「だから、私は戦うわ。
 全てが終わりを迎え、
 皆が帰るその日まで。
 決して逃げず、
 諦めず。
 そして――生きる。」
「――でも、
 それが元で、
 今魅月が大変な事になって、
 辛い思いしてるなら――
 そんなのは間違ってると思う。
 だから――
 本当に、いいんだよ?
 ここで降りても――
 皆攻めやしないよ?
 私も皆も…
 魅月が幸せになる事を望んで――」
「…だから、よ――」
「…え…?」
そう、だからこそ――
私は絶対に退く訳にはいかない。
この決意を通しぬかねばならない。
なぜなら――
「――私の心配をしてくれる、
 そんな心優しい仲間達だから、
 そして私に大切な事を思い出させ、
 大切なものまで貰ったから――
 何があっても貫き通す。
 ――怖いものなど何もないわ。
 それに…最後までもたせてみせる。
 大丈夫、
 そう…きっと大丈夫よ…」
――それがせめて私が出来る事。
全てが返せるとは思えない。
けれど――
私だけ貰いっぱなしというのは性に合わない。
それに――
もし、ここで私が帰ったら…
私は一生悔やむだろう。
それは更なる十字架となって、
私を苛(さいな)むだろう。
それは、緩やかな刃となって、
私の心を蝕(むしば)んでいく。
それでは――駄目。
せっかく、私の為に返してくれた、
皆の思いを裏切る事になる。
――結末は変わらない。
速いか遅いか――
「それに、ね?」
「…それに?」
「――皆がいるから、
 私はきっと之を乗り越える事が出来る。
 そうしたら――
 本当の幸せもつかめると思うの。
 また、皆に厄介になる事になるけれど――
 もしもの時はお願いするわね?」
「…ん。
 分かった。
 魅月がそういうなら…
 全力で協力するよ。
 頑張ろうね。
 負けるな、魅月!
 えいえいおー、
 なーんてねぃ?」
「ありがとう、助かるわ。
 それじゃ、
 皆起こして、
 そろそろ先に進みましょうか。
 足踏みなんてしてられないわ。」
「そうだね。
 行こう、魅月。」
――皆を起こして、
皆に礼をいう。
心地の良い風を感じながら、私達は先へ――

だが、そこに立ちはだかったものは…
巨大な鎧の騎士が2体に、
影の姿。
影の方は私1人でもなんとかなるが、
その屈強な鎧は中々穿(うが)てる相手ではない。
そして、そのパワー、スピードもかなりのもの。
エモさんが放つ闇の波動を軽々と避け、
煙幕弾でこちらの動きを阻害してくる。
だが――
私には関係がない。
煙で前が見えずとも、
霊達が勝手に相手に絡みつく。
初撃は外すも、
その時の風が煙を払う。
こうなれば、
後は叩きのめすのみ。
それに、エモさんもしたたかだ。
闇の力が効かないとなり、
私の攻撃をみて、
風の力を利用し、眠りを誘って、
強烈な魔力を叩き込む。
だが、相手もさるもの。
鎧――アイアンナイトの攻撃は強烈無比。
当たればただではすまないだろう。
だが――全て奏さんが受け持ち、
それを耐えしのぎ――
強烈な2連撃で鎧を一体葬り去る。
ここまでくればしめたもの…
しっかりエモさんの魔法が残る2体を軽々と貫き――
戦いが終わった。

「それにしても――
 中々面白いものを拾ったわ。
 …アイアンナイトの核かしら。」
「こっちも良い物拾ったよ。
 1つは魅月にあげるね。
 奏はー?」
戦闘が終わってアイテム収穫。
今回は良い物を拾わせてもらった。
ついている。
が。
私とエモさんが戦利品について一喜一憂している反面、
奏さんが完全に沈黙した。
「…どうかしたの?」
「いや、何…」
歯切れが悪い。
成る程。
「…まぁ、運が悪い時もあるわ。」
「……
 ウン、
 ホントウニナンデウンガワルインダロウネ…」
手にしているのは、
もうそろそろ食べれそうになくなりそうな、
明らかに賞味期限切れのギリギリの食料。
――保存は効くからこれ以上腐る事はないだろうが――
「…ここら辺そんな食料が一杯落ちてるのよね。
 私も先日拾ってたみたいだし…」
「捨てた奴、
 絶対に殴る。
 全く…それにしても、
 なんであんなに良い物拾うんだろ…」
そういってエモさんを見る奏さん。
「――
 好奇心旺盛(おうせい)だからじゃない?」
「…成る程…ね…
 はぁ…
 私も好奇心つちかわないとダメなんだろうか…」
ため息をつく奏さん。

まぁ、大丈夫。
運なんてものはそのうち回ってくるわ。
それがいつどんな形になるかは分からないけれどね。
そんな言葉を口にはださず、
心で呟き、
一足先に目的地へ向かう。
――心身共に問題がないうちに、
一歩でも前に進まなければ――

* * * * * * *
――口封じ。
その手段は様々で、
保身の為に起こる。
そして、
最も簡単かつ効果的な方法は…
相手を殺す事――


「やれやれ――ね。」
医院から出て、家に戻る。
すると、食料がもう尽きていた。
補充の為に買出しに出る。
夜道、1人出歩くのは普通は危険なのだが…
もう、
己の身を危惧(きぐ)するなどという感情は無くなってしまった。
「――こんな時間でもコンビニが空いている。
 不便の無い世の中で助かるわ。
 その代わりに
 掛替(かけが)えのないものを無くしてしまったけれど――」
だから、油断していたのだろう。
十字路を横断しようとしたその時、
横からライトもつけない車が
私目掛けて突っ込んでくる。
避ける暇などありはしない。
――成る程、やってくれる。
だが…
それが致命傷。
暗くて見え難いが、
この程度の暗さなど私に取っては明るすぎる。
乗り込んでいた男達の顔を携帯で写真を撮る。
本当に便利な世の中になったものだ。
証拠を消そうと男達が戻ろうとしてももう遅い。
私は力の限り叫ぶ。
そう。ただ一言でいい。
「ひき逃げよ!」
一端車を止めて出てこようとするも、
その声を聞いて慌てて車に乗って逃げ出す。
さぁ――
後は私もここから逃げるだけ。
ひかれはした。
だが、私とてダメージを最小限にする方法は知っているし、
霊達がクッションになってくれたお陰で、
そう深手ではない。
それに、朝になれば傷は癒える。

「――それで確実に?」
「確認はしてませんが、
 はねる事には成功しました。」
「…歯切れが悪いな…」
「…いえ、
 ちょっと実行した者が写真に取られたのと、
 それに…
 最期にひき逃げと叫ばれ、
 後始末が出来なかったもので。」
「成る程…」
確実に仕留めきれたわけではないかもしれない…
か…
「…それで大丈夫なんだろうな?」
「ご心配なく。
 取引相手である貴方に迷惑がかかるような事はありませんよ。
 ビジネス相手は大切にしないといけませんからね。
 それでは…
 これからも当方をよろしくお願いしますね?」
「――ならいい。
 分かった。
 何かあったら連絡する。」
電話を切る。
本当にしたたかな女だ。
これで息の根を止めていればいいが、
そうでないなら――
(最悪の事も考えておくか――
全く、本当に手を焼かせてくれる。
だが――
最後に勝つのは、
この俺…黒川蓮次だ…)

「――ったく…
 なんであんなに命知らずなんだか…
 …そういや…
 あんたは余り驚いて無かったな。
 予測してたなら、
 なんで止めなかった?」
「…余り干渉しない所が私の良い所なんですよ。
 そのお陰でほら、
 砕斗さんだって助かっているでしょう?」
「そりゃそうだが…」
それにしたって、
あんなに若い女の子が無茶をしようというのなら、
一言くらい止めるべきだろう。
「――私は、
 昔彼女にあってるんですよ。
 もう十数年も前になるでしょうか。」
「…?
 なら尚更だろう?
 ああ、いや…
 あの性格では止めても聞くわけがないって事か?」
「……
 そうですね。
 そのいずれも答えはNOです。
 知っているからこそ、助言など無駄。
 止めたらひょっとしたら聞いてくれるかもしれない。
 けれど――
 止める必要があるのか私には分かりません。」
妙な事をいう。
無駄という事が分かっているから、
聞かなかったのかと思いきや、
そうでもない。
そうではなくて…
止める必要があるのか分からない?
どういう意味だ?
「不思議そうな顔をしていらっしゃいますね?」
「ああ。
 そりゃ、な――
 訳がわからんな…」
「でしょうね。
 分かります。
 ですが、
 私の話を聞くと余計に訳が分からなくなると思いますよ。」
「…?」
だが、この後に続いた二之宮医師のその答えは――
俺の想像を超えた答えだった。
その答えは――

「私は十数年前彼女に会っている。
 今と変わらぬあの姿で。
 ――私は後輩、
 彼女は先輩。
 そう――
 彼女は――私より年上のはずなのですよ。」


――巡り合い。
己の過去を知るものが、
目の前に現れる事はそう珍しくはない。
そして時に――
己が知らなくても、
相手のみが知りえている事もある――

* * * * * * *


いつものように夜を乗り越え、
いつものように朝が来る。
調子は悪くない。
だが、
それ故に押し寄せる感情がある。
不安、焦燥――
そして…
恐怖。
考えてはならないと思うほどに、
意識してしまう。
そして――
それは私を襲う。
(しっかりしなくては――ね)
だが、
そんな感情に煩(わずら)わされてばかりはいられない。
折角調子がいいのだから、
思考が心の磨耗(まもう)を呼ぶなどという事があってはならない。
そして考える事は他にある。
それは――

「次に何かが起こった時どうするか――
 必ず抜け道はあるはず。
 ――心して考えておかないといけないわね。」






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