襲い掛かる敵。
冷たい凍気がこちらに降り注ぐ。
それに対抗すべく、
炎風をもって立ち向かう。

一瞬敗北の様相を垣間見たけれど…
マナの力がそれを打ち砕くかのように力を与えてくれた。
炎は氷を溶かすが如く、
相手を飲み込む。
怨嗟(えんさ)の声と共に。
己の身を焦がすような炎に、
痛み、
苦しみ、
もがき、
己の魂すらも燃やし尽くすが如く――

そんな声にももう慣れてしまった。
心はまだ痛む。
だから、
構わない。
けれど――
私は痛みに耐えている。
それが、
辛く苦しくて…
私が辛く思うのも、
苦しく思うのも…
間違っている。
そう。
間違っているのかもしれない。
けれども…
それは現実としてそこに…
私の内にある。
…無い方がいいのかもしれないが、
己が人である為に…
これからもずっと大切にしていきたい。
…感傷なのかしら。
水色の髪の女性をみていると、
その対極――
寒さで死んだ魂の悲鳴が聞こえるようで、
見ていて苦しいものがある。

せめて、
安らかに眠れるよう早く葬ろう。
だが、
それを阻むかのように
銀色の髪の男性が奮い立たせる。
こちらはまだいい。
霊達に絡め取られ、
動けずにいるのだから。
――問題は…
相手には最も厄介な敵がいる。
それこそが問題。
それは銀の髪の女の子。
恐らく対極。
神聖な空気が私の霊の動きを阻む。
エモさんも相性が悪そうにしている。
幸い、奏さんが相対してくれているから、
問題ないが…

之はそれなりに長期戦になりそうね。
ある程度長期戦は可能とはいえ、
きつい事には変わりない。
難しい戦いになりそう…

――ドウシテ――
ドウシテ貴女ハ戦ウノ?



不意に、声が聞こえた。
否。
ひょっとしたら幻聴なのかもしれない。
けれど――

――楽ニナッテシマエバ、
皆…
楽二ナレルノニ――
抗エバ、
抗ウホドニ苦シイノ二――



はっきりと聞こえる。
聞こえてるのは私だけなのかもしれないけれど。

――諦メマショウ?
貴女ハ苦シム必要ハ無イ。
諦メテシマエバ…
永遠ノ素晴ラシサガ――



それはきっと。
私の終わりの一つの形と、
この島の終わりの一つの形が同じせいなのかもしれない。
一つ違うとすれば、
この島はそれが幸せの形で、
私はそうでないと思っている事。
…皮肉にも程がある。
私はその声に耳を貸さず、
力を振るう。
例え相手を倒せる気配がなくとも、
相手がどんな攻撃も防いでも――
力を振るい続ければ、
いずれはどちらかが倒れる。
そして。
私は負けたくない。
だから、
精一杯力を振るう。
どんなに効いてるように見えなくとも、
相手にダメージは通っているはず。
だから…
諦めなければきっと打ち砕く事はできる。
それに、
この葉で作られた偽物は、
まだ力が弱い部類。
――だから、もう負けられない。
負けたくない。
声を払って力を振るい続ける。
一心不乱に、
真っ直ぐに。

「……くっ!!」

その意志が通じたのだろうか。
銀の髪の男性が崩れ落ち、
葉となって消える。
こちらの力は十分残っている。
そして、相手が一人減った今…
均衡は崩れた。

「お役に立てるのならこの鎖……喜んで外しましょう。」
「あああぁあァァッ♪満足したわ…」


均衡が崩れた以上、
2人が倒れるのも時間の問題。
見事打ち砕く事に成功する。
だが、
それで終わりという訳ではなかった。
辺りに立ち込める凍気が集まり、
狼の形になり襲い掛かる。
されど、
その力は強くはない。
だからこそ――
倒すことは難しくはない。
難なく打ち破り勝利する。
だが…
やはり、その消耗は大きく、
中には耐えきれなかったものもいるらしい。

「あらら、大丈夫かしら?
 少しずつこの場から人が離れていっているようだけれど。」
「…ヒヒッ
 ……そう悪いことばかりでもありませんよ。
 マナの供給先が少なくなるにつれ、
 ひとりに与えられる量も多くなりますからねッ!
 2倍ッ!
 3倍ッ!!
 さらに倍ッ!!
 7つの球を集めて願いを叶えてしまうくらいの世界を
 軽々と実現してみせましょうッ!!」
「……みんな、
 どうなっちゃうのかしら。」
「……その件については、
 私はただただ強く期待を抱くのみですなッ!」


それは、
榊とカエダの声を聞けば分かる。
とりあえず、今は体を休めるとして――
これからの戦い、
はたしてどうなっていくのだろうか…
願わくば勝利、
そして…
各々が望んだ未来を掴まん事を。

* * * * * * 
定められている。
定められている。
もしも、七不思議があるならば…
七つ目の話はきっと、
常に七番目に定められている――



 

――この学校が出来た頃。
この学校が出来る前。
一つの出来事がありました。
それはとても小さな出来事。
この学校を建てたうちの六人が、
夜に怪談をやろうと集まったのです。
六人が怪談を終わったその時、
いつの間にか七人目がそこにいました。
そして、
七人目は言いました。
「とても、面白い話でした。
 また聞きに来てもいいですか?」
と。
六人は言いました。
「俺達はもう、
 この学校が完成したら、
 次の建物にいかなきゃならない。
 だから集まれはしないんだよ。」
と。
すると、七人目は言いました。
「それなら、
 もっと一杯話してほしい。
 もっと、もっと一杯。」
六人は笑って答えました。
「ああ、いいよ。」
それから、彼等は忽然(こつぜん)と姿を消しました。
今もまだ、
彼等がどこへ行ったかは分かりません。
だけど、
どうなったかは分かります。
七人目がきっと六人を連れていってしまったのです――



「…これが最後の話。
 短くてつたない話だけど。
 さぁ、最後の蝋燭を消そう。」
最後の火が消える。
「…そして、
 皆之からも一緒だよ?」
「…何?」
「?
 いったじゃないか。
 七人目はもっと一杯話してほしいといって、
 そのまま皆を連れていくんだよ。
 一人ぼっちは嫌だもの。
 今は一人じゃないけれど、
 多ければ多い程寂しくないよね。
 だから、
 一緒に行こうよ。」
「ふざける…!」
「ドアが、ドアが開かないよ!」
「電気もつかない…!」
訪れる闇の中、
七人目の声が響き、
慌てる皆の声と、
現状の異常さを伝える声。
皆、
完全に混乱に陥っている。
誰も、今何が起きているのか見えていない。
たった一人…
私を除いて。
暗いといっても、
全く見えないわけじゃない。
落ち着いて火をつけて蝋燭に灯す。
普通ならば霊に邪魔をされて、
それは許されないのだろう。
だが…
私ならば出来る。
「…怖い体験もしたし、
 これで終わりかしら?
 記事が楽しみね。
 期待してるわ。」
七人目はその時既に消えていた。
そして、
茫然(ぼうぜん)としている皆を後目(しりめ)に、
ドアを開ける。
「…それじゃ、気を付けて帰りましょうか。」
そして何事も無く皆帰宅する。
私も含めて。
…ただ…
まぁ、
彼の行いの妨害をしてしまったのだし、
後日、私は一人で訪れる事にした。
その時の話は…
またいずれといった事になるだろう。
それにしても…
こんな所で私の力が役にたつとは思わなかった。
薬が毒になるように、
毒が薬になる事もある。
これからも長い付き合いになっていく。
もっと上手く付き合えるように…か。
仕方ない事とはいえ、
ついつい気が滅入ってくる。
…けれど、
そうもいってられない。
其処に突破口があるかもしれないなら…
それが再認識できて、
上手くいったのだから…
今は喜ぶのがいいのかしら。
まぁ、皆が怖い目にあったのは…
好奇心の授業料って所かしら?
最悪を避けられただけ、
感謝してもらいたいくらいね。

――冷静に。
落ち着いて。
慌てて混乱した瞬間、
僅(わず)かな光明も見失う。
慌てず騒がず、
迅速に。
冷静とはそういう性質――

* * * * * * 



戦いの時が来る。
再び葉が集まり形を成す。
模られたのは、
一人は知らない。
赤い髪の男。
しかし、残り二人には見覚えがある。
片方はサバス、
そしてもう片方はクリフォード。
強敵には違いないが、
勝機がない訳ではない。
マナの力満ちている以上、
負ける理由もほとんどない。
後はしっかり押し切れるかどうか…
といった感じだろうか。
それにしても、
偽物にしても、
本者にしても、
行動原理、
そして、
行動内容はほぼ同じ所をみると、
完全に忠実にトレースされているといってもいいかもしれない。
…となると…
…猛然と突っ込んでくるのは、
やはりクリフォード、か。
全くもって厄介な。
けれど…
大丈夫。
落ち着いて、敵をみよう。
落ち着いて、戦おう。
見知らぬ相手でも隙はある。
ならば、
私は其処を突こう。
大丈夫、
自分を信じ、
仲間を信じよう。
さぁ――
心の準備は整った。
戦いを始めよう。
心身共に十二分。
冷静に、
着実に。
後はゆっくり真っ直ぐ、
一歩ずつ前へと歩むだけ。
歩みを止めぬ限り、
負けはない。
歩みを止めぬ限り、
諦めはない。
臆すことなく前へと進み、
勝利を皆で掴もう。

「まだまだいけるわ。
 さぁ、始めましょう。
 そして終りにしましょうか。
 大丈夫。
 必ず貴方を葬って見せるわ。
 まだ倒れる訳にはいかないのだもの。」





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