「良い的ね。
 そんな所でぼーっとしていると…
 刺し貫かれるわよ?」
そっと手を差し伸べると矢のように怨霊達が敵へと降り注ぐ。
そして、エモさんの魔法、
藤九郎さんの攻撃が叩き込まれ――

「ひどいよ!ひどいよぉッ!」
「ひどい奴にゃ・・・」


酷いといいながら倒れる敵。
酷いといわれても、襲われたのはこちら側。
やらなくてはやられる以上正当防衛だと思うのだけどね。
ふぅっ…
と一つため息を吐く。
「藤九郎さん、エモさん、大丈夫?」
その言葉に一つ頷くエモに対し、
藤九郎さんは…
「ぬぉぉぉぉ…こ、腰がッ!」
腰を抑えて蹲っている。
「…大丈夫じゃなさそうね。
 エモさん、先にいって皆に待ってもらうよう言ってもらえる?」
その言葉に一つ頷き、伝令に走るエモさん。
そして、私は藤九郎さんの方へと歩み寄り…
そっと腰をさすり、簡単なおまじないをかけてみる。
「…無理しないでね。
 大切な仲間なのだもの。」
さすられて多少楽になったのか
「おおおお…助かったのじゃ。
 よっこらせっと…
 迷惑かけたの、魅月ちゃん。」
なんとか立ち上がる藤九郎さん。
私は軽く首を振り…
「気にしないで。
 誰しもそういう事はあるもの。
 無事であるなら十二分。
 …ところで本当に大丈夫?」
そして、顔色をうかがう。
どうやら顔色は悪くなさそうなので問題ないと思うが…
「なんのこれしき、大丈夫じゃ!
 なぁに、いざとなればちゃぶ台があるッ☆」
どんっと胸を叩きちゃぶ台を地面に置く藤九郎さん。
「…ちゃぶ台で何をしようっていうの?」
首を傾げる。
どうみてもただのちゃぶ台にしか見えない。
「さぁ、乗った乗った☆」
ぐいぐい押されてちゃぶ台に乗せられる私。
そして、藤九郎さんが正座してちゃぶ台に座り…
「…ええっと?」
首を傾げる私を無視して…
「ちゃぶ台GO☆」
そう藤九郎さんが叫ぶと、
猛スピードでちゃぶ台が空中移動を初め…
………
どうなってるの、このちゃぶ台。
後で聞いた話ではなんでも、このちゃぶ台。
「ただのちゃぶ台じゃよ?」
との事。
謎が謎を呼ぶわ…
藤九郎さん、流石ね…

そんな不思議体験を経て、
順調に道を進む。
しかし、此処から先は恐るべき危険地帯らしい。
はたして何が待ち受けるのか…
ともあれ、順調な道なりで先に進む。
道は平坦な平原。
足取りも軽く、あまり負担にならず進める。
毎回こういう簡単な道のりならいいのだけど…
まぁ、過度の期待は禁物かしら。
なにやら前方に森が見えてきたようだし…
やれやれね。

そして、今日は森より少し離れた所でキャンプ。
私はキャンプから少し離れた場所で1人、
夜空を見上げて眠る。
…私は一緒に寝てはいけないから…
そして、皆が眠るまで、寝てはいけない…
皆が寝静まったのを見計らい、
そっと瞳を閉じる…
疲れていたのか、直に睡魔が私を闇へと誘って…
………
……



* * * * * * * *
さぁ、思い出そう。
あの日々を。
さぁ、思い出そう。
私の正体の片鱗ついて知ってしまった、
あの男との出会いを。
ああ…
あの出会いは必然とはいえ…
いえ、あの出会いがあったからこそ…
私はまだ絶望せずにいられた…
それだけは感謝しよう…



「ねぇ。魅月。」
「…何、九音。」
出会って友達になって一月の月日が流れた。
その長い月日の間、
私と九音とともに呼び捨てで名前を呼ぶようになっていた。
クラスメートとも上手くやっている。
時折お姉様という人がいたりするのが難儀で、
辟易させられるけれど…
まぁ、害は無いので別にほうっておく。
しかし、今日の九音はやけに機嫌がいい。
恐らくこれから話す事に関係あるのだろうけど、
一体何を…
「今日さ、私の家に泊まりにこない?」
……思考が一瞬停止する。
でも、よく考えれば、
別に女同士だから問題は無い。
問題は…
私は彼女の家で『寝るわけにはいかない』という事だ。
さて、どうするか。
しかし、彼女の好意を無碍にするわけにはいかない。
「…別に構わないけど?
 ただし一泊だけなら。」
そして、一つ頷く。
「ほんと!?
 じゃあ、早速今日からなんてダメ…かな?」
そういって喜びながら、首を傾げる。
…こうされると私が弱いと知っててやってると、
たいしたタマなのだけど…
恐らくこれは素ね。
やれやれ。本当に仕方のない子…
「…ええ。今日で構わないけど、
 いいのかしら?」
一つ頷く。
「良かった!
 うんうん、大丈夫!
 わぁ〜、嬉しいな。
 友達呼んで家に泊めるなんて久しぶりだから…
 それじゃ、早く帰ろうよ!」
はしゃぐ九音を微笑ましく見守りながら、
帰る用意を手早く済ませ、
手を繋いで一緒に帰る事にした。

長い長い、300段はあるであろう階段を抜けて、
神社へと入る。
「魅。魅月、待ってー」
別にこれくらいは昔から歩いていたので、
どうという事はないのだが、
九音にとって私のペースは早く、
少々辛かったらしい
「…」
静かに九音が登ってくるのを待つ。
「はぁはぁ、も、もう、魅月早いよ!
 体育の時も思ってたんだけど、
 本当に健脚なんだから…」
普段であればどうという事はないのであろうが、
私のペースに合わせたため大分疲れてしまったらしい。
「…フフ、ごめんなさい。
 長い距離を歩くのは慣れているのよ…
 ともあれ、立派な神社ね。
 本当に。」
クスクス笑いながら、
そっと九音の息が整うのを待つ。
「あ、そういえば魅月は、
 ここ来るの初めてなんだ?
 なんだか驚きだね。
 あ。私が住んでるのはこっちだよ。」
息を整えると、私の手をとり歩き出す。
神社の本堂から少し外れた所にある、
立派な家。
その扉をガラガラッとあけて九音が叫ぶ。
「ただいま!
 今日は友達を連れてきたよ!」
すると、奥から、
20代後半から30代前半くらいの年だろうか?
細面でかっこいい男の人が出て来た。
「おや。友達を連れて来たのかい、九音。
 初めまして。
 私は九音の父の八音(やおと)と――」
そう。彼は九音の父親。
後で聞いた頃、年は37歳らしい。
…とてもそうは思えないが…
ともあれ、自己紹介をしようとして、
不意に言葉を無くす八音さん。
「?どうしたの?お父さん?」
心配そうに見つめる九音。
「あ、いや。
 お茶と茶菓子を用意して来なさい。
 ちょっと彼女に話があるんだ。」
心配そうに見つめられ、首をふる八音さん
そして、父親に言われ、
はーいっといって九音さんは奥へ引っ込んだ。
「初めまして、
 伊賦夜 魅月と申します、八音さん。
 それで…どうかしましたか?」
…八音さんの言いたい事は分かっている。
とりあえず自己紹介を済ませてしまう。
「成る程。魅月さんですか。
 …貴女の禍々しさ。
 貴女自身がもっているようでは幸いないようですが…
 あまりにもとてつもない。
 人の身に余る穢れ…
 貴女は…娘に害意を及ぼそうとしているのですか?
 答えによっては――!」
そういってスラリと懐刀を抜く。
おそらくは霊験あらたかな守り刀…
それを見て私は――


彼は偉大な父親だった。
彼は娘の事を誰よりも大切にしていた。
彼は戦士だった。
彼はとても強かった。
そして彼はとても――聡明だった。
私の本質までは見抜けずとも、
私に纏わりつくものの本質は見抜いたのだから。
ああ――
彼はどうして――


* * * * * * * *




――目が覚める。
血痕が地面や服に飛び散っているのはいつもの事だが、
服が汗でぐっしょりと濡れている。
…多少は覚えている。
あの時の記憶。
…未だに私はあの時の記憶の呪縛から、
抜け出せてはいないのか。
もうとっくの昔に抜け出せたと思っていた。
………
やはり、あの人がいるから?
友達と似た雰囲気をもつあの人、レイナさん――
もしも、また繰り返してしまうのだとしたら、
私はどうすれば良いのだろう。
…少しずつ少しずつ魅かれる旅に、
恐怖を感じる私が…いる――

恐怖を押し殺し、
なんでもない顔で普段通りの行動をする。
…大丈夫、誰にも感づかれはしない。
私はいつも通りなのだから。
次にどうするのかの会議は、
いつもより白熱した。
ここより先の地の情報があったからだ。
そして、それは大変困難な道である事が分かったから――
とりあえず、最も勝算が高い組合せで先に進むことにした。
これが幸となればだけど――
…まぁ、なるようにしかならないわね。
ともあれ、話し合いは白熱したものの、
すぐに終わる。
別段まとめ役などいないのだが、
すんなり決まるのは良い事だと思う。

そして、練習試合が始まる。
――今日の相手はいつもと違う。
…とりあえずたぬきさんは可愛い。
そして、カッコイイ人が2人。
………
見惚れてる場合じゃないわね。
どうしようかしら、
といっても、私に出来る事は殆ど無い。
仲間の皆に任せるしかないのだけど…
結果は…まぁ、分かりきった事だったのは確かね…

そして、練習試合を終えた私達を待っていたのは、
筋肉隆々の歩行雑草に、
飢えた野犬。
全く、本当に―次から次へと…

「退屈はさせてくれない、
 そして休ませてもくれないという事ね…
 良いわ、
 来なさい…
 たっぷりと後悔させてあげるから…!」




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