「ごめんなさいいいぃぃッ!!
ごめんなさいいいいぃぃぃッ!!!
にいぃさぁぁんっ!!」
「……くっ!!」

吹き荒れる風、
放たれる魔法、
繰り出される必殺の一撃。
そのどれもが相対者を立たせはしない。
ただ打ち砕き、
滅びをもたらす。
有象無象の区別なく、
情け容赦もなく。
それが私達の戦い方。
先手必殺。
押し切れねば勝利出来ぬが故に、
押し切るしかないが為の苦肉の策ともいえる。
そして…
これは背水の陣。
後ろは無い。
前に進めねば倒れるのみ。

「あやぁ?
 あたしどうしちまったんだぁ?
(髪が緑色に染まり異臭を放つ…)」


そんな必死さが幸運をもたらしたのだろう。
直に最後の一人も押し切る事に成功し、
勝利を得る。
これでまた一歩。
まだまだ多数の葉は残っているとはいえ、
最初に比べれば大分減ったはず。
とはいっても…
減れば減るほど、
徐々に…木に禍々しさが宿ってゆく…
恐ろしいというべきか。
弱気になってはいけないけれど、
弱気にならざるを得ない状況に辟易(へきえき)する。

「……ようやく愉しい舞台を創れそうよ、
 榊おじさま?」
「おやおやそれはそれは、
 カエダお嬢様。
 私はもう下火ですが、
 どうしたもので?」
「もう終わりにしましょうってことよ……」


そう。それは前兆。
更なる絶望への。
葉の形が変わる。
それは最も戦闘に適した形へ。
そしてこちらには余力は少ない。
状況は最悪。
…勝てるのだろうか?
いいえ、
勝たなければならない。
全力でぶつからないと…
それに戦っているのは私達だけじゃない。
もしもの時は……

――Another Story――

「うーん…」
「そんなに悩んでどうしたんだい?」
「あ、いえ…
 予算編成なんですけど…
 機密費の内訳にどうもよくわからないのがありまして…
 調べてみたら大分昔から定期的に使用されていて、
 渡っている人物は戸籍が違うけれど同じ人物のようで…
 でも、
 どう考えてもおかしいんですけど…
 戸籍上では全て15〜18なのに、
 同じ人物だとしたら、
 当の昔に100は超えてますよね?
 しかも公然の事実のようにまかり通っている。
 これは…」
「ああ、それか…」
なるほど、得心がいったといわん表情で、
眼鏡をかけた老齢の男性が頷く。
その様子をみて不安そうな顔をする中年の男。
「それか…
 じゃないですよ!
 国家予算をこんな妙な――」
「それは契約なんだ。
 君にはまだ言ってなかったね。
 山本君。」
「――え?」
訳が分からないという顔をする山本と呼ばれた男にも
優しい微笑みを浮かべる老齢の男性。
「この世には理解出来ない出来事がある。
 科学のこの時代にだよ?
 科学では説明できない事柄があるなんて、
 不思議だとは思わないか?
 それを否定する事は簡単だ。
 だが…
 否定した所で、
 それが事実であるならば、
 ただ見ぬふりをして避けて通るだけで、
 何の解決にもなっていない。
 だが、
 それ故に解決せねばならない事がある。
 そして、
 人の手ではどうにもならない出来事もまた然り。
 そういう時に人に何が出来るというのか?
 いや、ひょっとしたら出来るのかもしれないね。
 だが…
 最もいい手段は可能な人材に頼る事だ。
 ――
 そして、
 それが力あるものを敵に回さずに済むのならなおさら、な。
 …
 忘れたまえ。
 見なかったことにしたまえ…
 それが賢明だ。」
「で、ですが…」
「…君は殺せるのかな?」
「は?」
「不死ではないかもしれないが、
 不老で、
 不死に近い存在を。
 殺せるだけの力があるというのなら…
 それもまたいいだろう。
 だが、出来ないだろう?
 出来るはずもない。
 嘘か真かは分からんがね。
 少なくとも、銃では殺せないらしい。」
「ちょ、ちょっと待って下さい、
 う、嘘ですよね?」
「だとしたらどんなに良かったか…
 …
 それでも信じられないなら…
 来るかね?
 他言は無用。
 もし喋れば命はないぞ?」
「…はい。」
部屋の奥へと二人は消える。
机の上には書類と一枚の写真。
写真に写っていたのはもちろん――



 

* * * * * *
子供らしい。
子供らしい。
実に可愛い行動。
シンプルで単純。
だからこそ――恐ろしい。



扉を開けると同時に身を屈める。
通り過ぎるは刃。
メスの刃。
得体のしれない敵。
どうしても倒さねばならない。
ならばどうするか。
ありったけの狂気を。
ありったけの殺意を。
ありったけの凶器で倒せばいい。
近づくのも恐ろしい。
ならば遠くから。
遠くからなら投げればいい。
だが、
投げるだけでは確実ではない。
ならば現象を利用する。
幽霊ならではの現象を。
それは騒霊…
――ポルターガイスト――
舞い踊るように宙を舞うは、
数多の凶器。
そして、避けた初弾ですら油断はならない、
それは外れたのではない。
舞っているのだ。
故に――
とっさに横に飛ぶ。
正面と背後からの魔弾が過ぎゆく。
それだけでは終わらず、
私目がけて飛んでくる。
「少し、数が多いわね。」
だが、
幸いに弾道は単純にして明快。
避けられない程度ではない。
とりあえず、
今は避けて避けて避け続ける。
避けれない弾は、
足で、肘で…
近場のもので防いでいく。
流石に払い落とすのは難しそう。
怪我は出来るだけおいたくない。
怪我にはならないとしても、
手を痛めるだけでも、
後々致命的な事にならないという保証はない。
何故なら――
こうして避け続ける事で、
恐らくじれて本命が登場する。
相手の思考は単純明快。
故に、
思い通りにならなければ気が済まないはず。
そう。
優雅に踊るように私は避けましょう。
相手を挑発するために。
こんな無粋な凶器の舞など…
問題ならないとでもいうが如く。

当たらない当たらない当たらない。
どんなに攻撃を繰り出しても、
どんな方向からの攻撃でも避けてしまう。
ドウシテ当たらない。
こんなにもいっぱいいっぱいいっぱいなげているのに。
たくさんたくさンたクさンなげテいルノ二。
ドウシテアンナニモ鮮ヤカニ避ケレルノ?
ドウシテアンナニモ余裕ナノ?
気に入らない。
気ニ入ラナイ
キニイラナイキニイラナイキニイラナイ。
ムカツクムカツクムカツクムカツク。
私ノ愛ハ万物ニヒトシク、
カナラズ、
確実ニ与エラレネバナラナイ。
ダッテ、
ワタシハ愛シタイノダモノ。
ワタシノソンザイ価値ナノダモノ。
ナノニ、
アレハソンナ私ノ愛ヲ受ケ入レナイ。
ダカライラナイ、
イラナイイラナイイラナイ。
イラナイモノハステテシマオウ。
イラナイモノハケシテシマオウ。
処分。
ソウ。
処分ショブン処分処分ショブン処ブン処分
処分ショブンショ分ショブンショブン!
ケレド、
ソンナ願イモ叶ワナイ。
カナワナイカラキニイラナイ。
アアアアアアアア!
――なんだ、そうか。
簡単な話。
うん。
私が手をくださないから悪いんだ。
掃除機では大きなゴミは捨てれない。
人の手で初めて捨てられる。
だから、
私の力でないと処分出来ないんだ。
なんだ、簡単。
今すぐに捨ててあげる。
ふふ…
あははははははははははははははは!



暫く待っているうちに、
少し騒霊の動きが鈍る。
それでも激しい攻撃で、
裂傷は避けれない。
けれど、
構いはしない。
致命傷は無い。
支障も無い。
ならば、
どんなに激しい攻撃でも意味はなく、
私は戦える。
本当に戦うのは私でないとしても、
私は私の意志でどうにかする。
否、
してみせる。
たかだか悪霊一体。
それすらも相手が出来なくて、
己に付きまとうもの、
己の呪いにどうして打ち勝てよう。

そう。
私は制する。
制してみせる。
ほんのわずかかもしれない。
けれど…
それが己の死への第一歩。
そう信じているから。
さぁ、早く出てきなさい。
どこから出て来るの?
いいえ。
そんな事決まりきっているわね。
恐れを知り、
私を殺そうとした子供。
そして、
こんな騒霊では殺せぬとしったなら、
きっと彼女は――

――遠くで鐘が鳴る。
勝負は一瞬。
出会った瞬間お互い動く。
己の願いを叶える為に。
さぁ、正面から邂逅(かいこう)しよう――

* * * * * *



終わりがやってくる。
終わりが近い。
私達は未だこの戦場にいる。
終わりの瞬間ここに立っているとは限らない。
それでも終わりが近いこの瞬間、
私達が立っているという事は、
きっと意味がある。
どんな意味なのかは分からない。
けれどきっと――
それは意味のある事。
終わりに向けて歩き出そう。
終わりに向けて立ち向かおう。
相対するは葉の化身。
私達が受け持つはたった一体。
されどその力は絶大。
数ではなく、その質で圧倒している。
まさに最強。
そして、
最後の守護者といえるだろう。
勝てるのか?
勝てないのか?
誰にもわからない。
その実力は計り知れないのだから。
消耗しきった私達に抗ずる術はあるのだろうか?
勝利できるかは分からない。
けれど…
きっと何かあるはず。
その何かが起きるよう残った力を振り絞ろう。
――せめて願わくば――

「悔いの残らぬよう――
 諦めを抱かぬよう――
 ただ無心をもって立ち向かいましょう。
 ふふ。
 こういう時はこういうのが礼儀かしら?
 いざ尋常に――
 勝負ッ…!」


私達は駆け出す。
最強であろう偽葉の使徒が立つ、
その戦場へ。





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