「お洋服、汚したくないしね♪」

兵士達を退け、
レディボーンズへ攻撃をかけていると、
不意に退くレディボーンズ。
そして、倒れた兵士達に手をかざし、
兵士達と共に宙に浮かぶ。
あらあらまぁまぁと微笑を浮かべながら
「ダメねぇ14隊ちゃん。
 まぁ、アレが理解出来ないんじゃ仕方ない事だけど。
 之以上戦うと疲れるし、
 可愛い14隊ちゃんが本当に全滅しちゃうから、
 この辺にしておくわ。
 またね、子猫ちゃん達。
 ――さぁ、私の可愛い14隊ちゃん、
 もっとイイトコロに連れてってあげるわ。
 ふふっ…」
悠然とした笑みを浮かべて、
彼方へ飛んでいくレディボーンズ。
それをじっと眺め続ける。
「…疲れた」
「…やれやれ、進むとしようか…
 …?
 魅月?」
戦いが終わった事で安堵のため息を漏らすエモさんと奏さん。
ぼーっとしてた私は、
進もうといって歩きだした、
奏さん声をかけられはっと気づく。
どうやらぼんやりしていたらしい。
「…ごめんなさい。
 ちょっと先にいっててもらえるかしら?
 …頭がなんだかぼーっとするの…
 ――ああ、少しすれば気分よくなると思うから気にしないで?」
ぼーっとするといって心配する奏さんを手で制する。
なら、まぁ、無理しないでねといい残し、
去っていく奏さんを見ながら、
私は木にもたれかかった。
「…」
静かに瞳を閉じる。
木々のざわめきが聞こえる。
――嗚呼――
どうしてなのだろう。
体が悲鳴をあげている。
霊達の絶望の声が響いてくる。
今だ昼間だというのに。
今だ日は高いというのに。
どうして…
こんなにも世界はこんなに暗く紅いのだろう――
壊れてしまいたい。
壊れてしまえばいいのに。
壊れてしまえば楽になれるのに。
どうして私は――
壊れないのだろう、
正常でいたいと思うのだろう――
そして…
生きていたいと思うのだろう…
フフ…
…ダメね…
いつもは考えないようにしてきたのだけど…
今日ばかりは…もう…
体が崩れ落ちる。
大地を真っ赤に濡らして地へと倒れ伏す。
それでも、私は再び立ち上がり、
霞む目も気にせずに、前へと歩く。
それが――皆とは違う道であるだなんて思いもせずに。
――胸に風穴が開いた事も気にせずに――

歩めども、歩めども、
仲間の姿は見えてこない。
当然の事。
仲間とは違う道を歩んでしまっているのだから。
そして、歩めば歩むたび…
体が削れていく…
日が沈む前に私は痛みに屈し…
倒れこんだ――
…無様ね…
でも、これもすべて、私が招いた事。
私が霊を使役しているわけではない故、
本来あるべき姿。
――せめてもの救いは――
今が私1人で――
誰にも気づかれず、ここに居るという事――
闇が…
降りてくる――


* * * * * * * *
さぁ――
はじめましょうか。
楽しい楽しい劇を。
喜劇であり、
悲劇である劇を。
舞台は現実。
結末は今だ分かりえない――



――授業を終えて、
私は静かに部屋に帰る準備を始める。
アルバート神父に呼び出されている以上、
速めにいかなければ、ならないだ
――それにしても…
教室を見渡す。
皆も帰る準備を始めている最中で、揃っているが、
月見里さんは、既にクラスに溶け込んでいるらしく、
クラスメートと談笑をしている。
向井さんもそんな月見里さんと一緒に、
控えめではあるが、馴染んではいるようだ。
そして、水野さん。
彼女は1人だった――まるで疎外されるかのように。
…恐らくは月見里さんが
付き合いが悪いから構ってはダメとでもいったのだろう。
……イジメにならなければいいのだけど、
恐らくは近いうちにそうなるのだろう。
――やれやれね。
それにしても本当に奇遇というか奇妙な縁。
4人が揃って同じクラスだなんて。
普通ならば、振り分けられるものだが…
――細かい事は気にしない方がいいかもしれないわね。
「さて、と――」
帰る用意を済まし、
話かけてきたクラスメートに、
少し神父様に呼ばれているからといって教室を出る。
向かう先は無論教会。
はたしてどうなる事やら――

教会へたどり着くと、
既に先客が1人いた。
「…熱心なのね?」
神父さんもいなようだし、
暇つぶしに話しかけてみようと声をかける。
すると、こちらを振り向いて驚くような顔をする。
――その顔には覚えがあった。
確か同じクラスメートで生徒会長の
倉波…倉波響さんだ。
「…驚かせてしまったかしら?倉波さん?」
「あ、いえ…
 神父様だと思っただけです…
 ええと、伊賦夜さんでしたよね?
 貴女も礼拝にいらしたのですか?」
首を傾げる私に慌てて表情を引き締め応える倉波さん。
「…いえ、神父様に呼ばれただけよ。
 少し――縁のある人でね。」
「まぁ…そうだったのですか…」
呼び出されたなどとはいえず、
とりあえず、知り合いという事にした。
不審がられず倉波さんが受け取った事からすれば、
正解だろう――
そんな時。
「おや、もう来ていらしたのですか、
 それに、倉波さんは相変わらず熱心ですね。
 しかし――
 少し彼女と積もる話がありますので、
 席を外してもらっても宜しいでしょうか?」
私の背後からアルバート神父の声が響く。
後を見るとアルバート神父の姿があったので頭を下げる私、
そして――
「あ、はい、分かりました。
 それでは、御機嫌よう、神父様。
 魅月さん、あまり神父様にご迷惑をおかけしないようにね。
 御機嫌よう。」
アルバート神父の言葉に従い、
一礼をして立ち去る倉波さん。
アルバート神父が扉を閉めて、
一対一で対峙する。
「さて、では――早速――
 といいたいのですが、
 確実を記す為に地下へ来てもらいましょうか。
 こちらです。さぁ、どうぞ?」
「…ええ、構わないわ。」
それでもアルバート神父は冷静なもので、
地下へと私を誘う。
罠でもあるのか?
それとも――
何があるのかは分からないけれど、
確かにここでやりあって人が来たら不味いのは確か。
話し合いで終わればいいのだけれど、
そうとは限らないのだから。
大人しく従い、
アルバート神父と共に教会の隅の扉から地下へと降りていく。
暫く降りると、
そこは広い空間が広がっていた。
中央に移動し、こちらを振り向き、
2本の剣を構えるアルバート神父。
どうやら話し合いなどは出来ないようね…
「…ここは…昔防空壕として使われていた所でね。
 外から見えない、音も漏れない…
 さぁ、始めようか、悪鬼羅刹、
 神の敵よ…!
 キサマの邪気が我が敵であると言っている。」
そんなアルバート神父の台詞に対し、
私はため息を一つつき…
「…成る程ね。
 まぁ、何をいっても聞きはしないでしょうし、
 いいわ、とりあえず…
 大人しくなってもらいましょうか?」
真っ直ぐとアルバート神父を見据える。
張り詰める空気、
そして次の瞬間――

――ヒュゥッ!

風を切る音と共に、
アルバート神父の投げた右の剣が私の目前へと迫っていた

避けられぬ道、
避けられぬ戦い。
そんなものは何処にでもある。
もし――
結末をただ受け入れるのは嫌だと願うなら、
抗わなければならない。
――命を賭して――
* * * * * * * *



光が飛び込んでくる。
体は一切動かず、
目に映る景色は真っ赤に染まっている。
…全てが紅くて気持ちが悪いが、
どうすることも出来ない。
そんな私の視界に1人の人物が近づいてくる。
その人物は…
ダメ…
視界が紅過ぎる。
判別出来ない。
一体誰が…
「あれ?ミツキさん?
 どうしたの?そんな所で――
 って凄い怪我してないですか?」
声が届く、
声には聞き覚えがある。確か――
ヤヨイさん。
クロユキ ヤヨイさんに違い無いだろう。
「…あら、ヤヨイさん奇遇ね。
 そんなにヒドイ怪我してる?」
「え、いや、分からないけど、
 血まみれですし…」
「成る程ね。
 大丈夫。ただの返り血よ…」
ゆっくりとなんとか体を起こし立ち上がる。
体に激痛が走るが気にしてはられないし、
表に出すわけにもいかないだろう。
「…変な所で眠くなって寝ちゃってね… 
 それだけの事。」
「それならいいんだけど、
 それにしても、1人ですか?
 他の人達は?」
「…どうやら、道を間違えたようでね…
 今から皆を探しに行くところなの。」
…視界が紅い。
はっきりした表情が見えない。
…人の表情が見えないで人と話すのが、
こんなに難しい事だなんて思って無かったわ。
「あ、そうそう、ミツキさん。
 また一杯遊んで欲しいな。
 でも、本当に大丈夫です?
 立ってるのもやっとって感じですけど…」
「…大丈夫。
 本当よ。」
「…むむー、ならばそれを信じることにします。
 ちょっぴり心配ですけど、
 大丈夫っていうからには大丈夫なのでしょー。
 でも、気をつけてくださいね、
 なんかむこーで獣がいたのを見ましたから。
 それじゃ、またどこかで会いましょう。」
そういって、ペコリとお辞儀をして去るヤヨイさん。

残念ね。
彼女の笑顔を見たかったのだけど、
今の私にそれを見るすべはない。
…本当に悔しい…

…体を引きずって道を歩む。
途中、練習試合を行ったのはいいが、
それで傷口が更に開いてしまった。
いつもならとうに治っているのに――
治らないかは分からない。
唯一つ分かっているのは…、
――血の匂いに引かれてきたのだろう。
ヤヨイさんの警告があったのにも関わらず、
相手は三匹。
血に飢えた狼と大きな鳥。

こんなときに本当についていない。
でも、これは私の撒いた種。
私のミス。
ならば…

「やってあげるわ…!
 どんなに大変で、
 どんな苦難が待ち受けていようと、
 私は戦う…
 そして皆の下へたどり着いて…みせる…ッ!」

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