「ハッハー!食い物拝借するぜェ!」
「久しぶりの食事だーッ!」
「久しぶりの食事だーッ!」

…気がついた時には、
私は1人地へと倒れ伏していた。
霊も散り、最早私に抗う術はない。
無様ね…本当に――
…この敗北は全て私のせいだ。
――自業自得――
私は、こんな所で終わってしまうのだろうか?
…ゆっくりと…ゆっくりと…
咀嚼される感覚。
ああ…私が消えていく…
少しずつ…少しずつ…
――でも、これで良かったのかもしれない。
これで、私は解放されるのだから。
心残りは…仲間の皆とお別れがいえない事と…
悲しませてしまう事くらいだろうか…
…フフ…
どうして、私はいざとなると――

――どんなに苦しくても――
――どんなに惨めでも――
――どんなに辛くても――
――生きていたいと願わずにはいられないのだろう――


本当に…滑稽…
…意識が…闇に…沈んで…
もう…何も…聞こえない…
沈んで…ゆ……く……

―――?
声が…聞こえる…
「…………さん!……月…ん!しっ…り…!」
遠く…から…?いえ…これは、もっと近く――
誰の声…だろうか…?
「しっかり…!魅月さん…!」
男の人の声…?
ゆっくりと薄目を開ける。
目に飛び込んできたのは…
ファイン・ジャック…ジャックさんの必死に呼びかける声。
「…ジャックさん…?」
「ああ、良かった。気がついたみたいで。
 血まみれになって倒れてたから、
 慌てて呼び起こしてみたのさ。
 それより、大丈夫かい?
 一応包帯は巻いておいたんだけど…」
ほっとしたように優しい笑顔を浮かべるジャックさん。
そう言われて自分の身体を見てみると、
包帯が巻かれているのが見えた。
「…それは、迷惑をかけてしまったみたいで…
 ごめんなさい。」
謝る私。だが――
「いや、困った時はお互い様っていうか、
 そんなのを見て放っておけなかったしね。
 ほら、男として。
 ――立てるかい?」
「…大丈夫…ッ…!」
立とうとして激痛が走り、思わず呻いてしまう。
「ああああ!無理しちゃ駄目だよ!
 うーん、良かったらついていこうか?
 なんだか心配だし…」
その言葉に首を振る。
たとえ、1歩も動けないとしても――
「…大丈夫。
 少し疲れてるだけ。
 少し休めば――
 それより、私の事は気にしないで行った方が良いわ。
 …仲間も待っているのだろうし、
 それに――
 もう、貴方は十分助けてくれた。
 ここまでやってくれたら後は1人で大丈夫。
 これ以上、甘えても良いのかもしれないけど…
 それは私のプライドが許さない…から…
 …もし、機会があれば、礼をさせてもらうわ…」
…それでも、尚――引かないジャックさんだったけど、
なんとか、誤魔化し、別れ行く。
――そんなジャックさんの背中に向けて、
ありがとうと呟き、私は激痛の走る身体をなんとか動かし、
前へと歩き出した――

暫く歩いた所で、再び倒れ、仰向けに寝転がる。
もう疲れと痛みで指一本動かせない。
夜空の星を見上げながら、
静かに息を吐き…
泥のような眠りへと堕ちていった――

* * * * * * * *
――出会いは激しく苛烈に。
絶対に相容れぬ存在。
敵対し、お互いを否定するしかない存在。
――でも、もし――
それでも分かり合えるなら…
それでも相容れる事が出来るなら――
それを可能とするのは、
人の心なのかもしれない――



――そのまま突き刺さるかと思われた投剣は、
私の皮膚に触れることなく、空中で停止し、
力なく落ちる。
「チィィィ!
 Eli,Eli,Lema Sabachthani
投剣が効かなかった事をみるやすぐさま離れ、
聖書を開く。
聖書より舞い上がる紙の嵐。
紙の嵐は雷鳴となりて私へ襲い掛かる――
が、やはり、雷鳴も全て私を外れる。
私は一歩も動いていない。
それ所か――
私はアルバート神父の動きは全く見えていない。
そんな事も気づかず、
アルバート神父は私に向かって突進し、
素早い動きで私に剣を突き出してくる。
Let your conduct be without covetousness
be content with such things as you have.
For He Himself has said,
“I will never leave you nor forsake you.”

次々と繰り出される剣。
普通であれば、
私の身体は無数の肉片となって、
即殺されているだろう。
だが、
私に攻撃は“当たらない”。
なぜならば、
私にアルバート神父の動きは見えないが、
たった――
たった一つ、見えて理解しているものがある。
それは、私に群がる無数の霊の存在。
恐らくアルバート神父は見えていない。
あまりにも儚く、
あまりにも多き故に、
“意識的に見ようとしていない”のだから。
そして、無数の霊達は今、
アルバート神父の動きを全て逸らしているのだ。
それにも気づかず必死で剣を繰り出し、
額に汗を浮かべるアルバート神父。
それどころか…
アルバート神父の身体に様々な裂傷が逆に出来る。
「く…はぁっ…!」
暫くの猛攻の後、凄い勢いで後方に移動するアルバート神父。
「…」
「馬鹿な…
 一体何が起きている…
 一体…一体なんなのだ…!
 何もされていないのに、
 何故私の身体が傷つけられねばならぬ、
 何故私の攻撃が当たらないッ…!
 く…ならば、貴様の強さの秘密を解き明かしてくれる…!
 while we do not look at the things which are seen,
 but at the things which are not seen.
 For the things which are seen are temporary,
 but the things which are not seen are eternal...

 …なぁ…ッ!」
聖句を唱え悲鳴をあげるアルバート神父。
そして、彼は見たのだろう。
私に群がる有象無象の醜悪な、
そして無数の霊達を。
私の邪気の元を。
――例え、アルバート神父が強かろうと、
之だけの数を相手には恐らく出来ない。
それが自分でも分かっているのだろう。
見る見るうちにアルバート神父の顔が蒼ざめていく…
「…」
静かにじっとアルバート神父を見る私。
彼が震えているのが分かる。
恐怖を必死に抑えこもうとしているのが、
手に取るように…
――分かる。
「…く…あ…馬鹿な…?
 死霊術…いや、これはそんなものではない…
 もっと異質の何か…?
 そして、邪気の元はこいつらで、
 …何の力ももっていない…だと…?
 どういう事…だ?
 狙っているターゲットでは無い…
 だが――」
「…昔…」
「…!」
「昔昔、ある所に1人の女の子が居ました。
 女の子は普通の生活を送っていましたが、
 ある時生贄に捧げられそうになります――
 が、生贄は捧げられず、
 神は生贄に呪いをかけました。
 1人、苦痛の中で永久に生きるようにと――
 信じるかしら?」
暫し流れる沈黙。
だが沈黙はアルバート神父が剣を捨て、破られた。
「……一ついえる事は…
 私はまだ倒れるわけにはいかない。
 ――休戦…だ。
 …詳しい話を聞かせてもらっても良いかい?」
「…ええ、ゆっくりと――」
手を差し出し握手を求めるアルバート神父の手を、
しっかり握り返し握手する。
――かくして――
神父と私の戦いは一先ず幕を閉じる事になった――

手を取り合おう
手を取り合おう。
それで、幸せが掴めるのなら。
それで、平穏な日々が過ごせるなら。
それで――
目的を果たす事が出来るのであれば。

* * * * * * * *



目を覚ます。
視界の赤は薄らとして来ているが、
油断をすると意識を刈り取られそうな程の激痛が襲う。
「く…あっ…」
だが、こんな痛みで止まってはいられない。
私はまだ、仲間達と合流していない。
もう少し――もう少しで、
仲間達と合流する予定のポイントに到着する。
今だ待ってくれているのか、
そうでないのかは分からないが――
…いかねばならない。
約束…そう、約束したから。
――共に戦うと。
諦めもした。
もう良いと投げ出そうともした。
でも、ここまで来た。
身体を引きずって。
もう、後少し――
だから――
もう少し頑張って、私は約束を再び果たしたい。
だから、
――待っていて、
私はもうすぐ、皆の所にいくから――

身体を引きずって歩く私の耳元に、
不意に声が聞こえてくる。
「――諦めたら?
 もう無理よ。
 貴女はもう先に進めない――
 良いじゃない。
 貴女はよくやった。
 だから――
 もうゆっくり休んだら良い。
 永遠に――さぁ――」
あまい誘惑の声。
その声に身をゆだねたくなる。
けれど、
首を振ってその声を聞くことを拒否する。
これは――
私の声。
諦めれば楽になる…
今までもそうしてきた。
そして、それ故に……
かつて、一番の友人ですら守れなかった。
そう、これは…私の弱さの声。
――だから、耳をかしてはいけない。
私は弱い。
心も、身体も…
その弱さと決別する為にも、
今は仲間の為にも…前に進もう。
出来る限り。
例えどんなに苦しくても、
心と身体が動く限り――
歯を食いしばって前に進もう。

――私の前に、黒い影が一匹舞い降りてきた。
まるで御伽の世界の小悪魔が抜け出てきたよう。
そいつは私に向かって、襲い掛かってくる。
――…次から次へと…――
本当に…私の邪魔をしてくれる。
どうして私を放っておいてくれないのだろう。
どうして…私を仲間の元にいかせてくれないのだろう。
どうして……私をどこまでもどこまでも苦しめるのだろう。

「私の邪魔は…させないわ!」

■第二回 文章コミュイベント■
参加しています。


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