「引き際も分かってるさすがはレッサーッ!!」

いや、
全然引き際分かってないと思うけど…
というか…
そもそも――襲撃かけなきゃ良かったと思うんだけど、
…突っ込み所多いわね。
突っ込みきれないし気にしない事にしましょう。
しかし、思ったよりは手こずった。
相手の一撃一撃は軽いし、
弱いけれど…
こちらも同じ。
お互い弱い攻撃の応酬で、
消耗戦になってしまった。
反省点、ね。
次は気をつけないといけない。
さて、と…

* * *


赤宮奏は医者である。
医者ではあるものの、
医療とは関係のない力が強くなって行く事に、
最近不安を抱いていた。
(…あんまり力つけ過ぎると、
手術の時とか力入り過ぎて不味いよねぇ…)
それ故、
少し今回ばかりは力を抜いてみたら、
抜きすぎだったらしい。
(…と思った結果がこれだよ!)
どうやらこの島の生物は此方の意向などお構いなしらしい。
分かっていた事とはいえ、
侮りすぎた。
手こずり過ぎた。
もっと楽に勝てる筈の戦いなのに。
(はぁぁ…全く…
思うようにいかない。
こんな事ではいけないっていうのは分かっちゃいるんだが…
どうにもこうにも、
私は勤勉なタイプじゃあない。
杜撰(ずさん)な事が多すぎる。)
ちらりと視線をエモさんに落とす。
小さいながらにしっかりしているとはいえ、
まだまだ小さい故に…
頼りきりには出来ない。
(いや、もうほんと…
この子頼りにするようじゃ、終わりな気がするよ。
いくらなんでも年上としてっての義務ってもんがある。
だとすると――)
私達は6人で行軍している。
が、いざ戦い・探索となると、
3人2組で戦う事になる。
故に、いざという時に頼りにすべきは、
3人の中の自分を抜いた二人になる。
1人はエモーション・イモータル。
今視線の先にいる小さい子。
そして、もう1人は…
見た目は自分より若いが、
自分より長く、というか人間の寿命を越えて生き続ける少女、
伊賦夜魅月。
…彼女の事はいまだ分からない事が多い。
割と係わり合いはあるし、
あんまり隠しているとかいう事もなく、
最初は拒絶されていたが、
今ではそういう事もなくなったのだが…
彼女の行動・言動、そして体を知れば知るほど、
疑問が増えていく。
どうしてなのかは分からない。
戦闘においては、頼りにはなるものの、
如何せん、その戦闘スタイルと、
本人の虚弱性を考えると、心配事も尽きなかったりする。
(無茶しやがって…
さて、そんな事はどうでもいい。
とりあえず彼女を探そうか。
相談相手として頼るなら実に頼りになる相手だしな。)
辺りを見回す。
しかし、魅月の姿は全く見えない。
(…ふぅ。
また単独行動か。
困ったもんだが、肝心な時には戻ってるし、
元々そうする事は事前に聞いているから強くはいえないとはいえ…
どうしたものかな。)
頭をかいて考えるが、いい案はでない。
(ま、いいさ。
後で聞くとしようか。
どうせ後で会えるんだし、
問題ない。
そーしよう。)
直に頭を切り替える。
そう、後で聞けば良い。
だが――
その後が“今日ではない”などという事は、
今の私には思いもよらない事だった…

* * *


――その頃の私。
伊賦夜魅月はというと…
別に何事もなく考え事をして周囲を探索していた。
別に何事もなく探索を終え、
いつもの用に合流する。
そして、倒れた。
別に何かあったわけではない。
力が抜けて…
それで倒れた。
意識ははっきりしているし、
乗っ取られたという訳でもない。
慌てて駆け寄る仲間達。
そして、奏さんが診断をする。
診断の結果は直に出た。
――過労だと。
…別段何かしたわけではないのだけれど、
過労で倒れるなんて、ね。
ならば…
私は一刻も早く眠りに落ちよう。
明日元気になる為に――

* * * * * * *
――待つのは退屈。
何か暇つぶしのものでもあれば別だけれど、
何もしないというのは、
本当に疲れる。
焦りが募れば尚更に――


――待つというのはあまり得意では無い。
そして団体行動は苦手。
砕斗が待つというのであれば、
私は私で動こう。
そう決めて――
内緒で動く事にした。
幸い、私の顔は割れてはいない。
相手は知っていても、
繋ぐ線が無い。
そして、チンピラ達を束ねている頭以外にならば、
油断を誘う事もできるだろう。
ならばこそ、
誰よりも自由に立ち回れる。
「そう思ってみたはいいものの…」
まずは何をすべきなのか。
それが問題だった。
見当もつけれないし、
噂話でも、自分のやりたい事に関する、
そんな都合の良い話は全く聞けていない。
まさにいきなり手詰まり。
「…困ったわね。」
どうしようか、考える。
――そういえば、相手の拠点の居場所については良く分かっている。
相手は看板を背負っているようなものなのだから。
そして、動く時は、
かならず拠点に立ち寄り、
拠点から出る必要がある。
――否、そんな事を考える必要はない。
いざとなれば踏み込むことも…
――踏み込む?
案外良い案なのかもしれない。
そして、相手は一枚岩じゃないし、
砕斗を見かけたという話を盾に、
何か面白い話を引き出し、
相手に何かしらこちらに有利な種を埋めれるかもしれない。
「…短絡的かしら、でも――
 存外に正攻法は有効よね。
 やってみる価値はあるかしら。」
――死ぬ事なんて怖くはない。
寧ろ望む事。
そして――私を殺す事は私の周囲に漂う存在が許さない。
恐れる必要など何もない。
そうと決まれば…直に私は1人目的の地へと向かう事にした。
目的地に到達し、
扉の前にたつと、
柄の悪い二人の男に止められる。
普通ならば、
怯えてしまうのでしょうけど、
私には関係ない。
息を吸い込みはっきりした口調で告げる。
「――深川砕斗を見かけたからここへ来たわ。
 そういえば分かるはず。
 …凄んでみせてもダメよ。
 そんな暇があるなら早く連絡して、
 私を然るべき場所へ連れて行きなさい?」
もう後戻りは出来ない。
後は――先に進むだけ

――天秤。
普段は均衡を保っていても、
片方によれば、
そちらへと傾く。
だが、傾いた所で何もないのであれば…
問題はない。

* * * * * * *


翌朝、体調は回復した。
まだ万全とはいえないものの、
これならば動くのに差し支えはないだろう。
迷惑をかけた皆に頭を下げる。
心配はいらないと伝えながら。
あんまり無理とか無茶するなと釘は刺されたけれど、
実際何故過労になったのかはよく…
いえ…
恐らくいつもと違う戦い方をしたからね。
早く慣れねばならない。
そうしなければ…
待ち受けているものはよくないものなのだから。
ともあれ、問題ないようなので、
先に進む。
すると…煌びやかな服を着た数名がぼろぼろになっているのを発見した。
…1人はしかも王子様みたいな格好をしている。
…何あれ。
「…くッ……くそおぉぉぉッ!!」
しかも何か悔しそうに叫んでいる。
係わり合いになりたくないので、
そのまま通り過ぎようとすると…
「……ま、待ちたまえキミ…ッ!!」
「嫌よ。」
急に王子様みたいな格好をしている男が道を塞ぎ呼び止めたので、
直に拒否する事にした。
「……ノォォォォォォォォォォッ!!
 お願いだから待ちたまいやがりなさいッ!!
 この私が……
 そう易々とここを通すわけ…っ…
 無い、だろぉッ!!」
ズタボロなのに大声出して大丈夫なのかしら。
他の皆も呼応するかのように立ち上がってくるけど、

大丈夫なのかしら。
あれ、かなり辛いわよね。
「ベルクレア騎士団第8隊のサザンクロスともあろぅ…ものがッ!!
 …あのようなッ!
 …得体の知れないッ!!
 怪しい…ひょろ男にッ!!!
 …理由も無く斬りかかられッ!!!!
 代えの少ないこの衣装をボロボロにしッ!!!!!
 挙句の果てにこのタイミングで……
 こうして敵に出くわすッ!!!!!」
…悲惨ね。同情するわ。
「…ありえなぁぁぁいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」
…うん。ほんとあり得ないわね。
「まぁ、これは無ぇよなぁ…」
「隠し通路は安全だ、って隊長がよぉ…」
「宝玉をここに隠して守っとけばいいって、なぁ。」
「通路壊されて…一番楽そうなポジションが何でこんな目に…」
しかも、周囲で立ち上がった皆は、
全部暴露してるし。
「…なんというか、
 ありえないわね。
 運が悪いとかそういうレベルではなく。」
「だよなぁ…
 なんでこんな事になったのやら…」
「わけも無く……あぁでも確かあの男、言ってたよなぁ。」
「宝玉はもっと深部に持ち運んでもらわないといけませんねぇ
 …ククッ!」
「それだそれだ!お前うまいなぁ口真似っ!!」
成る程。
宝玉を隠したい者に襲われた。
でも、宝玉を隠したいものは、
宝玉を得たものから宝玉を奪いたい訳ではない、
といった処かしら。
「…いや、本当に悪そうね。
 災難だったわね。」
「うん、凄く悪そうな奴だった。
 災難にもほどが――」
「シャラァァップッ!!!」
周囲の人達と折角なので雑談に応じていると、
大声を出して場を沈めるサザンクロス。
「…キミに、
 宝玉を渡すわけには……いかないぃぃッ!!」
そういって、戦闘の構えをみせるサザンクロス達。
それにしても…
豪快に吐血をしながら大声で喋って、
本当に大丈夫かしら。
いえ、でも私は知っている。
苦境に追い詰められた者の間際の強さというものを。
そして、私は見た。
サザンクロスと兵士達の目の奥にある輝き――
決して諦めない強さを秘めた眼差しを。
成る程、侮れる相手ではない。
まだ万全の彼等であった方が楽に勝てるほどに。

「ふぅ。
 いいわ、それでも押し通る。
 貴方達の守りを必ず貫いてみせる。
 それは決して――不可能ではないわ。」






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