疾風の如く、
光が煌き…
闇が蝕む――
ヒカルさんが素早く矢で蟻を射抜いていく、
そして、それを援護するかのように、
霊達が蟻の体に纏わりついて蝕んでいく。
さしもの巨大蟻も
スピードで翻弄され続けてはどうする事も出来はしない――

「もう歯がボロボロ。」

そう呟いた蟻の巨体が崩れ落ちる。
終えてみれば呆気無さ過ぎる終わり方…
「――流石ね、ヒカルさん。」
私は微笑み小さな拍手を送る。
「魅月さんもおおきに。」
微笑み返すヒカルさんに、
私はただ微笑んで、
「…私は何もしてないわ。
 蟻の生態を調べ終えたら行きましょう?」
ただ、それだけを告げて適当な場所に座りヒカルさんを待つ。
暫くの調査の後、私達は更に奥へと進んでいった――

奥へ進んで魔法陣へとたどり着く。
後は、遺跡の外に出るだけ。
早速外に出る為に魔法陣を起動させ、
遺跡の外に戻る――
喧騒に包まれた遺跡の外。
遺跡の外へ到着すると同時に…
不意に背後より声がかけられた。
「くっく!キミは今から外へ戻るんですねっ!
 ボクはこれから遺跡の探索に戻るのですよっ!
 くくくっ!
 いやぁ、お疲れ様でした。
 声をかけた理由ですか?…くくっ!
 いや、知り合いと出会えたら…
 つい嬉しくて喋りかけてしまうんですよっ!
 くっく!…それで、遺跡内はどうでしたかねぇ?」
後を見てみれば、
青紫のトンガリ帽子を被った詩人がそこにいた。
彼の事は良く覚えている。
彼は――スロキール・スタルタスタン。
島に来て直に私に声をかけるだけかけて、
何処かへ消えていった男。
追いかけて見つけて、それから彼とは知り合いになった。
「あら、スロキールさん。
 貴方は之からなのね…
 健闘を祈るわ。
 こちらは長く居たから少し心配だったのだけど…
 まぁ、なんとか上手くやり過ごせた…
 上々…といった処かしらね。」
スカートの裾をもって軽く礼をして挨拶をする。
「くくくっ!
 それは何よりですねぇ…くくっ!
 おおっと、残念ながらそろそろ行かないとっ!
 名残惜しいですが、
 之にて失礼しますよっ!
 しかし…
 美しい女性の声援があるとやる気がよりでますねぇ?
 くっくっく!
 では、名残惜しいですが之にて失礼しますヨッ!」
軽快なステップで、遺跡の中へと踏み込んでいく。
その姿はまるで風のよう。
気がつけば消えている。
「――色々呼び名があるのだろうけど、
 私から言わせてもらうなら…
 ――まさに、飆風の語り部…といった処かしら。」
クスリと微笑み踵を返し仲間の下へ。
仲間と合流すると、
仲間達にまた明日の朝におちあうよう告げ、
私は仲間と一端別れた。
すぐさま、遺跡外の片隅に移動する私。
…誰も、いない場所へ。
喧騒から離れ、夜空を見上げると、
空では丸い月が昇っていた。
目を細め静かに想う。
――あの月のように皆眩しい。
だからこそ焦がれるも、
私は――居ても良いのだろうか…
ため息をつき首を振る。
…もう寝よう。
そう心に決めて、
静かに瞳を閉じるとすぐさま睡魔が襲って来た。
…今日もまた、私は苛まれるのだろうか――


* * * * * * * *
優しい時は過ぎていく。
日が沈み、
夜が更けると共に。
それは逃れられない事。
きっとそれは
――不可避なる私の宿業。
だから甘んじて受けましょう。
之までも、そして…
――之からも――



談笑を続けているうちに、夜が更けた。
「あ。もうこんな時間!」
「あら、本当。
 それじゃあ、お母さん腕をふるって御馳走を作るわね。
 折角九音の友達が来てくれているんですもの。」
静かに立ち上がり歩み行く雫さん。
恐らくは台所に向かったのだろう。
「あ、お母さん、私も!」
それに慌てて続く九音。
「それじゃあ――私も」
といって私も手伝いに行こうとしたら、
八音さんに止められる。
「お客様はゆっくりなさって下さい。
 何、
 またいずれ手伝ってもらう日がありますよ。
 さてと…」
雫さんと九音さんが消えた所で八音さんが私と向き直る。
「お話をしましょうか。
 ――それで…」
話をしようとした所で、手で制し、発言を止める。
「…問題はただ一点。
 貴方が感じている私の穢れ――
 邪気は、日が昇っている間と、
 私が眠りにつくまでは何もしないわ。
 過去の経験から分かっている事――
 離れた場所で眠るのが良いのだけど、
 まぁ、今夜は一晩起きている事にするわ。
 もとよりそのつもりだったから。」
静かに聞きたいであろう事を先手をとっていう。
面食らったのか、
口をパクパク動かし二の句の告げない八音さん。
が、直に落ち着きを取り戻し…静かに咳を一つして…
「…そうですか。
 しかし、大丈夫なのですか?
 年若い女性が眠りもしないというのは、
 大分辛い事だと思うのですが…」
静かに諭すように告げる八音さん。
「…それも大丈夫…みたいね。
 …一つ…
 告げようか迷ったのだけど…
 恐らく私は貴方より年上よ。
 ……それでも、今もこうしていられるのもまた、
 私の穢れ…故に…
 たとえ一晩寝なかったとしても、
 多少疲れるくらい。
 心配しないで――
 あら、晩御飯の用意が出来たようね。」
漂ってくる香の方向に視線をやる。
静かに押し黙る八音さん。
何を考えているのだろうか。
――その時の答え、
今もまだはっきりと覚えている。
「…悲しい、悲しい運命ですね。」
静かに呟く八音さんの言葉に驚く。
悲しい運命だなんて、言われる事なんてないと思っていた。
「…詳しい事は分かりません。
 でも…人の摂理を越えて生き続ける…
 穢れと邪気を宿しながら…
 普通ならば人は狂う。
 でも、貴方は狂わない。
 もしかしたら狂えないのかもしれない。
 …それは…
 最大の苦痛であり、最大の罰にも等しい…
 でも、それを何でも無い事のように貴女は思っている。
 だが…それ故、悲しい…」
流れる沈黙。
その沈黙の中、九音の声が届いた。
「おとーさん、魅月さん、ご飯出来たよ!
 早くおいでー!」
底抜けに明るい声。
「…それじゃ、いきましょう?
 …少なくとも、九音…
 貴方の娘さんには…
 私は救われている。
 それは、きっと幸せよ。」
その声を聞いて静かに立ち上がり八音さんに告げる。
「……行きましょうか。
 それではこちらです…
 ……ありがとう
一つ頷き、同じく立ち上がり私を先導する八音さん。
――何故あの人は、ありがとうといったのだろうか――

自分の運命を呪った事はある。
でも、自分の運命が悲しい事だなんて…
思った事はなかった…
そんなに悲しい運命なのだろうか?
辛くないとはいえないけど、
辛い運命なのだろうか?
…少なくとも、私はここに在り、
幸せを感じる事も出来る。
無為に過ごしていたとはいえ、
楽しかった事もある。
…分からない。
けど…考えるといつも…
胸がとても苦しくなる…

* * * * * * * *



――…
目が、覚める。
胸が苦しくて、思わず胸を押さえた。
何故こんなにも苦しいのか、
それは分からないけれど…
こういう時は、他の事をして気を紛らわすのが一番。
そう決めると、手早く朝の日課を済ませる。
すると突然、不意に空が暗くなった。
…日は昇ったばかりなのに何故?
不意に空を見上げると、翼を広げた人影が其処に居た。
その人影、彼女には見覚えがある。
「…あら、雷鼓さん、どうしたの?」
―彼女に向かって声をかける。
彼女は水の気を纏いし天狗――雷鼓。
「ん?なんだ魅月じゃねぇか。
 今降りるからちょっと待ってな!」
声をかけると私の方に気づいて舞い降りて…
「ま、ちょっとばかり用事があって此方に来ただけだから、
 直戻るんだがな。
 そっちはこれからか?
 …それにしても、
 てめぇは相変わらず面倒なのを大勢引き連れているが…
 邪魔臭くねぇか?」
少ししかめ面をして律儀に相手をしてくれる雷鼓さん。
サバサバしていて、面倒見が良くて…とてもいい人。
「ええ。これから。
 邪魔臭い…けど、之ばっかりはしょうがない事ね…」
「成る程な。
 で、あたしに何の用だ?
 まさか用事無くて呼んだとかじゃねぇよな?
 あたしゃ之でも結構忙しいんだぜ?」
静かに答える私に被せるように用件を聞いてくる。
…まぁ、用はないのだけど…
「…大した用…ではないのだけどね。
 また用件があれば、
 気兼ねなく言って欲しいという事と――」
「…チッ、ねぇのか。
 ま、いいや。
 てめぇも含めて誰にも気兼ねなんてしねぇよ。
 で?まだあるんだろう?」
「…こっちが肝心ね。
 …貴女の力で、少し…祓ってくれないかしら?」
静かにそう告げると一瞬キョトンとした後、
笑顔になる。
「なんだ、ちゃんとした理由があるんじゃねぇか…
 無くてもいいけど、
 そういう事なら喜んでッ…!」
雷鼓さんの抜いた刀に水気が集まる。
反応して襲い掛かる霊は触れる前に消えていく。
煌く一閃――
水気のこもった渾身の一撃が私に炸裂する――!
――…
しかし、私は無傷で立っていた。
霧散する霊達…だが、
即座に集まり始める。
…これでもダメか…
「チッ、結構良い一撃だったんだが――
 根源から潰すには別の方法がいりそうだな。
 ま、何かあったら教えてやるよ。
 それじゃ、そろそろいかねぇといけねぇから…
 またな!」
やれやれと言った表情で空へ舞い上がる雷鼓さん。
手を振って見送る。
「…ありがとう…またね!」
そして、空に向かって叫び返す。
…本当に…良い人ね。

その後、仲間達と合流し、外へ行く用意。
全てを整え、遺跡の外に出る前に、
練習試合をこなす。
練習試合は…
お腹もふもふさせてもらえて幸せだったわね…
そして、新たな一歩を今
――踏み出した――

「今度の探索では、
一体何が出るのかしら…楽しみね…
精々期待に答える出来事があればいいのだけど――」




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