「ごめんなさいいいぃぃッ!!
ごめんなさいいいいぃぃぃッ!!!
にいぃさぁぁんっ!!」
「……くっ!!」
吹き荒れる風、
放たれる魔法、
繰り出される必殺の一撃。
そのどれもが相対者を立たせはしない。
ただ打ち砕き、
滅びをもたらす。
有象無象の区別なく、
情け容赦もなく。
それが私達の戦い方。
先手必殺。
押し切れねば勝利出来ぬが故に、
押し切るしかないが為の苦肉の策ともいえる。
そして…
これは背水の陣。
後ろは無い。
前に進めねば倒れるのみ。
「あやぁ?
あたしどうしちまったんだぁ?
(髪が緑色に染まり異臭を放つ…)」
そんな必死さが幸運をもたらしたのだろう。
直に最後の一人も押し切る事に成功し、
勝利を得る。
これでまた一歩。
まだまだ多数の葉は残っているとはいえ、
最初に比べれば大分減ったはず。
とはいっても…
減れば減るほど、
徐々に…木に禍々しさが宿ってゆく…
恐ろしいというべきか。
弱気になってはいけないけれど、
弱気にならざるを得ない状況に辟易(へきえき)する。
「……ようやく愉しい舞台を創れそうよ、
榊おじさま?」
「おやおやそれはそれは、
カエダお嬢様。
私はもう下火ですが、
どうしたもので?」
「もう終わりにしましょうってことよ……」
そう。それは前兆。
更なる絶望への。
葉の形が変わる。
それは最も戦闘に適した形へ。
そしてこちらには余力は少ない。
状況は最悪。
…勝てるのだろうか?
いいえ、
勝たなければならない。
全力でぶつからないと…
それに戦っているのは私達だけじゃない。
もしもの時は……
扉を開けると同時に身を屈める。
通り過ぎるは刃。
メスの刃。
得体のしれない敵。
どうしても倒さねばならない。
ならばどうするか。
ありったけの狂気を。
ありったけの殺意を。
ありったけの凶器で倒せばいい。
近づくのも恐ろしい。
ならば遠くから。
遠くからなら投げればいい。
だが、
投げるだけでは確実ではない。
ならば現象を利用する。
幽霊ならではの現象を。
それは騒霊…
――ポルターガイスト――
舞い踊るように宙を舞うは、
数多の凶器。
そして、避けた初弾ですら油断はならない、
それは外れたのではない。
舞っているのだ。
故に――
とっさに横に飛ぶ。
正面と背後からの魔弾が過ぎゆく。
それだけでは終わらず、
私目がけて飛んでくる。
「少し、数が多いわね。」
だが、
幸いに弾道は単純にして明快。
避けられない程度ではない。
とりあえず、
今は避けて避けて避け続ける。
避けれない弾は、
足で、肘で…
近場のもので防いでいく。
流石に払い落とすのは難しそう。
怪我は出来るだけおいたくない。
怪我にはならないとしても、
手を痛めるだけでも、
後々致命的な事にならないという保証はない。
何故なら――
こうして避け続ける事で、
恐らくじれて本命が登場する。
相手の思考は単純明快。
故に、
思い通りにならなければ気が済まないはず。
そう。
優雅に踊るように私は避けましょう。
相手を挑発するために。
こんな無粋な凶器の舞など…
問題ならないとでもいうが如く。
暫く待っているうちに、
少し騒霊の動きが鈍る。
それでも激しい攻撃で、
裂傷は避けれない。
けれど、
構いはしない。
致命傷は無い。
支障も無い。
ならば、
どんなに激しい攻撃でも意味はなく、
私は戦える。
本当に戦うのは私でないとしても、
私は私の意志でどうにかする。
否、
してみせる。
たかだか悪霊一体。
それすらも相手が出来なくて、
己に付きまとうもの、
己の呪いにどうして打ち勝てよう。
…
そう。
私は制する。
制してみせる。
ほんのわずかかもしれない。
けれど…
それが己の死への第一歩。
そう信じているから。
さぁ、早く出てきなさい。
どこから出て来るの?
いいえ。
そんな事決まりきっているわね。
恐れを知り、
私を殺そうとした子供。
そして、
こんな騒霊では殺せぬとしったなら、
きっと彼女は――
終わりがやってくる。
終わりが近い。
私達は未だこの戦場にいる。
終わりの瞬間ここに立っているとは限らない。
それでも終わりが近いこの瞬間、
私達が立っているという事は、
きっと意味がある。
どんな意味なのかは分からない。
けれどきっと――
それは意味のある事。
終わりに向けて歩き出そう。
終わりに向けて立ち向かおう。
相対するは葉の化身。
私達が受け持つはたった一体。
されどその力は絶大。
数ではなく、その質で圧倒している。
まさに最強。
そして、
最後の守護者といえるだろう。
勝てるのか?
勝てないのか?
誰にもわからない。
その実力は計り知れないのだから。
消耗しきった私達に抗ずる術はあるのだろうか?
勝利できるかは分からない。
けれど…
きっと何かあるはず。
その何かが起きるよう残った力を振り絞ろう。
――せめて願わくば――
「悔いの残らぬよう――
諦めを抱かぬよう――
ただ無心をもって立ち向かいましょう。
ふふ。
こういう時はこういうのが礼儀かしら?
いざ尋常に――
勝負ッ…!」
私達は駆け出す。
最強であろう偽葉の使徒が立つ、
その戦場へ。
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