――遺跡より出る。
今日も特に予定はない。
…とりあえず、仲間と離れ、一人遺跡の外をあるく。
様々な人が行き交う遺跡の外。
珍しい物も売り出していたりして、
たまに欲しくなるような掘り出し物もある。
今日も何かないかウィンドゥショッピングをしていたのだが――
珍しく、しかも見覚えあるものを発見する。
売主にも見覚えがある。
彼は――
「これは――」
「あ、ミツキさん、これはですね――」
「ミルシアサンド、だったかしら?」
ミーシャ・レニングラード。
私はミーシャさんと呼んでいる。
つい最近知り合った知人である。
中々丁寧で頑張り屋さんで、
イブラシル大陸のものを商売道具にしていたり、
人のものを預かったりしているらしい。
「…あれ?
 ご存じだったんですか?
 こちらではあまり見かけないものだと思うんですが…」
「丁度、そちら側から来た人ばパーティ内にいるのよ。
 その人に教えてもらって…ね。」
「ああ、成る程、それで――
 …どんな人なんです?」
「そうね…怪しい仮面をつけて、
 ちゃぶ台で空を飛べるご老人よ。」
藤九郎さんのことだけど、
改めて口にすると、
凄いわね、藤九郎さん…
ありえない説明ばかり出てくるわ…
「…凄い人ですね。」
「…凄い人なのよ。」
お互い顔を見合わせて笑う。
クス。
藤九郎さんの話題は場が和む気がするわね。
彼の人徳かしら?
そんな事を考えながら商品を見回す。
「…何か良い物見つかりました?
 もし、良かったら何か買っていって下さいね?」
「そうねぇ…」
目新しく面白いものが並ぶ。
そんな中、
私は1つの箱に興味を引かれた。
綺麗な装飾をされている箱。
「これは――
 オルゴールかしら?」
「あ、はい。そうですよ。
 値段は値札の通りです。」
「そうね。これ頂くわ。
 ――ありがとう。
 いい品仕入れているのね。」
お金を手渡して、
オルゴールを受け取る。
どんな曲がこもっているのか分からないが、
――きっと素敵な曲、
そんな気がする。
「毎度ありがとうございます。
 また、何か縁があれば、是非買っていって下さいね。」
「ええ――その時は宜しくお願いするわ。
 クス。
 今度買うときは値切らせてもらおうかしら?」
「えー!
 お手柔らかにお願いしますね?」
その問いに答えず、
少し微笑みその場を後にする――
また、彼が店を開いていたら、
素敵な物を1つ買おう。
そう心に誓って――

――暫(しばら)く店を見て周り、
様々な取引を済ませる。
取引は苦手で、
色々困った事も起きたりしたのだが、
何とかしのぎきる。
もう2度とこういう事はしたくないのだけど…
そうもいってられないのだろう。
――取引に応じてくれた皆様に感謝しないとね。
そして、少し疲れたので、
人気が少ない場所で休息を取る。
自然がとても心地良い。
――いまや、私が居た所では忘れ去られた光景がここにある。
失いつつある光景がここにある。
木々を見ながらゆっくり感傷に浸(ひた)り、
今日買ったオルゴールを手に取る。
一体どんな曲がつまっているのか――
早速、私はそのオルゴールの音楽を鳴らして見る事にした。
――♪―♪♪――♪――
流れでる旋律は聞いた事のないもの。
恐らく、私の知りえない何処かでの曲。
けれど、その曲はとても優しくて、
心に安らぎを与えてくれる。
まるで、木々に抱かれ眠っているかのように――
「とても、良い曲ですね。」
そんな最中、不意に声をかけられる。
声の方をみると、
そこには――九郎さんがいた。
「ええ、本当に良い曲よね。
 ――とても良い買い物をしたわ。
 こんにちは、九郎さん?」
「それは良かったですね。
 まさに掘り出し物を見つけたって感じでしょうか?
 ――こんにちは、魅月さん。」
挨拶を交わす、
どうでもいいけれど――
…相変わらず尻尾に目がいってしまうのは何故かしらね。
…尻尾の魅力は恐ろしいわ…
「…やっぱり尻尾が相当気になるんですね?」
「…まぁ、動物は好きだもの。」
「…そして、なし崩し的に頭を撫でようとする訳ですね?」
「ふふ…」
その様子に気づいた九郎さんに、行動を読まれる。
なんというか、
――まぁ、仕方ないわよね。
前科あるわけだし。
「……まぁ、折角のお休みだもの、
 やっぱりこういう時はのんびりしたいからね…」
「ああ、分かります、
 私もそうですよ、
 やっぱり休める時にはしっかり休んで、
 次の日から精一杯やるのが一番ですよね。」
「そういう事、
 そういえば気になっていたのだけど――」
「何でしょう?」
「…貴女が住んでいた所では、
 どんな音楽があったのかしら?」
少し気になっていた。
確かに、このオルゴールの曲も聞いた事はないのだけど、
別に奇抜…
というほどではなく、
少し懐かしみを覚えた。
つまり――
他の世界でも音楽は大差がないのか、
それとも、たまたまこのオルゴールがそうだっただけなのか、
九郎さんの所での音楽はどうなのだろう?
そう思ってきた質問に九郎さんは――
「そうですね…
 特に変わりはないと思いますよ?
 魅月さんはこの曲を良い曲と思ってるなら、
 私も良い曲だと思いますし…
 それなら、良い曲にそれほど差異はないと思います。
 もちろん、
 好みとかで色んな曲があるし、
 まだまだ知らない世界にはまだ見知らぬ音楽や、
 私達が受け入れられない音楽もあるのでしょうけど。」
しっかりと答えてくれる。
そうね。
――その通り。
「成る程、ね。
 クス。
 ありがとう。
 ――急ぎの用事がないなら、
 暫く一緒にのんびりしながら聞いて見ないかしら?
 …折角の演奏、途中で聞くのをやめることもないでしょう?」
「そうですね…
 折角ですから聞いて行く事にしましょうか。
 ――音楽って良いですね。」
「本当にね――」
一時の休息。
それはいつまでも長くは続かない。
けれど――
この静かで楽しい一時を大切に、
心に刻んで明日を進もう。
まだ、私には明日があるのだから――

* * * * * * *
――天の裁き――
実際に裁きを下すわけではない。
けれども因果応報…
報いはいつか不思議と己にかえることがある。
あたかも
――神は全てを見通しているかの如く――


「――お前も戻れ。
 わしはわしでやる事がある――」
そういわれて、
親父に追い出される。
――くそっ!
見通しが甘かった。
何か罠があるとしても、
ここまで握られているとは…
想像だにしてなかった。
こうなったらあの女からデータを全て――
いや、無駄だ。
あそこまでしたたかな女がその程度の事を考えて居ない訳が無い。
――あの女をつけるか?
そうすれば、砕斗に辿り付けるやも――
いや、しかし…
それこそが罠なのかもしれない。
それに、砕斗にたどり着いてどうする?
奴を殺すのも捕まえるのも困難になってしまった。
いざという時の為、
身柄確保が出来るのは良い事なのかもしれないが…
だが、あの親父の事だ。
俺の行動くらい予想しているはず。
なんらかの監視がついていたとしてもおかしくはない。
どうする――
どうすればいい。
今は耐えるしかないのか――

――これであの男も暫くは動きを封じられる。
そうでないならば焦りで自滅するだけ。
それに――
ずっと動かないというわけにはいかないだろう。
その時こそ――
全てが終わる時。
それを見届けて私はこの街を去ろう。
私の予想では、
最早砕斗の勝ちは揺るがない。
彼がミスをしない限りは。
私の身に危険も不幸も一切降りかからない。
けれど、
これだけ関わってしまったのだ。
私が不幸を振りまく事を避けれるとは思わない。
ならば――
その不幸は、
少しでも少ない方がいい。
その為には、私が去るのが一番。
全く、
まだまだこの街にいる予定だったというのに、
本当に次から次へと厄介事がやってきて、
私の予定を狂わせてくれる。
だからこそ――
この世は面白いのだけど。
でも――
不思議と生きたいとは思わない。
背負った罪も業も深く、
私には贖(あがな)いきれはしない。
その負債は重なっていく、
清算するには、死しかない。
それで全てが許される訳ではない、
けれど、生きて償うにはあまりにも…
――それに、
死ぬ事、私が解放される事は最大の復讐でもある。
“神”は私を生かしているのだから。
だから…
私は望む。
私が私であるうちに、
解放を。
即ち――死を。
――その日がいつ来るのかは分からないけれど――

――生殺与奪――
たとえ、それが握られていても、
抗う事は出来る。
抗うか、諦めるか――
そのどちらもが正解で、
そのどちらもが――

* * * * * * *


楽しい1日を過ごし、
再び遺跡に潜る日がやってくる。

――ねぇ、大丈夫なの?


久しぶりに向井さんの声を聞いた気がするわね…
まぁ、いいわ
…貴女には分かるのね?

――そりゃあ、ね…色々あるもの。
……貴女は強くなった、いえ、強かったけど、
それを表に出さなかっただけかしら?
まぁ、そんな事はどうでもいいの。
用件はただ1つ。
…今なら、まだ辞める事出来るけど?


…それは出来ない。
戦い抜くと私は決めたから――

――強情ね。
全く――分かった。
なら――頑張りなさいな。


声が再び聞こえなくなる。
全く。
お節介(せっかい)ね。
まぁ、私に感化されたとでもいうのだろうけど。
…それより、早く合流しないとね。

仲間達と合流し、いつものように遺跡に潜る。
だが、仲間達とのうち2人がどこかへはぐれる。
私1人、か、
そんな私に遅いくるのは影の塊。
泣きっ面に蜂だけど――

「さて――
 貴方は何者かしら?
 こんな時に襲ってきたのだもの――
 痛い目だけは見せてあげるわ。
 ――風の声をその身に刻みなさい?」







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