「いやぁん!刺激的ぃん♪」
――奏さんの攻撃を受けて、
大きな毒蛾が倒れふす。
これで、全ての敵の殲滅が完了したことになる。
――永くいれば強い敵がでる。
でも、まさか、これほどの敵が出るなんて。
冷や汗ものだったわ。
一息をついた私達の前に、
別行動をしていた
晃さん、藤九郎さん、レイナさんがやってくる。
「日に日に敵が手強なって、ほんにかなんなぁ。
大丈夫どすか?」
「ああ、こっちは大丈夫、
そっちも――
大丈夫そうだな。
本当に敵が手強くなってきた。
この調子でどんどん敵が手強くなると――」
挨拶をかわし、此方の安否を尋ねる晃さんに対し、
奏さんが応対する。
――医者の大丈夫が一番安心するというけれど、
本当にそんな力があるのだから、
たいしたものだと思う。
「たいへんだよね。
この先、だいじょうぶかなぁ…」
「大丈夫じゃ☆
なんとかなると思っていれば、
なんとかなるッ!」
「うん、だいじょーぶ!
なんとかなるって!
だから元気だしていかないとねぃ?」
――本当に賑やかで楽しい人達。
見ていて飽きないし、
見ているだけでこちらも楽しくなってくる。
――こんな仲間達と一緒だったからこそ――
私は皆と一緒にきっとここまでこれたに違いない。
…心の中で感謝する。
口には出す必要は無い。
「…」
…心地が良い。
本当に。
今までも何度もそんな空気は感じた事はある。
でも、今まで味わったのとは何処か違う空気。
今、私は失う事が怖くない。
いつも、失う事を怯えていたのに。
――嗚呼――
「魅月はん?」
「――あら、どうしたの晃さん?」
「何度話しかけても上の空やったから、
どないしたんか思て。
―なんや心配事でも?」
「…いえ、
逆ね。
ほっとしているわ。
――皆といると楽しいから。」
「さよか。
せやったら、ようございました。
――ほんに、かわられはったなぁ。」
――気づかぬうちに、
私は晃さんに何度も話しかけられていたらしい。
…全く、こんな事初めてね。
どうか――してるのかしら。私は。
「…私はいつも通りよ?」
「それならそうしときましょうか。
――いつか、自分でも分かる日がきはると思います。
その時が、なんや楽しみどすな。」
静かに答える私に、
笑って離れる晃さん。
――何時か私でも変わったと気づく時…か。
それはもう…私のすぐ傍まで迫っているのかもしれないわね。
再び二手に分かれて道を進む。
「ねぇ?」
「…どうしたの?エモさん?」
「なにか、みちちがうくない?」
――そう。今、私達は予定とは違う道を歩んでいる。
理由があってやっている事なのだけれど――
「…そうね。
ちょっと違うわね。
――少し色々考える事があったから――
でも、大丈夫。
向こうも承知の上だし――」
「それならいいんだけど…
りゆう聞いておきたいな?」
「…ええ。
どうしても、というなら――良いわよ。
最も、私も半信半疑なのだけどね。
…声が聞こえたの。霊の声が。
望む物は最早其処にはないとね――」
一つ頷きエモさんの疑問に答える。
そう。
目指すべきものがそこには既に無いのであれば――
其処を目指す理由は最早無い。
「そっか、
それなら仕方ないね。
…あるくのつかれた。」
「おっと。
もう疲れたのかい?
仕方ないな。
私がおぶってやるよ。」
私の答えに満足したのか一つ頷くエモさん。
でも疲労の色は隠せない。
――あまり体力のある子じゃないし、ね。
そんなエモさんをおぶってあげる奏さん。
相変わらず微笑ましい光景ね。
「――2人は本当に仲が良いのね?」
「ん?ああ。まぁね。
付き合いも、まぁまぁ長くなってきたし。」
「うん。
それなりにね。」
クスっと笑って尋ねる私に、
笑顔で返してくる2人。
しかし、次の奏さんの言葉を聞いて――
「というか、2人じゃないな。」
私は不思議に思った。
どういう事なのだろう、と。
「魅月さんもそうだし、
レイナさんや、晃さん、
藤九郎のじーさんも、皆仲良しさ。
…だろう?」
――ああ。それはそうだ。
「確かに…ね。
でも、その中でも2人は仲良しだと思っただけよ。」
「ああ。なんだ、そういう事か。
…ま、色々あったからね。」
応える私に、照れくさそうに頬を書く奏さん。
――そんな風に話しているうちに目的地へつく。
野営の準備を済ませ、夜食を済ませて――
私達はそれぞれの場所で眠りについた――
――何なのよ、一体!
月見里春菜は焦っていた。
自分が一番でなければ気に入らない。
それが月見里春菜。
だから、気に入らないものがあれば、
排除してきた。
周りを使ってどんな時も。
けれど――
(どうして――
どうしてッ…!)
思い出すだけでも怒りがつのる。
最初は水野凛だ。
自分と仲良くなる事を否定した。許せない。
しかし――彼女はこたえてはないけれど、
いつものように頼めば皆は協力してくれた。
だから、それでよかった。
でも、伊賦夜魅月は違う。
彼女も私の意向に逆らった。
だから許せない。しかし――
“彼女をターゲットには出来なかった”
――皆が皆、それを拒否したのだ。
つまり、
私は一番ではない。
――思えば、思い当たる節はあった。
彼女は表立って動きはしない。
けれど、人を魅きつけられずにはいられない。
私だってそう。
――女同士だというのに見惚れてしまった事もある。
そう。
彼女こそが一番なのだ。
彼女こそ、私を脅かす敵なのだ。
許せない許せない許せない…!
日が暮れ行く誰も居ない教室で、
月見里春菜は1人、怒りに震え、佇んでいた――
同時刻。
魅月――私は水野さんの部屋へと来ていた。
水野さんの部屋は質素で、
最低限のものしかおかれていなかった。
「――部屋に誘われるなんて思ってもみなかったわ。
好かれているのかしら?」
冗談めかしてついてでる言葉に、
「――冗談いってんじゃないよ?
嫌いじゃないけどさ。」
と、珍しく笑顔で答える水野さん。
そういえば、彼女の笑顔は始めてみたかもしれない。
「あら、ごめんなさい。」
クスリと笑って謝る私に、
いいさ、とばかりに手を振る水野さん。
そして、身を乗り出し――
「それより、――アンタ――
いや、伊賦夜さんは…
その――怖くないのかい?」
私の目をじっと覗き込んで来る。
蒼い――蒼い瞳が。
「貴女。眼青かったのね。
で、何が怖いの?」
「――今までの人は――
そんな反応は示さなかった。
…怖くないっていうのは、
人と違う事が…さ?」
………
「――おはよう。早いのね――」
朝起きて、洗濯の場に向かうと、既に其処に先客がいた。
「おはよ、魅月!」
「はい、おはよう、レイナさん。どうかしたの?」
「いや、早く起きちゃって、
暇してたから魅月と話そうと思ってさ。」
「…そう。いくらでも相手になるわよ。」
にっこり笑って答えるレイナさんに、
私も微笑んで答える。
すると――
「良かった。
――折角だから、
聞こうと思ってたけど、聞けなかった事聞いてもいい?」
「?何かしら?」
不意に真剣な顔をレイナさんが浮かべた。
――一体何を――
「前にも話した事あると思うんだけどさ?
…この島に来たばかりで、
皆で遺跡に入る前にさ、
ビュタレ…っていってもわかんないか。
ともかく、私達は襲われたんだけど、
最後の瞬間、
“誰か”が助けてくれたみたいなんだけど――
…ひょっとして魅月が助けてくれたんじゃないかなって。
聞くのも悪いかなって思ってたんだけど、
どうしても、聞きたくなったんだ。
それで――実際の所、良かったら教えてくれない?」
――成る程、ね。
…感づいていたのは知っていた。
……ま、別に隠し立てする事でもない、わね。
「答えは…そうね。
助けたといえば助けたわ。
――出来る方法を見つけたから。
もっとも、
私自身の力では、今までいったように何もしていないけど――」
だから、思ったままを答える。
正直に。いつものように。
でも私の言葉を遮って。
「魅月、ありがとうね。
――何度もいってるけど。
やっぱり、魅月に対していうべき言葉だと思うから。
どんな経緯があって、
どうやってかは問題じゃない。
私達を助けたいと思って行動してくれた。
それだけで、本当に嬉しいから。
だから――ありがとう。」
「――」
レイナさんは真っ直ぐ言葉をぶつけてくる。
何も言い返せない。
そして…
「あー。すっきりした。」
爽やかな笑顔で私に微笑みかけるレイナさん。
「やっぱり、
言いたい事は全部いわないと駄目だね。
――本当に感謝してるから。うん。」
「――感謝するというのなら――」
「…?」
「…私もよ。
人とかかわりあう事、
そして、心の底から笑う事。
大切な事を思い出させてくれたもの。」
「…そっか。」
そんなレイナさんに、
お返しとばかりに私の声をぶつける。
――その後、暫し無言の時間が流れたが――
千の言葉を交わすよりも、
とても有意義な時間だった――と私は思う。
――レイナさんと一緒に皆の所に戻った後、
食事と練習試合を済ませると、
敵が襲ってくる。
一匹はワラビー。
そして、長い長いダックスフント。
…可愛いけれど、油断は出来ないか――
「さ、いらっしゃい。
可愛がってあげるわ。
たっぷりと…ね…」
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