風を――
死霊を振るう。
研ぎ澄まされた刀のように。
しなやかな鞭のように。
そして時には、
逸らし、
いなし、
防ぐ――盾の様に。
抵抗等無意味である事を教えよう。
やる事は至って単純。
薙ぎ払い、
潰し、
砕く。
始ってみれば、
結果は上々。
当然ともいえるもの。
風に砕かれた者達は、
そのままエモさんと奏さんに始末される。
「……」
「……」
「つぅぅよぉぉいぃぃぃっ!!」
弱いといえば弱い。
これくらい乗り越えて当然。
ただ誤算があったとすれば…
疲労が溜まりすぎている事。
ただでさえ、
態勢が最悪の状態での召喚。
ひっきりなしの戦闘。
そして過剰なマナによる消耗に、
過度の力による疲労。
それだけでなく、
その力の源のマナの減少に、
敵の強化。
それでも未だ敵の数、
先は見えないほど多い。
「……」
果ての無い戦い。
「……容赦なく、
にしては甘っちょいですねぇ。」
「うっさいわねぇ……
器用じゃないのよ。
そのうち絶望を味わわせてあげるわ。」
「えぇえぇ、
そうしてくださいな。
子供は無邪気が一番ですッ!」
それが分かっているのかいないのか、
榊の様子は変わらない。
そして…
カエラにはまだ奥の手がある。
…
なるほど。
カエラの奥の手にあわせて、
もう一つ刃を隠し持っているのかもしれない。
それまで戦い切れるのかは疑問だが…
闘っているのは私達だけじゃない。
可能性は十二分にあるだろう。
とりあえず、
今は休息を。
また戦いに赴かねばならないのだから。
けれど…
そんな私の前にレイナさんが現れた。
「やっほ、魅月」
酷く憔悴(しょうすい)しているように見える。
「…どうしたの?
大分疲れてるみたいだけど。」
「んー…
ちょっとそろそろ限界みたい。
晃さんも藤さんも限界のようだし…
私達はこれからでるつもり。
多分、ここにはもう戻れないと思う。
それでさ…
魅月達の方はどうするのかな?
って思ってさ。」
…こんな日が来るのは分かり切っていた。
どちらが先にそうなるかまではわからないとしても。
来るべき時が来たとはこういう事をいうのだろう。
「…私達はまだ戦うつもりよ。
まだ余力はある…
とはいっても、
私と奏さんはそろそろ限界ね。
後はエモさん頼みになるかしら?
出来る限りの援護はするつもりだけど。」
「そっか…
…頑張ってね。」
「ええ、勿論。
…ひとまずはお疲れ様。
また後で会いましょう?」
…また一つ、
頑張る理由が出来た。
全く次から次へと頑張る事が増えていく。
それが嬉しくもあり、
重くもある。
…出来る事は限られているし、
限界もある。
けれど、
闘える限りは諦めない。
大丈夫。
心は共にある。
「うん。
また後で。
それじゃ、そろそろ行かないと――
全く、本当に面倒な事が続くねぃ――」
「本当に、ね。」
クスリと笑い、
レイナさんを見送る。
藤さんと晃さんの姿も暫く見送っていると見えた。
2人にも手を振る。
…
寂しくなるけれど、
ここまで一緒にこれただけでも十二分。
それに、また会えるのだから、
ここで気に病む事はない。
ただ真っ直ぐ己の道を貫こう――
ゆっくりと追い詰めていく。
相手の動きについては分かる。
「伊達に霊達と付き合ってきた訳ではない…
…
まぁ、認めたくないけれど、
それが功を奏したわ。
後は追い詰めていくだけ。
簡単な仕事ね。
そのうち相手も
こちらに飛びかかってくるのでしょうけど――」
恐らくは問題ない。
2人からは引き離した。
私を探しにこちらに来る可能性、
霊の元に来る可能性はあるが――
問題はない。
暫くは足がすくんで動かないだろうし、
何より、
はぐれたら外で合流する事にしてある。
戻った時には、
まあ、
女の子の姿が見えたので追いかけてたといえば良いだろう。
例え霊だとしても、
怖くなかったとでもいえば…
…
難しいかもしれない。
けれど、
不可能ではない。
だから、
ここからはもう友人達の事は考えないでもいいだろう。
ならば、
私は後する事は…
「このまま狩るだけね。
狩るといっても…
私に被害が来るからあんまり好ましくない…
とはいえ、
それで今後の被害がなくなると考えれば…
まぁ、悪い取引じゃないわね。
死んだとしたら、
それはそれで私の望んだ結末でもある。
はたしてどうなるかしらね。
それにしても…
こうして追われる事には慣れてないのかしら?
まぁ…
一方的に害を加えてきただけなら、
当然といえば当然なのでしょうけど。」
相手の動きが変わる。
今度はこちらに攻めてくるつもりらしい。
とはいっても、
感知さえしていれば、
そう迎撃するのは難しくない。
本来の少女の力でこられたら難しいが、
殆ど自棄になって繰り出してくる攻撃。
勢い、
スピード、
力は凄くとも、
それには実が伴っていない。
実が伴わぬ攻撃であれば、
私の護身術の方が強い。
私の護身術はそういうものなのだから。
最も――
相手が単数でなければ、
これだけ強気には出れないのだけれど。
実は2人いましたなんてことになれば、
眼も当てれない。
けれど、
それは無い。
それが感覚で理解出来る。
不可解な点があるとすれば――
「そういえば、
愛したい、
愛してあげるという声が聞こえたわね。
――愛の形は様々で、
普通の愛から、
愛する人を傷つける愛、
愛する人を食べる愛、
愛する人を拘束する愛、
様々あれど、
愛するが故に殺す愛とはね。
ふふ。
しかも愛する人は人全てなのかしら?
愛する方はそれでいいのかもしれないけれど、
そんな愛を望まない人からすれば、
とんだ災難よね。
――ふふ。
けど…
聞こえてないだろうけど、言ってあげる。
その愛は悪くもないし、
間違ってないわ。
ただ向けた相手が悪かった。
運が無かったという事。
良くある話よね。
貴方の愛を受けた人間が、
向けられてしまったのが悪かったなら、
ただ逆になっただけ。
同じ事よ。
だから…
嘆く必要も、
残念に思う事もないわ。
さぁ、いらっしゃい…
どんな出迎えをしてくれるのか、
本当に楽しみ――」
どんな手で私に襲い掛かるのか。
真正面から?
それとも不意打ち?
地形を利用して?
それとも私の想定外の方法でだろうか?
考えるだけで胸が躍る。
楽しみでしょうがない。
いささか平穏にも空いていた頃。
平穏という名の空虚では、
生きている実感が満たせようか?
否、
満たす事などできはしない。
刺激を。
もっと刺激を。
生きている実感を。
それを感じる事で、
私は人である事が分かりえる。
待ち受けた先が死であるならば、
受け入れよう。
私はすでに死してもおかしくない身。
死が訪れるならば、
それは自然の理なのだから。
とはいっても、
永遠の苦悶などであるのなら、
あまり願ってはいないが…
元より苦悶は感じているし、
付きまとっている。
多少の事ならいつもの事。
「ふふ…」
薄く笑う。
見つけた。
すぐ近くにいる。
さぁ、扉を開けよう。
扉の向こう側には――
終幕の訪れは突然に。
というにはいささか早く、
正確な事ではない。
だが、
感覚が伝えている。
私が後全力で戦えるのはこの一回くらいだろう。
それ以上は体が完全にもたない。
限界が来ている。
分かり切っていた事とはいえ、
こうも実感があると、やはり不安になる。
私の手は届くのだろうか?
私は貫き倒せるのだろうか?
誰にも答えは分かりはしない。
ただ――
「……」
もしも、
この終わりに私が立ち会えないとしたら、
とても残念だと思う。
ここまで来たのだから、
やはり立ち会ってみたい。
後少し。
そう後少し…
ここで使い果たすとしても、
マナの力でできれば後一太刀…
報いる事が出来ないかと思ってしまう。
嗚呼、
なんて我侭(わがまま)。
許されないとまではいわないにしろ、
都合のいい願いである事は分かっている。
本当に都合のいい願い――
けれど、
それにすらすがりたくなるほど、
まだ先は遠い。
こちらの数も減ってきた。
残ったのは凄まじい実力を誇るものと、
地道に戦い抜いてきた者達くらいだと思う。
私達に関していえば、
後者にあたるのだろう。
だが、物思いにふけってもいられない。
舞い落ちる葉が敵を模る。
それにしても縁があるのか、
見知った顔に出くわすなんて。
けれど、
強すぎるという程の相手ではない。
闘うなら手頃な相手だろう。
だからこそ…
こんな所で負けるはずがない。
必ず勝利する。
少なくとも、
気構えだけはしっかりしないとね。
残された力を全て使えば、
勝利するのは難しくはない。
今はエモさんを温存し、
更なる戦いを迎える為に――
「貴方達も運が悪いわね。
切りぬけれるか、
切りぬけられないかは問題じゃない。
ただ、
貴方達は苦痛に身をゆだねる事になるわ。
私の残された力全てを使って――
貴方達を討つのだから。
さあ、懺悔(ざんげ)は済ませたかしら?
覚悟はいい?
――始めましょう。」
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