「針が折れては抵抗できないわね・・・・・・好きになさい。」
崩れ落ちる最後の蜂。
予定調和。
予定通りに事が進み、
予定通りに撃破する。
特に問題なし。
一安心といった処かしらね。
何故ならば、
こんな所で手間取ってはいられない。
これで手間取っていては…
この先へは到底進めないのだから。
だが確実にいえる事。
それは、私達は確かに、日を追う事に力を得ている事実。
以前は苦戦した。
そして、最初に来たばかりの私達では、
突破する事も叶わなかったであろう。
しかし、何故だろう。
どうして――
私達はこんなにも早く力を得れるのか。
まるでそうある必要があるからせかされているかのように。
――それこそが、
この島に眠る秘密なのか、
…
私は怖くなってきた。
本当に、このままここにいて良いのだろうか。
力を得るのはいい。
たけど――この島に永くいる事で、
力に溺れてしまわないだろうか。
――私には力はないから――
今は大丈夫だけれど、
そうやって身を持ち崩してきた人も何人も見て来たことがある。
…
想いが募っていく。
不安と恐怖が心に広がっていく、
ゆっくりと…
着実に――
…
軽く首を振って最悪の想像を振り払う。
いけないわね。
信じないと。
仲間達を。
例え何があろうとも、
例え何が待ち受けようと――
たがえる事なく、
皆戦い、欲しい物を得ることが出来るだろう。
静かに、自分の中の不安と、
そして恐怖を表に出さないよう押しとどめ――
その場を後にした。
――暫く歩き、
順調に道を進むと、
不意にばったりと人と出くわす。
「あ、こんにちは!」
陽光に金髪が輝き、
眩しい笑顔を浮かべる女の子。
「…こんにちは。ディーさん。
奇遇ね?」
「本当に奇遇だよ。
ちょうど遺跡に出る所で会うなんて。」
ゆっくり礼をする私に、
笑顔で親しく接してくれるディーさん。
彼女もこの島で私が出会った人の1人で、
元気一杯の少女だ。
耳が尖っている所からすると、
純粋な人という訳ではなさそうだけれど、
あまり深く突っ込まない事にしたため、
よく分からないが…
たった一ついえるのは、
素敵な女の子だという事――
…あら?
「結構先に進んでいるようだけど、
かなり厳しい所を進んでいるようね?
…それはそうと、ちょっとじっとしててくれるかしら?」
「え?いいけど、なんで?」
懐からハンカチを取り出し、
顔についていた汚れをふき取る。
――恐らく戦闘の際についたのだろう。
「…顔はいつも綺麗にしておかないとね。
はい。取れたわ。」
汚れが取れたのを確認して離れる私。
「ありがと!
そっちは、そのまま先に進むの?」
「私達…?
そうね。
このまま先に進むつもりよ。」
「そっかー。
頑張ってね!
あ、そういえば…」
不意に不思議そうに首を傾げるディーさん。
「…?」
「煙草吸ってないね?」
…成る程。
そういえば、
私は吸う人のイメージが、
ディーさんにはあるのを忘れていたわ。
「…
そんなに沢山吸うほどのヘビースモーカーじゃないから…
まぁ、そんな事もあるわ。」
「そっかー。
あ。そろそろ行かないと。
それじゃ、またね!
今度はゆっくりはなそ?」
…多少残念そうな顔をしていたのは気のせいかしら。
ともあれ、
笑顔で手を振って去るディーさんを、
私も手を振って見送る。
本当に元気で眩しい子ね。
…クス。
元気を分けてもらったわ。
…私も元気に頑張らないとね。
――速やかに目的地まで移動した私達は、
キャンプをはっていつものように、
明日に備え休む事に。
静寂が、
私を深い眠りに誘って――
――朝の礼拝を終えて、
それぞれ、教室へと移動する。
その移動の最中――
「ねぇねぇ。
雪ちゃんに、魅月ちゃんに、凛ちゃんだっけ?
あのさ、同じ時期に編入してきたって事で、
良かったら仲良くしない?
入りたての時って色々大変だし、
協力してやってこうよ。ね?」
不意に、私と向井さん、
水野さんの前に立って手を広げる月見里さん。
「ええ、仲良くしましょう。
よろしくね、春菜さん。」
頷いて握手をする月見里さん、
「――そうね。よろしく。月見里さん。」
静かに頷き肯定する私。
仲良くする事は別に問題ではないし、
学園生活を送る上で、
頼れる人は多い方がいい。
その方が自然と溶け込めるのだから。
そうすれば――
余計な問題を抱え込む必要はない。
当然の帰結…
残る水野さんもやはり仲良くするだろうと思ったのだが…
「勝手にすれば?
私は誰の力も必要ないし、
1人の力でやってくって決めたの。
ほっといてくれる?」
無表情で、そのまま月見里さんの脇をすり抜けて、
1人先にいってしまう。
「…あーあ。
残念だなぁ。
凛ちゃんとも一緒に仲良くやっていきたかったんだけど。
ま、いっか。2人は仲良くしてくれるみたいだし、
よろしく!あ。私の事は春菜ちゃんってよんでよ。
他人行儀な呼び方嫌いなんだよね。
ね?
いいでしょ?」
にこにこしながら、言ってくる彼女に一つ頷く。
「そうね。春菜ちゃん、これでいいかしら?」
そして、春菜ちゃんと呼ぶと、
笑顔になって月見里さん…いえ、春菜ちゃんと、
向井さんは一緒に仲良く教室へと向かう。
その後を私は追いかけようとして、
不意に背後に視線を感じた。
ゆっくりと振り向く私。
その私が見たものは、一人の優しげな金髪の神父。
「――おや、
どうされました?
見ない顔ですが、新入生の人でしょうか?
ああ、失敬。私はアルバートという神父です。
神学を基本教えていて、
普段は教会にいるので――
是非1人で授業後にでも懺悔しに来ませんか?」
頭を下げて挨拶を神父さんの目が鷹のように一瞬鋭くなる。
「…始めまして、アルバート…先生?神父様?
伊賦夜 魅月と申します。
ぜひとも、懺悔にいかせていただくわ。
ただ、授業が始まるのでこれで。」
神父の言葉に、
こちらの内心を気取られないように微笑んで、
頭を下げて歩み去る私。
「そうそう、私の事はアルバート神父で構いませんよ。
魅月さん。
長い付き合いになるか、
短い付き合いになるかは分かりませんがァ…
出来れば、神の名の下に共に健やかに、
長き付き合いが出来るとよろしいですね。
それでは、
貴女に神の祝福があらんことを。
AMEN」
そんな私に後から声をかけてくる、アルバート神父。
――これは、私に対する呼び出し。
ならば…
恐らく私がどういう存在なのか感づいてあるのだろう。
どういう手段で来るかも分からない。
場合によっては襲われることもあるだろう。
此方としては派手な事にはしたくないけれど、
なんとかしなければいけないだろう。
――全く面倒ね――
「ぐ…あっ!」
体中に走る激痛と共に目を覚ます。
…
この激痛には覚えがある。
――押さえつけた霊が暴れだす前兆。
…そう…
本来ならば、
もっと長い期間を経て現れるというのに、
こんなに早くに来てしまうとは、
この島は恐ろしい所ね。
でも――まだよ。
まだ――何もなしえていない。
だからお願い。
私に時間を。
もう少し夢を見させて欲しい――
体の痛みに耐えて、
朝の日課、会議、
そして練習試合を済ませる。
練習試合を進め歩みを進めると、
私達の前に立ちふさがる4人の姿が見えて来た。
「あらあら、最近ここを通る人が多いわね――
そして、通してしまってる私達もいけないのだけど。
これも皆、貴方達のせいよぉ?」
「ッな!
貴方が好き勝手してるのが悪いんじゃないですか!
レディボーンズ、研究者の癖にでしゃばるのが…!」
「黙りなさい。
私は貴方達より強いの。
そして、貴方達がしっかりサポートしてたら、
こんなに不甲斐ない結果になったりしないわ。
ごめんなさいね。
それじゃあ――」
1人はドレスを着た女性…
――レディーボーンズという名前らしい――
そして、残る3人は鎧を着込んだ男性。
恐らく、これがベルクレア兵の人達なのだろう。
折り合いが悪いが、
レディボーンズが4人の中のトップで、
恐らくは強いのも確かなのだろう。
「お仕事よ。
しっかり戦って通さないように――
……」
「…ッ!ベルクレア第14隊、ただちに応戦…ッ!
…?どうされました?
レディボーンズ」
「…ふぅん。こちらが3対4だとおもったけれど…
まさかこんなに多勢を相手にする事になるとはね。
案外こちらの方が不利かもしれないわ。
もっとも、個々の力は非常に弱いかもしれないけれど――」
「何をいっているのですかッ!
多勢などと――
たかが小娘3人じゃないですかッ…!
どうみても此方が上ですよッ…!」
「それが、貴方達の限界ね。
まぁ、分かってた事だけど。
私が何故多勢といったのか――
…ま、戦えば分かるわよ。
それじゃ、始めましょうか?お嬢さん方?」
さぁ、いらっしゃいとばかりに、
誘うような動作をするレディボーンズに、
剣を構える兵士達。
どうやら戦わずぬけられはしないよう。
――ならば、
私達もそれに応じるのが礼儀だろう。
「面白いわ。貴方。
まさか視えるなんて――ね。
――フフ、
良いわ。たっぷりと教えてあげる――
――貴方が今より戦うものがなんであるのかを――」
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