静かに、道を歩いていく。
次に目指すと決めた場所に向かって。
そんな時、
不意に思い出した。
今が何の時期であるかを。
「…そういえば…クリスマス…」
気がつけば、不意に呟いていた。
そう。今日はクリスマス。
私が生まれた日、
ならば――
今日くらいはクリスマスを祝い、
楽しませてもらっても、バチはあたらないだろう――

クリスマスの準備に奔走し、
夜が訪れる。
――プレゼントの交換も終わったが、
今だ皆クリスマスパーティを楽しんでいる中…
私は1人抜け出した。
そして、プレゼントの中身を胸に抱いて、
寝転る。
見上げる空には満天の星の空。
そして流れ落ちる星々…
星降る夜に静寂に包まれ私はただ1人、
静かに夜空を見上げている。
ああ…ずっとこの一時が続けばいいのに――
そう、静かに願い、瞳を閉じようとした矢先、
不意に声が聞こえる。
「…魅月?」
体を起こして声のした方へと体を向ける。
そこに居たのは、レイナさんだった。
「…あら、どうしたの?
 パーティを楽しんでいたんじゃないのかしら?」
「うん。
 だけど、
 気づいたら魅月がいなくなってたから探しに来たんだよ。
 ――隣良いかな?」
どうぞ、といって一つ頷く私。
横に座るレイナさん。
「…」
「…どうかしたの?」
沈黙する私に心配したのか、
尋ねるレイナさん。
「…別に何も…
 星が綺麗だって思ってね…」
静かにそれだけ言って空を見上げる私。
「うわぁ…ほんとだ。
 確かに綺麗。
 うん。空を見上げるっていいよね。」
同じくレイナさんも空を見上げたのだろう。
そして、流れる暫しの沈黙…
「――レイナさん?
 聞いて欲しい事があるの。」
そんな中、沈黙を破って語りかけたのは私。
ん?何?とでもいうように、
私の方に微笑みかけて首を傾げるレイナさんに、
私は言葉を続け告白する。
何故…私はここに1人で来て、
ここに居るのかを。
「……1人は寂しい。
 皆と楽しみたい……
 そう思ってパーティを企画したの。
 楽しかったわ。
 楽しんでもらえたかしら?
 …私はとても楽しかった。
 本当は願ってはいけない事なのに…
 とても楽しかった…
 だから――だからこそ…
 1人、ここに来たの。
 …心配かけてごめんなさい、
 でも、大丈夫。
 皆に後で宜しく言っておいて?」
ふぅっとため息を一つつく私。
「…おかしいよ」
すると、レイナさんがぽつりと呟いた。
「…?」
首をかしげ、レイナさんの顔を見る私。
「…誰にだって楽しむ権利はあると思うよ。
 もちろん、魅月にだって。
 だから楽しむ権利が無いっていうのは変だと思う。
 だからさ、一緒に戻ろうよ。
 一緒に楽しもう?
 主役が居なくっちゃつまらないよ?
 ――ね?魅月――」
笑顔でそういうと、
立ち上がり、私に向かって手を差し伸べるレイナさん。
「…貴女には本当にかなわないわね…
 ……それじゃ、お開きになるまで……
 楽しませてもらうわ。」
差し伸べた手を取る。
温かい手。
そして、私達は皆が待っている元へと向かった。
だが、私の心には拭いきれない不安がある。
――私は、失いたくない。
けれど…
運命は失わ無い事を選ばせてくれるのだろうか――
と…

…パーティが終わり、
夜も更けると、私は眠りに自然とおちていった。

* * * * * * * *
幸せになる資格。
そんなものは無いのかも知れない。
けれど…
幸せになってはいけない、
そんな想いは確実に存在する。
例えば、そう――
私の中に大きな傷跡となって――



食事が終わって、
今、私は――
九音と共にお風呂に入っていた。
「…」
他人とお風呂に入るのは別に初めてではないが、
何年振りの事だろう。
いや、何十年か――
…少なくとも、
私が1人生き延びてから今まで、
誰かとこうして入るという事はした事がない。
「…どうしたの?魅月。
 そんな難しい顔して…」
「…いえ。
 そういえば、久しぶりと思ってね。」
考え込む私を見て心配する九音に、
なんでもないと首を軽く振りながら答える。
いけないいけない。
今は1人ではないのだから、
あまり考え込まない方が良い。
とりあえず、
髪と体をしっかり洗おうと湯船より出た時、
不意に、背後から視線が突き刺さった。
後を振り向くと、私の方をじっと見ている九音がいた。
「…魅月ってさ?」
そして、私が見ている事に気づくと、
真剣な眼差しで私の目を真っ直ぐ見てくる。
「何?」
首を傾げる私。
「…スタイルいいし、肌綺麗だし。
 一体何を食べたらそんな風になれるの?」
その九音の言葉に、沈黙が流れる。
「…別に普通だと思うけど?」
はっと、我を取り戻して答える私に、
つかつかと私の方へ来て肩を掴み、私を揺さぶる九音。
「嘘だ!何か秘密があるに違いない!
 それをしれば私も…」
「ちょっと、九音…
 落ち着い…!」
ゆさゆさゆさぶられる度に、
意識が飛びそうになる。
もう…駄目…と力がぬけそうになった時、
揺するのをやめて肩から手を離し…
「ご、ごめんなさい、つい…」
頭を下げて九音が謝った。
「いや、別に良いけれど…」
苦笑しながら答えて頭を振る。
なんとか意識ははっきりしている、
大丈夫のようだ。
「いいなぁ〜魅月。
 あ。
 魅月、クリスマスって予定ある?」
「クリスマス?」
「実はうちでクリスマスパーティ開くから、
 一緒に来ない?」
クリスマス…私の誕生日。
だが、無論…私に予定なんてない。
「…そうね…もうそんな時期なのね…
 誕生日パーティがある…
 と言いたいけれど、別に予定はないわ。」
一つ頷いて答える。
「そっか、じゃあ、一緒にパーティ楽しもうね!
 でも、魅月さんって…まさか12月25日生まれ?」
「ええ、そうよ」
「そっか…
 じゃ、誕生日も一緒に祝っちゃおう!
 楽しみだなぁ〜♪」
頷きながら、何故か嬉しそうに笑う九音。
あの笑顔を私は一生忘れる事はないだろう――

誕生日は特別な日。
誕生日は運命の日。
まさしくその通りだと思う。
けれど、
特別も運命も…
必ずしも、
幸せを運んで来るとは限らないけれど――
* * * * * * * *



――目を覚ます。
不意に込み上げるものに気づき、
口を手で押さえ咳をする。

――べチャリ…

手を離してみると、べっとりと血がついていた。
今回は相当激しく暴れたらしい。
体も重い。
体を引きずるようにして、朝の日課の洗濯をしていると…
「よっ。洗濯してるのか?」
と、不意に声がかけられた。
顔をあげてみると、其処に居たのは…岩絃さん。
「あら、ガンさんじゃない。
 そうよ、洗濯。
 …手にもってる一杯の服からすると…
 ガンさんも洗濯かしらね?」
岩絃さんの言葉に頷き、
岩絃さんの持っている大量の服に注目する。
「ははは…
 実はそうなんだよ。
 なんか押し付けられてさー。」
参ったねと肩を竦めて答える岩絃さんに、
私は手を差し伸べた。
「…渡して。
 私がやってあげるわ。」
「え、いや…」
「…渡して。」
困る岩絃さんを無視して、
渡すよう押し通す。
洗濯程度慣れている。
どうせなら、ついでに私がやった方が速い。
「え、あー…
 じゃあ、よろしく。」
戸惑いながらも手渡してくる洗濯物を受け取ると、
早速洗濯作業に移る私。
「…」
何度も何度も繰り返した作業。
それも昔から…
恐らく洗濯機を使わず洗う作業に関しては、
誰にも負けない自信はある。
「へぇ〜…
 今時の女子高生の子だから、
 そういった作業に慣れてないと思ったら、
 案外慣れてるんだな?
 ここまで手際がいいのは初めてみたぜ。」
「ええ、
 そうね。まぁ…
 100年もやってれば、
 流石に身につくと思うわよ?」
感心する岩絃さんに、
さらりと事実を告げる。
すると、急に目を白黒させて、
口をパクパクし始めた。
「…ええ。そう。
 ――私は年を取らないの。
 永遠に、神が許すその時まで――」
静かにつげて、洗濯に集中する。
すると、深呼吸をした岩絃さんが再び私に声をかけてきた。
「いや…
 知らなかったとは言え…
 あー、なんだ。
 突っ込んだ話したみたいで…ごめん。」
「気にしないで。
 別に気にしてないから。」
そして、彼の言葉に首をふる私。
だが――
「…実は…俺もさ。
 年取らないんだ。
 実は結構長生きしてるんだぜ?」
驚いて顔を上げる私。
「…だから、もし…
 その…なんだ…
 ああ、もう!
 もし、何かあったら、話を聞いたり、
 相談くらいなら出来るから、
 遠慮なく俺を頼ってくれ!」
その言葉に…
ただ静かに、洗濯を終えて畳んだ洗濯物を差し出す。
「…後は乾かすだけ。
 …その、なんていっていいのか分からないけど…
 ありがとう…
 もし何かあったら、ガンさんも私を頼ってね。」
顔を見れず横を向きながら答える。
それをみたガンさんは、笑って洗濯物を受け取り、
「サンキュ、ありがとな。
 まぁ、もし何かあればそうさせてもらうよ。
 それじゃ、また。」
そういって、手を振って去っていく。
その後姿を眺めて私は…
なんて――
彼は強いのだろうと思った――

朝の日課を済ませ、
会議に入るが、細かい事以外決まってたので、
後はただ前に進むだけ。
そして、練習試合の後、
私達の前に立ちふさがったのは――
巨大な鳩と…
不気味な妖精のような奇怪な生物――
数も多く、相手も強そう。
だが、私達は負けるわけにはいかない――

「私達の歩みの邪魔はさせないわ…!
 例え、どんな苦難が待ちうけ、
 どんな苦難と立ち向かったとしても…!」

※レンタル宣言イベント、
[星降る夜に]参加用に日記の一部を使いました。
文章コミュのイベント用SSに書いた部分ははしょってます





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