「…引き際を見誤ったか。」

引き際も何も、戦闘はあっという間に終わった。
何もされてはいない。
損害も消耗もゼロ。
ここまで順調だと呆気ないわね。
それにしても…
風がざわめいている。
エモさんの様子も少しおかしい。
何かが起きる前兆なのかもしれない。
その何かは分からないけれど、
それは…
終わりの始まりを意味するものであった事に気づいたのは、
その翌日の事――

* * * * * * *
誰かの為に聞かせたい音楽が、
その誰かの心を響かせるなら――
誰かの為に書いた絵が、
その誰かの心を響かせるなら――
誰かの為作られし存在は――



 

貴方達は学校に通っていて、
鈴の音を聞いた事があるかしら?
それも、
貴方達だけが聞こえる鈴の音を。
それは誘い。
鈴の音を聞こえる人だけを誘う音。
最初は気のせいくらいにしか
思わないかもしれないけれど、
その音はだんだんと大きくなって、
無視出来なくなるの。
それに、その音色はとても澄んでいて、
いずれ抵抗出来なくなってふらふらとね。
…誘われた者が何処にいくかは…
分からないらしいわ。
異次元だの、
死者の国に引きずり込まれた等、
色々あるけれど、
私達に分かるのはたった一つだけ。
その音色を聞いたものは、
神隠しにあってしまうという事。
どうしてそんな事になってしまうのか…
そしてその鈴の音色はなんなのか…
ふふ、気になるでしょう?
昔ね。
この学校に一人の女生徒がいたらしいの。
その女の子は筆箱に鈴をつけてたのね。
お気に入りの鈴を。
その鈴は…
親が残してくれたものなのかしら?
女の子が寂しく無いように…ってね。
でも、
そんな彼女の鈴を隠してしまった子がいるの。
どうして隠したかは知らないけれど、
何時もそれを大切そうにするその子に
意地悪でもしたくなったのかしらね。
その子はずっとずっとその鈴を探したわ。
一日、二日、三日…
一週間たっても見つからない。
そして、彼女はいつの間にかいなくなってしまった。
…もちろん、意地悪したその子も…
あんまり必死だから返そうと一度はしたらしいのよ。
けれど隠したはずの場所にもその鈴は無かったの。
…そして…彼女が消えた数日後、
意地悪をした子も消えたの。
彼女はいっていたらしいわ。
鈴の音が聞こえる…と。
…寂しい心、
罪悪感…
そんな気持ちを癒すように鈴は癒そうとして誘うわ。
だって…
あの鈴は少女の心を癒すために渡されたものだから。
だから…
心を癒されるべきものの前にのみ聞こえる音色で、
鈴を手にさせようと誘うの。
…もし聞こえる事があったなら…
周りに頼る事ね。
それだけが唯一の解決方法なんじゃないかしら?



「ふふ。これが私が知っている話。
 …まぁ、楽しんでいただければ幸いね。」
「怖いのか、悲しいのか…
 それとも…
 …いえ、次は私。
 早速お話していこうと思います。
 それでは――」
また一つ、蝋燭(ろうそく)の炎が消える。
七不思議ももうすぐ終わる。
残るは二本。
それにしても、
何故『七』でなければならないのだろう。
それはきっと…
この世ならざる世界と、
この世をつなぐ数字だから。
七日の夜に名づけられ、
この世に生を受け、
七日をかけて三途へ至る。
ならば七は…
この世とこの世成らざる世界を繋ぐ鍵の数字なのだろう。
…後二本で七へ至る。
全て消えたその時は――

――七は忌字なり。
死に連なる数字也。
故に七不思議が生まれたのだろう。
それは罪であり、
生死に連なる…

* * * * * * *



朝、用意を済ませ、
全員揃(そろ)って進もうという事になった時…
それは起こった。
不意に周囲に光が溢れる。
目も開けれないほど。
「しまっ…」
時既に遅く――

気がつけば私達は島にいた。
周囲に大量の人。
見渡せばそこにあるのは一面の海。
そして中央には大きな木が立っていた。
しかし、その木は妖しげな光を放っており、
お世辞にも神々しいだの、
神秘的だのいうるような雰囲気は無い。
だが…
どうやら私達はこの木によって呼び寄せられたらしい。
そして、その大樹の前に一人の少女がいた。
白い髪に白いドレスの儚げな少女。
色があるとすれば、
その瞳だろうか。
しかし、その瞳も白に近い。
不思議な印象を他者に与えるその少女は、
私達…ここにいる全ての人に向かって語りかけた。
「こんばんわ、島へのお客様たち。
 …初めましての人達のほうが多いわよね。
 私はこの島の管理人、カエダ。」
この島の管理人と名乗るカエダという名前の少女…
その表情には何も浮かばず、
無機質な声が感情を読み取らせない。
一体、何を考えているのだろう。
当然抱く疑問。
だが、彼女が何を考えているのか、
それは直に分かる事となる。
「そして、さようなら。
 …ここは過去の集積場、
 世界から失われたものの全て。
 貴方たちが二度と出会うことのないものが眠る場所。
 貴方たちはこの地に触れてはいけない、
 存在してはならない。
 ……この島の存在は知られてはいけない。」
周囲の空気がざわめく。
大樹の光はどんどんと強くなり、
その葉の一つ一つが変形し、
あるものは人の、
あるものは動物の、
またあるものは異形の形を模(かたど)っていく。
そして――
「貴方たちはここで過去となり、
 この地で永遠に眠ってもらいます。
 …おやすみなさい、
 せめて最後は良い夢を見て―――」
彼女は告げた。
それは、私達の排斥(はいせき)。
否。
私達を取り込み、その島の一部へとする事。
未来永劫(えいごう)ここに繋ぎとめる。
それはまるで――
私の呪いと同じように縛り付ける事。
そんな事は許せないし、
させたりしない。
何故なら、
私はそれを否定し今までを生きてきたのだから。
警戒を強める。
その時――
「―――おおっと!
 オイタはいけませんよぉ娘さんッ!!」
大きな声が大樹の上より響いた。
何事かと声の方を向くと、
そこにいたのは…
いかにも胡散臭(うさんくさ)いセールスマン
といった容貌の男がいた。
あれは…確か……
あまり良い思い出ではなかった気がする。
一体何をしに来たのだろうか――
「グッドイブニングお客様がたッ!
 初めましての人達のほうが多いでしょうか?
 私はこの島への招待主、榊ですッ!!」
誰なのだろうと思った矢先に、
彼は正体を明かした。
成程、彼が招待者。
なれば…
彼女を止めるというのもおかしいような気もするのだけど…
「…あなた…
 …もう役目は終わったでしょう、何の用?」
「ククッ!
 …確かに島は機能を取り戻しましたが、
 私が貴女の母上から授かった役目はそれではありません。
 私は、貴女を…
 …調教するように言われたのですッ!!」
どうやら、
彼は彼で目的があるらしい。
それにしても、調教?
…一体どうするつもりかしら?
ともあれ、そんな疑問に彼等が答えるはずもなく、
2人で勝手に話が続けている。
「……調教?」
「…おっと、あまり宜しくない表現でしたかな。
 まぁ、躾ですなッ!
 貴女のその頑なな心を歪めに来たのですよ、
 さぁ柔の心を身につけましょうッ!
 レッツ地獄車ァッ!!」
「…お客さんたちを家に帰せってこと?」
「ブラボーッ!!
 理解が早いですな!
 …失ったものに再び出会える孤島、
 それはそれで良いではないですか
 ロマンチッケスト!
 地獄やら天国やらと無闇に仕切るより断然面白いッ!
 …どうせここのものは外部には出れないのですし。」
「…嫌よ。
 もうこんなトラブルはゴメンだわ。」
「今回の件は
 エルタ・ブレイアから抜け出たエキュオスが
 島機能を狂わせただけのこと。
 その侵入を防ぐ技術など外界ですら持っていますよ?
 力を取り戻したこの島に出来ないはずがありません!」
「……。
 …まぁいいわ。
 何を言おうと構わないけど、
 もうユグドラシルの最終防衛機能は発動しちゃってるの。
 どうにかしたいなら、
 自分でどうにかなさい?」
「ククッ!
 これはこれは、確かに躾が必要そうですが…
 …至って素直ですな。
 …確かに聞きましたよ、『どうにでもしろ』とッ!!
 さぁ出番です私の中のエージェントたちッ!
 解き放ちなさい、集めに集めたマナの大群をッ!!」
どうやら…
彼女…カエデは以前の失敗を繰り返させないために、
そして、彼…
榊はそんな彼女の心をすらも癒す為に動いていたらしい。
それにしても…
榊の声と同時に私達に光…マナが降り注ぐ。
溢れる力。
そして、
最終防衛機能は発動した以上止める事は出来ないらしい。
なればこそ…
「…ヒヒッ!
 理解している皆様、
 ポカーンな皆様、
 生きる道は多々あれど、
 今この瞬間にその道のためにできることはひとつ。
 あの樹を枯らすしかありません。
 限られた体力のなかですが、
 私の命運ともども……託しましたよッ!!」
「いいわ、
 やれるものならやってごらんなさいッ!!」
力はやるから自分達でなんとかしろ。
そう彼は言いたいらしい。
そして、彼女は意地…かしら。
やめたいのにやめれない。
だから…
やめさせれるものならやめさせてみろと…
挑発する。
全く人使いが荒い。
だが…
それを成さねば終わりがこず、
それを成さねば先に進めないのならば、
やるしかない。
…十分な力はある。
だから、
精一杯を…

――私達の前に現れしは三人の敵。
見た顔もあるが、
以前とは比べ物にならない力を感じる。
まさしく強敵。
でも、逃げる事は出来ない。
闘って斬りぬけよう。
例え膝が折れる事があっても挫けずに…

「全く…どこまでやれるか分からないけれど、
 やれる所までやるしかないわね。
 さぁ、来なさい…
 私の力を魅せてあげるわ。
 存分に…
 舞い散る葉で、私の風が防げるかしら?」





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