月も飽きないね?」
「まぁ…ある種の生甲斐なのかしらね?」
「生甲斐なのはいいけど、
心配させるようなのは勘弁してほしいかも…
やっぱし…」
「…クス。
私が居なくなったら、
からかってくれる人がいなくなって寂しいからかしら?」
「そんなんじゃなくてさー」
レイナさんをからかうのは結構楽しい。
が、
慣れてくるとかわすのも上手くなっていくので、
中々難易度が高い。
それを攻略するのが楽しいのだけど…
「そんなんじゃなくて?」
「うーん。
言葉にするのが難しいんだけどねぃ…
…」
「…別れが近づいて来ているの、
感じたのかしら?」
「…うん。
いつその時が来てもおかしくないからね…
普段は忘れるようにしてるけど、
やっぱり言われるとね…」
「永遠の別れじゃないから大丈夫よ。」
「うん。
わかってる。
別れる時が来れば笑顔で別れたい。
けど、
…やっぱり…ね。
この所敵が強くなってきてるし、
これからはもっと強い敵…
大丈夫かなー…なんてね。」
「…そういえば、そうね。」
「…
やっぱり、皆と協力すればきっとうまくやれるって思っていても、
何処かで…
だからこそ不安っていうのがあって…
駄目だよね、
私が元気にならないといけないのに。」
「…たまには良いんじゃないかしら?
そういう気分になる時ってあると思うわ。
けど…ま、皆…
私も含めて中々しぶといから、
不安が的中しても、
なんだかんだでどうにかなるんじゃないかしら?」
「それも、そうだね。
さて、そうと決まったら――
あああああ!」
「?」
「朝ごはん出来たの伝えにきたのすっかり忘れてた…」
「…クス。それじゃ食べにいきましょうか。」
「そーしようそーしよう。
朝ごはんしっかり食べないと力でないからねぃ。」
――皆の心配、
元気を分けてくれているのはレイナさんだと思う。
だから、
彼女と話すととても安心する。
…これからも頑張っていって欲しい。
私はそう…願わずにはいられない…
――今日もまた遺跡を進む。
今日の道程を終えたら、
遺跡の外に出る予定。
厳しい道だけど、
なんとかなったようで良かった…
けれど、
ここで気を抜いてはいけない。
――最後の最後まで油断せずに突破しないといけないのだから。
立ちはだかりしはワイヤーデーモンが4体と、
ハーフシェイド。
別に珍しい敵ではない。
そして…そう強敵というわけでもない。
ただし、
こちらは多少消耗している状態では、
万全とはいえず、
故に…
どう転ぶかはまだ分からない。
残った力でなんとかなればいいのだけど…
まぁ…
「心配は無用かしらね。
ここで躓(つまづ)くようでは何もかも足りていない。
だから、通させて貰うわ。
容易くね…」
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