「そりは、良かった。
 ほっとしたよ…」
「…まぁ、それに行き当たったら、
 頭のもやみたいなものも消えたみたいね。
 …後はゆっくり調子を整えるだけになりそう。」
「うんうん。
 早く調子を整えてね。
 魅月の事、頼りにしてるんだからさ?」
胸を撫で下ろすレイナさん。
――
全く。
本当に――
「心配かけたわね。
 …この借りはしっかり返させてもらうわ。」
「…別に気にしないでいいよ?
 私も皆も、
 やりたい事をやっただけだしねぃ。
 それよりも――」
「?」
「朝御飯一緒に食べない?
 まだ食べてないからお腹すいてるんだけど?
 洗濯ももう終わりみたいだし。」
いいでしょ?
とでもいうかのように微笑みかけるレイナさん。
全く、かなわない。
こんな風にいわれて、
そんな顔をされたら断れるわけがないというもの。
「…そうね。
 行きましょうか。
 …処で奢(おご)りでいいのかしら?」
「うん、奢――らないよ!
 あ、危ない、ついつい乗せられる所だった…
 まったくもー…
 油断も好きもないんだから。」
「…ふふ。
 まぁ、私が奢るわ。」
「え?
 いいの?」
「――いつもお世話になってるからね。
 それじゃ、行きましょうか。」
クスリと微笑んで先導する。
――さ、元気に行きましょう。
遅れた時間を取り戻す為に。
之以上…
心配をかけない為に――

食事を終えて、レイナさんと別れ、
単独行動をする。
一緒に巡っても良かったのだけど、
まぁ、いつもの事だし、
レイナさんにも予定があるだろうから、
気にしないでおきましょうか。
――それにしても、
相変わらず遺跡の外は盛況な賑わいを見せている。
たまには静かになっても良さそうなものだけど、
そんな事はなく――
全く、面白いわね。

そんな最中見知った2人の姿をみかけた。
それは――
「…あら、ヤヨイさんに、凛璃さんじゃない。
 こんな所で出会うなんて奇遇ね。
 今日は2人揃って買い物でもしてるのかしら?」
「あ、魅月さん、こんにちは!
 そうなんですよ!
 お買い物中なんです。
 良かったら一緒にどうですか?」
「…奇遇だな。
 私としては問題ない。
 ヤヨイもこういってる事だしな。」
ヤヨイさんと、凛璃さんだった。
ヤヨイさんとはよく話すし、
仲が良いと思う。
凛璃さんとはそれほど大きく会話する事は無かったのだが、
先日は良い話をじっくり聞かせてもらったし――
その時、面白い事も判明した。

ヤヨイさんはこの事知ってるのかしら?
…少しからかう事にした。
「ええ、是非お願いするわ。
 そうそう――
 凛璃さん?
 美味しい料理のお店見つけておいたわ。」
「…」
ぴくり、と少し反応がある。
しかし、どうやら嫌な予感があるらしく、
私を制止するジェスチャーをするが――
私はそれを黙殺する。
「へぇ、どんなお店なんですか?」
「そうね。
 ハンバーグが美味しい店で、
 お子様向けにお子様ハンバーグランチというものがあるらしいわ。
 本格派から、お子様まで――
 誰でも楽しめる店よ。
 本当に、楽しみね。」
「わぁ、それはいいですね!
 そろそろお昼ですし、
 一緒に食べに行きましょう!」
そういって凛璃さんにちらりと視線をやって笑いかける。
「――ぐっ…!?
 そ、そうだな。
 そうしよう。
 あー…
 で…」
「それくらいなら、私が奢るから、
 遠慮せずに、“好きな物”を食べてね?
 そう。
 “遠慮せず”に。」
好きな物と遠慮せずにを強調する。
「…み、魅月…
 前々から思っていた事だが、
 君は実にいい性格をしているな…」
「…ふふ。
 それじゃ、行きましょうか。
 楽しみね。ヤヨイさん。」
「はい、楽しみですね!
 …?
 あれ?
 凛璃…死にそうな顔してるけどどうかしたの?」
「なんでもない…
 そう、なんでもないんだ…」
「?変な凛璃。」
クスリと微笑み、凛璃さんの言葉を再び黙殺し先導する。
背後でかわされる言葉が本当に可愛らしい。
――クス。
この後どうなるのかしら?

昼食をとりに、
目的の店に到着し、
幸い席が空いていたので、
並ぶ事なく昼食にありつける事になった。
「…そうね。やっぱりランチセットがいいわね。」
「あ、私もそれで。
 食後はコーヒーにしようかな。
 凛璃は?」
「…お子様ランチで…」
「?小さい声じゃ聞こえないよ?
 何にするの?」
「お子様ランチ、で…ッ!!」
わきあいあいと注文する私達に、
顔を真っ赤にして注文する凛璃さん。
流石にヤヨイさんの前で注文するのは恥ずかしかったらしい。
まぁ、分からないでもないけど、
あんなに気に入っていたのだ。
…勿論、こんなチャンスに凛璃さんが注文しない訳がない。
「…凛璃がお子様ランチ注文するなんて凄く意外…」
「…まぁ、この間も美味しそうに食べてたもの。
 お子様くらいしか注文しないけれど、
 中々侮れない代物よ。
 子供が好きな物が全て入っているって事は、
 本当に美味しいものだけを取り揃えている事に他ならないわ。」
「…お子様ランチといえども中々侮れないのですね。
 ちょっと見くびってました。」
まぁ、あまりにも見ていられない状況になりそうだったので、
適当なタイミングで助け舟を出す。
少し困った凛璃さんの表情をみれるだけで十二分に楽しめたのだし、
之以上はかわいそうというものだろう。
そうして話しているうちに注文の品が来る。
味は中々美味しい。
2人の方をみやると、
ヤヨイさんも凛璃さんも2人共美味しそうに運ばれてきた料理を食べていた。
「美味しい!
 …けど凛璃のも美味しそうだよね。」
「…ああ。
 本当に美味しいぞ。
 これは。
 …本気でお子様ランチ食べ歩きして回るのもいいかもしれない。」
「…そんな事いってると、
 食べたくなって来ました。
 …凛璃、一口くれない?
 私のも一口食べていいから。」
「分かった。」
…それにしても2人は仲がいい。
「…仲がいいわね。
 クス。
 妬いてしまいそう。」
「普通ですよ。普通ですっ!」
「…妬かれても困るのだが…」
「冗談よ。
 言ってみただけ。」
本当に仲がいいから…
だからこそ不安もある。
けれど…
私がいる。
ならば…
(時が来たなら、
私も出来る限りの事をしまょうか。
…道があるなら、
抗うのも面白い。
少なくとも、不幸が訪れるよりは――)
…先は必ずある。
だから、私は見守り、
手助けしよう。
どれほど、それがささやかな事だとしても――
「あれ?魅月さんは食べないんですか?」
「いえ、食べるのが遅いだけよ。」
「それならいいのですがー」
「体調が悪いのならば速めにいうべきだと思うが…」
「…全然、大丈夫。」
…ともあれ、
楽しみましょう。この時を――

この日、1日楽しかった。
…この思い出は決して忘れないようにしたいと――
心に刻んだ。

* * * * * * *
――致命的なミス――
それは、
予想に反したことか生まれ出る。
そう。
予測だにしなかったからこそ――
起きてしまう。


「…おい。」
「…ふふ。
 面白い画像でしょう?」
「…危険な真似はして欲しくないんだがな…」
携帯の画像を見せる。
そこに映し出されたのは、
私をひこうとした者達。
はっきりとそこに映し出されている。
暗い夜道といえど、
撮れないなどという事は、
今の世の中、
そう多くは無い。
「――しかし、
 これで決定打だな。」
「ええ、捕まえて、
 乗り込みましょう?
 …捕まえるのなんて、貴方にとっては造作もない事よね?」
「ああ、任せておけ。
 じゃ、行ってくる。
 それじゃあ、組の前で会おう。」
「…ええ。
 それじゃ、また後程――」
彼を見送る。
彼ならばきっと大丈夫。
そう信じて、先に待ち合わせ場所に移動することにした。

…結果からいうと、
彼は成しえた。
彼の実力からすれば、
ちんぴらの2,3人など敵では無い。
それだけの事。
全く――面白い。
そして、
彼は今、堂々と敵の、
そして…
会うべきものの住まう場所の前へと立っている。
そして、堂々と宣言する。
「…深川砕斗!
 己の不明を清算し、
 己の潔白を証明するため、
 ここに戻った!
 …おやっさんに会わせてもらいたい…!」

…クス。実をいえば、
今、黒川蓮次はここにはいない。
それを調べた上での行動。
当然、
すんなりと話は進む。
そして、黒川滝夜に告げる。
全てを。
全ては、黒川蓮次が画策し、
黒川蓮次こそが黒幕なのだと…
「…それは本当なのかっていっても…
 証拠まで揃ってちゃあ、しょうがないか…
 己の息子とはいえ、
 そんな愚息だったと分かっちゃあ、
 態度をきめねぇといけねぇか…
 …砕斗。
 破門は取り消す。
 …世話をかけたな。すまねぇ。」
「…おやっさん。
 分かってくれたならいいんだ…
 …それより、どうする?」
「…帰って来たら、
 ここに顔を出す。
 その時、糾弾し、
 奴には破門と勘当を宣言するさ。
 …大人しく引けばいいんだがなぁ…
 …それにしても、
 裏からお嬢さんが手を廻していたようだな。
 …すまないな。
 なにやら仮が出来たようだ。
 今は何も出来ないが、
 奴がくるまでの間、楽にしておいてくれや。」
和解をする2人を見ながら、
微笑む私。
そして、
滝夜の言葉にありがたく甘える事にする。
さあ、これで終わり。
そのはずなのだけれど…
けれど…
不安が湧き上がる。
その不安は、消えるどころか
膨れ上がり続けていた――

――終幕――
終わりの幕が閉じる。
そう、
これで全てが終わる。
この舞台の幕は閉じる。
だが、
終わりにこそ――

* * * * * * *





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