この島にはコミュニティなるものが存在するらしい。
色んな人が集まって作られたものらしいので、
幾つかに参加するよう申請してみる。
私の捜し求める物の所在がつかめればありがたいのだけど、
まぁ、其処まで期待するのは無理な話。
しかし、
参加する事でこの島の情報を得られる事があればもうけもの。
私はこの島について何も知らないのだから当然といえば当然。
仲間達の中には、
既に多少の知識を得たものがいるとはいえ、
色々あって失われた部分も多いらしい。
ならば、少しずつでもいいから、
知識を収集するのが大切というもの。

仲間で思い出したのだけれど、
皆、自らの力で戦えるらしい。
私は自らの力では戦う事が出来ないし、
私の意志で霊をコントロール出来るわけではない。
故に、私には

戦闘能力というものが存在しない。

多少のまじない程度であれば、
長き時の間に得た知識で使う事も出来るものの、
明らかに戦う事においては役不足。
…自らの力で戦う事の出来る皆がとても羨ましい。
その中でも…藤九郎さんはご老体。
なのに私よりも力強い。
そして、
奏さん、エモさん、ヒカルさん、レイナさんもそう。
見た目、私より多少年上。
エモさんに至っては年下ぐらいであるというのに、
やはり、自らの力を振り絞って戦えるほど力強い。
…私だけが力の無いのが悔やまれる。
…皆が妬ましい…
…けれど無いものをいってもしょうがない。
私は私でやれる事をやるしかないのだから。
そう、私は私でやれる事を――
でも、私がやれる事とは一体何なのだろうか。
…せめて足手まといにならないようついていく…
それくらいかしら?

「ふぅ…」
そこまで思考を巡らし、
ため息を1つ漏らす。
この島へ来てから何回目だろうか。
私がため息をついたのは。
「本当に…難儀で、因果なものね…」
呟いて空を見上げると、明るい月と無数の星の煌きが見える。
そういえば、
こんな夜空を見たのは何十年ぶりだろう?
町が発展していくにつれて、
空は淀み、
月や星の煌きを目にする事が無くなっていった。
田舎の方へいけばいまだ見る事が出来たとはいえ、
便利さと引き換えに少しずつ少しずつ、
見える場所が減っていく。
…なんと私達は罪深いのか…
ダメね。
こんなに静かだと、
一人で色々考えちゃって。
でも、そんな事よりも今は…
ただ、この情景をじっと見ていたい。
何も考えず、この情景を目に焼き付けたい…
だって夜空はこんなにも…
「綺麗なんだもの…」
そっと夜空に手を伸ばす。
手を伸ばせば星がつかめそうに思えたから。
ああ、
本当に綺麗…
まるで夜空に吸い込まれそう…
………
……


ヨルガオトズレル…
静かな暗き夜が。
真に暗き時が。
それは、死者の世界。
生きる者を喰らい、
侵食する世界。
「贄…贄だ…」
「贄が眠った…」
「贄の瞳は閉じた…」
「今なら、襲える…」
「今なら、躊躇する必要もない…」
「さぁ、今宵も喰らおう」
「さぁ、今宵も遊ぼう」
「さぁ、今宵も殺し尽くそう…」
霊が集まる。
日中とは比べ物にならない程の悪意をもって。
そして集う。
魅月の体へと。
「が…ァ…」
漏れる苦痛の声。
心臓が喰らわれ、
血の流れが止まる。
肺が引き裂かれ、
呼吸が止まる。
内臓が、
そして、手足が、
全てが千切れ、砕け、弾けとび…
全てを喰らわれる…
毎夜眠るたびに行われる狂宴。
毎夜訪れる痛み。
それでもなお、
死ぬことも消える事も出来ず、
生き続け、
時をおけば姿を保ち続ける…
日が昇るまで、
ずっとずっと…繰り返される悪夢…





……
………
ふと気がつけば、瞼の裏に明るい光が差し込んで来た。
何時の間にか眠りに落ちていたらしい。
そして、服を見ると、
地面と服に赤黒い染み。
――また、か…
人気がない場所にいって服を着替える。
こういう時の為に着替えの服は大量に用意してある。
ただ、染みが落としづらい。
なんとかしないといけないと思うのだけど、
まぁ、頑張って洗うしか無さそう。
ただ…遺跡外に戻らないと、
完全に洗う事が出来なさそうなのが残念ね。
多めに服を用意しておいて本当に良かった。
軽く服を手近な水場へいって洗う。
こういう何もない状況で、服を洗うのは久しぶりな気がする。
久しぶりとはいえ、
何年も繰り返した事のある行為。
問題はない。
そうやって、洗っていると――
「あれ?魅月さん何してるの?」
ふいに背後から声をかけられた。
後を振り返る。
そこにいたのは仲間のレイナさん。
「…服を洗っているのよ」
ほっと、安心して1つ息を吐き答える。
「服をってそんなに汚れたの?」
「ええ。まぁ…見ての通りね。」
そういって、服を見せる。
大分血の汚れは消えたとはいえ、
まだまだ汚れが目立つ。
「…これって…血?」
不思議そうに首を傾げるレイナさん。
「…ええ。そうよ。」
「って!どっか怪我したの!」
頷く私に、
驚いて怪我を確かめようとするレイナさんを手で制し…
「いえ、別に怪我をしたわけじゃないけど…
 …私が眠ると良くあるのよ。
 こういう事が。
 日常茶飯事だから気にしないで良いわ。
 別に何処も怪我をしていないから…」
…そう。
怪我をしても、死ぬような怪我ならば、
生き返り治ってしまう。
それが私。
でも、そんな事が言える訳が無いので、
こう答えたのだけど、
大丈夫かしら。
顔色を窺う私。
「んー…それなら良いんだけど…
 でも日常茶飯事って…
 あ、言い難いなら良いけど、
 もし喋ってくれる気になったら、ちゃんと言ってね?」
少し困惑した表情をみせるも、
すぐに笑顔になって他の仲間達の処へと戻っていく。
……
本当に良い人ね…
…いつか、話せる時が来るかしら。
…私としては知られないまま、
ずっとずっと過ごしていくほうが良いのだけど。
だって、その方が幸せ。
そう、幸せよ。
…知らない方が良い事もあるのだから…


朝食を済ませ、いよいよ遺跡へと出向く。
遺跡の中に広がる自然。
全く遺跡の中でもこうなんて、本当に平和ね。
草原の風が気持ちいい。
こうやって、ずっと風に身を任せていると、
本当に…
霊達も風が好きらしく、
とても大人しく、
嬉しそうにしている。
…こうしてみるととても、可愛い個体とかもいるので、
良いのだけど…
でも、私は知っている。
奴等の恐ろしさを…
(…本当に、こうやって可愛いままだと良いのだけどね…
…そうだ。
飼ってみようかしら?
一匹か二匹ほど、可愛らしいのを。
…多少、気分も楽しくなるし、
それにうまくいけば、
霊達とうまくやれる方法が見つかるかも知れないわ。
私が今まで居た所なら無理かもしれないけれど…
この遺跡の中の空気ならば上手くやれば…
ひょっとするといけるかもしれない…)
…中々良い案に思えたので、
実行するか否かは別問題として、
心に止めておく。
そうしているうちに、
仲間内で戦闘を執り行う事になった。
…お互いの力を今の内にしっておきたいのと、
これから切磋琢磨する為に必要な事らしい。
別に異論は無かったので、
了承することにした。
…足手まといにならないといいのだけど…
その結果については…割愛するとしましょうか。
…想定通りの結果だったとだけ…


「モッサー」


何かしら、今の変な声。
幻聴かしら。

「モッサー」

…再び聞こえてくる。
心無しか声が段々大きくなっているようなきがす…
…砂煙?

「モッサァァァァァァァァァァァ!」

そして、目の前に現れる緑色の筋骨隆々な謎の怪生物と、
野兎達。
しかもこの兎、
可愛いけれど、
なにやら牙が鋭く敵意は十分…


ひょっとして戦わなくちゃいけないのかしら。
やれやれ、難儀ね…
でも、良いわ。

「それ以上近づくのなら…
 貴方達は恐怖と…
 悪夢を味あわせてあげる…!」



                                         戻る