「私の覚悟を見せてやるッ!!」

そう叫びサザンクロスが剣を抜くと、
次々と周りの兵達も剣を抜き始める。
さっきまでの緩い空気とは裏腹に、
その表情は真剣そのもの。
よろめく身体に鞭打って、
我武者羅(がむしゃら)に攻撃をしかけてくる。
こちらの体勢が整っていないうちの容赦なき連撃。
「…ッ!
 速いッ!」
「どういう事なの…!」
それでも巨大な注射器で剣を切り払う奏さんに、
素早い動きでしっかりと避けるエモさん。
私はというと…
「…」
「避けないとは良い度胸だッ!
 私自らが葬って差し上げようッ!」
まさにサザンクロスの正面、
そして、今その凶刃が振り下ろされんとしていた。
「――魅月ッ!」
「ちょっ…!」
しかし、それでも微動だにしない私に慌てる声をあげる2人。
それもそのはず。
普段もこうして避けない事はあるが、
それでもどうしても届いてしまう一撃というものがある。
そういう場合、少しだけ私は身体をずらす。
そして、今回の場合は後者。
死力を尽くした一撃。
避けなければ死ぬ。
そんな攻撃。
だが――その一撃は私の薄皮一枚を切り裂き、地へと叩きつけられる。
「――な、どういう事だぁぁぁぁぁぁっ!
 完全にとらえたはずッ…!」
「…ええ、確かにとらえられたわね。
 ただ…」
揺らめくは風。
そう、見えていた私の姿は錯覚。
そして、とらえた感覚もあっただろう。
そう――ならば何が私の姿を構成していたのか。
それは霊達。
「…数はこちらの方が上なのよ?」
「〜〜〜ッ!
 それがどうしたっ!
 格の違いを知れッ!!」
「思い知るのは…どちらの方なのかしらね。」
「そうそう。
 それに私もちゃ〜んといるよ?」
焦るサザンクロス、
それを見透かしたようにエモさんが発する闇の波動が、
サザンクロスと兵達を飲み込んでいく。
逃れたものもいるものの、
完全に防ぐ事は出来ず、数名が倒れ伏す。
「…甘くみない事ね。
 格は互角以上だと思うわ。
 …さすがはエモさんね。」
「これくらい余裕余裕。」
「なっ…な…!
 我が精鋭の兵士達がッ…!
 ええい、もっと頑張りたまえっ!」
「こ、これでも精一杯――うわァッ!」
エモさんの魔法だけではない。
更に振り回される注射器が残る兵達を吹き飛ばしていく。
「あんまり、力技に頼るのは好きじゃないんだが…
 まぁ、一番得意だから仕方ないな。
 ――お前達と戦うには十分な所を見せたけど、
 こんなもんでどうだ?」
「ぐ、ぐぐぐぐ!
 ええい、だが、私がいる限り、
 問題は何もないッ!
 お前達ッ!
 大丈夫だ、……私に任せておけ。
 命を粗末にするな、ゆっくり休むんだッ…!」
それをみて悔しそうにするも、
「何故なら――
 最後に立っているのは貴様達ではない…
 くたばるのは貴様の方だァァッ!!!」
直に頭を切り替え、
猛襲をかけるサザンクロス。
だが、直撃を受けるわけにはいかない。
慎重にその攻撃の軌跡を見定め、
霊達を動かし、
時に霊を犠牲にしつつ、
その軌跡をずらしていく。
それにしても…
「――驚いた。
 …なるほど、兵士達に慕われている訳ね。
 激昂しても兵士達に気を配れるなんて――」
「隊を率いる隊長として当然の事をしているまでだッ!
 しかし…
 驚いたのはこちらの方も同じ。
 まさか見えず一体一体では何の力も持たない亡者達を利用して、
 攻防を両立させるとは――
 お陰で、そちらの最大火力に対して攻撃が届かない…!
 ック、クク…!
 更に…」
私が攻撃の軌跡をずらす横で、
奏さんが果敢に注射器を突き刺し、
エモさんが魔法で援護する。
激しい攻撃を前に、
気力のみで立ち向かい耐えしのぐサザンクロスが、
急に大声を上げて笑い始めた。
――気でも狂ったのかしら?
「誰1人として倒せていない!
 それに対するは私のみ!
絶体絶命ッ!
 だがぁっ!
 私にも意地があるッ!
 貴様だけは、葬ってみせる!」
だが、気が狂ったわけではないらしい。
私の方を向いて一直線に突っ込んでくるサザンクロス。
成る程、狙いを一点に絞り、
せめて道連れにというわけね。
これは…不味いかしら。
霊達で防ぐのはいい。
いつもの事。だけど――
今は絶対数が足りていない。
この状況下で攻撃を喰らうという事は、
即死を意味する。
退路はない。
避けようとした所で、
私の素早さではどうにもならない。
だとすれば、方法はただ一つ。
「…なら、この身一つで相手してあげるわ。」
「魅月!無茶だ!」
「ちょっ、落ち着いて!」
私もサザンクロスへと突っ込む。
2人が慌てるが、関係はない。
ここをしのげば私達の完全な勝利。
そして…しのぐ方法はこれしかない。
「トドメェェェェェェェッ!」
振り下ろされる剣。
それにためらわず前に進み、深く身を沈め足元を崩す。
勢いをつけたサザンクロスの一撃は私を完全に捕らえきり、
殺す前に――
「な、馬鹿な…!
 どうみても素人の動き、
 妙な霊の数も少なくなったからいけるはずなのに、
 何故だ、
 何故私が宙を浮いているッ――!」
サザンクロスの身体が宙に浮き、私の後方へと投げ飛ばされる。
「――それは、私が投げ飛ばしたからよ。」
「ッ〜〜!
 き……貴様ごときにこの私がァァッ!!!
――ズゥ…ン。
サザンクロスの身体が地に落ち、サザンクロスが吐血する。
「…チェックメイト。
 それじゃ、先に進ませてもらうわね。
 …ところであれ大丈夫なの?」
奏さんの方へ向かい、
サザンクロスを指差す。
1つ頷き奏さんがサザンクロスを少し見て…
「ああ、大丈夫。
 暫く安静にしていれば問題ない。」
「そ、それじゃ、先に進みましょうか。」
その場を後にする。
ここにはもう用はない。
そして、この道の先にこそ、必要な物がある。

…先に進んで宝玉を隠したらしき砂場に到着する。
すると、すぐにエモさんが宝玉を見つける。
「宝玉ってこれだよね?」
不思議な5つの玉。
力があるかどうかは分からないが、
不思議な感じはする。
「多分。そうよ。」
「まだ、あるのかな?」
「んー、どうだろう?
 とにかく、これで一段落だな。
 じゃ、他のメンバーと合流するか。」
「そうね。それにしても…」
…確かに宝玉はここにあるのだが…
「どうした?」
「1人につき5つとは気前がいいわよね。」
「…それはいわない約束だと思う。」
…本当に不思議な島。
ともあれ後は明日に備えよう。
明日は宝玉も揃った事だし、
一度外に出るのだから。
こういう時こそ気を引き締めなければならない。

■第四回 文章コミュイベント■
題材:第43回更新サザンクロス戦


* * * * * * *
――凄み――
年月の積み重ねがそれを培っていく。
それは相手に有無を言わせない力を持つもの。
経験の積み重ねのみがそれを実現させる。
ならば――人より長く生きたその身なら――?


なんなんだ、この女――
それが最初に抱いた感想だった。
制服には見覚えがある。
それから察するに、
彼女は…
どう考えてみても自分達とは関わりのない女子高生。
それが何故ここにいるのか。
ただ、その存在感は只者ではないと告げている。
それに深川砕斗について何か知るものがいれば、
どんな人物に関わらず連れてくるよう、
組長の息子で若旦那である、
黒川蓮次(れんじ)に連れてくるよう言われている。
なので、連れてきたのだが――
「…まさか来るとは。
 それで見かけたというのは本当か?」
「ええ、
 本当よ。
 ――まだこの町にいるみたいね。」
「それで、何処で見かけたんだ?」
「…そうね。
 よっぽどの重要人物みたいだし、
 折角だから組長さんともあって見たいのだけど。」
「…何故だ?」
「別に意味は無いわ。
 そこまでして探す相手なら、
 トップがしっかり情報を知る事も大切なのではなくて?」
驚いた。
流石に萎縮するか、
態度を変えるだろうと思っていたのに、
実際はというと、
何処まで行ってもマイペース。
崩れない態度。
それはまるで――
自分の方が格上、
修羅場も年も遥かに潜り抜けたとでもいわんばかりだ。
そんなはずはない。
そんな事はありえないというのに――
「…何か不都合でも?」
「いや。
 良いだろう。
 親父にもしっかり聞いて貰わないとな。」
「そ。それならいいわ。
 直に案内してもらえるかしら?」
そんな態度に少し驚いたのか、
少し固まった後、若旦那は答えた。
やれやれ。
どっちが本職なのやら分からない…
暫くして、若旦那と共に女は組長の部屋へと移動した。
――それにしても…
一体あの女。
何者なのだろう。
分からない。全く分からない…
――なんだっていうんだ…

彼女がやって来た時、
私は驚いた。
彼女はきっともう来る事などないと思っていたからだ。
そして、組長に会わせて欲しいといわれ、
二度驚いた。
…そして、同時に納得もした。
己の直感を。
そう。この女はとてもしたたかだ。
私ですら及びつかないほど。
それ故、真意をはかる事等出来ない。
出来るとすれば、
敵か味方か。
まずはそれを見定める事にしようか…

――理外――
それがそうであると最初はなかなか確信できずとも、
それがそうであるのならば、
いつか確信に至る。
何故なら…それは確実に異質なのだから…

* * * * * * *


朝起きて、
いつものように日課をこなし、
遺跡の外に出る準備をする。
昨日の内に出てもよかったのだが、
疲れがたまっていた為、
まずは疲れを癒す事を先決した結果こうなった。
が、案の定というか、
出ようとする私達の前に、敵が姿を現す。
巨大なサソリが3体と、
雷雲のような魔物。
…実に強敵だ。
だが…

「…残念ね。
 今は少し余裕があるの。
 勝っても負けても問題ない。
 だから――たっぷりと遊ばせて貰うわ?」







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