「ヴォォアァァァ……」
「ひゃいぇえうぁやあぁぁッ!!!」

最早、
言葉に意味はなく、
ただ…暴れ狂うだけの怪物達。
更に性質の悪い事には、
お互いが仲間である事を認識しているらしく、
連携らしき素振りを見せている事。

おそらく変貌(へんぼう)に関わった
“力”の源泉が同じせいでもあるのだろう。
「…」
「考えても仕方ない、さ。
 さぁて、適度に暴れて適度に蹴散らして行こうか」
確かに考えても詮無きこと、か。
なら、確かに蹴散らすしかない。
例え相手の事が分かったとしても、
この戦闘で生かすことなんて出来はしないのだから。
ならば、
己の出来る力を全てぶつけるのみ。
それにしても…
「嫌な風が吹くわね…」
集まりし霊達も、
相手に引き寄せられるかのように、
淀(よど)んだ者達ばかり。
正直いって嫌になるが…
やることは同じ。
相手目がけて叩きつけるのみ。
「さぁ、行きなさい…!」
手を伸ばす。
それに導かれるかのように凶風(まがつかぜ)が
相手目がけて殺到(さっとう)する。
それに合わせるかのように、
エモさんの魔力の刃が敵を切り刻み…
敵が動いた。
兵士達は短剣で攻撃をしかけるだけで、
当たれば痛いものの、
その狙いは霊に惑わされ、
かろうじてエモさんに打撃を与えただけにとどまるが…
黒き巨人カリム。
その動きは鈍重なれど、
「…ッ!」
力が吸われる。
そしてその力を闇の力へと変換し解き放つカリム。
生憎、
この攻撃も霊達に惑わされたが故に、
味方を巻き込んでの大惨事となったからよかったものの…
「…直撃を受けると不味そうね…」
その威力は歴然。
その効果も歴然。
超絶な速度での回復をも実現する。
合わせるように叩き込む奏さんの打撃も、一歩届かない
「ちぃっ!討ち損じた…!」
長引けば、おそらく――
こちらが押し負ける。
「…」
「どうする、魅月?
 このままでは…」
だが…
誤算というものは存在する。
そして、
カリムにとっての最大の誤算。
それは――
「…六道輪廻(りくどうりんね)。」
「は?」
「え?」
「…六道…地獄・餓鬼(がき)・修羅・畜生・人間・天上…
 それぞれの世界を巡り歩く。
 それを知り、それに触れる事。
 カリムもその力をふるえるようだけど、
 それは私も同じ。
 そして…
 その力は私の方が弱くとも、私の方が上手く使えるわ?
 即ち――」
倒れた兵士の体から黒き力が吹き上がる。
そしてそれは、カリムに吸い込まれ…
「――!」
苦痛にうめくカリム。
「なるほど、そして…
 盛者必衰、
 私がその苦痛の分だけ、
 相手を必衰させればいいわけか…」
「で、弱ったところに魔法を叩き込む!」
――相手がいかに強くとも。
――相手がどんなに強靭(きょうじん)であろうとも
この連携をまともに受ければ、
ただでは済まない。
ましてや相手は狂う獣。
なれば…
対策など取れようはずもない。
そして…
死に絡め取られれば、
どんなに頑張ろうとも引きずり込まれる。
それが、死に近ければ近いほど。
そして…
死に踏み入れれないものでないならば。
ならば…結末は必然。
カリムの敗北。

「……ボク…ハ……コンナン…ジャ……」

崩れていく。
カリムが。
最後の最後、死の間際で理性を取り戻し、
人の声が聞こえた。
だが…
もう遅い。

「……ボク…ハ……ボク、ハ……ッ!!」

そして、彼が何を言い残そうとしていたのか。
それは分からない。
少なくとも、御霊(みたま)の声を聞くことが出来ないならば。
黒い巨人は崩れていき、
灰と化した。
後には黒い宝玉を残して。

「……こ、こ、は……?」

そして兵士達は取り残される。
幸い変貌(へんぼう)して時が立ってなかったお蔭(かげ)か、
はたまた、私の六道輪廻の力のせいか、
元の姿へ戻り、
正気を取り戻し…
深い眠りに落ちた。
「…やれやれ、あいつは救えなかったか。
 世知辛い世の中だね。
 …しかし…
 カリムは一体何を言い残そうとしてたんだろうねぇ。
 魅月なら何か分かるか?」
「……さあね。
 一つ言えるなら…
 僕はこんな風になりたかった訳じゃない。
 僕は人間だ。
 …そんな辺りでしょうね。
 何とも悲しい話。
 けど、救いがないのは仕方がない。
 私達は前に進むことだけ考えましょう?
 まぁ…」
ちらり、とエモさんを見る。
「…エモさんを見習えとまではいわないけど。」
「ん?」
つられて奏さんもエモさんを見る。
するとそこには、
カリムの刻まれた肉をほくほくと保存するエモさんの姿。
「…
 見なかったことにしてもいいかい?」
「どうぞ、ご随意(ずいい)に。」

* * * * * * *
――ご覧なさい――
人は和を保つ為に、
外れた者を迫害(はくがい)する。
嗚呼(ああ)、
なんて――



それは、魅月が一人になって間もない頃。
魅月はあてどなく道を彷徨(さまよ)っていた。
目的があるわけではない。
行く先も、帰る場所がある訳でもない。
己に行く場所などないのだと…
何度も死のうともした。
だが、それすらも許されぬ事に気づいたのも、
己の体が毎夜を経る度に
魂が切り裂かれんばかりの激痛にうなされる事に気づいたのも…
そう時間がかからなかった。
だから、彷徨う。
あてのない旅を。
どうしていいのかも分からずに。

――ヒュッ、ゴッ…

そして、行く村行く村で、
石を投げつけられた。
服も体ももうぼろぼろで――
乞食(こじき)や厄介者と大差がないよう見られてしまうが故、
仕方ないのだけれど。
(嗚呼…)
どうして私は未だこうしているんだろう。
壊れてしまえば何もかも楽になるのに。
けど…
壊れようとする度に、
皆の事を思い出す。
だから…
それを忘れたくなくて…
私は壊れるのを思い止まった。
何度も、
何度も――
救いの御手(みしゅ)などありはしないというのに。
失われたものは戻らない。
今まで頑張って来たのだから…
もう十分。
もう楽になってもいい。
忘れてしまってもいいというのに…
どうしても…
忘れるわけにはいかなくて――
彼等の分まで生きねばならぬという想いが
私を突き動かしている。
…限界などとうに過ぎた。
それでも、それでも…
まだ――
けれど、その願いを打ちのめすように苦難は続く。
村から村へと渡り歩き、
渡り歩いては迫害にも似た行為を受ける。
そんな最中、
とある山奥の小屋で人に出会う。
その人はとても優しくて、
私の姿を見るや否や、
辛かろうと、
私の服を繕(つくろ)って、
食事、寝床すらも提供してくれた。
見返りを求めての行為なのかと思ったのだけど、
それとも違う。
優しい心で。
けれど、その優しい心すらも…
私は触れ続けれない運命にあるらしい。
そんな生活が、1、2週も続いた頃だろうか。
お互い心を許せるようになった時、
事件は起こった。
…その時の光景は未だに忘れられないし、
口にしたくない。
ただ一つ結末をいうと、
…その人は死んだ。
それも、私のせいで。
私が…心を傾けたから…
ああ、なんて救いのない。
それでも、心は壊れず、
私は歩む。

誰か答えて。
私は冷たいの?
それとも…
私はとうの昔に壊れているのかしら?

――愚かしくも美しい――
それが人であるが故に、
それが人らしくあるが故に。
なんて醜くも美しい…
最も自然な姿――

* * * * * * *



先へ進む。
そんな矢先、
レイナさんに話しかけられた。
「…どうかしたの?」
「ん、いや、大したことじゃないんだけどさ。」
「…?」
「…バレンタインの事考えてるかなーなんて。」
「ああ、そういえば…」
確かにもうすぐそんな時期にさしかかる。
特に考えてはいなかったのだけれど、
世話になった皆には配ってみてもいいかもしれない。
「それで、魅月には本命いるのかなーって思ってさ。
 なんだか仲良い人は一杯いるみたいだけど、
 この人が本命って魅月はいるのかなーって気になってね。
 あ、別に答えなくてもいいよ?
 興味本位って奴なのさ。」

本命?
「…本命というと…」
「言葉通りの意味だけど?」
「…」
じっと考える。
…気になっている人はいる。
親しい人もいる。
特別な人もいる。
けれど…
好きな人は私にいるのだろうか?
「…特に思いつかないわね。
 今は。」
「そっか。」
「…それで思い出したのだけど、
 好き…
 というか、
 愛してるって感情が薄れているのか、
 忘れてるだけなのか分からないけど、
 はっきりしないみたいなのよ。」
「…それは悪い事聞いちゃったかなぁ?」
「いえ、
 そんな事はないけど…
 まぁ、
 まだ時間はあるしゆっくり考えてみるわ。」
「そっか。」
「それで…」
うんうんと頷くレイナさんに向けてお願いを一つ。
「…よかったら一緒に作ってくれないかしら?
 料理はレイナさんの方が上手だし。」
「あ、うん。
 そうだね。
 一緒に作ろうか!
 その方が楽しいし。
 俄然(がぜん)楽しみになってきたね。」
「ええ、とても。」
はたして、どうなるのか、
それはお楽しみ。

――そんなこんなで先を進むが、
ちょっとした手違いで仲間と別れることに。
幸い3人そろっているし、
向こうも3人そろっている模様。
…特に問題は無い。
毎度の如くお邪魔虫の如く敵が現れる事も含めて。
現れた敵は…
影に率いられし人形達。
だが、この程度で私達を止めれる道理はありはしない。

「…出会って直で悪いけど、さよならね…
 貴方達では決して止められない。
 ただ散るのみよ。
 それでもいいなら――
 かかってくるといいわ。」






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