小悪魔…
ミニデビルは無数の魔法を解き放つ。
――その魔法の軌跡を私は見る事は叶わない。
速すぎる――そして…
破壊力も凄まじい。
今、私の周囲にいる霊達の数は少なく、
その力も損なわれている。
――このままでは恐らく、
何も出来ないまま、ここで私は朽ち果てる――
それが理解出来る。
――って――
…私にはどうにも出来ない、
そう思った矢先に、不意に声が聞こえた。
何をいっているのかは分からないが…
何か聞かねばいけない事のような気がして、
再び耳を済ませると、今度ははっきりと聞こえた。
頑張って――
……この声は、レイナさん?
でも、こんな所に彼女がいるはずはない。
彼女はもっと先に…
視線を巡らしてみても姿は見えない。
幻聴……だろうか。
それにしてははっきりと聞こえた気がするけれども。
…まぁ、良いわ。
たとえ幻聴だったとしても…
その声は私の気力を奮い立たせてくれたのだから。
だから…
「邪魔よ…退きなさい…!
貴方達に構っている暇は無いッ…!」
手を真っ直ぐに伸ばす。
それは命令。
霊達に私の前に立ちはだかるモノ達全てを刺し穿てという。
初めて…だった。
――霊達が私の事を聞いたのは。
一陣の風が吹きぬける。
そして、気づいた時には既に、
ミニデビルは地へと倒れ伏していた。
「おでもう限界!」
…勝った…の?
いえ、それよりも…
今私は確かに、霊を繰る事が出来たの…よね。
――一体何故――
もう一度やれといわわれば、
きっと出来ないだろう。
ただの偶然か、
それとも――
…一つ確かなのは、そのお陰で生き延びる事が出来た。
ならば――
今はこの事を考えず、
この身体を引きずって早く皆と合流しよう。
ゆっくりと、
私は前に進んでいく、全身を引きずるようにして…
ただ1人、前へずっと進んでいく。
身体の傷は全て塞がってはいる。
だが、
激しい動きをすれば、
全ての傷口は開くだろう。
それに、痛みだけはどうしょうもない。
――目的の場所にはまだ着かない。
もうそろそろ着いてもいいはずなのに――
焦燥に絡め取られていく。
ああ、早く…
早く…!
だが、そんな願いも叶わず、
前が段々見えなくなってくる。
最早、限界だ――
ああ…
皆と会うことはもう…ないの…だろうか…
――ごめんなさい――
心の中で仲間へ謝罪する。
それと同時に、
身体の力がぬけて、
前へと身体が倒れ――
――地面へ身体は届く事は無かった。
意識が途絶える前に、
優しい腕に私の身体は支えられたから。
それが誰の腕なのかは分からないし、
何かいってるような気もするけれど、
声も聞こえないから、
一体それが誰なのかは分からない。
でも…
何故だろう。
とても心に安らぎが広がっていく――
安らぎと共に、
私の意識はどんどんと闇に堕ちて――
「――さて、話を聞きましょうか――」
今、
私は地下ではなくアルバート神父の私室へと通されていた。
部屋は簡素で、
慎ましく…まさに神父の部屋…
といった感じがする。
「…細かい話はしないわよ。
私はただ平穏に高校生活が送りたいだけ。
――霊達に関しても普段は何もしないわ。
私が1人でいさえすれば、
私が責め苦を味わえば済む――
貴方達の神ではない神の呪いで、ね。」
「成る程。それ以上は教えるつもりはない、と――
ですが、まぁ…
良いでしょう。
信じましょう。
――願わくば、天にまします我らが神よ、
この哀れな子羊に慈悲あらん事を――」
静かに用件だけ告げると、
頷いて、とりあえずは納得したのか、
十字をきり祝福してくれるアルバート神父。
「では、こちらも事情を話すとしましょうか。
吸血鬼がこの学園に入り込んだ。
それで貴女こそがと思ったのですが、
違う事が分かり、
敵対意志が無いようなので、
――まぁ、よしとすれば、残る3人のうちの誰か。
そして、教会の協力者もいるはずなのだが――」
「私のせいで特定出来ないと。
まぁ、それに隠蔽くらいはしてそうよね。
――いいわ。
私も何かあったら手伝うし、
情報提供くらいなら出来るかもしれない。
…その代わり、私をひっそりおいといて欲しいの。」
「…完全に放置…とはいかないが…
まぁ、私が保護者という事でなんとかなるでしょう。
…それでは、また何かあれば…と言う事で。」
そういって手を差し出すアルバート神父。
私もその手を握り握手する。
――これで完全に安心…
だけれど、吸血鬼…か。
…面倒な事になってきた。
探しても見つからないという可能性も高いのだけれど、
恐らく、私はそういうものすらも引き寄せてしまう。
即ち…縁をきる事は出来ないだろう。
ああ――本当に憂鬱――
静かな学園生活を送りたい、
それだけなのに、
そんな願いすらも叶わない――
一つため息をついて、
くるりと踵を返し、
神父の部屋、そして教会を後にする。
空を見上げると既にすっかり暗くなっている。
綺麗な月が浮かび上がってはいたものの――
その月は私にとってとても不吉なものを感じさせた。
まるで――
月はこれから起きる事を全て知って、
見ているというかのように――
嗚呼、本当に憂鬱――
誰か私をこの憂鬱から救ってはくれないかしら――
日の光を瞼の向こう側から感じる。
朝が来た――それを感じてゆっくりと私の意識は覚醒していく。
そして瞳を開けて、眼を覚ましたとき、
私はズタボロになったベッドの上に居た。
「…ここ…は…」
辺りを見回してみると、
椅子に座って眠っているレイナさんの姿があった。
――激戦でもあったのか、
少しぼろぼろになって疲れているといった感じだ。
…そして、窓から差し込む朝の光。
…まさか――
暫くじっとレイナさんを見ていると、
はっと目を覚まし、
私が起きているのを見て慌てるレイナさん。
「あ、魅月、起きたの?
起きたなら起こしてくれたらいいのに!」
「…いえ、私も起きた所だけど…
その…一体どうして私はここに?」
「あ、えーっと、
それなんだけど、ビックリしたよ。
待ち合わせ場所でずっと待ってたら、
血まみれで現れて、突然倒れるんだもの。
なんとかあわてて、身体を支えて、
皆でここまでつれて来たってわけさ。」
うんうんと頷き、
大変だったからねというかのように、
私へと微笑みかけるレイナさん。
「――そう、ありがとう。
それに夜は迷惑かけたみたいね。
ごめんなさい。」
「謝らなくてもいいよ。
皆も手伝ってくれたからなんとかなったし、
気にしないで欲しいっていっても、
…
駄目みたいねぃ。
――あそこまで大変だとはちょっと予想して無かったかな。
でも、言ったとおりだったでしょう?
私達は大丈夫だって――さ?」
なんてことは無かった。
大丈夫というように私は微笑かけられる。
――嗚呼。
本当に素敵な仲間に私は巡りあえて――
本当に良かった――
「――そうね。
嗚呼、そうだ。
ちょっと朝御飯を買いに行ってくるわ。
皆疲れてるでしょうし、
私はおかげさまで調子が良いみたいだしね。
――それと、貴女の声が聞こえた気がするわ。
もう駄目っていう時に。」
ベッドから出て、立ち上がり、
扉の前に立ってそれだけいって、
部屋を後にする。
――返事はいらない。
これはきっと、
伝えるだけで良い事に違いないから――
遺跡の外をふらふらとあるいて、
朝御飯になりそうなものを探していると、
良い香りがただよってきた。
香りに誘われ、そちらへ歩みを進めると、
其処には、パンをもった1人の女性…メエコさんが居た。
彼女は羊らしいのだが、
一見すると、普通の女性…にしかみえない。
羊さんの角は生えてはいるのだけれど…
「あ、魅月さん!
魅月さんも遺跡から出てたんだ(*・ω・*)」
「ええ、奇遇ね。メエコさん。
良い香りがしたからこちらに来てみたら出会うなんて、
予想だにして無かったわ。」
元気な笑顔で迎えてくれるメエコさんに微笑む私。
「良い香りってきっとこれの香りだと思うの!
最近パン作りにこってて、
今もってるこのパンも私が作った作りたてなのよ(^ω^)
あ、良かったら一つどうかしら・v・?
美味しく食べてくれると嬉しいな>w<えへへ^v^」
「…あら、いいの?
それじゃ、いただこうかしら?」
「じゃあ、はい、どうぞ(*・ω・*)」
差し出されるパンを一つ受け取り、頭を下げる。
「…食べたら、感想を届けさせてもらうわね。
本当にありがとう」
「はーい、美味しくたべてもらえるといいな^v^
それじゃ、またね。
あ、また新しいパン焼いたら食べてくれる?(*・ω・*)」
もちろん、と頷いて手を振って分かれる。
長話をしようかなと思ったのだけれど、
その前に朝食をまだ済ませていないのだから。
それにしても、メエコさんは料理が上手なのね。
――きっと美味しいに違いない――
私は貰ったパンと買ってきたものを両手に抱え、
来た道を戻っていった――
…皆と一緒に食べた、
パンは予想通りとても美味しかったことを追記しておこう。
――朝食を済まし、
次の行動をきめる話し合いを行う。
ある程度要望はでていたので、
特に問題なく決定。
…
上手くいくといいのだけれど…
それにはまず、
次ははぐれる事のないようにしないとね。
じゃ、気を取り直して…
「全力を尽くすとしましょうか――」
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