激しい5匹の攻撃に、
消えてゆく霊達。
長引けば恐らく…
不味い事態になっていただろう。
――しかし、
膨れ上がる霊達が、
藤九郎さんとレイナさんの攻撃が、
それぞれ一匹ずつ、
残った三匹の不気味な妖精のような奇怪な生物を押し潰す。

「ギギ・・・・・・」

不気味な声をあげて倒れていく奇怪な生物達。
それにしても、敵の攻撃も激しくなってきた。
これからはもっと激しくなっていくのだろう。
――この先、
無事に済ませる事は出来るのだろうか…

が、戦いを過ぎれば、
相変わらず移動は順調に進み、
歩いていると…
…?
何かが足に当たる。
そっと、足に当たったものを拾い上げてみると、
蒼い宝石がそこにあった。
…こんな所に宝石?
よく分からないけど…
得をしたわね。
…別段、呪われていたとしても、私には関係ないしね…
呪いならば…
これ以上ないという程強力な呪いを既にこの身に受けている。
呪いは、さらに強力な呪いによってしか打ち破れない。
故に…これ以上呪われるという事は恐らく無い。
皮肉な事ね…
それにしても、この宝石どうしようかしら。
指輪にでもしてもらったらステキかもしれないわね。

こうして1日が今日もまた終わる。
キャンプを張って、
この場で今日は野営。
明日は何が待ち受けるのかに想いをはせていると、
不意に見覚えのある人物を見かけた。
物静かで儚くて――
今にもそこから消えてしまいそうな赤毛の女性。
「――深柳さん?」
背後から声をかけると、
こちらを振り向く赤毛の女性。
――やはり、そうだ。
彼女の名前は深柳悠巴。
詳しい事は分からないが、
ふとした縁で知り合った。
今日も彼女はかりんとうを咥えたまま、
「…ああ、確か魅月さん…だったわね。」
淡々と此方に反応してくれる。
「ええ。
 貴女を見かけたから…
 何をしていたのか、気になってね」
「…そう。
 特に目的はないのよ。
 ただ、月が綺麗だったから見てただけ。」
「月が?」
夜空を見上げると綺麗な三日月が輝いている。
静かな夜空で欠けたる部分が多いのに、
力強い光を放つ三日月…
私もそれをとても綺麗だと想った。
「――本当、綺麗ね。
 良かったら御一緒してもいいかしら?」
「別に構わないわ。
 好きにすれば良い…」
微笑む私に、
どうでも良いというように無表情な彼女。
でも、私はいつも…想う。
彼女は感情を見せないし、
どうでもいい…というような態度を取るけど、
きっと――
とても、とても優しい人なのではないかと…
「フフッ…」
そう想うと、私は自然と笑っていた。
「何が可笑しいのかしら?」
「いえ、別に可笑しいことなんてないわ。
 ただ、ちょっと嬉しかっただけ…」
少し気になってくれたのか此方を向いて首を傾げる深柳さんは、
私の声を聞いて、
何事もなかったかのように歩み去ろうとする。
「それならいいわ、それじゃ、またね…」
そう、一言言い残して。
「ええ、またね…」
静かに微笑み見送る私。
視界から彼女が消えたのを待ち、
私も寝床へと帰った。

布団に入り、
私は眠りにつく。
明日の為に、
明日を頑張る為に――
瞼を閉じると疲れていた事もあり、
睡魔はすぐにやってきて――


* * * * * * * *
聖夜には奇跡が起きるといわれるけれど、
奇跡なんて起こりはしない。
其処にあるのは残酷なまでの現実のみ。
嗚呼…
失いたくないものは、
全てこの手から零れ落ちる…
どうか願わくば…
――Kyrie Eleison――



時が過ぎ、
楽しいクリスマスシーズンがやってきた。
九音と、
その両親である八音さんと雫さん。
楽しいパーティ。
いつものように何事もなく終わる…
――そのはずだった。
「――ッ!」
口元を押さえる。
何かが体内で暴れている。
嫌な予感がする。
この感覚に覚えはある。
咄嗟に外へ駆け出す私。
「魅月――何処へ――!?」
駆け出す私にかけられる九音さんの声を振り切り、
ひたすら山の奥に向かって走り続ける。
――どれほど長い間はしったのだろう。
森をつきぬけ、
小さな祠がある場所へでる。
今いる位置は分からない。
倒れて見上げる空には真ん丸な満月が昇っていた。
「――ゴホッ…」
口から止め処なく流れる鮮血に、
絶え間ない痛みがなければ、
とても気持ちいいものだったろうが――
…何故こんな事になってしまったのだろう。
そんな時不意に耳元に小さな声が聞こえた。

――これは罪――
――幸せになる資格なんてない――
――永遠に苛まれ続けるがいい――


それで全て理解する。
その通り。
私に幸せになる資格などない。
神の生贄としてあの時死んでいるべきだったのに、
私は生贄として死ぬ事が出来なかった。
それ故に、
私は全てを失い、
私は神に呪われたのだ――

「見つけましたよ――」
そう考えている矢先、私の耳に男の声が聞こえる。
この声は八音さん――のはずだ。
「…来ないで。
 …押さえきれないの。
 …近づけば…」
命を落とす事になる――そう告げようとして。
「いえ。
 …ダメです。
 私は、命に代えても貴女を救おうと思います。
 娘の友の為に…
 大人として…」
静かな声が私の来てほしくないという願いを否定する。
ゆっくりと顔を横に向けて八音さんの方をみると、
彼は、真剣な顔で真っ直ぐ此方を向いて、
霊刀を構えていた。
多少震えているようにも見える。
「……無理よ……」
「無理でも、
 不可能ではないです。
 そこに1パーセントの可能性があるのなら…!
 私は賭けます。
 とりあえず…貴女の上に見えている、
 一番大きな邪気を祓えば…!」
軽く首をふる私に、
霊刀を構え一直線に駆け出す八音さん。
光り輝く霊刀で、
群がる霊を薙ぎ払い、
切り裂き、進み…
このまま一気に私まで到達する。
そう私が確信した矢先――
不意に、悪寒が全身を駆け巡る。
「――ッ!
 ダメ、退いて!
 このままでは――!」


――ド…ッ…
――ズシャッ…

次の瞬間見たものを忘れはしない。
私の叫びはとどく事は無かった。
私の願いは叶うことは無かった。
彼の覚悟も想いも虚しく、
黒い影が彼の首を跳ね、
鮮血を上げて崩れ落ちる彼の体、
そして地へ落ちる彼の首。
そして、
少しずつ降り注ぐ白き雪さえも、
血に触れ赤に染まり…
全てが紅にそまる――

「あ…あ…」
手を伸ばそうとする、
が、指一本たりとて動かない…
ただ見ているしかない自分、
何も…出来なかった…何も…
どうして、どうしてこうなったのか――
やはり、私が…幸せを望んだから…
そうとしか思えない。
「――ごめんな…さ…い…」
謝ってもどうしょうも無い事だけど、
私は謝った…
謝るしか…出来なかったから…
そして…
目の前が暗くなる、
その視界の片隅に、九音をみた…
そんな気がした…

だが、ただ一つ確かな事。
八音さんを殺したのは他の誰でもない。
私に取り巻く霊達でもない。
それは…紛れもなく私だということ――

始まりが唐突であったように、
終わりも唐突にやってきた。
私はどうしていればよかったのだろう。
どうすれば、悲劇を回避できたのだろう。
分からない。
何も――分からない。
今になっても…
そして之からも――
…嗚呼…
ただ一つ確実な事。
それは…私は望みすぎてはいけない――

* * * * * * * *



…ゆっくりと瞳をあけて、
頬に手を伸ばす。
頬には濡れたあとがある。
これは涙?
いつもあの時を思い出す旅に涙が流れる。
――私はいつになったら…
あの悪夢を乗り越えれるのだろう。
なんて…私は弱いのだろう。
もっと、強くなりたい…
たった一人でもいきていけるほど、強く…
そうすれば、
もう二度と失わずに済むのかもしれないから――
「…ッ!ゴホッ…!」
不意に喉元に込み上げる熱き塊。
咳をすると血がべっとりとへばりつく。
…この島に来てから、頻度が上がっている気がする。
――でも、目的を達成するまでは、
仲間達と共に戦いたい…
それが決して…
……許されない願いであっても。
それが私への痛み苛みであるうちは大丈夫。
その程度の事、甘んじて受けよう。
心への痛みよりは、
体への痛みなんて、
どうという事はないのだから。

気を取り直して、朝の日課の洗濯を済ませる。
こうやって普段通りの事をしていると、
心が落ち着く。
大丈夫。私はまだ私でいられる。
…いつも通りの私で…
決して…
気取られる事のないように。
水面に顔が映る。
そこにそっと微笑みかけると、
いつもの私の笑顔が其処にある。
…大丈夫。
私はいつも通りに振舞える。

――日課を済ませ、
朝食が終わると、
次は会議。
でも、基本的な事は決まっていたので、
会議はすぐに終わった。
少しの間は長々と会議する事なんてきっとないだろう。
…それにしても、
皆、色々考えてるわね。
私も頑張って皆についていかないと。

会議が終わると、
そのまま練習試合をする事になった。
結果は…割愛するわ。
そして、一息休憩をいれて、
各々が休んでいる矢先に敵が現れる。
今回の相手は、
大きな鳩2匹にと山猫3匹。
鳩は強敵だけど、
先日よりも迫力はない気もする。
といっても、油断は禁物。
相手はそれなりに強く、数も多い。
気はぬけない。
さらにいえば、被害もまだ完全に回復しきれてはいない。
ひょっとしたら、こちらの方が不利なのかもしれない。
――でも、やるしかない――
ならば、私は祈り、願い――
前に出よう。
私は弱いけれど…
だからこそ、恐れる事だけはしたくないから。

「次から次へと…
 いいわ、相手をしてあげる。
 ――私と同じ絶望の淵へ沈みなさい。」




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